大河原克行のデジタル家電 -最前線-

相次いで発表されたソニー、パナ、シャープ人事の見方

~各社デジタル家電事業が新体制へ~





2月27日に発表されたソニー役員人事で登壇した顔ぶれ

 ソニー、パナソニック、シャープの役員人事が相次いで発表された。

 パナソニックは2月26日に4月1日付けおよび6月25日付けの人事を発表、ソニーは2月27日に、4月1日付けの人事を発表。そして、シャープは、ソニーと同じく2月27日に、3月1日付けの人事を発表した。

 社長人事まで踏み込んだソニーをはじめ、各社ともデジタル家電事業の陣容一新ともいえる内容となっているのが興味深い。 デジタル家電事業の観点から各社の人事の動きを見てみたい。



■ ソニー

 なんといっても大きな動きは、ソニーの社長人事を含む、経営体制の一新だ。 ハワード・ストリンガー会長兼CEOが社長を兼務。中鉢良治社長は、副会長に退く。

社長を退く中鉢氏と、社長を兼務することになったストリンガー氏

 ストリンガー氏は、これまでの体制において、2007年度に、グループ連結売上高および当期純利益で過去最高を達成したことなどの一定の成果をあげたことを示しながらも、「次の変革を効果的にやり遂げるための次世代のチームを作った」と新体制の狙いを語る。中鉢氏も、「若い、新しい人たちで作るのが最適」と異口同音に語る。

 発表した事業グループを再編では、家庭用ゲーム機やパソコン、携帯音楽プレーヤーを扱う「ネットワークプロダクツ&サービス」と、薄型テレビやレコーダー、ビデオカメラ、デジタルカメラなど担当する「コンスーマー・プロダクツ」の2つのグループに集約。ネットワークプロダクツ&サービス・グループのプレジデントには、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)社長兼グループCEOである平井一夫氏が就任。また、吉岡氏の補佐とVAIO事業の担当として、現ソニー・エレクトロニクス・インク EVPである鈴木国正氏が就任する。

 一方、コンスーマー・プロダクツ・グループのプレジデントには、テレビ事業を統括する吉岡浩業務執行役員EVP兼テレビ事業本部長氏が就任。4月から執行役副社長に就く。吉岡氏の補佐役としては、現VAIO事業本部長の石田佳久氏がテレビ事業本部長に就任する。

 また、グループ全体の共通ソフトウェアソリューションを開発、導入するための「コモン・ソフトウェア&テクノロジー・プラットフォーム」を設置。業務執行役員SVPの島田啓一郎氏が担当する。

ソニー新体制の内容
 ストリンガー氏は、4人を、「実力を持つ次世代のリーダーによるチーム」、「四銃士」と称し、自ら社長を兼務する理由として、これらのトップと直接、意見交換ができることをあげた。その言葉が示すように、4人の新たなリーダーの選出は、長期的視野での体制づくりともいえる。

 年齢からいっても、吉岡氏56歳、平井氏48歳、石田氏49歳、鈴木氏48歳。吉岡氏を除けば、残る3人の間には、経営陣に相応しい年齢層の優秀な人材がいる。これを飛び越えて、もうひとつ若い世代に経営の舵取りを委ねたともいえる。

 次期社長候補と目され続けてきた井原勝美副社長が、今回の人事で、6月にはソニーフィナンシャルホールディングスの常勤取締役に就任することが発表され、これも、世代交代を象徴させるものとなった。

ソニー本社
 また、VAIO事業を担当していた石田氏に、最大の経営課題といえるテレビ事業を担当させるという点。全社横断型のソフトグループのトップに、やはりVAIO事業を経験した島田氏を登用していることからも、IT産業ならではのスピード力の経験を、経営に生かそうという意思が見え隠れする。

 気になるのは、ストリンガー会長が、中鉢氏の後任としてエレクトロニクス事業全般を担当するが、これまで同事業の経験が少ないという点だ。この約4年間は、エレクトロニクス事業は、すべて中鉢氏に任せるという体制を取ってきたものが、今後は、自ら担当するという体制となる。ハード事業の経験がないストリンガー氏が、自身が得意とするコンテンツとの親和性が高いネットワーク時代のハード事業において、どんな威力を発揮するのか。その点でも注目されるよう。

 また、さらなる構造改革への取り組みが出てくる可能性も捨てきれない。ストリンガー氏が、実績を持つ大規模なリストラ策が加速される可能性も指摘されている。



■ パナソニック

 一方、パナソニックは、ジワジワと世代交代を感じさせる内容といえる。

 デジタル家電事業を担当するAVCネットワーク社を率いていた坂本俊弘専務取締役は、代表取締役副社長に昇格し、同時に国内コンシューママーケティング総括担当に、また、AVCネットワークス社の社長には、同社副社長の森田研氏が昇格。いわば順当な人事だ。

パナソニック本社
 特筆されるのは、「垂直立ち上げ生みの親」でもあり、中村邦夫会長の社長時代から、マーケティング部門を率いてきた、牛丸俊三副社長が6月に退任するという点だ。

 相手の意表をつくマーケティング戦略が競合メーカーから恐れられていた人物の退任だけに、「ポスト牛丸」ともいえる役割を新体制で果たすことができるのかが注目される。

 牛丸氏は、引き続き、社内の若手育成のために開校しているマーケティング・ビジネススクールの学長に留まることから、そのノウハウが若手に引き継がれることにはなりそうだ。

 パナソニックでは、白物家電事業でも人事が刷新される。白物家電事業を率いるホームアプライアンス社の榎坂純二社長が退任し、パナソニックマーケティング本部時代から、ホームアプライアンスマーケティング本部長を務める高見和徳常務執行役員が、常務取締役となり、ホームアプライアンス社社長に就任。そして、ホームアプライアンスマーケティング本部長には、コンシューマーマーケティング本部長の石井純氏が就任。ウェルネスマーケティング本部長を含めた、3つの本部長を兼務する。

 高見-石井ラインは、白物家電事業における「切り札」的組み合わせだ。海外、国内を含めて白物家電事業に本腰を入れる体制が整ったともいえる。



■ シャープ

 少しばかり驚いたのは、シャープの人事だ。

シャープ本社
 シャープの液晶パネル事業を支えてきた廣部俊彦常務執行役員が、ソーラーシステム事業本部長に就任したことだ。前任は、AV・大型液晶事業統轄兼AVシステム事業部長。薄型テレビ「AQUOS」および液晶パネル事業を統括する事業責任者であった。

 昨今の液晶テレビ事業の不振などを見れば、引責との見方もできるが、それは早計のようだ。

 成長著しく、今後の収益の柱として黒字転換が見込まれる太陽電池事業を管轄するソーラーシステム事業本部長という立場は、まさに重要なポジション。濱野稔重副社長のもと、新設したソーラーシステム開発本部の本部長に就任した前ソーラーシステム事業本部長の村松哲郎執行役員とともに、トロイカ体制で太陽電池事業を推進することになる。

 AVシステム事業本部長には、液晶パネル事業を統括するAVC液晶事業本部長の中村恒夫執行役員が就任。同副本部長には、シャープ・エレクトロニクス・マニュファクチャリング・カンパニー・オブ・アメリカの社長などを務める清水一郎氏が就任する。

 液晶テレビのセット事業と、その主要部品となる液晶パネル事業の間での人事異動は、これまでにも見られたものであり、この点では、驚くべきものではない。むしろ、その姿勢をより強くみせたといった方がいいだろう。なお、AVC液晶事業本部長に堺コンビナート建設推進本部副本部長の桶谷大亥氏が就任している。

 一方、インターネットAQUOSを推進してきた情報システム事業本部、ウィルコム向けなどの携帯電話を担当してきた移動体通信事業推進本部が統合され、パーソナルソリューション事業推進本部を設立。従来の組織は解消されることになった。今後、インターネットAQUOSによるシャープのPC事業がどうなるかは注目されるところだ。

 また、ザウルスなどを育て上げた名井哲夫氏が情報システム事業本部副本部長兼事業企画推進センター所長から、法人ビジネス営業本部副本部長兼営業推進統括に異動。白物家電事業を担当し、2008年9月に前身となる特機営業本部長に就任している庵和孝執行役員とともに、ソーラーシステムやLED照明、インフォメーションディスプレイなどの法人向けビジネス市場の拡大に取り組むことになる。シャープの新規分野開拓という点で、法人ビジネス営業本部の動きが注目される。

 さらに、国内営業を担当する国内営業本部長の岡田守行執行役員が、兼務でブランド戦略推進本部長に就任。AQOUSブランド戦略の推進とシャープブランドの価値向上への取り組みが、国内営業の最前線と一体化される興味深い人事ともいえる。ブランド発信力を高めるという点で、営業現場を担当する執行役員が兼務でこれを担当する成果がどう発揮されるのかが楽しみだ。

 経済環境の悪化や、価格下落の影響を受け、主要各社のデジタル家電事業は厳しい状況にある。

 薄型テレビ事業に至っては、シャープ、ソニー、パナソニック、日立、東芝、パイオニアといったすべての企業が通期赤字見通しという状況だ。今回の役員人事でも明らかなように、こうしたなか、各社は新たな体制によって、事業の立て直しに挑むことになる。

 どこが、その成果をいち早く形にできるのか。4月以降の新年度における、新体制での取り組みに注目したい。

(2009年 3月 3日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など