第360回:多機能な低価格DAW「Music Maker 2」

~ReWireやYouTubeアップロード対応など機能を向上~


 既報の通り、株式会社AHSより低価格DAW、「Music Maker」の新バージョン、「Music Maker 2 Producer Edition」が3月19日に発売される。またこれと同時にキャラクタ付きの特別バージョン「jamバンド」も発売される。まだ発売まで1カ月弱あるが、すでにソフトのほうは完成したとのことで、AHSより入手したので、実際何が変わったのかなどを見てみよう。

「Music Maker 2 Producer Edition」「jamバンド」パッケージ版も数量限定で発売

■ 低価格だが多機能

 昨年発売された前バージョン「Music Maker Producer Edition」は、初音ミク・ブームもあってWindowsベースの音楽制作ソフトとしてはかなりヒット製品となったようだ。以前にもレビューしたとおり、このソフトはドイツMAGIXが開発するエントリーユーザー向けのDTMソフトだが、低価格の割に、非常に豊富な機能を装備しているのが特徴だった。

自動作曲機能「ソングメーカー」

 オーディオ、MIDIのレコーディング、編集、ミキシングといった一通りの機能があるのはもちろん、ACIDライクなループシーケンス機能も搭載している。とくに、このループシーケンス機能で自動的に音楽を生成してしまう自動作曲機能「ソングメーカー」というものが用意されているため、本当の初心者でも即音楽作りが楽しめるのが大きな売りでもある。

 しかし、単に初心者向けのDAWというだけに留まらない。プラグインのソフトシンセやエフェクトにも対応。そして、強力なマスタリング機能まで備えているほか、「Elastic Pitch」というボーカルのピッチ修正機能、「Remix Agent」という既存楽曲からビートを自動検出しデータ化する機能を備えるなど、高機能DAWにも負けない機能が数多く搭載されているのだ。

ボーカルのピッチ修正機能「Elastic Pitch」

既存楽曲からビートを自動検出しデータ化する機能「Remix Agent」

 もっとも、Music MakerがCubaseやSONAR、ProToolsといったソフトと同等以上のものかというと、そういうわけにはいかない。やはり細かな編集機能が物足りないなど、これをプロ用として利用するのは難しい。とはいえ、Music Makerを使えばDAWがどんなものなのか、一通り理解することはできるし、これだけでも結構なことはできる。

 また、搭載されているプラグインなどは、その後別のDAWへステップアップしても十分に活用することができるため、後で乗り換えるにしてもまったく無駄にならないのも大きなポイントだろう。


■ 搭載された新機能

 さて、そのMusic MakerがMusic Maker 2へとバージョンアップしたのだが、実際何が変わったのだろうか? 国内のバージョンとしては確かに2なのだが、これまで脈々と続いてきたドイツMAGIXのMusic Makerでいえば最新のバージョン15に相当するもの。実際、実行ファイルのプロパティを見ると15となっていることが確認できる。

 起動してみるとわかるとおり、見た目のデザインも各種機能も前バージョンをそのまま踏襲している。先ほど紹介した機能はもちろん、すべての機能がMusic Maker 2に引き継がれており、ちょっと使った感覚では、何が変わったか気がつかないほとだ。

MAGIXのMusic Makerでいえば最新のバージョン15に相当デザイン/機能は前バージョンを踏襲

 とはいえ、もちろん新しい機能はいろいろと追加されている。まず挙げられるのは、「イージーモード」という初心者向けのモードだ。これは新機能というほどのものではないが、このモードをオンにすることにより、通常モードでは利用できるシンセサイザやエフェクト機能、ミキサーなどが見えなくなり、ループシーケンサ機能だけに集中できるようになる。初心者が下手にいろいろな機能を触って混乱するより、まず基本機能を覚えてもらうという目的のモードのようだ。

新機能の「イージーモード」

「サウンドループ」。約3,500種類のループ素材を検索して選択可能

 画面下側には「サウンドプール」というものが表示される。ここには合計3,500もあるという、ループ素材を検索して選択できるもの。一番左のスタイルで「Ambient Vol.7」、「Disco House Vol.9」といったライブラリを選択する。その右の楽器を選択すると、それに相当するループの一覧が表示されるのだ。ここにはオーディオのループとMIDIのループが混在しているが、ユーザーはあまりそれを気にしなくても大丈夫。気に入った素材を選択した後、上のトラックへとドラッグすれば、それでループが貼り付けられるのだ。ドラム、ベース、ギターなどと適当にトラックに並べていけば、それでもう曲が完成してしまう。ソングメーカー機能と違い、ひとつずつ素材を自分で選択することができるだけに、自分で作ったという感覚が得られるのが楽しいところだろう。

 もっとも、このイージーモードはループシーケンス機能だけでなく、オーディオやMIDIのレコーディングも行なえるし、オーディオ、MIDIのエディットも可能。このイージーモードだけでも、結構いろいろなことができてしまうのだ。


 ■ ReWireに対応

「ステップレコーディング機能」が追加

 さて、そのイージーモードでも利用できるMIDI Editorにもひとつ重要な機能が追加された。MIDI Editorが基本的にピアノロール画面であることは従来と同じなのだが、ここにステップレコーディング機能が追加されたのだ。これにより外部MIDIキーボードから1ステップずつ入力していくことができるほか、PCのキーボードを鍵盤に見立てて使う入力も可能になっている。

 さらに初音ミクなど、Vocaloid2との連携を考えている人にとって強力な機能が追加された。それがReWire機能だ。ReWireとは、PropellerheadとSteinbergの2社で開発した規格で、DAWとスタンドアロンのソフトシンセなどを同期させるとともにオーディオやMIDIの信号をやりとりするためのもの。ReWireにはホストとスレーブという考え方があり、主従関係の元に2つのソフトが連携するようになっているのだが、Music Maker 2が対応したのはホスト側。一方のVocaloid2はスレーブ側として対応しているため、うまく連携させることができるのだ。

「ReWire機能」も追加

 ReWireの使い方はいろいろある。予めMusic Maker 2側でオケを作る一方、Vocaloid2側でボーカルを作っておき、その2つを同期させて演奏させることもできる。一方、ボーカルパートのMIDI入力もMusic Maker 2側で行ない、Vocaloid2をソフトシンセとして利用するということも可能。どう使うかはユーザー次第だ。もちろん、ReWireのスレーブとなるなるアプリケーションであればReasonなど何とでも連携は可能だ。

 使い方はまずアレンジメント設定の画面を開き、この同期タブにあるReWireの項目で「ReWireホストを有効」にチェックを入れる。すると、ソフトシンセとしてReWireスレーブのアプリケーションが見えるので、これを選択するといい。一方、スレーブ側のアプリケーションは必要に応じてオーディオの出力先などを設定しておく必要がある。

Rewire機能の使い方

 ただし、初音ミクなど初期のVocaloid2ではReWireのDLLファイルが古いためか、うまく動作してくれなかった。これを動作させるためにはVocaloid2のアップデータをメーカーサイトからダウンロードして最新版にしておく必要があるようだ。

 ReWireの設定のある同期タブの画面を見て気づいた方もいると思うが、Music Maker 2ではMIDI同期機能も新たに追加された。これはMTCでの同期であり、これはマスター(送信側)でも、スレーブ(受信側)でも利用できるようになっている。また、フレームレートも一通り揃っているので、MTCに対応している機材であれば何とでも同期できそうだ。

 またMMC(MIDIマシンコントロール)にも対応しているから、Music Maker 2側から外部機器をコントロールすることも、反対に外部機器からMusic Maker 2の録音や再生操作を行なうことも可能となっている。

「MIDI同期機能」も新たに追加

 もうひとつ機能強化されたのが「BeatBox2Plus」というリズム音源。前バージョンでは「BeatBox」というものが搭載されていたが、それがより進化したのだ。

 Music Maker 2にはこのBeatBox2Plusを含め5つのオブジェクトシンセサイザというものと2つのトラックシンセサイザというものが搭載されている。

リズム音源「BeatBox2Plus」も搭載

 トラックシンセサイザは昨年のレビューでも紹介したとおり、「Vita」と「Revolta2」というVSTインストゥルメント対応のソフトシンセだ。それに対し、オブジェクトシンセサイザというのは、MIDIシーケンスで動かすシンセサイザではない。BeatBox2Plusのほか、「Robota」、「LiVZiD」、「Drum n Bass」、「Atmos」というものがあるが、いずれもそれ自身にステップシーケンス機能などが搭載されており、フレーズを作り出すところまで備えた完結した音源となっているのだ。

オブジェクトシンセサイザ「Robota」(左)、「LiVZiD」(右)

「Drum n Bass」(左)、「Atmos」(右)

 BeatBox2Plusはいわゆるドラムマシンであり、数多くの音色のドラムを備えている。この中から自分でドラムキットを作って、ステップシーケンサでパターンを組んでいくのだ。ここにはフィルタやエンベロープなどシンセサイザとしての機能も備わっているため、かなり自由度の高いドラム音源として利用することができる。パターンを組んだら、あとはループ素材と同様にパターンを繰り返して並べていくことなどができる。

 ちなみに、RobotaはTR-808風なリズムマシン、LiViDはより簡単にドラムパターンを作り出してくれる音源、Drum n Bassはその名の通り、ドラム機能とベース機能を合わせ持つ音源機能付きパターンシーケンサ、そしてAtomsは森林の中の音や映画シーンのような効果音などアンビエントサウンドを作り出す音源となっている。

ビンテージアナログコンプレッサをシミュレーションした「Am-TrackSE」

 音源だけでなく、VSTプラグインのエフェクトも1つ追加された。これはビンテージアナログコンプレッサをシミュレーションした「Am-TrackSE」というもの。MAGIXが「Analogue Modeling Suite~AM SUITE」としてパッケージ化し、国内ではフックアップが扱っている3つのVSTプラグインのうちのひとつ、「Am-Track」の機能を簡素化したものだ。真空管タイプのコンプレッサを通したような音が簡単に得られるため、結構使い道は広い。またスレッショルドやレシオといったパラメータがなく、プリセットでいろいろ選べるため、初心者でもすぐに使うことができるのがうれしいところだ。


  ■ YouTubeアップロード機能も追加

 そして、もうひとつ追加されたのがYouTubeへのダイレクトアップロード機能だ。ここまであまり触れてこなかったがMusic Maker 2にはビデオを扱う機能も搭載されており、AVIファイルやWMVファイルなどをインポートすることが可能。さらにビデオエフェクトやビジュアル素材といったものも用意されているので、音楽といっしょに再生するビデオ作りも可能となっている。そして、完成したビデオをそのままYouTubeで公開できるというわけだ。やはり海外ソフトであるため、ニコニコ動画へのアップロード機能というものはないようだが、Music Maker 2でビデオ作品としてエクスポートすることもできるから、それを手動でアップロードすればいいだろう。

YouTubeへのダイレクトアップロード機能を備え、映像編集機能も搭載

ビデオエフェクトやビジュアル素材なども用意されている

 以上、Music Maker 2のアップデートポイントにターゲットを絞って紹介してみた。そもそも前バージョンでも、かなり多くの機能を備えていたので、感覚的にはほんの少しだけ変わったという印象も受けるが、個人的にはReWire対応したことだけでも十分バージョンアップする価値があると思う。

 とにかく、この価格からは信じられないほど膨大な機能が備わっているので、DAWに興味がある方は、一度試してみるといいだろう。


(2009年 2月 23日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]