藤本健のDigital Audio Laboratory

第694回 iPhone 7のLightning-3.5mmアダプタの音質測定。6sステレオミニと比較した

iPhone 7のLightning-3.5mmアダプタの音質測定。6sステレオミニと比較した

 9月16日にiPhone 7が発売された。発売当日に入手するのには困難を極めたが、なんとかその日に入手し、いろいろとテストしてみた。

iPhone 6s(左)と、iPhone 7(右)

 iPhone 7は、購入後の今でも納得いかない点は多く、その最大の難点ともいえるのがヘッドフォン端子がなくなったことだ。もちろん、それでもヘッドフォンを使う手段は用意されたのだが、音質的にデメリットはないのだろうか? 今回はその点にフォーカスを当ててチェックしてみる。

iPhone 7(上)は、ステレオミニのヘッドフォン端子が省かれた

気になる点が多いiPhone 7の変更点

 少し出遅れてビックカメラで予約したカラーが、人気のあるジェットブラックだったこともあり、当日店頭に受け取りに行ったところ、入荷していないという返事で驚いた。これまでのモデルは、いつも大騒ぎの割には結構在庫があったので「デメリットが多そうなiPhone 7なんて人気はまったくなくて、製品はダブつくはず」と高をくくっていた予想は大外れ。さんざん探し回って、なんとか当日午後にブラックの128GBのiPhone 7を入手したのだった。カメラ性能から見て、iPhone 7 Plusがいいという声もよく聞くが、iPhone 6 Plusを購入した際、大きすぎて片手で操作できないことに懲りて、二度とこのサイズにはしないと決めたから、今回も小さいサイズのiPhone 7にした。

 その日は速攻で、DTM関連のテストをしてブログに情報を書いたりしたのだが、iPhone 7 & iOS 10において、従来のiPhone 6s & iOS 9と比較して、機能や互換性の面ではとくに問題はなく、普通に使うことができた。つまり、DAWやソフトシンセなどのアプリは従来通り普通に動いたし、オーディオインターフェイスやMIDIキーボードなどもとくにトラブルがなく使うことができたのだ。ただし、実用上を考えると問題はいろいろとあった。そのほとんどは、iPhone 7にヘッドフォン端子がなくなったことに起因するものだ。

右がiPhone 7

 ご存じの通り、iPhone 7は防水性能をUPするなどの目的からヘッドフォン端子が削除され、手持ちの有線ヘッドフォンを使うには、iPhone 7付属のLightningのアダプタである「Lightning - 3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ」を使うことが必須となった。

別売のLightning - 3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ

 このアダプタさえ使えば、3.5mmのステレオミニジャックのヘッドフォンであれば、何でも接続することができる。でも小さなアダプタであるだけに、すぐに無くしそうだし、ここにヘッドフォンを抜き差しすることを考えると、細い端子なので壊れてしまいそうな心配もある。このLightning-Connectorが安価であれば、予備を2、3個持っておきたいところ。Webのアップルストアでは900円で販売されている。

Lightning - 3.5mmヘッドフォンジャックアダプタを経由してステレオミニのイヤフォン/ヘッドフォンなどを接続

 では、何がどのように問題なのだろうか? まず多くのユーザーにとって問題となるのは、充電しながら音楽を聴けないという問題。イヤフォン、ヘッドフォンを接続するのにLightning端子が埋まってしまうから、充電できないのだ。音楽再生だけであれば、それほど電力を食わないかもしれないが、YouTubeなど映像を見ているとそれなりにはかかりそうで、気になるところだ。

 「だったら、ワイヤレスヘッドフォンを使えばいいじゃないか」という人もいるし、Appleがそれを推進するのもヘッドフォン端子を消した一つの理由なのだろう。最初、iPhone 7とともに登場すると発表されたAirPodsのニュースを見たとき、筆者も何か画期的なものが出てくるのでは? とも期待したのだが、それもどうやら期待外れだったようだ。もしかしたら、世の中の動きを無視して、Apple独自の通信規格で非劣化・レイテンシーゼロのワイヤレス・ヘッドフォンなのではないか……と夢想していたのだが、その後の情報によれば単なるBluetoothヘッドフォンらしい。しかも、iPhone 7というかiOS 10がソニーのLDACコーデックに対応するはずもなく、また今かなり普及してきたaptXでもなく、AACというのだから、かなりガッカリなところ。まあ、LDACだって原音のままでなく圧縮をかけているのだから、そもそもBluetoothに高品位なオーディオ性能を求めること自体が間違っているのかもしれない。

 もっともEarPods、AirPodsといったヘッドフォン・イヤフォンなら直結だろうと、AACだろうと、音質的にはさほど大きな違いにならないのかもしれない。しかし、致命的なのがレイテンシーだ。ミュージック再生機能で音楽を聴くだけであれば、レイテンシーがいくらあっても、大きな問題にはならないと思うが、DTMにおいて大きなレイテンシーがあると使い物にならない。aptXが超低レイテンシーだと宣伝していたので、使ってみると、30msec以上の遅れがあって、DTM用途では不可。それより遥かに大きなレイテシーのあるAACコーデックでは話にもならないというのが正直なところだ。

 となると、やはり有線で接続が必要になってくるわけだが、Lightning端子を占有されると困るという問題が、電源以外にも生じてくる。その分かりやすい例がMIDIキーボードとの接続。IK MultimediaのiRig KeysやLine6のMobileKeysなど、Lightning端子と接続できるキーボードがいろいろあるほか、Lightning-USBコネクタ経由で接続可能なUSB-MIDIキーボードが結構多く存在する。ところが、これを使ってしまうと、iPhoneの内蔵スピーカーからは音を出せるが、それ以外に音の出し口がなくなってしまい、まともに使えない。「だったら、Apple純正のiPhone Lightning Dockを使えばいい」というアドバイスもいただいた。確かにこれを使うことで、Lightining端子からヘッドフォン端子だけを分岐できるので、キーボードを接続したり、充電することも可能ではあるけれど、Lightning端子だけで支えるDockは強度的にも危険そうだし、横置きしてDAWを使うといった用途にも不向き。この辺はぜひ、サードパーティーからでも、うまく分岐可能なツールが登場してくれることを待つしかなさそうだ。また、多少レイテンシーの問題はあるものの、BLE-MIDI対応のキーボードもそろそろ本気で検討すべき時が来たといえるかもしれない。

Lightningアダプタ経由の音を、従来のヘッドフォン端子と比較

 iPhone 7で採用されたLightining Connectorを使ったヘッドフォン端子は、すぐに断線しそうな外見はともかくとして、気になるのはその音質。見た目上、単なる電気的接続の切り替えケーブルに見えるけれど、デジタル端子であるLightiningからヘッドフォン出力およびマイク入力も取り出しているわけだから、この中にはA/DコンバータもD/Aコンバータも入っているということになる。何気なく使うこの変換ケーブル、実はそれなりのハイテクデジタルグッズといえそうだ。試しにこの端子の入力も出力も使って動作する、IK Multimediaの初代iRigを接続してみても、しっかりとギター入力を受け取り、アンプシミュレータを通した音でヘッドフォンから返ってくるので、ちょっと聴いた感じでは、入出力ともに音質的な問題はなさそうだ。

iRigと接続

 とはいえ、ネットの記事を見てみると、音がよくなったとか、悪くなったとか、いろいろと意見はあるようだ。そこで、その議論にDigital Audio Laboratoryも参戦し、データ的に見て違いがあるのかを検証してみたいと思う。

 ここで比較するのは、iPhone 7にLightning - 3.5mmヘッドフォンジャックアダプタを使ったヘッドフォン出力と、iPhone 6sのステレオミニヘッドフォン出力。またLightinig Connectorを見て、すぐに思い出したのが4年前に登場したLightning-30pinアダプタ。このアダプタにもD/Aコンバータが搭載されていたので、これと比較してどうなのかも試してみることにした。ちなみに、30ピンDock端子にあるアナログ出力信号は、以前に秋葉原で購入したアダプタで取り出すことにした。

Lightning-30pinアダプタ
30ピンDockアダプタを介して接続

 方法としては24bit/48kHzのフォーマットで1kHzの-3dBのサイン波、20Hz-22kHzのスウィープ信号を用意し、これをiPhone 7およびiPhone 6sへ転送。いずれもボリューム最大にした上で再生した音をオーディオインターフェイスに送ってPCで取り込み、解析してみるというものだ。ちなみに、iOSのバージョンは9月24日に更新された10.0.2を使っている。

現時点で最新のiOS 10.0.2でテストした

 ここで使ったオーディオインターフェイスはSteinbergのUR22mkII。当然のことながらiPhone側はヘッドフォン出力であって、-10dBVのライン出力とは出力レベルもインピーダンスも異なっているが、ここでは強制的にオーディオインターフェイスのライン入力に突っ込んでいるために、そのままでは音量レベルが合わない。そこで、UR22mkIIのマイクプリアンプを利用し、左右ともに-6dBまでレベルを上げてみて、ここで録音してみたのだ。まあ、本来なら-3dBまで上げるべきところだが、少しでもマイクプリアンプの影響を避けるため、-6dBまでとした。

音量レベルに違いはある?

 実はここで気になっていたのは音量レベルで、それぞれに違いがあるのではないかという点。マイクプリアンプの設定はiPhone 7の出力で合わせ、その後いじらなかったので、ここで比較すれば、それぞれの音量レベルの差が見えるはずだ。今回はWaveLab Pro 9を使って録音してみたのだが、iPhone 7とiPhone 6sはピッタリ同じ。Lightning-30pinアダプタを通した場合だと、-6.5dB程度と若干下がったけれど、こちらもほぼ一緒であった。

WaveLab Pro 9を使用
iPhone 7(Lightning - 3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ経由)の音量レベル
iPhone 6s(ステレオミニ出力)の音量レベル
30ピンDockアダプタ/アナログ出力アダプタ経由の音量レベル

 さっそく1kHzのサイン波を解析してみると、以下のようになっており、3つともほぼ一緒という結果。S/Nを見ても79dB程度とすごく優秀なのだ。しいて言うと、iPhone 7のみ高調波が少し目立つかも…といったレベルであった。

サイン波(iPhone 7)
サイン波(iPhone 6s)
サイン波(Dock)

 では、スウィープ信号のほうはどうなのか。横軸をLog表示で見てみると、どれもほぼ一緒。こちらはLightning-30pinアダプタを使った場合、高域が若干欠けているように見えるが誤差レベルにも見える。念のため、高域をもっとハッキリ表示できるリニア表示にして見てみるとやはりLightning-30pinアダプタだけは21.5kHzあたりでガクンと落ちているので、ほかの2つとは少し特性が違うのかもしれない。

スウィープ信号(iPhone 7)
スウィープ信号(iPhone 6s)
スウィープ信号(Dock)
スウィープ信号/リニア表示(iPhone 7)
スウィープ信号/リニア表示(iPhone 6s)
スウィープ信号/リニア表示(Dock)

 もちろん、ここで見えるのは、測定で見える音質の一面に過ぎないから、これをもって「科学的に見て音質は同じである」などというつもりはない。やはり聴いてみると、どっちがいい、悪いという感想はあるかもしれないし、人間だからこそ分かる音の違いが見えてくる可能性はある。とはいえ、音量レベル的にはピッタリ同じであることが分かったし、音質的に見てもハッキリとした差はないようなので、この点でも安心して使っていいモノのように思える。

 普通のヘッドフォンを即接続できないとか、ホームボタンが凹まないなど気に入らない点はいろいろあるが、まあ買ってしまったのだから、しばらくはiPhone 7と付き合っていくしかなさそうだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto