藤本健のDigital Audio Laboratory

第695回 音質プラス使い勝手の進化にも注目。TASCAM本格PCMレコーダの録音性能

音質プラス使い勝手の進化にも注目。TASCAM本格PCMレコーダの録音性能

 ティアックのTASCAMブランドから登場したリニアPCMレコーダの「DR-100MKIII」。名称からも分かる通り、2009年に発売されたDR-100の第3代目に当たる「業務用リニアPCMレコーダ」として7月に発売された。

DR-100MKIII

 “一般のものとは1ランク違う”という意味で「業務用」と打ち出されているのだと思うが、実売価格で見ると5万円前後と一般ユーザーでも手の届く範囲内。実際どんなものなのかをチェックしてみたので、その音とともに紹介していこう。

第3世代になって大きく進化

 DR-100MKIIIは形状からして初代のDR-100、2代目のDR-100MKIIと非常によく似ているので簡単なマイナーバージョンアップだと思っていたが、中身はまったく新たに開発した別モノであり、筐体も雰囲気を似せているだけで、まったく違う金型を起こして作ったものとのこと。確かにDR-100およびDR-100MKIIは96kHz/24bitという仕様であったのに対し、DR-100MKIIIは192kHz/24bitと変わっている。手元に過去の機材があるわけではないが、写真で見比べてみると、確かにボタンの配置やマイク周りなど、いろいろ違いがあることにも気づく。

従来モデルのDR-100MKII

 このDR-100MKIIIは業務用というだけあって、最近のコンパクトなリニアPCMレコーダと比較するとちょっと大きめ。手のひらに収まるものの、iPhone 7と並べてみるとかなり大きいのがよくわかるだろう。

DR-100MKIIIを手に持ったところ
iPhone 7と比較

 さっそく使ってみようと、電源を入れてみると、単3電池2本を入れていないのにONになった。本体に大容量のリチウムイオン電池も装備しているのだ。さらに、どちらの電池を優先的に使うかという設定も用意されており、これを単3電池に設定しておくと、これが切れたときに自動的にリチウムイオン電池に切り替わり、電源をオンにしたまま単3電池を入れ替えれば、またそちらが有効になる。まさに業務用として長時間使える設計になっているわけだ。またこの単3電池もアルカリ、ニッケル水素、リチウムを設定できるようになっている。

内蔵バッテリと単3電池の両方に対応
バッテリの優先利用設定
電池のタイプ選択

 一方、録音するメディアはSDカードとなっており、内蔵メモリはない。SDカードにWAVもしくはMP3のデータを記録していく。フォーマットとしてはWAVの場合、24bitもしくは16bit、サンプリングレートは44.1kHz~192kHz。MP3の場合、128kbps~320kbpsとなっている。

SDカードスロット
録音フォーマット選択

 見た目からもすぐに分かる特徴は、ズームのH4nやローランドのR-26などと同様、XLR/TRSの外部マイク入力を2つ装備していること。この2つの端子の間にPHANTOMと書かれたスイッチがあることからも分かる通り、+48Vのファンタム電源を供給してコンデンサマイクを使用することが可能だ。

XLR/TRSのマイク入力を2つ装備

 内蔵マイクとどう切り替えるのかと思ってチェックしてみると、このDR-100MKIIIには、いろいろな入力があることが分かった。デフォルトの設定ではUNI MICとなっており、一番目立つ円柱型の指向性ステレオマイクとなっているが、OMNI MICに設定すると、それとは別に独立した形で内蔵されている無指向性マイクに切り替わる。さらに、XLR/TRSの入力への切り替えのほか、EXT INからの入力、そしてDIGITAL INというミニ端子からのS/PDIF入力も装備している、まさにオールマイティなレコーダとなっている。

入力ソース選択
左右に備えた指向性ステレオマイク
中央近くにあるのが無指向性マイク
デジタル音声入力なども備える

 ただし、これらのいずれかを選ぶ形であって、同時に複数入力を選んでマルチトラックレコーディングをするというわけではない。あくまでもステレオ録音かモノラル録音、そしてデュアルでのモノ録音となっており、とってもシンプルに扱えるのもDR-100MKIIIの特徴といえるだろう。

録音品質をチェック。リアルなステレオ録音

 このDR-100MKIIIでの音をチェックしてみようと、まずはこれを持って、外の音を録ってみることにした。SDカードを入れ、ヘッドフォンを接続し、RECボタンを押すと、マイクが拾う音をモニターできる。入力レベルは液晶パネル右にあるノブを回すことで調整。このノブが無段階のやや重めのボリュームになっているので、調整はしやすい。当然入力ゲインを液晶のレベルメーターで確認できるのだが、これとは別に左右の入力音量を3段階で表示させるLEDが搭載されているのも見やすい。よく見ると-48dB、-3dB、PEAKとなっているので、PEAKが点灯しないように音量をチェックすればいいわけだ。

本体右側のノブで入力レベル調整
録音時のレベルメーター
LEDでもピークなどのレベルを表示

 またリミッターをON/OFFするスイッチが液晶パネル下にあるほか、マイク入力を一時的に下げるためのMIC PADもスイッチで用意されているというのは、とっても扱いやすいところ。ほとんどのリニアPCMレコーダで、これらはメニュー設定で行なう形になっているが、見てすぐにチェックでき、切り替えられるというのは便利だ。また、前述の入力ゲインを調整するノブは左右とも連動する形で動いていたが、片方だけを調整したい場合には、MIC PADの右にあるINPUT LEVELのスイッチでLかRを選べば、ノブを動かした際に調整できるのが片方になるのも分かりやすい。

 この辺を調整した上で、児童公園に行って録音した鳥の鳴き声が以下のものだ。

録音サンプル(192kHz/24bit)

野鳥の声 bird24192.wav(28.14MB)
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 設定は192kHz/24bitのステレオとなっており、かなりリアルに音を捉えていることが確認できると思う。ただ、指向性ステレオマイクのほうは、X-Yマイクという形状ではなく、平行して真上を向いているような形なので、しっかりステレオ感が出せるのかがちょっと気になるところ。そこでサンプリングレートを48kHzに落とした状態で、踏切の横で電車が通過するのを録音した。

録音サンプル(48kHz/24bit)

踏切を通る電車の音 train.wav(6.86MB)
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 これを聴いてみると、左右の音の広がりがとてもクッキリとしてステレオマイクとして効果的に機能しているのがよく分かる。48kHzに設定したとおり、ここではあくまでもステレオチェックで、音質を見るつもりではなかったが、線路のつなぎ目を踏む重低音から、倍音を含むモーター音まで非常にリアルに捉えているのも感じられる。

音質に加えて使い勝手の高さも実感

 続いていつものように、CDを再生した音をどのくらい再現度高く録音できるかを試してみた。こちらはそもそも16bit/44.1kHzのサウンドなので、同じ44.1kHzもしくは48kHzでの録音で十分だとは思うが、機材によっては96kHzのほうが、よりキレイに捉えることができるケースがあったので、ここでも96kHzで録音後、手元の編集ソフトで48kHz、44.1kHzにリサンプリングしてチェックしている。また、ここでは指向性のステレオマイクと無指向性のOMNIマイクのそれぞれで録った結果およびそれを周波数解析した結果が以下のものだ。

録音サンプル(CDプレーヤーからの再生音)

44.1kHz/16bit(ステレオマイク利用) music_1644.wav(6.94MB)
44.1kHz/16bit(OMNIマイク利用) music_omni_1644.wav(6.93MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

ステレオマイク利用時の周波数解析結果
OMNIマイク利用時の周波数解析結果

 実際に聴いてみてどうだろうか? まずこの2つを比べると、音質的に見て指向性マイクのほうがかなり上なのでは……と予想していたのだが、思ったほど違わないというか、とっても似た傾向の音だ。ただし、確かにステレオ感という意味では指向性マイクのほうが勝っていることは確か。マイクは異なるものを採用していると思うのだが、それぞれの差が出ないよう、この辺はかなり細かく調整されているのかもしれない。

 一方でほかのリニアPCMレコーダでの結果と比較してみたところ、高域がかなり強めに録れているという印象。ほかのリニアPCMレコーダの結果を聴くと、ちょっと音がこもっているのではと思ってしまうほどだ。逆に言うと、原音よりもさらに高域が強めなようにも感じる。この辺は気になれば後で編集ソフトのEQ処理で調整してみるというのも手かもしれない。

 以上、TASCAMのDR-100MKIIIについてみてきたが、いかがだっただろうか? 実際に使ってみると音の良さもそうだが、それ以上に使い勝手について、非常によく考えて設計されていることを実感できた。最近、機能・性能面で各社とも大きな差がなくなったリニアPCMレコーダの世界だが、今後は使い勝手というのが大きな選択のポイントになっていくのかもしれない。

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藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto