藤本健のDigital Audio Laboratory

第693回 80年代ドラムマシン「TR-909」復刻や新AIRAなど、ローランド新製品が一挙に登場

80年代ドラムマシン「TR-909」復刻や新AIRAなど、ローランド新製品が一挙に登場

 ローランドは9月9日に新製品発表会を行ない、Rolandブランド、BOSSブランドの全39製品を披露した。資料の厚さから見て、おそらく過去最大の点数の新製品発表だったと思うが、都内の会場には全国の楽器店からその店員が集結。30年以上前のビンテージ機材の復刻から、最新の楽器機材まで、さまざまな製品が発表された中で、特に気になるデジタル機材をピックアップして紹介したい。

TR-909復刻版など「909 Celebration」

 9月9日を発表日に選んだのは、1983年発売のドラムマシンで今も音楽シーンで幅広く使われているTR-909を復刻する「909 Celebration」を前面に打ち出したため。まずは、そのTR-909の復刻版から見ていこう。

「909 Celebration」をアピール

 ローランドは昨年、Jupiter-8、JUNO-106、JX-3Pという、やはり30年以上前のシンセサイザを復刻させた「Roland Boutique」シリーズを発表した。それぞれJP-08、JU-06、JX-03という名称の機材で、デザインをオリジナルの雰囲気にしつつも、大きさは横幅308mmの小さなミニチュアサイズにしたものだった。とはいえ中身はまさにホンモノ。同社が生み出したアナログ回路モデリング技術であるACBテクノロジーを利用して、オリジナルさながらに再現し、ホンモノと同じ音が出るように仕立て上げていた。

アナログ回路モデリング技術であるACBテクノロジーにより音を再現

 そのRoland Boutiqueシリーズの第2弾として、TR-909を復刻させた「TR-09」が発表された。9月23日発売で、価格はオープンプライス(実売価格50,000円前後)。機能的にもTR-909を回路レベルで再現するとともに、従来できなかったWRITEモードとPLAYモードのシームレスなモード切り替えも可能にし、より使いやすものとなっている。

TR-909を復刻させた「TR-09」

 ただ、オリジナル機では、各音色を別々に出力できたが、このTR-09は大きさの都合もあり、最終ミックスされたステレオ出力のみとなっている。この点についてはUSB接続が可能になっているという点でカバー。PCと接続した場合、TR-09ほかRoland BoutiqueシリーズはMIDIインターフェイス&オーディオインターフェイスと見えるようになっており、TR-09からは4chの独立信号を得ることが可能になっているのだ。

 各チャンネルに、キック、スネア、ハイハット、シンバル……とそれぞれの音を割り振ることが可能になっているので、ユーザーが好きに割り当てた上でDAWに取り込んだり、個別にエフェクトを掛けたりすることができるようになっているのだ。なお、昨年出たRoland Boutiqueシリーズの第1弾ではUSB接続でのサンプリングレートは44.1kHzだったが、第2弾ではすべて96kHzとなっている。

 同じくRoland Boutiqueシリーズ第2弾で復刻されたのがベースマシンであるTB-303を蘇らせた「TB-03」と、ボコーダーのVP-330を蘇らせた「VP-03」。いずれも9月23日発売で実売45,000円前後。TB-303は先ほどのTR-909や、80年代ドラムマシンの代名詞的存在であるTR-808とともに、現在のEDMシーンなどで現役として使われている。ただ、30年経過したアナログ機材ということもあり、最近の中古価格は高騰し30万円近くになっていることも少なくない。

ベースマシンのTB-303を復刻した「TB-03」

 今回復刻されたTB-03はサイズ的にもオリジナル機のTB-303に近く、使い勝手、そして音においてもまさにそのものとして再現しているだけあり、世界中のユーザー、そして中古市場にも大きな影響を与えるかもしれない。ちなみに、TB-303ほど難解な(使いにくい)シーケンサはほかにあまりないと個人的にも思っていたが、今回のTB-03はその点では大きく改善されている。

 従来と同じ打ち込み方法を残しつつ、新たにステップ・レコーディング・モードが追加されたので、かなり使いやすくなっているのだ。また小さいながらもディスプレイがついたので、今、何ステップ目を打ち込んでいるかは確認できるのもいいし、TR-09同様、WRITEモードとPLAYモードを自由に行き来できるようになっているのも地味に進化しているポイントだ。さらに、TB-303にはなかったエフェクトが装備され、OVERDIREVEとして歪み系3種類、DLAYとしてテープエコーやリバーブなど3種類が使えるようになっている。

 一方のVP-03も、やはり現役で使われている機材の復刻となる。オリジナル機であるVP-330はロボットボイスなどを出す装置として使われているほか、男女混合のクワイヤ・サウンドさらにはアナログならではのストリングスシンセサウンドを作り出す機材として、いろいろな場面で使われている。そのVP-330をACBで復元したのがこのVP-03。本体にはグースネック・マイクが付属しているほか、XLR接続で手持ちのダイナミックマイクに差し替えることも可能だ。

ボコーダーVP-330復刻の「VP-03」
XLR接続でダイナミックマイクに接続できる

 また、オリジナルにはないステップシーケンサも搭載されている。なお、VP-03はJP-08、JU-06、JX-03などと同様にキーボードは装備されておらず、別売のミニ鍵盤付きのDOCK、K-25mとドッキングさせて使うか、MIDIを使って外部キーボードやシーケンサなどから演奏させる形となる。

AIRA新製品「SYSTEM-8」が登場

 もう1つ今回の発表における目玉的存在が、AIRAシリーズの新製品となる「SYSTEM-8」だ(9月23日発売、実売148,000円前後)。以前から4音ポリのアナログモデリングシンセサイザとしてSYSTEM-1というものがあったが、まったく新たに設計し直したという。49鍵のフルキーを使ったシンセサイザで、最大8音ポリを実現する。

SYSTEM-8

 オシレーター部ではSAW、SQUAREといった波形はもちろん、SuperSAW、NoiseSAW、さらにはFM、CBといったユニークな波形も搭載されている。そして最大の特徴はPLUG-OUTという仕組みを用いて、JUPITER-8およびJUNO-106をACBで再現するという点だ。PLUG-OUTは、SYSTEM-1で登場したローランドオリジナルのシステムで、PCからプログラムを転送することで、この機材そのものを別のシンセサイザのように変身させてしまうもの。

 そして、SYSTEM-8ではPLUG-OUTを3バンク持っているので、ボタン一つで別のシンセサイザに簡単に切り替えることができるようになっているのだ。出荷時、あらかじめJUPITER-8のPLUG-OUTが装備されているほか、来年早々にはJUNO-106のPLUG-OUTがSYSETM-8ユーザーには無料で配布されるとのこと。また、SYSTEM-1用のPLUG-OUTも新バージョンにアップデートするとともに、SYSTEM-8でも使えるようになるという。

 なお、SYSTEM-8にはCONDITIONというパラメータが用意されており、これを調整することで新品のアナログシンセサイザという状態からだんだん劣化してきた状態へと音を変化させていくことができる。この劣化の過程では音色は元より、オクターブ間でのピッチのズレやLFOのズレによる揺らぎなども表現しており、それっぽい演出も可能になっている。

CONDITIONを調整して音を変化させることが可能

電子ドラム「V-DRUMS」も“大きく”進化

 筆者が個人的に見て非常に大きな進化をしていると感じたのは、今年20年目を迎えるローランドのエレクトリックドラム「V-DRUMS」だ。最上位機となる「TD-50KV」はバスドラム、スタンド別売でキットが実売492,000円前後(10月発売予定)とかなり高価。ステージでのデモ演奏を見ていたが、見た目もアコースティックのドラムそのもののようになってきているのも驚いたところ。エレクトリックドラムは、従来小さく薄いパッドを叩くため、ステージ映えしないという難点があったが、ここまでくると普通のドラムと変わらない。

V-DRUMS最上位機の「TD-50KV」

 でも、ここまでバスドラムを大きくする必要があるのか? と思ったら、バスドラム自体は、他社の22インチ・バスドラムを使用し、フロント面、打面それぞれをV-DRUMS用のものに差し替えて使うのだとか。確かにこれなら圧倒的な存在感が得られるわけだ。

22インチのバスドラムのフロント面と打面をV-DRUMS用に差し替えているという

 ユニークなのはシンバルのパッドである「CY-18DR」とスネアのパッドである「PD-140DS」。これらには新たに開発されたマルチ・エレメント・センサーというものを搭載したことで、これまでにない演奏法が可能になっている。たとえばシンバルのほうは、ボウの叩く位置の違いによる音色変化やベルの繊細な叩き方、エッジを荒々しく叩く奏法も、アコースティックシンバルそのもののように忠実に再現。また叩いた後、手のひらを広げてミュートするといったことも可能になっている。

叩いた後に手のひらを広げてミュート

 またスネアのほうはヘッドの下にクロス・スティック・センサーというものが搭載されているのが大きなポイント。これにより、ヘッドに手を置いた状態でリムショットを叩くことができるようになるなど、まさにアコースティックドラムそのもののように進化してきている。

ヘッドに手を置いた状態でリムショットを叩ける

 ただ、これだけのセンサーとなると、従来のような単純なアナログのトリガー信号を送るだけでは済まなくなる。様々な情報をリアルタイムで伝送する必要があるため、その伝送ケーブルとしてUSBが利用されているのがユニークなポイント。これはPCと接続するためのものではなく、新製品となる音源「TD-50」と接続する専用のものとのことだが、ほかの楽器にはない珍しい使い方だと思った。

伝送ケーブルはUSB
USBは、音源のTD-50との接続用

カホン専用マイクプロセッサや、電子管楽器「Aerophone」など

 同じく打楽器系で面白かったのがカホン専用マイクプロセッサ「EC-10M」(9月17日発売、実売25,000円前後)。昨年、ローランドではEC-10 EL Cajonという電子カホンを発売していたが、EC-10Mはその延長線上にあるもの。昨年のEC-10はアコースティックのカホンの中にセンサーやスイッチ、音源、アンプ、スピーカーといったものを埋め込んで電子カホンとしていたが、今回のEC-10Mは普通のアコースティックのカホンをEC-10のような電子カホンに改造してしまうキットなのだ。

カホン専用マイクプロセッサ「EC-10M」

 まあ、改造といっても、カホンの穴に付属のクリップマイクを挟むだけ。このマイクがとらえる音をリアルタイムに解析し、打面を叩く位置によって2種類の内蔵音色の叩き分けが可能になっている。さらにこれとは別に2つのペダルを接続可能となっており、カホンの2種類に加え、計4音色を使うことができる。音色キットは16種類あり、様々な演奏が可能になる。なお、ワンフレーズを記録してループ再生できるMIDIシーケンサによるループ機能も装備。たとえばタンバリンやシェイカーなどのレイヤー音色でシンプルなリズムフレーズをループ再生しつつ、それに合わせて演奏するといった使い方ができそうだ。

カホンの穴に付属のクリップマイクを挟む
2つのペダルを接続可能
Aerophone AE-10

 もう一つインパクトの大きかった新製品が「Aerophone AE-10」という電子管楽器(10月8日発売、実売78,000円前後)。サックスの運指で、オクターブ・キーも備え、リコーダー感覚で演奏が可能な楽器で、リード構造をともなったマウスピースも装備し、噛む力でビブラートやピッチの調整も可能で、さまざまなサウンドをブレス・コントロールで表現できる。

 このAE-10は音源にPCMシンセサイザを搭載しているだけでなく、ローランド自慢のSuperNATURALも搭載。ソプラノ、アルト、テナー、バリトンと4種類のサックスサウンドをリアルに表現できるとともに、4種類のサックスをユニゾンで重ねたサックス・セクションというサウンドも出せるようになっている。

リード構造を持つマウスピースも装備
4種類のサックスをユニゾンで重ねたサウンドも出せる

 もちろん、電子楽器なので、サックスだけでなく、クラリネット、フルート、トランペット、バイオリンなどさまざまな音色を装備するとともに、コーラス、リバーブ、さらにはマルチ・エフェクトも搭載しているので、音色作りにも自由度がある。このサウンドはヘッドフォン/ラインアウト端子から出力できるほか、内蔵スピーカーもあるので、とりあえずこれ一つで音を鳴らすことも可能。ACアダプタで動作するほか、単3ニッケル水素電池×6で動作させることもできる。さらにUSB端子も装備しており、PCと接続することでMIDI信号を出力することが可能。つまり、AE-10でソフトウェア音源を演奏するといった使い方もできるわけだ。

ヘッドフォン/ラインアウト出力を装備

 こうしたブラス系の電子楽器は、現在AKAIブランドのEWIがあるのみ。その昔はヤマハもWXシリーズを出していたが、今は撤退しており、EWIの独壇場となっていたが、AE-10の登場で、この市場も大きく変化する可能性がありそうだ。

 今回の発表会では、ほかにもBOSSブランドのギターエフェクト「GT-1」やグランドピアノ・フォルムの電子ピアノ「GP607」、ポータブルな電子ピアノ「FP-90」、折り畳み可能で持ち歩きもできるV-DRUMSの「TD-1KPX-S」、Serato DJのコントローラー兼ドラムマシンである「DJ-808」などほかにもさまざまな製品が発表されていた。これらも含め、また機会があれば、より具体的な製品内容を紹介したい。

BOSSのギターエフェクト「GT-1」
電子ピアノ「GP607」
V-DRUMSの「TD-1KPX-S」
Serato DJコントローラー兼ドラムマシン「DJ-808」

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TR-09
EC-10M

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto