藤本健のDigital Audio Laboratory

第698回 AKハイレゾプレーヤーがDSDレコーダに。ドッキング録音キットの実力

AKハイレゾプレーヤーがDSDレコーダに。ドッキング録音キットの実力

 iriverのAstell&Kernブランド製品として、異色のリニアPCMレコーダが発売された。これはデジタルオーディオプレーヤーであるAK300シリーズにドッキングさせることで、リニアPCMレコーダに変身させる「AK Recorder」という製品。最高で384kHz/32bitでレコーディングできるほか、DSDの5.6MHzでのレコーディングもできる機材で、ハンディレコーダでDSD 5.6MHzに対応した製品としては、世界初とのこと。直販価格は119,980円(税込)。

AK380とAK Recorderの組み合わせ(春のヘッドフォン祭で展示)

 このAK Recorderに、無指向性コンデンサマイクをセットにしたのが「AK Recorder MIC KIT(AK-RECORDER-MICKIT-MT)」で、直販価格は269,980円(税込)という高価な製品だ。AK300シリーズの最上位機種、AK380(直販499,980円/税込)とセットで揃えれば約70万円コース。そのAK380とAK Recorder MIC KITを合わせて試した。

ハイグレードなマイク付きでDSD/PCM録音が可能

 Astell&Kernの最高峰プレーヤー、AK380がどんな製品であるのかを少しだけ説明すると、AK380は旭化成エレクトロニクスの最新DAC「AK4490」をデュアルで採用したポータブルオーディオプレーヤー。PCMは最高で384kHz/32bitの再生をサポートするとともに、DSDでは11.2MHzを再生できる。

AK380

 単体では、あくまでもオーディオプレーヤーなのだが、ここにドッキングステーションのAK Recorderを接続すると、ハードウェア的に拡張されてレコーディング機能が搭載されると同時に、ファームウェア的にも隠されていた録音機能が表示されるようになり、まさにレコーダとして使えるようになるというものなのだ。

AK Recorder

 4月に行なわれた「春のヘッドフォン祭」において、A&Kのブースで発売前のAK Recorder MIC KITを見てはいたのだが、製品を実際に借りたところ、発売元であるアユートから大きな荷物が届いてちょっとビックリした。プレーヤーであるAK380とは別送でやってきた段ボールを開けると、中には頑丈なアタッシュケースのようなプラスチックのケースが入っていた。

頑丈なケースに入って届いた

 これを開けると、ドッキングステーションであるAK Recorderと、マウントアダプタ、そして小さなマニュアルがある。さらにその下には2つのプラスティックケースと、マイクスタンドが入っている。

ケースの中に本体やアダプタ、マイクスタンドなどが入っている

 その2つのプラスティックケースの中にマイクが入っているのだが、これがデンマークの高級マイクメーカーであるDPAのコンデンサマイク「SC-4061」。1本5万円以上する機材なので、AK Recorder MIC KITの価格が約27万円というのは、分からなくもない。

デンマーク・DPAのコンデンサマイク「SC-4061」が付属
パッケージに入っているケーブルとマイク

録音までの組立てと、気になった点

 どうやって使うものなのか、最初はよく分からなかったので、まずはマニュアルを見ながら組み立て開始。ドッキングステーションであるAK RecorderとAK380のmicroUSB端子を最初に接続。このままでは、安定しないので、肩の部分をネジ留めして、ガッチリと固定する。

AK RecorderとAK380のmicroUSB端子を最初に接続
本体の肩の部分をネジ留め

 これでレコーダ本体ができ上がるわけだ。これをiPhone 7と並べてみると、大きさの雰囲気がわかると思う。もっとも、AK380&AK Recorderのほうが圧倒的に重い。ずっしりくるとはいえ、普通に手で持って歩けるレベルではある。

iPhone 7(右)とサイズ比較

 次にマイクスタンドをAK レコーダに取り付ける。まるで頭に竹トンボでも付けたような雰囲気だ。その竹トンボ風のマイクスタンドの先端はマグネットの台となっているので、ここにマイクホルダーを取り付ける。

マイクスタンドを装着

 さらに、SC-4061にウインドスクリーンを被せた上で、マイクホルダにセットする。一方、マイクのコネクタはミニXLRとなっているので、これをAK Recorderのマイクコネクタ部分に取り付けることで、なんとなく物々しい感じではあるが、ようやくセッティング完了。なお必要に応じて、マウントアダプタを取り付けることで、三脚などにセットできるようになる。

マイクにウインドスクリーンを装着してセット
マイクのコネクタはミニXLR
マイクのケーブルを接続してセッティング完了
マウントアダプタを取り付けると、三脚などにセットできる

 組み立て終わったところで電源を入れると、単体のプレーヤーでは見ることのない「録音」という文字が画面上に現れる。これをタップすることで、録音モードへと切り替わるのだ。まず「長時間録音すると、本製品が熱くなる場合があります。注意してください」と表示される。その後、実際使ってみたところ、そこそこ暖かくはなったが、それほど気にするレベルではなさそうに感じた。

メニュー画面に「録音」の項目が表示
録音モード時の通知画面

 OKをタップして警告を消すと、いよいよレコーダとして機能するようになる。ここから先は、とくにマニュアルなど見なくてもすぐに操作できる分かりやすさとなっていたが、簡単に紹介していこう。

録音時の画面

 フォーマットをタップすると、録音のフォーマットが選択できるようになっている。16bit、24bit、32bit、DSDとあるので、どれにするかを選択すると、それに応じたサンプリングレートを選択するようになっている。DSDなら5.6MHzが最高、PCMなら32bitの設定において384kHzが最高音質だ。

フォーマットの選択画面

 入力をタップすると、どこからの入力信号をレコーディングするのかを設定できる。ミニXLRに接続したマイクがMIC1、それ以外にもライン入力、デジタルでのAES3、またサイドにあるLINE2、MIC2端子が選べるというわけだ。

入力を設定

 それ以外の設定としては、モニタリングのオン/オフ、リミッターやローカットのオン/オフ、チャンネルをステレオにするかモノラルにするか……といった設定メニューがあるが、ここではリミッター、ローカットはオフにした以外は、デフォルトでの設定で使うことにした。ちなみに、DPAのコンデンサマイクはファンタム電源が必要になるので、これをオンに設定している。

チャンネル選択などの録音設定

 さらに、Gainボタンをタップするとゲイン調整のための画面が現れる。左の2つがボリュームゲイン調整、右の2つがマイクプリアンプのゲイン調整となっており、この2つの掛け合わせによって録音レベルが決まるようになっている。

録音のゲイン調整画面

 ただ、この状態ではモニターされていないし、入力レベルも表示されないので、赤い録音ボタンをタップ。すると、準備中という表示が出て何秒か待たされる。PCMの96kHz/24bitで5~6秒程度、DSDの5.6MHzの場合で、12~13秒待たされるため、すぐに録音したいという時に、ちょっともどかしく感じるところだった。

録音準備中の表示

 この準備中の表示が消えると、モニタリングの状態に入り、マイクの入力レベルがレベルメーターに表示されると同時に、マイクが拾う音がヘッドフォン端子へと出力される。ところが、ここにレイテンシーがあるのが、かなり気になるところだ。これまで数多くのリニアPCMレコーダを見てきたが、モニター音にレイテンシーを感じるものは無かったと思うので、これは異例。外部からの音をA/Dコンバータで取り込み、デジタル処理した上で、D/Aコンバータでヘッドフォン端子に戻すので、レイテンシーが生じるのは分からないではないが、感覚的に200~300msecの遅れがあるので、相当なものだ。このモニター部分ばかりは、ダイレクトモニタリングしないと厳しいと思うので、今後のファームウェアのアップデートなどで改善を期待したい。

 一方で、このレベルメーターを見ていてもう一つ気になることがあった。それは左右で3dB程度のレベル差があったことだ。最初、音源の位置の問題かな……と思って方向を動かしてみたが、それでは改善されず、明らかに等距離にある音源でもレベル差が縮まらないのだ。もしかして……と思ってマイクの左右をひっくり返してみたところ、レベルメーター表示も変わったので、どうやらDPAのマイクの個体差の問題だった。2つセットのマイクではなく、別々のシリアルナンバーが降られたマイクが入っているため、ここでのバランスが取れていなかったようだ。

左右でレベル差があった

 ここへの解決策としては左右のマイクプリアンプゲインを使って調整するところだが、やはりマイクプリアンプを上げると、SNも悪くなるので、ちょっと気持ち悪い。筆者が使ったデモ機がたまたまそうだった可能性はあるが、27万円もする機材なのだから、ぜひその辺の事前チェックはしてもらいたいと思った。

自然な音質の高域が魅力。マイク付け替えも可能

 さて、この調整を終えた機材を持って近所の公園へ出かけてみた。これを持って、オーバーヘッド型のモニターヘッドフォンをすると、周りから見て少し目立つような気はしたが、これで96kHz/24bitのPCMと、5.6MHzのDSDの録音を行なった。

 同時に2つが録れるわけではないので、PCMを録音してから、パラメータを変更することなくDSDに切り替えて録音。切り替えに15秒程度かかっているが、同じヒヨドリがピーピーと鳴いているのは分かるはずだ。筆者にはPCMとDSDの違いをハッキリ聴き分ける能力がないので、聴いただけではよく分からないのだが、どちらもかなりクリアに、しっかりした音で捉えていることは間違いないと思う。

録音サンプル(野鳥の鳴き声)

PCM 96kHz/24bit ak_rec_bird2496.wav(20.4MB)
DSD 5.6MHz ak_rec_birddsd.dff(51.5MB)
※編集部注:DSD再生には対応のソフトが必要となります。編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 さて、これにマウントアダプターを取り付けて三脚にセッティングするとともに、いつもの機材でCDを再生させた音を録音してみた。まあCDの音をDSDで録っても、あまりよく分からないと思うので、いつものように96kHz/24bitでレコーディングした後、SoundForgeを使って処理するとともに、周波数を分析した。

周波数分析の結果
録音サンプル(CDプレーヤーからの再生音)

44.1kHz/16bit ak_rec_music1644.wav(6.94MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 これを聴くと、これまで数多く扱ってきたリニアPCMレコーダとは、明らかに違った音なのだ。これが数万円のリニアPCMレコーダと約70万円の機材の違いということなのかもしれないが、自然なサウンドで録れている。好みの問題といってしまえばそれまでではあるが、一般的なリニアPCMレコーダよりもキンキンした感じのない、柔らかい雰囲気の音だ。かといって、高域の波形は不自然ではなく、逆に高域がかなりキレイに出ているので、これはマイクの特性のよる面が大きいようにも感じた。

 もっと別のマイクも試してみたいという場合は、別売のミニXLR-標準XLRのアダプタケーブルを入手すれば、各種マイクが利用できる。もちろんファンタム電源も使えるので、いろいろなマイクで録り比べてみるというのも面白そうだ。

オプションのミニXLR-標準XLRアダプタケーブル

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto