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東映版『新幹線大爆破』イベントに樋口監督襲来。「自分の死生観はノストラダムスの大予言ですよ」
2025年7月8日 11:26
東映映画『新幹線大爆破』(1975年)の公開50年を記念したイベントが、東京・銀座にある東映最後の直営館「丸の内TOEI」で7月5日に開催された。
イベントには、Netflix映画『新幹線大爆破』の樋口真嗣監督と、同作出演者の一人でもあるフリーアナウンサーの笠井信輔氏が登壇。“『新幹線大爆破』愛”の溢れるトークショーが行なわれた。
本稿では、そのトークショーの模様をお伝えする。
東映版『新幹線大爆破』とは
高倉健、千葉真一、宇津井健らオールスターキャスト出演により製作された、1975年公開のパニック映画。新幹線が時速80キロを下回ると爆発するという状況下で繰り広げられる犯人と国家との攻防が描かれる。
新幹線に爆弾を仕掛けた犯人、危機の回避に全力を尽くす日本国有鉄道、わずかな情報を頼りに犯人の正体を追いかけ徐々に追い詰めていく警察。そして、車内でパニックを起こす乗客たち、といった群像劇を着せつつ、高倉健らが演じる犯人側の人生背景も緻密の描写。単なるパニックムービーではない、感情移入を誘う演出も評価された。
特に海外から人気が高く、1994年にはアメリカ映画『スピード』(爆弾魔とSWATによる手に汗握る攻防を描いたノンストップ・アクション。速度が50マイル・約80キロ以下になるとバスが爆発する設定が登場)のモチーフにもなり、また2025年には、Netflix版『新幹線大爆破』として続編の要素も併せ持つリブート版が配信された。
「早く爆破が観たい」と学校さぼって鑑賞
笠井氏(以下敬称略):監督、今日(7月5日)はちょうど50年前に『新幹線大爆破』が封切られた、超メモリアルな50周年記念日なんですよ。満席の皆さんと一緒にご覧になった感想はいかがでしたか?
樋口:いやぁやっぱり映画館で観るといいですよ。ただ、タイトルが出た時にどなたか拍手した方がいらっしゃって。「ああ!俺もすりゃ良かった!」と(笑)。50年も経ったら、“擦れた観客”になってしまったと。もっとあの頃の純粋さを思い出すべきだったと反省しました。
笠井:監督は、東映版『新幹線大爆破』をいつご覧になったんですか?
樋口:50年前のまさに今日ですね。「初日に絶対観たい。誰よりも早く観たい。早く爆破が観たい」と思って、小学校4年生だったんですけど、学校を休んで小遣い持って、モギリの前でランドセルをこうして(下に隠して)……。
ただ、後ろめたさもあって。悪いことしたなって、気持ちが凄く強くて。で、映画を観たら高倉健さん(沖田役)も山本圭さん(古賀役)も犯人役で、悪いことをした人たちが劇中で亡くなっていくじゃないですか。学校さぼって『新幹線大爆破』観に来た俺は、「やばい。悪いことしていると、いつかはオレもこうなる……」って思いましたよ。
樋口:東映版『新幹線大爆破』のポイントって、大きく分けて3つのレイヤーがあると思うんです。1つは“新幹線に関わる人たち”。それから、事件を解決に導こうとしながらも、ついついやり過ぎてしまう“警察”。そして“犯人サイド”ですよね。まぁ気が付けば、公開当時小学4年生だった自分が、高倉健さんの当時の年齢に追いつき、追い越してしまったことに衝撃を受けています。
Netflix版『新幹線大爆破』を作るときに思ったのは、原作である東映版『新幹線大爆破』を観て欲しい、という考えが1番にありました。意外とこの映画を観てない方って、まだいっぱいいるんですよ。それに公開当時は、凄い批判に晒されていた。鉄道ファンや雑誌でも『こんなことはありえない』とかね。こんなに面白い作品なのに、なぜこんなに批判に晒されなきゃいけないのだろうかって、ずっとモヤモヤを抱えていて。ですから、ことあるごとに『新幹線大爆破は面白い』と、ずっと言い続けてきたわけです。
笠井:東映版の特撮で感心する部分はどのようなところですか?
樋口:ミニチュアは郡司(製作所)さんが担当されてるんですが、これがまたメチャクチャ出来がいい。アールだったりね。ただ残念なのは、ヘッドライトの数が足りないんですよ。本当は縦に2つなければいけないんですが、1つしかない!(笑)
ただ、後の作品、例えば『宇宙からのメッセージ』や『さよならジュピター』とか、ブリジストンのCMなどに使われた、当時1日のレンタル料が100万円くらいした「シュノーケルカメラ」をいち早く導入していて。モノを大きく見せる撮影手法が、迫力ある映像を生み出しているなと、改めて感じましたね。
浜松駅前のシーンは、ミニチュアとベニヤに貼った写真の切り抜きを組み合わせて作られているし、東京駅のシーンも、ゲリラ撮影したと思われる箇所(発車する前の新幹線の先頭車両など)以外は、東映所内に作ったオープンセットで撮られている。だから東映版の『新幹線大爆破』って、新幹線絡みのカットは“特撮”と言えるんですよ。
樋口:それから、心の状態が不安定になって「はしれ超特急」を口ずさむ商社マンが出てきますよね。次に東映版を観る時は、彼が歌っているシーンの窓外を見て下さい。街の灯りが流れているんですけど、おそらく電球並べて動かしているんですよね。これがまたイイ感じなんですよ。
こうした特殊撮影をしていたのが、ウルトラマンや怪獣のデザインを手掛けた成田亨さん。成田さんは昭和30年代の東映作品の特撮の半分くらいに関わっていたと思います。で、彼は『新幹線大爆破』の後に、映画『トラック野郎』の特撮を手掛けることになるんですよね。
映画『トラック野郎』って、実は大特撮映画なんですよ。確か『新幹線大爆破』を観た時に「『トラック野郎』撮影快調!」みたいな予告が流れて、「やべえ!新幹線の次はトラックだ!」って興奮したことを覚えてますね(笑)
笠井:その一方で、本編冒頭の機関車の爆発は特撮ではなくリアルなんですよね。夕張鉄道は国鉄の範疇でなかったとか。
樋口:爆発してるように見えますけど、爆発はしていないんですよね。火が広がるカットと機関車が上手く重なってるという。こんな撮影して車両は大丈夫なのかと思ったんですが、乱暴に言えば蒸気機関車って中で常に爆発しているようなものだから、あの火の程度では全然平気なんだそうですよ。
自分の死生観は「ノストラダムスの大予言」ですよ!
笠井:Netflix版を作るにあたって、東映版と同じ、どうしても入れたいシーンがあったとか。
樋口:そうですね。新幹線のすれ違いだとか、並走だとかいろいろあるんですが、一番やりたかったのは、大阪の駅で商社マンが新幹線から降りられずに、窓越しに「ああああ」と叫ぶシーン(笑)。あれは寸分違わず再現したかった。
笠井:鉄橋の下から新幹線を映した、東映版の印象的なシーンはなかったですね。
樋口:えーとですね。東北新幹線は下が塞がっていて、鉄橋越しに新幹線を撮れないんですよ。それから、防音のための横の壁も多くて。東映版を見ていると横から新幹線が綺麗に撮れていて羨ましいんですよね。
Netflix版は中を撮るために7回往復して、外側は1カ月くらいヘリで撮ったりとか、車で移動して、撮り鉄の方々と場所を争いながら撮りました。もちろん、先に撮り鉄の方がいた場合は「あ。どうぞ」って、やってますからね(笑)。
それからNetflix版では、車内撮影用に実物大の模型を2両作りました。JRさんから本物の部品をお借りして内部を作っています。東映版は、部品を作っている下請け業者に直接電話して「国鉄に卸している部品をうちにも売ってくれ」と交渉したそうです。
ですから、東映所内に新幹線のセットがあるから、しばらく東映さんは新幹線モノの作品が簡単に撮れたのだそう。『大鉄人ワンセブン』という子供番組があって、その敵のロボットの操縦室とかに総合指令所の“屏風”がそのまま流用されています。
笠井:Netflix版でも総合指令所のシーンで“屏風”、運行の状態が分かる電光掲示板が出てきますが、いまはもう使っていないそうですね?
樋口:あれ?これって言っていいんでしたっけ?……あ、もう(以前の)舞台挨拶で言ってますよね。そうですね、最先端のシステムになっていて、あのような原始的なものは使っていないそうです。
笠井:ただ、あの“屏風”をやりたかった?
樋口:ええ。東映版で宇津井健さんが演じた倉持運転指令長が双眼鏡を覗くシーンをNetflix版でもやりたかった。あと懐中時計2個を持っているのも、再現したかったんですよね(笑)。すごくカッコよくて。
笠井:Netflix版『新幹線大爆破』では、東映版の丹波哲郎さんの会見シーンが登場しますよね。
樋口:実はあの会見シーン、改めて撮影したものなんです。東映版の本編にありそうで、実は無い会見シーン。撮影には“丹波さんの遺伝子”をお借りしまして……というか、丹波哲郎さんの息子さん(丹波義隆さん)に丹波さんを演じていただきました。丹波さんじゃないけど、丹波さんにしか見えない。でも丹波さんなんです(笑)
笠井:東映版とNetflix版の違いで言われているのが、キャラクターのバックボーンですね。草彅さんの家族関係であったり、生活とかが一切描かれていない。
樋口:当初、携帯に送られてきた“子供がプラレールを壊している動画”を見て、最後の作戦を思いつくとか、映画の中の職員と家族のやり取りも描こうとしたのですが、JRの職員の方は、勤務中に携帯を持つことができない規則なのだそうです。
ですから、職員の皆さんは普段小さなロッカーに携帯電話を閉まって、プライベートを全部捨てた状態で乗務されている。
笠井:草彅さんが監督との撮影で一番印象的だったと語っていたのが、“主人公が犯人と究極の選択を迫られるシーン”を撮影する直前の打ち合わせだったとか。監督に呼ばれ、2時間話したと。いったい何を話されたのですか?
樋口:2時間……もうちょっと話していたと思います。人を殺すか殺さないか、その一方で死にたいっていうシーンですし。なぜ自分がこのシーンを描こうとしたのかという想いを伝えようとしたら、止まらなくなってしまって……。
笠井:2時間の間に「ノストラダムスの大予言」の話も出てきたと伺いました。
樋口:そうですよ。自分の死生観は「ノストラダムスの大予言」ですよ。すなわち「天変地異が起きるのでは?」とされている今日(7月5日)ですよ!ついに25年遅れで、俺の待ち望んだ時が来るかもしれない!そんな日に皆さんと出会えて、本当に良かった!(笑)
あとそれから、JRの職員さんのやってはいけないルールの1つに“ポケットに手を入れてはならない”というのがあって。僕たちも撮影中、関連企業の人というような意識でしたからそのルールを守っていたわけです。
なのに“あのシーン”で、草彅君が犯人に向かうシーンで帽子を脱ぎ捨てた後、ポケットに手を突っ込んじゃって(笑)。「あちゃー!やっちゃった!」と最初思ったんですけど“職員”はこういうことしないしな!と、自分の中で納得させました。
笠井:では監督、丸の内TOEIでのメモリアルデーの締めの一言を頂けますか。
樋口:映画館は記憶を作り出す場所だと思います。皆さんはきっとこれからも色々な映画館に行かれるでしょうし、音のいい映画館や画の綺麗な映画館が出てくると思うんですけれど、そこには無い味が丸の内TOEIにはあったと思います。
僕もこの映画館に何度も見に来て、まあ半分くらいは「あちゃー!」とか、いろいろありました。ロビーの階段の造りとか「なぜ狭いのにこんな豪華な造りなんだろう」とか思うんですけど、それも含めて東映会館だなって感じています。
幕を閉じてしまうのは非常に残念ですが、こうして今日皆さんにお集まりただいて、楽しい思い出を持って帰って、いつまでも記憶の中でこの映画館を可愛がっていただけたらなと。僕も、皆さんと気持ちは一緒です(笑)、今日はありがとうございました!