藤本健のDigital Audio Laboratory
第740回
約1万円の台湾USBオーディオ上陸。ハイレゾDACにもなる「MiDiPLUS」2モデルの実力
2017年10月16日 13:49
先日、久しぶりにオーディオインターフェイスの新メーカーが登場し、2つの製品がリリースされた。実は海外ではそれなりに実績のある、台湾の「MiDiPLUS」というメーカーで、国内へ初上陸ということなのだが、他社製品と比較して結構安い価格となっている。発売されたのは、「STUDIO 2」と「STUDIO m」という2製品。
192kHz/24bitまで対応するUSBオーディオインターフェイスで、ハイレゾ再生用のDACとしても利用できる。これらを実際試してみたので、どんな製品なのか紹介しよう。
約12,000円の2IN/2OUT機など、低価格/コンパクトな2モデル
MiDiPLUSは1994年に設立された台湾のメーカーで、これらのオーディオインターフェイスのほか、USB-MIDIキーボードやモニタースピーカー、ヘッドフォン、マイク……といった機材を開発・販売するメーカーだ。もともとはOEMメーカーとして力をつけてきた会社であり、M-Audioなどへ製品の供給を行なってきた実績がある。
ここ何年かヨーロッパやアメリカでは、自社のMiDiPLUSブランドでの製品展開を図ってきており、一定の評価、認知度を得てきているが、9月末に日本国内での製品発売を開始したのだ。第1弾として発売したのは、このSTUDIO 2、STUDIO mというオーディオインターフェイスのほかに、X miniシリーズというUSB-MIDI鍵盤。具体的には25鍵のX2 mini、37鍵盤のX3 mini、49鍵盤のX4 mini、61鍵盤のX6 miniという4製品だ。
ただし、現時点においては楽器店などでの販売はなく、Amazonからのみのネット販売となっている。そのAmazonでの価格はSTUDIO 2が12,420円、STUDIO mが9,720円となかなか安価。スペック的にぶつかるのが、STUDIO 2の場合、ヤマハ/SteinbergのUR22mkIIやTASCAMのUS-2x2、ローランドのRubix22、PreSonusのAudioBox iTwo、FocusriteのScarlette 2i2 G2であり、STUDIO mの競合となるのがSteinbergのUR12、TASCAMのUS-1x2、PreSonusのAudioBox iOneあたりになるが、いずれと比較してもSTUDIO 2、STUDIO mの方が安いため、各社にとっては、手ごわい競合が出てきた格好だ。
改めてスペック面を見ていくと、STUDIO 2、STUDIO mともに、WindowsおよびMacで利用できるUSBオーディオインターフェイスで、前述の通り192kHz/24bit対応。サンプリングレートとしては44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHz、176.4kHz、192kHzのそれぞれにしっかり対応しているのも嬉しいところ。並べてみると、かなり大きさが違うが、両者における最大の違いはSTUDIO 2が2IN/2OUTであるのに対し、STUDIO mは1IN/2OUTであること。
SteinbergのUR12やTASCAMのUS-1x2、PreSonusのAudioBox iOneなどは、左chにマイク、右chにギターというように、ステレオ入力はできないものの2ch入力が可能になっているのに対し、STUDIO mは本当に1chのみに絞ったという、なかなか割り切った仕様。またSTUDIO 2はフロント右側にヘッドフォン端子があるのに対し、STUDIO mではヘッドフォン端子をリアに持ってきている。こうすることで、ボディサイズを極めて小さくしているのだ。
また、SteinbergのURシリーズやTASCAMのUSシリーズなどがMIDI端子を持っているのに対しSTUDIO 2もSTUDIO mもMIDI端子は省略。確かに、いまMIDI端子を利用するケースは少なく、MIDIキーボードもUSBで接続するほうが一般的になっているため、MIDI端子を省いてしまうという割り切りもコストダウン、コンパクト化に役立っているように思う。
その一方で、LED表示のレベルメーターを備えているのはうれしい。このレベルメーターはメインアウトからの出力レベルを表示するものとなっているのだが、STUDIO 2の場合、DIRECT MONITORというツマミがあり、これを左に振ると入力からの信号が出力へそのまま流れるために、結果として入力信号をレベルメーターで確認することが可能になる仕組みだ。
Windowsに接続すると6IN/6OUT表示に!?
入力端子は、STUDIO 2、STUDIO mのいずれもコンボジャックとなっており、XLR、TRS、TSのコネクタでの接続が可能。そして、+48Vのファンタム電源供給があるほか、LINE/INSTボタンでライン入力とHi-Zのギター入力の切り替えも可能になっているので、ほとんどの機材と接続可能となっている。
一方、それぞれのリアパネルを見てもわかる通り、出力はヘッドフォンのほかに、TRSのフォンジャックがLとRの2つ用意されているというシンプルなものだ。-10dBVの信号なので、普通にモニタースピーカーなどへ接続すればいいわけだ。
ユニークなのは、入力端子の右に用意されているGAINツマミだ。これを使うことで入力ゲインを調整可能となっているのだが、その信号の状況がツマミの先端に搭載されたLEDの色で確認できるようになっているのだ。入力がなければ消灯、適度な信号が来れば緑に点灯し、過大入力となれば赤くなるようになっている。
Windowsで利用する場合には、MiDiPLUSサイトからドライバをインストールする。このインストーラを起動すると、どこかで見かけたデザインの画面であることに気づく。これは以前のTASCAMのオーディオインターフェイスなどに採用されていた、ドイツPLOYTEC製のドライバのようだ。
ASIO4ALLともルーツを同じくするドライバであり、一世代前のドライバなのか……という印象を持っていたが、設定画面を見てみると、以前よりだいぶ進化しているようだ。この画面において、サンプリングレートを設定できるのはもちろんのこと、ASIOタブの画面において、Performance modeを設定することで、レイテンシーの調整が可能になっている。
具体的にはHighspeed、Rapid、Fast、Normal、Relaxed Normal、Relaxedの6段階。これを設定することにともない、USBバッファサイズおよび、ASIOバッファサイズが変化するようになっている。また、USBバッファをいくつにするかといった設定もある。それぞれの役割がどう違うのか、細かな説明がないためハッキリはわからないが、基本はPerformance modeで設定し、必要あれば、ほかを手動で設定する形になっている。
実際にDAWで試してみたところ、Performance modeをHighspeedにした上でバッファサイズを32に設定しても、CPU負荷が重くなるような印象はまったくないし、音を出しても音飛びすることもなく、非常に安定して動かせる。
ただし、こうした設定ができるのはドライバが用意されているWindowsであり、Macの場合はドライバ不要で動作するためバッファサイズの設定などはDAW側に委ねられる形になっている。
ちなみに、WindowsにおいてはDAWや一部のプレーヤーソフトからはASIOドライバが利用できる一方、標準ドライバとしてはWDMドライバが用意されているので、iTunesやWindows Media Player、Grooveミュージックなどでも利用できる。
ところで、このSTUDIO 2およびSTUDIO mをASIOドライバを介してDAW側から見てみると、ちょっと妙な状況になっていた。入力、出力ともにStudio L、Studio Rというチャンネルのほかに、Virtual AudioというチャンネルがLとRの2組ずつ用意されていて、トータルで6IN/6OUTのオーディオインターフェイスとして見えるようになっているのだ。
これはどうやらPLOYTECのドライバがそうしているようで、Macの場合は普通に2IN/2OUTとなっている。そして、このVirtual Audioを選択するとどうなるのかというと、実は何も入出力されない。現時点においては何の利用価値もないチャンネルといえそうだ。ただ、STUDIO 2やSTUDIO mにはm-REMOTEという端子があるので、これが関係しているのかもしれない。現時点では非公開のオプション端子とのことだが、これを使って複数のSTUDIO 2、STUDIO mを接続すると1台のマルチポートのオーディオインターフェイスに変身するという可能性もありそうだ。
ちなみにSTUDIO mの場合は入力が1chしかないが、ASIOドライバやCoreAudioドライバで見る限りは、STUDIO 2と同じで2入力が見える。ということは片チャンネルだけに入力されるのかと思ったら、2chとも同じ信号が入ってくる形になっていた。つまりステレオトラックでレコーディングする場合でも、左右同じ信号が入ってくるので、便利に使えるというわけだ。
iPhone/iPad接続や、USB DACとして再生にも
実際に音楽を再生して、ヘッドフォンで聴いたり、モニタースピーカーで聴いてみたところ、なかなか気持ちいいサウンドで、ヘッドフォンの駆動力がかなりあるのもいいところ。聴いた感じでは、下手な色付けもなく、原音忠実に出力するしっかりしたDAC、オーディオインターフェイスという印象だ。とはいえ、やはり客観的に見てどうなのか、データとして音質をチェックしておきたいところ。そこで、いつものようにRMAA Proを用いてテストしてみた。
これは入力と出力をループさせてのトータル評価となるため、ステレオ入力がないSTUDIO mは対象外となるが、STUDIO 2のほうで44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれでテストしてみた結果が以下のものだ。これを見ると、THD+Noiseがイマイチという結果ではあったが、トータル的に見ても表示に高品位なオーディオインターフェイスであることが実証できた。再生音を聴き比べてみて、STUDIO 2とSTUDIO mで違いは感じられないので、再生目的であれば、同性能と考えてもよさそうだ。
次に、いつものレイテンシーのテストを行なった。Highspeedにして、バッファサイズを32にした場合、どのくらいのレイテンシーなのか実測したかったのだが、このテスト用のソフトであるCentranceのASIO Latency Test UtilityとPOLYTEC製のドライバの相性がどうにも悪く、うまく測定できない。正確にいうと、これで測定しようとすると、測定ソフト側がハングアップしてしまう。さまざまなマシン環境で試してみたが結果は同じであったため、残念ながらこのテストはうまくいかなかった。とはいえ、ほかのオーディオインターフェイスと比較しても、反応がいいように感じるものであり、少なくともこれが著しく劣るというようなことは決してない。
ところで、もう一つ試してみたのが、iOSとの接続性だ。MiDiPLUSの本国サイトを見ても、WindowsとMacで使えるという記載だけであり、iOSについて触れられていないが、Macとドライバなしで接続できるということは、これがUSBクラスコンプライアントであることを示しており、それならばiOSでも使えるはずだ。ただし、iPhoneやiPadからの電源供給では動作しそうにないので、ACアダプタから電源供給可能なLightning-USB 3カメラアダプタを介して接続してみた。結論としては、STUDIO 2もSTUDIO mも簡単に動作した。
DAWのCubasisやAuria、FLStudio、MultitrackDAWなどを使って、再生も録音もしっかりと動作させることができた。またオンキヨーのHF Playerを試してみたところ192kHzのサンプリングレートでの再生を確認できたので、iOS用USB DACとしてもバッチリ利用できそうだ。
以上、台湾から新規上陸したMiDiPLUSのオーディオインターフェイス、2機種について簡単にレポートしてみたが、いかがだっただろうか? これだけ価格が安くて、機能・性能的にも充実しているので、ひとつオーディオインターフェイスを導入してみたい、サブで使えるものを1つ追加したい、といったニーズにも向いてそうだ。ただし1つ注意点がある。それはCubase AI/LEやAbleton Live Lite、Studio One ArtistといったDAWは付属しておらず、あくまでもハードウェア単体であるということ。そのライセンス料がないから安いともいえそうだが、すでにDAWを持っている人であれば、まったく問題なく利用できるだろう。
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