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第375回:USBオーディオI/Fを搭載したTASCAM「M-164UF」

〜 96kHzまで対応。基本は“直感的な”アナログミキサー 〜


 ティアックのTASCAMブランドから「M-164」、「M-164FX」、「M-164UF」という3種類のアナログミキサーが発表され、6月23日より発売される。この中の最上位機種で、USBでPCとの連携が可能なM-164UFを一足早く借りて試すことができたので、どんなミキサーなのかチェックしてみた。

M-164 M-164FX M-164UF

■ エフェクト/USBオーディオI/Fを搭載したアナログミキサー

 TASCAMのM-164シリーズは390×344.5×112mm(幅×奥行き×高さ)と、コンパクトながら16chの入力を持ったアナログミキサー。「M-164」の“16”がこの16ch、“4”は出力がメイン2chとサブ2chの計4chがあることを意味しているようだ。

 3機種の違いは、M-164がベースモデルであり、そこにエフェクトを搭載したのがM-164FX、そのエフェクトに加え、USBオーディオインターフェイス機能が搭載されたのがM-164UFという関係だ。いずれもオープン価格だが店頭予想価格はM-164が30,000円前後、M-164FXが35,000円前後、M-164UFが55,000円前後の見込みとなっている。

 アナログミキサーにエフェクトやUSBオーディオインターフェイスを搭載した製品というと、やはり真っ先に思い浮かべるのがヤマハのMWシリーズだろう。MWシリーズの場合、最上位機種のMW12CXが12chの入力で、実売価格が40,000円前後。M-164シリーズは、スペック的にも価格的にも、ちょっと上を狙っているようだが、使ってみるといろいろと違いも見えてきた。


■ アナログミキサー機能

 まずは基本的なミキサー機能から見ていこう。

 リアパネルを見ると、数多くの端子が並んでいるが、最も基本となる入力が上の段に並んだ1ch〜6ch。それぞれにXLRのマイク入力とTRSのフォン入力があるが、いずれかを使う形になっており、TRSフォンが入力されていれば、そちらが優先する。マイク入力においては、PHANTOMスイッチをオンにすること+48Vのファンタム電源を使うことも可能だ。

 これら6つのチャンネルがトップパネルの左側6本のストリップに立ち上がっており、それぞれ独立して調整できる。上から順に見ていくと、まずTRIMで入力レベルを調整し、ラインレベルであれば一番絞った状態にし、マイクレベルなどであれば右に回していく。できればギターなどを直接接続できるHi-Zにも対応してほしかったところだが、それはサポートされていない。

リアパネル 6つのチャンネルそれぞれ独立して調整可能

 その下の「HPF」はハイパスフィルターのボタン。これをオンにすると80Hz以下の低域に対し、-12dB/octでカットする形になっている。さらにその下の「EQ HI」、「EQ MID」、「EQ LOW」は3バンドのEQ。HIが12kHz、MIDが2.5kHz、LOWが100Hzを中心にそれぞれ±15dBの範囲で増減可能となっている。

 その下には「AUX 1」と「AUX 2」があるが、それぞれAUXバスへのセンドレベルを決めるもの。リアにあるAUXのSEND 1とSEND 2の出力端子へ送ることができるようになっている。また、AUX 1とAUX 2のつまみの間に「PRE」というボタンがあるが、これを押すとAUX 1のみに対し、プリ・フェーダー、つまりEQの後でフェーダーを通す前の信号が送られるようになる。そして「PAN」は左右バランスを決めるつまみである。

 一番下のフェーダーは、各チャンネルの送り出しレベルを決めるセクションだが、どこに送り出すかを設定するのが、その右にある「ST」と「SUB」というボタン。STがメイン出力であるSTEREO OUTPUTS、SUBがサブ出力のSUB OUTPUTSとなっており、片方のボタンを押すことも、両方を押すことも、また両方オフにすることもできる構造だ。

HPSボタンの下にEQつまみ EQつまみの下にはAUXつまみ フェーダー横にはSTとSUBボタンを配置

 なお、リアパネルを見てもわかるとおり、STEREO OUTPUTSはTRSフォンでのステレオ出力と並行してRCAでのステレオ出力、またモノラルでのTRSフォン出力がそれぞれ用意されている。

 ミキサーの音をモニターする場合に欠かせないのがヘッドフォン。このヘッドフォン端子は、トップパネルの一番右に用意されているが、非常に柔軟なモニターが可能になっている。MONITORセクションを見るとSTとSUBの2つのボタンがあり、それぞれを押すことでSTEREO OUTPUTS、SUB OUTPUTSのモニターができる。片方のみ、また両方をモニターすることが可能であるが、SUBボタンをオフにした場合はAUX 1をモニターできるようになっている。

リアのSTEREO OUTPUTS周り トップパネルのMONITORセクション

 冒頭でM-164シリーズは16chの入力を持つミキサーであると述べたが、残り10chはどうなっているのだろうか? これらは7-8ch、9-10ch、11-12ch、13-14ch、15-16chとそれぞれステレオペアとなっているが、それぞれ入力端子を見ることで、構成が分かる。

 まず7-8chはTRSフォンによるバランス入力に対応しており、チャンネルストリップを見ると、1-6chにあった、トリムつまみと、HPFボタンがないほか、EQ MIDがない2バンドのEQとなっている。

 11-12chもRCAピンジャックによる入力だが、こちらはさらに簡素化され、EQもAUXへのセンドレベル調整もなくなる。その代わり、「TO AUX 1」というボタンが搭載されており、これを押すとSTボタンやSUBボタンと同様、フェーダーを通した後の信号がAUX 1へ送られるようになる。

15-16chはトップパネルにステレオミニ入力を装備

 9-10chはRCAピンジャックによる入力で、チャンネルストリップは7-8chと同じ構成。ただし、「PHONO」ボタンがあり、これをオンにした場合、PHONOイコライザが効きレコードプレーヤーの入力に対応できるようになる。

 13-14ch、15-16chも11-12chと同様だが、13-14chの入力はリアにあるTRSフォンのバランス入力、15-16chはトップパネルに装備されたステレオミニによる入力で、主にiPodなどを想定した入力端子となっている。

 このように、独立したアナログミキサーとしてみると、メイン出力、サブ出力、そして2つのAUXバスと各バスへ自在にルーティングさせて信号を送れるシステムとなっている。ちなみにAUX RETURNという入力はないので、外部のエフェクトを使う場合は、そのリターンを16chある入力のいずれかに戻すという使い方になる。



■ 16種類のエフェクト設定

 では、M-164FXおよびM-164UFに搭載されているエフェクトはどのように使うのだろうか?

16種類のエフェクト設定から選択可能

 TASCAMのM-164FXやM-164UFはヤマハのMWシリーズのような各チャンネルに搭載されたコンプレッサはなく、16chの入力に対してセンド・リターンの形でかけられるシステムエフェクトのみが搭載されている。

 これはMW12CX、MW8CXと同様にロータリースイッチで16種類のエフェクト設定から選択できるようになっており、各プログラムは下表のとおりとなっている。ただしMWシリーズとは異なり、いずれのエフェクトもパラメータは固定となっており、リバーブの深さや時間をいじることはできない。


 

M-164FXおよびM-164UFのエフェクトプログラム

1

Hall 1

2

Hall 2

3

Room 1

4

Room 2

5

Room 3

6

Plate 1

7

Plate 2

8

Plate 3

9

Chorus

10

Flange

11

Delay 1

12

Delay 2

13

Chorus/Room 1

14

Chorus/Room 2

15

Vocal Cancel

16

Rotary Speaker


 その使い方はというと、これがAUX 2へのセンドと共通になっており、内蔵エフェクトへも信号が送られるのだ。そのリターンは13-14chもしくは15-16chに戻るようになっている。どちらにするかは13-14chのストリップの上に搭載されている「INT.EFFECT RTN」ボタンで決めるようになっている。

 パラメータの設定ができないので、細かな音作りができないのは確かだが、それぞれ結構使えるプリセットに作りこまれているため、気持ちいい感じでボーカルにリバーブをかけるといった用途では問題なく、初心者でも簡単に使えるというメリットもありそうだ。


■ オーディオI/Fとしても利用可能

 さて、M-164UFにのみ搭載されているのがUSB端子。通常、この手の大きさの機材であればUSB Bの端子が搭載されるが、M-164UFにはUSBミニBの端子が搭載されている。これをPCと接続することで、オーディオインターフェイスとして機能するわけだが、先ほどから何度となく比較しているヤマハのMWシリーズとはここが大きく異なっている。

 MWシリーズにおいてUSBオーディオインターフェイス機能はややオマケ的な存在であり、アナログミックスした結果を2chで取り込み、PCからも2chで送れる2in/2outという仕様。ドライバなしでもすぐに使えるのがウリであり、WebからドライバをダウンロードしてインストールすることでASIOにも対応するが、16bit/44.1kHzもしくは16bit/48kHz止まりとなっている。

 それに対し、M-164UFは16in/2outで最高24bit/96kHzに対応している。TASCAMブランド製品ではこれまで「US-144」や「US-1641」などUSB 2.0対応のオーディオインターフェイスをリリースしてきているが、その技術がM-164UFにも投入されているのだ。

 32bit版、64bit版それぞれのWindows上でMME、WDM、ASIO、GSIFに対応、MacではCoreAudioに対応している。

 では、その16in/2outとはどのような構成なのだろうか? 当初、マニュアルを読まずに使っていたので、ミキサーとしての16chのそれぞれの入力がそのままPCに取り込まれるのかと思ったが、そうではないようだ。

 M-164UFにはWindowsおよびMacで動作するCubase LE4が同梱されているが、たまたま手元のマシンにCubase 5がインストールされていたので、それを使って試してみたところ、ここでもいろいろな活用法があることが見えてきた。

ASIOドライバのポート名で16chの入力構成がわかる

 16chの入力構成は、ASIOドライバのポート名を見るとすぐにわかる。1ch〜10chまでは、まさにミキサーの入力と同様で各入力がオーディオインターフェイスとしての入力となる。

 ただし、M-164UFは普通のオーディオインターフェイスではなく、基本はアナログミキサー。そのため入力した信号が、そのままPCに入るわけではなく、HPF、EQそしてフェーダーを通過し、加工された上でPCへ行くようになっているのだ。

 それに対し、残りの6ch分は少し様相が異なり、ASIOドライバのポート名としてもAUX 1、AUX 2、SUB L、SUB R、ST L、ST Rのそれぞれとなっている。そう、これらは直接外部からの入力がPCに行くのではなく、ミキサーとしての1ch〜16chをそれぞれのバスへまとめて送った結果が行くのだ。

 一方、PCからの2chの出力はというと、ミキサー上の11-12chに立ち上がってくる。これはほかのチャンネルと同様にメイン出力、サブ出力、AUX 1へ送ることができるほか、フェーダーで音量を調整することが可能になっている。そのため複数本のボーカルをメインへ、ドラム系をサブへというようにまとめた上で、CubaseなどのDAWで別々のトラックにレコーディングしていくといった使い方ができるわけだ。

 ドライバの設定画面は、UA-144やUS-1641などと同様の単純なもので、バッファサイズを変更してレイテンシーを変えるだけの設定となっており、「highest latency」〜「lowest latency」までの5段階。

 試しにレイテンシーが最も小さくなるlowest latencyに設定し、Cubase 5で44.1kHzのプロジェクトを作成したところ、入力のレイテンシーが2.109msec、出力のレイテンシーが10.295msecと表示された。

 また96kHzのプロジェクトにおいては入力のレイテンシーが2.000msec、出力のレイテンシーが8.688msecとなった。いずれの場合も、音切れなどは発生せず、再生、録音において問題なく使うことができた。

レイテンシーの設定は5段階 96kHzのプロジェクトでは入力のレイテンシーが2.000msec、出力のレイテンシーが8.688msec

■ オーディオI/Fとしての音質をチェック

 最後にいつもオーディオインターフェイスで行なっているRMAA Proを用いてのループバックテストを行なってみた。

 ただし、通常のオーディオインターフェイスと異なり、M-164UFはアナログミキサーであり、EQやフェーダーなどを通した音を取り込むという性質上、直接的な信号を測定できない。そのため、あくまでも参考値としてとらえていただきたい。

 また、測定はメイン出力とミキサーの1-2chを直結するとともに、TRIMはもっとも絞ったLINEのレベルにHPFはオフ、EQは3バンドとも中央に、そしてフェーダーは目盛り上の0dBに設定して行なった。

 24bit/44.1kHz、24bit/48kHzではそれぞれ測定することができたが、88.2kHz、96kHzにすると、どうしても途中でRMAA Proがハングアップしてしまい、測定することができなかった。ドライバのバージョンが1.00ということもあり、マニュアル上でもいくつかの不具合が出ていることが明記されているが、そうした関係なのだろうか、結局測定することができなかった。

 

【RMAAテスト結果】

44.1kHz

48kHz

 ところで1〜6chはTRIM、EQ、フェーダーを経由するが、13-14chならばTRIMやEQがない分、アナログ回路の影響は少ないかもしれない。もっとも13-14chはそのままPCへ取り込むことができないので、この信号をいったんサブ出力へルーティングし、それを取り込む形でも測定してみた。ただ、この場合はもう1段フェーダーを通すことになるのだが、結果的には1-2chで行なったのとあまり違いのない数値となった。

 

【RMAAテスト結果/サブ出力】

44.1kHz

48kHz

 

ブロックダイアグラム

 言葉だけだと分かりにくい面もあると思うので、信号の流れを図式化したブロックダイアグラムも掲載しておくので、参考にしてほしい。

 やはり、アナログミキサーは直感的に使えて、とても分かりやすく、かつバスがステレオで3系統あるだけに、柔軟性が高いというのが最初の印象だ。またオーディオインターフェイスとしてみても、アナログミキサーとしての機能を存分に生かせて、なかなか便利だ。

 ただし、PCからの出力はステレオ2chのみなので、オーディオインターフェイスとして万能とはいえない。やはりミキサーにオーディオインターフェイス機能も搭載されている製品として見たほうがいいだろう。

 デジタルミキサーを選ぶのか、オーディオインターフェイスとアナログミキサーの組み合わせを選ぶのか、それともM-164UFのような統合製品を選ぶのかは、やはりユーザーの使い方次第。ミキサーを中心に考えた上で、PCと組み合わせつつ、自由度の高いシステムを構築するのであれば、M-164UFはなかなかいいミキサーだと思う。


(2009年 6月 15日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]

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