第413回:RolandのリニアPCMレコーダ「R-05」を試す

~R-09HRの弟分。電池で16時間駆動、新機能も搭載 ~


RolandのリニアPCMレコーダの新製品「R-05」

 4月23日、RolandのリニアPCMレコーダの新製品「R-05」が発売される。ポータブル型のリニアPCMレコーダ市場を作り上げたRolandのR-1、R-09、R-09HRに続く4代目となる。24bit/96kHzに対応したレコーダではあるが、R-09HRの置き換えというわけではなく、R-09HRの弟分という位置づけで、今後もR-09HRと併売されるという。

 オープン価格となっており、店頭予想価格は25,000円前後とR-09HRと比較しても1万円近く安い設定。実際、どの程度の実力を持っているのか試した。



■ R-09HR以来、約2年ぶり登場した「R-05」

 R-05が発表されたのは、先月末にドイツ・フランクフルトで開催された楽器関連の国際展示会「Musikmesse」。Musikmesseに合わせる形で、国内でも一部のメディアを集めての内覧会が行なわれ、先日紹介したSONAR V-STUDIO 20などとともにR-05が登場した。ポータブル型リニアPCMレコーダーとしてはR-09HR以来、約2年ぶりとなる新製品である。

 Rolandが最初にR-1を発売したのが2004年10月。実質上、DATの置き換えとなる業界初のコンシューマ向けレコーダとなったわけだが、今回のR-05が登場するまでの約6年間に多くのメーカーが参入するとともに、各社の製品性能は大きく向上していった。すでに2、3年前からは24bit/96kHz対応が一般的となり、各種付加機能が搭載され、バッテリ寿命も延び、小型化が進み、さらに低価格化していくなど、ポータブル型のリニアPCMレコーダ市場はまさに混戦状態となっている。

 では、今回登場したR-05、何がどのように変わったのだろうか? 主にR-09HRと比較しながら見ていくことにしよう。まずは、iPod touch、R-09HR、R-05、POCKETRAK W24、DR-2と並べた写真をご覧いただきたい。だいたいの大きさが把握できるだろう。またR-09HRと2つ並べて見比べてみると、さまざまな違いもわかる。

左から、iPod touch、R-09HR、R-05、POCKETRAK W24、DR-2左がR-09HR、右がR-05

電源は従来どおり単3電池2本

 まずは本体の大きさが一回り小さくなり、重量もR-09HRが電池込みで174gだったのが140gと小さくなっている。電池は従来どおり単3電池2本で駆動するが、そのバッテリ寿命は大きく伸びている。具体的にはR-09HRが連続録音は4.5時間程度だったのが、16時間以上と4倍近く伸びている。これまで、R-09HRでライブの収録などを何度か行なったが、リハーサルなどを含めると予備電池がないと不安だったが、これならそうした心配もなさそうだ。もちろんアルカリ電池とニッケル水素の両方に対応している。

 またディスプレイ部分も変わっている。R-09HRでは白色有機ELディスプレイであったのがオレンジバックライトの液晶ディスプレイに変わり、メニュー表示が日本語対応した。中には日本語表示はかっこ悪いから嫌いという人もいるだろうが、その場合は言語設定で英語モードにすればいい。

 記録メディアは従来どおりSD/SDHCで、上部にあるラバーの蓋をはずして差し込む形になっている。

オレンジバックライトの液晶ディスプレイで、日本語表示にも対応記録メディアはSD/SDHCで、上部にあるラバーの蓋をはずして差し込む

ヘッドフォン端子は左サイド
 個人的にR-09HRで気に入らなかった、ヘッドフォン端子の位置も変更された。R-09HRでは、左右のマイクの中央にあったため、ヘッドフォンでモニターしながらレコーディング対象の方向に向けると、どうしてもケーブルが邪魔になって扱いづらかった。

 R-05では左サイドに移ったため、断然扱いやすくなった。Rolandに聞くと、ここは賛否両論あって、前回も今回も設計における悩みどころだったそうだ。やはりこのレコーダをプレイヤーとして使うユーザーも多く、その場合ポケットに入れながら再生させることを考えると、やはり端子は上部にあったほうがいい。けれどもレコーディング・モニターで使う場合は、ちょっと邪魔になるという問題だ。

 R-09では横、R-09HRでは上、そして今回のR-05ではやはりモニターとして使用を重視して横に戻ったようだ。ちなみに、R-05の上部、つまりステレオマイクの間にも2つのミニジャックの端子があるが、これは入力用。左がライン入力、右がマイク入力であり、マイク入力はプラグインパワーに対応したものとなっている。これらを使う場合は、内蔵マイク機能はオフとなるため、位置的な問題はないだろう。

三脚穴を本体に装備

 さらにもう一つ、R-05の機構的によくなったのが三脚穴を本体に装備したこと。現在、多くのリニアPCMレコーダには三脚穴が装備されているので、ある意味当たり前の装備であり、長時間録音する上では必須のものともいえるが、これまでのR-09、R-09HRにはそれがなかった。というのも、プラスティックボディーに三脚穴を空けた場合、ちょっと力を入れると「バキッ」と壊れる可能性があるため、メーカーとして許容できないというのがRolandの理由だった。

 そのため、三脚に固定するためにはオプションのカバーを取り付ける必要があったが、今回は本体を直接三脚に取り付けられるようになった。といってもメーカーとしてのポリシーを曲げたというわけではない。R-05ではプラスティック・ボディーではなく、アルミボディーに変更することで本体の強度を高め、三脚穴の装備を実現させている。


■ R-05の新機能とは

 ここまでは、製品性能や機能そのものではなく、機構変更による使い勝手という面だが、もちろんR-05には新機能も搭載されている。R-09HRを含めこれまでどのリニアPCMレコーダにもなかった、非常に便利な機能だ。それが、リハーサル機能というもの。リニアPCMレコーダのレコーディングを上手に、またより高音質に行なうための最大のポイントとなるのは入力音量調整だが、これを自動的に行なってくれるのがリハーサル機能だ。

 といっても、AGC(オート・ゲイン・コントロール)ではない。リハーサル(REHEARSAL)ボタンを押してから一定時間内(デフォルトの設定では1分)に実際の音を入力すると、最大レベルがどのくらいかを調べた上で、そこが最大になるように、入力音量を調整してくれる。R-05の入力音量を手動で行なう場合、カーソルキー左側にあるINPUTの+、-のボタンを押して0~80の段階で設定し、リアにあるMIC GAINスイッチをLとHのいずれかに設定して行なうことになるが、これを自動で行なってくれるわけだ。ちなみに、MIC GAINのLとHの切り替え自体は手動となるが、どちらに設定すべきかは画面上に表示される。

リハーサル(REHEARSAL)ボタン自動的に最大レベルを設定MIC GAINのLとHをどちらに設定するか表示される

 リハーサル機能によって設定された音量よりちょっとでも大きい音が入力されるとクリップしてしまうか、というとそうではない。5dBの余裕が持たされているので、もう少しであれば大きな音が入ってきても大丈夫だ。その後、もう少し音量を上げたい、下げたいという場合は、そのまま手動で調整することもできるので、なかなか便利だ。

 R-05もサンプリングレートを96kHzのほかに88.2kHz、48kHz、44.1kHzの設定ができ、量子化ビット数も24bitと16bitの変更が可能だ。また44.1/48kHzの場合はMP3の設定もできるようになっているのだが、そのほかに「WAVE+MP3」というモードも用意されている。これは録音時にリニアPCMのWAVファイルとMP3のファイルの両方を同時に記録する。

 バンド仲間にMP3ファイルを配布するといった場合、いったんPCに取り込んでからMP3にエンコードする必要なく、すぐにMP3ができ、リニアPCMデータも残っているというわけだ。ただし、この場合のリニアPCMは16bit/44.1kHzまたは16bit/48kHzに限られ、MP3のビットレートも128kbpsに固定される。

 さらに、録音開始ボタンを押した2秒前からの記録を可能にする「プリ・レコーディング」機能もR-09HRにはなかった新機能だ。

WAVEとMP3の同時録音モードも用意されている録音開始ボタンを押した2秒前から記録する「プリ・レコーディング」機能も搭載

■ R-05の音質をテスト

左がR-09HR、右がR-05

 このように機能強化されたR-05だが、気になるのはやはり音質性能。その中でも重要な役割を果たすのが内蔵マイク性能だが、外見上、R-09HRとR-05を比べるとマイクを囲むメッシュグリル部の大きさが変わっていて、R-05のほうが小さい。そのため、内部のマイク素子も弟分として、一回り小さいものを採用したのかなと思ったが、マイク素子自体はR-09HRとまったく同じとのことだ。

 ただし、「ICA無指向性マイク・システム」という新たなマイク・ハウジング機構を採用した結果、外見上小さくなっている。これはR-05の本体基板から分離させた独立型のマイク・ハウジングで、独自のカプセル形状によって定位感を確保したという。これによってマイクの指向性や周波数特性も変わっているそうで、メーカー資料を見ても違いが出ている。実際に録音ボタンを押してヘッドフォンでモニタしてみると違いは歴然。R-09HRよりもかなりステレオ分離がよくなっていて、音の立体感が出てくるのだ。この辺は好みもあるとは思うが、個人的にはR-05のほうが良く感じられた。

R-05のマイク構造R-05の指向性と特性R-09HRの指向性と特性
R-05にはウィンドスクリーンが付属する

 では、このマイク・ハウジング機構によって実際の音質はどう変わったのか、いつものように、まずはR-05を野外に持ち出し、鳥の鳴き声を録ってみた。ここではリハーサル機能は使わず、マニュアルで入力レベル設定を行なった。録音したとき、鳥が左右に分かれていたわけではないので、ステレオ感はやや分かりにくいかもしれないが、それでもR-09HRよりも立体感が出ているように思える。なお、今回は使わなかったが、R-05には標準でウィンドスクリーンがバンドルされる。R-09HRではオプションでもウィンドスクリーンが存在していなかったので、野外録音派にはうれしいところ。ただウィンドスクリーンをかぶせると、なんとなくデザイン的にカッコ悪いかもしれない……。

 次に、部屋に戻って、リハーサル機能を利用してレベル調整をした上で、TINGARAの曲「JUPITER」を用いて音楽のテストも行なった。いつものように24bit/96kHzでレコーディングした後、ノーマライズ、リサンプリングなどの処理を行なってからスペクトラム分析を行なっている。この結果をR-09HRの場合と比較してみると波形の形は少し違うのだが、聴き比べてみると、かなり近い傾向の音となっている。少なくとも音質的に遜色があるようには感じられず、普通に音を録ることが目的であれば、R-05を選んでまったく問題ないように思う。

録音サンプル:野外生録
r05_bird2496.wav(16.2MB)
編集部注:録音ファイルは、24bit/96kHzに設定して録音したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

録音サンプル:楽曲(Jupiter)
r05_music1644.wav(6.91MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは24bit/96kHzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

R-05R-09HR

 ここ最近でテストしたTASCAMのDR-2、YAMAHAのPOCKETRAK W24、SANYOのICR-PS605RMの波形と比較してみると、メーカーが異なるだけに、その違いはもっとハッキリし、音を聴き比べても明らかな違いがわかる。どれがいいかの判断は人によって分かれるとは思うが、この中でR-05はバランスが取れた落ち着いた音のように感じられた。

TASCAM「DR-2」YAMAHA「POCKETRAK W24」SANYO「ICR-PS605RM」


■ R-05がR-09HRの弟分であるところ

 R-05は、価格的にも安いにも関わらず、音質的にはR-09HRとほぼ同等で、機能、性能的にも向上している点がいろいろある。とはいえ、やはり弟分だけに削られている機能もある。まずはリモコン。R-09HRには標準でリモコンが用意されており、手の届きにくい場所での操作ができたり、本体に触れずに録音のスタートや各種調整ができたため、タッチノイズを混入させないという面でも大きな効果があったが、R-05はリモコンに対応していない。

 また、前述のとおりディスプレイは白色有機ELからオレンジバックライトのモノクロ液晶へとグレードダウンしており、視認性の面では若干劣っているのも事実だ。そのほかにも、内蔵スピーカーが外されたのも大きなポイントだ。普通はヘッドフォンで聴けばいいだろうが、何の音が入っているかの確認をするような場合、スピーカーがあると便利なのも確かだ。

 さらに、R-09HRは、ファームウェア Ver2.0からメトロノーム機能、チューナー機能も搭載されている(旧ファームウェアの場合、Rolandのホームページからのダウンロードによって、無償アップデートが可能)が、これもR-05には搭載されていない。そして、R-09HRにバンドルされていた波形編集ソフト、Cakewalk Audio Creatorも省かれている。

 というように、弟分と位置づけられる理由は随所にあり、とくにリモコンが必須という場合にはR-09HRを選ぶべきだろう。そうでなければ、価格も安くコンパクトで電池の持ちもいいR-05は、いい選択といえるだろう。



(2010年 4月 19日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またAll Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]