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第414回:コルグのDSDレコーダ「MR-2」を試す

〜ほかのレコーダとは明らかに違うマイク性能 〜


DSDポータブルレコーダ「MR-2」
 3月にドイツ・フランクフルトで開催された楽器の展示会「Musikmesse」において、KORGが新たなDSDのポータブルレコーダ「MR-2」を発表した。標準価格は75,600円と他社のリニアPCMレコーダと比較すると、高めの設定になっているが、DSDによる圧倒的な高音質を売りにして、国内では5月下旬から発売を開始する予定だ。

 このMR-2を発売前にKORGから借りることができたので、いろいろと試してみた。また、KORGの開発担当者にもインタビューすることができたので、今回と次回の2回に分けて紹介しよう。


■ マイクを内蔵し、一回り大きく

 MR-2は、2006年末に発売された、同社初で世界初のポータブルDSDレコーダ「MR-1」の後継となる製品。仕様の違いなどがあることから、MR-1は当面併売されることになるそうだが、MR-2はMR-1にさまざまな改良を加えた製品であり、実質的に今後はMR-2中心になっていくと思われる。

 この2機種を並べてみると、形状、デザイン的にも大きく変わっていることがわかる(02)。マイクを内蔵した分、60×133×28mm(幅×奥行×高さ)と奥行きが長くなっているが、重量的には135g(メモリーカード、電池含まず)と軽量化が図られている。

 MR-2での進化点は数多いのだが、他社のリニアPCMレコーダと比較すると、ちょっと大きめなサイズであることも確かだ。とはいえ、十分片手に収まる手のひらサイズなので、普段持ち歩いて使うのにもまったく支障はない。

左「MR-1」、右が「MR-2」 左からPOCKETRACK W24、DR-2、MR-2、R-05、iPod touch

■ 内側マイクユニットの向きは可変式

MR-1ではマイクが外付け

 MR-2はDSDのレコーダであり、1bit/2.8224MHzでのレコーディングに対応している、いわゆる1bitオーディオの録音機材だ。KORGではMR-1000、MR-2000Sというもう少し大きい機材も発売しているが、MR-1000/2000Sが対応している5.6448MHzにはMR-1と同様に対応していない。DSDに関する詳細は、これまでも何度も書いてきているので、ここでは省略するが、広く利用されているデジタル録音方式のPCMとは異なる原理で動作し、SACDで採用されている方式でもある。

 DSDレコーダという面ではMR-1もMR-2も変わらないが、MR-1で不便であったのがマイクが外付けだったという点。現在各社のリニアPCMレコーダでは、そのほぼすべてがマイクを内蔵しており、本体だけあれば即録音できるようになっている。それに対し、MR-1はステレオマイクが付属してはいたものの、外付けとなっていた。またそのマイクも、ややオマケ的な存在で、必ずしもDSDレコーダとしての性能を十分に発揮できるマイク性能とはいえなかった。

マイクのハウジング部分がかなり大きい
 もっとも、MR-1は内蔵のHDDに録音するタイプのレコーダであったため、マイクを本体に内蔵するとHDDの駆動音を拾ってしまうという問題があって、外付けにしていたのだろう。それが、今回メディアをSD/SDHCに変更するとともに、マイクが内蔵された。

 一見してわかるのは、マイクのハウジング部分がかなり大きいこと。KORGのロゴの上からがメッシュになっており、これがすべてマイクのハウジングとなっている。そして、このメッシュ部分は正面側だけでなく、上側、裏側と大きな面積がとられている。光に透かして撮影すると、この内側中央部分に浮くような形でマイクユニットが設置されているのが見える。

上側、裏側と大きな面積がとられている 光に透かして見ると、内側中央部分に浮くような形でマイクユニットが設置されている

 さらにユニークなのは、その内側のマイクユニットの向きを変えられること。右サイドには8段階で210度回転するマイクダイヤルが設置されており、これを回転させることで真正面から上、そして真裏へとマイクの向きが変えられるようになっている。そのため、たとえばテーブルの上に設置しても録音対象の方向を変えて使え、三脚などを利用すれば、さらに自由度も増す。またその三脚穴が2つ用意されているというのも、面白いところ。レコーディングするシチュエーションに応じて三脚への取り付け方も変えられるわけだ。

右サイドには8段階で210度回転するマイクダイヤル 三脚穴が2つ用意されている

■ ほかのリニアPCMレコーダとは明らかに違うマイク性能

 とりあえず、このマイクで拾う音がどんなものなのか、ヘッドホンでモニターした状態で、RECボタンを押してみた。すると、これがかなりクリアでいい音で、ほかのリニアPCMレコーダとは明らかに違う。確かに75,600円という価格だけのことはあると思わせる音だ。もちろん、好みの問題もあるが、違いがあることは確かだ。

 ちょうど晴れた日の朝だったので、製品が届いたほぼそのままの状態で、外に持ち出して鳥の声を録音してみた。たまたまウグイスが鳴いていたので、それを録ったのがこの音。このウグイス、目視できるところにいたわけではない。おそらく20m程度は離れた場所で、雑木林の中にいたのだが、そのさえずりをクッキリととらえている。

REC SETTINGの中にMic SensをHighに設定した
 録音レベルだけ、本体左サイドにINPUT LEVELというボタンで調整し、MENUボタンを押して現れるREC SETTINGの中にMic SensをHighに設定した。High、Mid、Lowの3段階で一番感度を上げた状態だ。とはいえ、野外での鳥の声というのは、小さいので結局INPUT LEVELは最大の0dBの設定となった。INPUT LEVELは0dBから-95dBまで1dBずつ設定でき、-95dBからもう一段階下げるとミュートになる。

 Mic Sens Highで0dBの設定で録音していることからも分かるとおり、必ずしもマイクプリアンプでの増幅が大きいわけではない。ただし、最大にしても、アンプによって発生するホワイトノイズなどがほとんど聴こえてこないのはなかなか優秀だ。

 少し気になったのは風には弱いこと。マイクハウジングとも関係がありそうだが、音質を向上させた分、風の影響は受けやすく、弱い風でもすぐにゴゴゴゴッというノイズが入ってピークを超えてしまう。ウィンドスクリーンは付属していないので、野外で録音する場合には、それなりの工夫が必要になってきそうだ。

 なお、MR-2で録音したままのDSDIFFデータと、付属ソフトである「AudioGate for Windows 2.0.3」を用いて24bit/192kHzに変換したファイルの2種類を掲載したので、聴けるほうで試していただきたい。

録音サンプル:野外生録
mr2_bird_dsd.dff(26.2MB) mr2_bird_24192.wav(38.7MB)
編集部注:録音ファイルはDSDIFF(上)と、24bit/192kHzに変換したWAVEファイル(下)です。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 MR-2もMR-1と同様にDSDのレコーディングフォーマットは、DSDIFFというスーパーオーディオCDの制作用フォーマットのほか、DSDディスク用のDSF、1ビット・オーディオ・コンソーシアムが策定したWSDの3種類から選べるようになっている。

 どれを選んでも、一旦PCに取り込めば、AudioGateで相互変換が可能なので、あまり気にしなくてもいいだろう。ちなみに、このAudioGateを利用すれば、オーディオCDやDSDディスクを作成することができる。DSDディスクにしてしまえば、SONYのVAIOの対応機種や、PlayStation 3、そしてDSDディスク対応のスーパーオーディオCDプレイヤーでの再生が可能になるので、MR-2でレコーディングした音を、最大限活用することができるはずだ。


付属ソフト「AudioGate for Windows 2.0.3」 DSDIFFのほか、DSDディスク用のDSF、1ビット・オーディオ・コンソーシアムが策定したWSDの3種類から選べる AudioGate for Windowsでは、オーディオCDやDSDディスクを作成することができる


■ リニアPCM 24bit/192kHzでの録音にも対応

左サイドにはMIC IN、LINE INの端子も用意されている

 今回は内蔵マイクを利用しての実験のみ行なったが、左サイドにはMIC IN、LINE INの端子も用意されている。MIC INはLとR独立となっていたMR-1とは違い、ステレオミニジャックになっており、プラグインパワーにも対応しているため市販のマイクを利用することも可能。またLINE INにアナログ機材を接続すれば、レコードやカセットテープなどのDSDアーカイブにも利用できる。

 反対側の右サイドを見ると前出の内蔵マイクの方向調整のためのダイヤルのほか、SD/SDHCカードのスロットやUSB端子が用意されている。ほかの多くのレコーダと異なり、SD/SDHCスロットにカバーなどはなく、直接挿入する形のため、ホコリが入り込まないか、少し心配にも思うが、カバーがないぶん、出し入れがしやすいというメリットもある。

 裏面には電池ボックスがあり、単3電池2本で駆動する。アルカリ電池とニッケル水素電池が利用でき、スペックを見ると16bit/44.1kHzでの録音なら6時間持つ。もっともDSDでのレコーディングになると、もっと短時間になることは予想されるが、録音や再生など数時間電源をオンにしていても、バッテリフルの状態から変化はない。6時間とはいかないまでも、それなりのスタミナはありそうだった。

右サイドには、内蔵マイクの方向調整のためのダイヤルのほか、SD/SDHCカードのスロットやUSB端子が用意されている 単3電池2本で駆動する

メニューは英語表記

 では、メニュー設定についても見てみよう。MENUボタンを押すと英語表記での設定画面が現れる。まずチェックしたのがREC FORMAT。前述のとおりDSDは3種類のフォーマットに対応しているが、WAV(BWF)、MP3などでのレコーディングにも対応している。リニアPCMの場合、最高で24bit/192kHz対応と、このクラスのポータブル・レコーダとしては最高のフォーマットに対応している点も見逃せない。もちろん、192kHzに限らず176.4kHz、96kHz、88.2kHz、48kHz、44.1kHzといったセッティングも可能なので、高性能なリニアPCMレコーダーを検討している場合でも、選択肢の一つとして入れておくべきだろう。

 

 次にREC SETTINGだが、これは前述のMic Sensのほかに、Mic Low Cut、Limiter、Bass、St.Enhancer、PlugInPower、Monitorという項目があり、それぞれ細かく設定できるようになっている。さらにInput LevelをManualにするかAutoにするかの設定があり、デフォルトの設定でもあるManualになっていると、左サイドのInput Levelの調整が効く。

DSD以外にも、WAV、MP3にも対応している REC SETTING Input LevelをManualにするかAutoにするか設定できる

Rec Start Mode

 さらにRec Start Modeというものもあり、Normal SWのほかにPre(SW)/1S、Post(SW)/0.5S、Pre(Trig)/1Sの4つの選択肢が用意されている。これは録音を開始するタイミングを設定するもので、録音ボタンを押したときから1秒さかのぼって録音を開始する、0.5秒後から開始する、ある設定したレベルより大きい音が入力されたら、そこから1秒さかのぼって開始するといった設定ができるようになっている。

 

 さらに便利なのがPRESET SETTING。ここにはClassic Hall、Pops Studio、Rock Live、Piano、Violin、Drums、Japanese Inst、Solo Vocal Female、Bird、Train、Field……と30種類のプリセットが用意されている。DSDレコーディングの場合、何も足さず、何も引きずで録音するのが基本ではあるが、やはりシチュエーションによっては、ある程度音をいじりたいというケースもあるだろう。そのために、前述のREC SETTINGの項目があるわけだが、ひとつひとつを設定していくのはなかなか大変。そこで、このプリセットを利用すれば簡単にその場にマッチした音が作れるというわけだ。

 そのほかにもチューナー機能やUSB Slave Modeといったものがあり、PC側からSD/SDHCカードをUSBマスストレージ・デバイスとして読み書きすることが可能になっている。


PRESET SETTING チューナー機能 USB Slave Mode


■ 音楽の録音性能を試す

 セッティングを元の状態に戻し、いつものように音楽のレコーディングを行なってみた。本来なら生のライブを録りたいところだが、CDをモニタースピーカーで再生するものなので、DSDの本領を発揮できるというわけではない。とはいえ、ほかのレコーダとの音の比較はできるはずだ。こちらもDSDIFFでレコーディングした後、AudioGateを使ってPCMに変換してから分析にかけている。

 結果は、実際の音を聴いてもらいたいのだが、前回とりあげたR-05と比較的似た傾向の音であり、野外での録音のときに感じたような違いは見出せなかった。しいていえば、R-05ほど低域が強調されず、素直な音になったといった印象。やはりソースが16bit/44.1kHzのCDであるだけに、あまり大きな違いが出てこないのかもしれない。波形を見ても、R-05と似た感じになっている。ぜひ今度、アコースティック楽器の生演奏でも録って比較してみたいところだ。

録音サンプル:楽曲(Jupiter)
mr2_music_1644.wav(13.4MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルはDSDIFFでレコーディングした後、AudioGateを使って16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

【MR-2】 R-05 R-09HR
TASCAM「DR-2」 YAMAHA「POCKETRAK W24」 SANYO「ICR-PS605RM」
PEAKインジケータ

 実際に大音量で録音してみてわかったのが、PEAKインジケータの利用法。入力レベルが小さめのときは消灯しており、適度な音量まで上がると緑となる。さらに大きくレベルオーバーしたら赤くなるというのは、ほかのレコーダとも同じだが、一般的なリニアPCMレコーダと異なり、赤くなったらすぐにクリップしてアウトというわけでもない。さすがに赤く点灯し続けたら音が割れてしまうが、ちょっと赤く点灯した程度では問題にならない。KORGに聞いてみたところ、それがDSDの特性でもあるとのことで、ちょっとアナログレコーダ的でもある。

 次回は、KORGの開発担当者にMR-2の開発コンセプトや、その背景にある技術などについてのインタビューを掲載する予定だ。


(2010年 4月 26日)

= 藤本健 =  リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またAll Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by 藤本健]