藤本健のDigital Audio Laboratory
第579回:6入力で実売29,000円のUSBオーディオ「UR44」を試す
第579回:6入力で実売29,000円のUSBオーディオ「UR44」を試す
低価格機「UR22」から音質向上、iPadにも対応
(2014/2/3 14:25)
ヤマハからSteinbergのオーディオインターフェイス「UR44」が発売された。現在、人気の低価格オーディオインターフェイス「UR22」の上位機種にあたるもので、24bit/192kHz対応、アナログの6IN/4OUTという仕様。実売価格は29,000円前後だ。
位置付けとしては4IN/4OUTで実売価格28,000円前後のローランド「QUAD-CAPTURE」の競合となりそうな製品だが、UR-22やQUAD-CAPTUREと比較して、機能/性能的にどう違うかに着目しながらチェックしていくことにしよう。
メタルボディにマイクプリアンプ搭載の入力を4系統装備
昨年のInter BEEで発表されたUR44は、1Uのハーフラックサイズでフルメタルボディのオーディオインターフェイス。重量的にも1.6kgあり、結構ずっしりしたもので、やはりフルメタルボディで998gのUR22と並べてみても、非常に近い雰囲気のデザインだ。横幅が2倍になったのかと思って重ねてみると約1.5倍で、高さも1.6mmほど厚くなっている。具体的にはUR22が158.6×158.3×45.4mm(幅×奥行き×高さ)、UR44が252×158×47mm(同)だ。
このUR44をUR22と比較した際の、まず大きな違いはフロントパネルを見てもわかる通り、UR22ではマイクプリアンプ付きのアナログ入力が2つなのに対し、UR44では4つあり、さらにリアにTRSフォンの入力が2つある、ということだ。もちろん、前面の4つは+48Vのファンタム電源に対応しているのでコンデンサマイクを利用することができ、プリアンプのゲインはフロントに並ぶ4つのGAINノブで、それぞれ独立して調整できる。
PreSonusのAudioBox 44VSLやTASCAMのUS-1800など、マイクプリアンプを4つ以上搭載した製品も存在するが、多くのマイクを接続したいという人にとっては大きなポイントとなるはずだ。ちなみにQUAD-CAPTUREの場合はオーディオ的には4IN/4OUTではあるが、アナログが2IN/2OUT、デジタルが2IN/2OUTとなっているので、ここは大きな違いだ。ただ、そのQUAD-CAPTUREにあるデジタル入出力が、UR44にはない、という点がウィークポイントともなる。まあ、デジタルも必要ならQUAD-CAPTURE、アナログが中心ならUR44という見方もできるだろう。ちなみにそのQUAD-CAPTUREのサイズは185×185×44mm(幅×奥行き×高さ)で、570gなので、とっても軽くてコンパクトに見える。
先ほど説明した4つのプリアンプ付き入力および、そのレベル調整のノブの右にはヘッドフォン出力が2つ用意されているが、これについてはそれぞれ独立して使うことができるのだが、詳細については、また後ほど解説することにする。
次にリアパネルを見てみよう。一番右に5/6 LINE INPUTとあるのが、プリアンプを使わないアナログ入力で、楽器やオーディオ機器に接続するためのもの。本体では設定できないが、PC側の設定により民生用の-10dBVか業務用の+4dBuのレベルかを設定できるようになっている。
その左側にある1/2/3/4 LINE OUTPUTが、6IN/4OUT仕様のうちの4OUTに相当する部分だ。さらにその左はL/R MAIN OUTで、その4つの出力とは別にあるが、これはUR44内部にあるミキサーでミックスした結果を出力するものとなっているのだ。さらに、その左にはMIDIの入出力が用意されている。
では、実際にその内部のミキサーなどを使うために、PCと接続していくが、使うに当たって多少設定が必要となっている。実は、この発売されたばかりのUR44のファームウェアはV1.00というバージョンなのだが、発売前からV2.00というバージョンのアナウンスがされており、これにアップデートすることにより機能が向上する。であれば、あえてV1.00で使うこともないので、いったんドライバ類をインストールした後、すぐにアップデートをかけた。
また、そのドライバ類というのはドライバ自体のほかに、前述の内部ミキサーを操作するためのdspMixFxというソフト、Cubase用のアドオンソフト、そしてVSTプラグインから構成されている。そのため、事前にCubaseがインストールされているのが好ましいのだが、UR44にはCubase AI7というソフトのライセンスがバンドルされており、購入ユーザーは無償でダウンロードできるようになっているので、これをインストールしておくといいだろう。もちろん、すでにCubase 7や7.5などを持っているユーザーも、このアドオンソフトを利用できるようになっている。
dspMixFxで、UR44をミキサーとして使用
さて、準備が整ったら、dspMixFxを起動してみよう。これについては、以前もUR28Mなどを紹介した際にも触れたことがあったが、6つある入力をミックスすることができるもので、数えてみるとその6つの右にDAWという項目がある。これはDAWというよりも、PC側の再生音であり、それを6つの入力とともにミックスできるようになっている。しかも、そのミックスは6つの入力+DAWに対して、MIX1、MIX2と完全に独立して設定できるようになっている。そして、そのMIX1の出力を先ほどのMAIN OUTから出力できると同時に、フロントのPHONES 1というヘッドフォン端子から出力ができる。一方のPHONES 2はMIX 1またはMIX 2から選択できるようになっているのだ。
ここで、dspMixFxの1つの入力チャンネルについて上から順に見ていこう。まず、入力に対してレベルメーターが動くわけだが、一番上のボタンを押すとハイパスフィルターが効き、ローがカットされる。その下の「φ」(Phase)ボタンでは、位相が180度反転する形になるのだ。
その下にINS.FXとあるところをクリックすると、MON.FXも設定できるようになっている。これは以下に設定するエフェクトをモニターだけに利用するか、レコーディングする音として利用する、つまり掛け録りをするかを設定するものだ。その下にあるスイッチでエフェクトのオン・オフができるのだが、そもそものエフェクトの種類をCh.Stripと書かれているところをクリックすることで選択できるようになっている。
Ch.Stripはチャンネルストリップのことで、コンプレッサやEQの設定をするためのもの。詳細についてはUR28Mを紹介した際に解説しているので割愛するが、PCに負荷をかけることなく、チャンネルストリップが利用できるようになっている。一方、Clean、Crunch、Lead、Driveとあるのが、前述のファームウェアアップデートで追加された機能で、それぞれギター用のアンプシミュレータとなっている。これらもUR44内蔵のDSPで動作するのだ。
さらに水色のノブはシステムリバーブへ送るためのもの、緑のノブがパン、下のフェーダーで音量を調整するようになっているのだ。そのリバーブはMASTERトラックにあり、これをオンにすると、ヤマハのREV-Xという高品位なリバーブが起動する。これもやはりDSPで動作しているわけだが、必要に応じてROOM、HALL、PLATEという設定を切り替えたり、細かな設定も可能となっている。
このdspMixFxを使うことで、UR44をまさにミキサーとして利用できるほか、各社のDAW、さらには各種レコーディングソフトと組み合わせ、それら用のミキサーとして使用することも可能だ。またLOOPBACKという設定をオンにすれば、iTunesやWindows Media Playerといったソフトで再生する音を入力できるため、インターネット放送などでは大きな威力を発揮してくれる。
このように、各種DAW等で使えるわけだが、Cubaseに限って言えば、このdspMixFxを必要としない。前述のアドオンソフトによって、このdspMixFxに相当する機能が、Cubase自体に組み込まれており、まさにすべてCubase内でコントロール可能になるのだ。機能自体に違いがあるわけではないのだが、やはりCubase内ですべて完結しているので、非常に分かりやすいのだ。各チャンネルの設定がそのままトラックへの入力に繋がるので、Cubaseユーザーにとっては非常に大きなアドバンテージを持ったオーディオインターフェイスということができるだろう。この点については、UR44の上位機種であるUR28MやUR824などでも同様である。
ところで、先ほどドライバー等のインストールを行なった際にVSTプラグインがインストールされるという話をしたが、ここまで登場したチャンネルストリップやギターアンプシミュレータ、リバーブなどは、すべてUR44内蔵のDSPを使ったものであり、プラグインを使っているわけではない。しかし、まったく同じ画面、同じ機能のプラグインも用意されており、DSP側で作りこんだ設定をVSTプラグイン側で読み込んで再現することも可能になっている。外枠や画面右下に「VST」と表示されているかどうかで、DSPで動作しているものなのか、VST版なのかが分かるようになっている。
ただし、レイテンシーの面においては、やはりDSPのほうが有利であるため、かなり気持ちのいいモニタリングが可能になる。一方で、UR44がないと、これらのエフェクトを利用できないわけだが、VSTのプラグインがあれば、ほかのオーディオインターフェイスでも再現できるというのがメリットとなっている。
iPad/iPhoneとも接続可能。UR22に比べ音質向上
もう一つ、UR44の特徴として上がられるのはCCモードというものが用意されている点だ。これはクラス・コンプライアント・モードの略だが、要するにiPadやiPhoneと接続して利用できるモードのこと。これはリアパネルにあるCC MODEのスイッチをオンにすると利用可能になる。ただし、この場合は内蔵のDSPを使うことができないため、単純に6IN/4OUTのオーディオ入出力機能として使う形になる。なお、接続には別売の「Apple iPad Camera Connection Kit」または「Lightning-USB カメラアダプタ」が必要。
さて、UR44の機能については、以上がその概要であるが、気になる性能のほうはどうなっているのだろうか? ここでは、いつものようにRMAA PROを使ってチェックを行なってみよう。ここでは、1、2chの出力をプリアンプのない5、6chにループバックさせた状態で、44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれで測定してみた。
結果を見るとまずまずの内容となっているが、UR22と比較すると、明らかに1ランクか2ランク上の性能であるのが見えてくるだろう。
続いて、レイテンシーのチェックも行なった。こちらもいつもと同じようにCenTranceのASIO Latency Test Utilityを利用してのテストだ。結果を見ると、こちらもまずまずといったところで、極めて低レイテンシーというわけではないが、悪くない結果となっている。
以上の点からUR22、QUAD-CAPTUREと比較すると、やはりいろいろな違いがある。データ上はUR22よりもかなりいいが、QUAD-CAPTUREと比べると測定結果は見劣りする。またマイクプリアンプの数やデジタルの入出力については、人によって求めるスペックは違ってくるので、この点はよく検討するといいだろう。一方、使い勝手の面で、一つ不便に感じるのは、UR22やQUAD-CAPTUREがUSBバスパワーで動作するのに対し、UR44はACアダプタを必要とする点。ただ、UR44のACアダプタは軽くて比較的小さいので、持ち歩きも苦労することはないのだが、ACアダプタの好き・嫌いについては、人によって見方は違うかもしれない。こうしたさまざまな点を考慮した上で製品選びをしてみるといいのではないだろうか?
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