藤本健のDigital Audio Laboratory

第595回

Apple Losslessのハイレゾは、iPhone/iTunesで本当にハイレゾ再生できている?

iTunes/iPhoneでのALACハイレゾファイルの扱いを検証

 前々回に「FLACとApple Lossless圧縮で、変換速度や圧縮率に違いはある?」という記事を書いたが、今回はその続編。Apple Lossless Audio Codec(ALAC)のハイレゾにフォーカスを当てるとともに、その再生環境に関して考えてみる。ALACであれば、iTunesさえあれば簡単に再生することができるし、iPhone/iPadなどへの転送もできるはず。でも本当にハイレゾで再生ができているのか、確証が持てないので、念のためということで実験してみることにした。

ALACのハイレゾはiTunesでそのままiPhoneに転送できない?

 先日の記事でも紹介したとおり、OTOTOYがWAVに加え、FLACおよびALACでの配信をスタートしたことで、ALACへの注目度が上がってきている。とくに96kHz/24bitなどのハイレゾサウンドがALACで配信されるとなると、iTunesさえあればすべてOKとなり、Windowsにfoober2000のような設定が面倒なソフトを入れなくていいし、MacにおいてもAudirvanaのような高価なソフトを入れなくてもいいことになる。しかも、それをiPhoneやiPadに転送して持ち歩いて聴けるとすると、非常に快適な環境になりそうだ。

 でも、世の中、そう甘くはないようだ。実際に試してみると、いろいろなところに関門があり、簡単にはいかないようなのだ。順を追ってみていくことにしよう。

 まず、改めてOTOTOYから最近話題のハイレゾ対応のアニソンアルバムを1つ購入してみた。「TVアニメ『WHITE ALBUM2』VOCAL COLLECTION(96kHz/24bit)」をALACでダウンロードし、Windows版のiTunesに読み込ませてみた。ローランドのオーディオインターフェイス、QUAD-CAPTUREを接続した状態で再生ボタンをクリックしてみると、あっさり再生。まあ、Apple LosslessのデータをAppleのiTunesで再生させているのだから、当然のことではあるのだが、なかなか便利そうだ。CDフォーマットのものを聴いているわけではないので、音の比較はできないが、普通にキレイな音で再生されている。

WHITE ALBUM2 VOCAL COLLECTION(24bit/96kHz)
オーディオインターフェイスのQUAD-CAPTUREを接続した状態で再生
iPhoneへそのまま転送しようとしたらエラーになった

 続いて、これをiPhone 5sと接続し、転送=同期しようとしたのだが、これがうまくいかない。「iPhoneでサポートされていないサンプルレートのため、コピーされませんでした」というメッセージが表示され、転送することすらできないのだ。先日の記事を書いた直後にも、複数の人からTwitter等で情報をもらっていたので、ダメであろうことは分かってはいたが、それが実証された形だ。

 現在のiPhoneやiPad内蔵のDACは48kHzまでのサンプリングレートしかサポートされていないため、それを超えるファイルをそのまま転送することはできない。このことはWAVファイルでも同様であり、現在のところ回避できない問題。ただ、内蔵しているDACのチップ自体は96kHzなどにも対応しているという話を聞いたことがあるので(正式な情報ではないので、定かではない)、今後iOSのバージョンアップによって対応する可能性に期待したいところ。先日のWWDCでiOS 8が発表になっていたが、その発表内容を見る限り、ハイレゾ対応といった情報はなかったが、もしかして対応しているのでは……と密かな期待をしている。

ハイレゾ対応アプリ経由でiPhone転送は可能。再生している音は……

 では、iPhoneやiPadで96kHz/24bitのファイルの再生ができないのか、というとそんなことはない。FLAC PlayerやオンキヨーのHF Playerといったものがあり、これらでハイレゾサウンドを楽しんでいる人も多い。試しに、これらでALACのハイレゾファイルが再生できるのかを試してみた。

 あらかじめiTunesを使って、これらのアプリへALACのデータを転送。この転送自体はうまくいった。このFLAC PLAYERで44.1kHz/16bitのALACの再生ができることは以前確認していたので、96kHz/24bitのALACでも再生できるはず……と思ったが、禁止マークが出てしまい、再生ボタンを押すことすらできなかった。再生できた44.1kHz/16bitでの画面を見ても、ALACのコーデックを搭載しているというわけではなく、Apple標準のQuickTime機能で再生する仕組みのようで、そのために再生できないようだ。

FLAC Playerアプリに先ほどのハイレゾのALACを転送
再生できなかった
44.1kHz/16bit再生はQuickTimeで行なっていた

 では、HF Playerはどうだろうか? こちらは1,000円の有償版を使ったのだが、スペックに「ALACの192kHzまで対応」と記載されているので、これならうまくいくはず。さっそく再生してみたところ、しっかりと音を出すことができた。でも、本当に96kHzのサンプリング周波数での再生ができているのだろうか?

 これを確認するために、iPhoneのヘッドフォン端子の出力をPCにレコーディングしてみることにした。オーディオインターフェイスはRolandのQUAD-CAPTUREを用いて、ASIOドライバーで96kHz/24bitで取り込んでみた。これだけではよくわからないので、WAVで保存した結果をフリーウェアの周波数分析ソフト、WaveSpectraで表示させみた。その結果を見ると、どうも22kHz以上出ていないようだ。まあ、当然といえば当然で、iPhoneのDACが44.1kHz、48kHzのサンプリングレートにしか対応していないので、そこで記録できる最高の周波数はサンプリングレートの半分となる22.05kHzもしくは24kHzまで。その結果として、こうなっているようなのだ。

HF Playerアプリに転送
再生できた
WaveSpectraでのテスト結果

 しっかりハイレゾで再生させるためにはLightning端子にUSB DACを取り付ければいいはず。より細かい検証ができるように、デジタル出力を持ったオーディオインターフェイス、SteinbergのUR28Mを用意しておこなってみた。まずは、UR28Mのアナログ出力を、QUAD-CAPTUREに入れて、先ほどと同じようにレコーディングし、WaveSpectraで解析してみたところ、今度は48kHzまで出ているようだ。ただ、この周波数分析結果を見ると、やや妙な状況。22kHzあたりで一度落ち込んで、そこから折り返しノイズ? のような形で持ち上がっている。これは測定の仕方に問題があったのだろうか……。

LightningからSteinbergのUR28Mに出力してテスト
今度は48kHzまで出ているようだが……

 試しに以前購入したFLACのデータとして、いきものがかりの「風が吹いている」があったので、これを同じようにHF Player、UR28Mを経由して再生したものをレコーディングし、解析してみたのが下の画像。こちらは、いたって素直な結果となっている。ということはALACに問題があるのか、それとも購入したデータが特殊だったということなのだろうか……。

いきものがかり「風が吹いている」を同様に解析した結果

 それならば、デジタル出力した結果をPC側でデジタルでキャプチャして、比較してみよう。ちょうど、UR28MもQUAD-CAPTUREもコアキシャルのS/PDIFを装備しているので、お互いのサンプリングレートを合わせて操作すれば、ビットパーフェクトとなっているかの検証ができるはずだ。

dspMixFxアプリを使ってUR28MのS/PDIF出力から音を出そうとしたが、できなかった

 ところが、操作してみると、UR28MのS/PDIF出力から音を出すことができない。iPad用にUR28Mの内部ミキサーをコントロールするdspMixFxというアプリが出ているので、これを用いて操作して、iPhoneではなくiPadで再生させてみたりもしたのだが、どうもダメ。PC版のdspMixFxにあるS/PDIDF出力の設定項目がそもそも見当たらないので、どうやらデジタル出力がサポートされていないようだ……。

iTunesは本当にハイレゾで再生できているか検証

 行き詰まってしまったが、ここで思いついたのがハイレゾでないと聴こえない音のファイルを作ってしまえばいい、ということ。人間に聴こえるというよりも、マシンが測定できる音といったほうが、より正しい話だが、24kHz以上の音を作って再生すれば、正しく再生できているかが確認できるはずである。

 そこで、作ってみたのが32kHzのサイン波の信号。32kHzまでいくと、サンプリングレート96kHzではあまりキレイな波形にはならないのだが、まずはこれをWAVで生成。さらにiTunesを使ってALACに変換した上で、HF Playerへと転送してみた。

32kHzのサイン波の信号を使ってテスト
WAVで生成。さらにiTunesを使ってALACに変換して、HF Playerへと転送した

 そしてこれを先ほどと同様にUR28M、QUAD-CAPTURE経由でキャプチャして、WaveSpectraで解析してみた結果が下の写真だ。思っていた以上にキレイなグラフ表示がされた。間違いなく32kHzが再生されていたことが確認できる。試しに、UR28Mを外してiPhone本体のヘッドフォン出力から出してみたところ、そもそもQUAD-CAPTUREへと信号が入ってこない。やはり44.1kHzもしくは48kHzまでのサンプリングレートの信号しか出力できないので、32kHzの音は出力できなかった、ということなのだ。

UR28M、QUAD-CAPTURE経由でキャプチャして、WaveSpectraで解析
UR28Mを外してiPhone本体のヘッドフォン出力から出してみると、QUAD-CAPTUREへと信号が入ってこない

 ここまでのことを考えると、ALACで扱いやすくなったとはいえ、現時点ではハイレゾのALACデータはiOS標準のミュージックプレイヤー機能へ転送することができないし、HF Playerなどを使っても外付けのDACを用意しないとハイレゾで再生できないため、FLACでもALACでも大差ないのが実情のようだ。

 ここで、ふと心配になったのが、先ほどiTunesで再生した音は、本当にハイレゾとして再生できていたのだろうか……という疑問。以前の記事で、Windowsのオーディオエンジン(Windows XP時代にカーネルミキサーと呼んでいたもの)を使って再生する限りiTunesであっても、ビットパーフェクトは得られないことは検証済みで、そこには期待できないが、せめていまの32kHzの音がしっかり再生できることだけは確認しておきたい。ASIOドライバやWASAPIの排他モードが使えれば、そうしたチェックも簡単に行なえるが、iTunesではMMEドライバかWASAPI共有モードのみのサポートであり、これを使う場合、いろいろな手順を踏む必要がある。

 まずオーディオインターフェイス側を96kHzに設定した上で、サウンド機能のプロパティにおいて96kHz/24bitに設定しておく必要がある。この状態で、曲を再生させるとQUAD-CAPTUREのレベルメーターはしっかりと振れる。しかし、32kHzのALACファイルを再生してみると……QUAD-CAPTUREのレベルメーターがまったく振れない。iTunes自体が止まっているわけではなく、再生はしているようなので、どこかで24kHz以上の音が欠けてしまっているようなのだ。もしかしたら、筆者の踏んだ手順に何か問題があった可能性も否定できないが、いずれにせよ、ALACのハイレゾ再生は一筋縄ではいきそうにない。

オーディオインターフェイス側を96kHzに設定
サウンド機能のプロパティにおいて96kHz/24bitに
QUAD-CAPTUREのレベルメーターが振れなかった

 ただし、Macでは、32kHzの音もiTunesを使ってしっかり出すことができたので、ALACやiTunes自体の問題というよりも、Windows側の問題という気もする。Macに関してもまだ細かく検証しきれていないが、FLACを使いfoober2000やAudioGateなどのソフトを使うほうが無難なように思う。こうした問題について引き続き検証していくとともに、よりスマートなハイレゾ再生方法について模索していきたい。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto