藤本健のDigital Audio Laboratory
第594回:ついに登場した「AudioGate 3.0」フル機能版を試す
第594回:ついに登場した「AudioGate 3.0」フル機能版を試す
編集機能追加でDSD含むハイレゾ再生の使い勝手も向上
(2014/6/2 14:17)
5月30日、コルグからついにプレーヤーソフト、AudioGate 3.0のフルバージョン「AudioGate3.0.2」がリリースされた。待ちに待ったソフトの登場という感じであり、期待していたユーザーも少なくないだろう。
個人的にもコルグのUSB DAD「DS-DAC-10」を買うか、「DS-DAC-100」を買うべきかと迷った結果、春にDS-DAC-100を買ったところなので、首を長くして待っていた。さっそくダウンロードして使ってみたので、どんなソフトなのかを紹介していこう。
最新バージョンではソフト単体でも購入可能に
改めてAudioGateの歴史を振り返ってみると、AudioGateの初期バージョンが誕生したのはDSDでのレコーディングができる機材、MR-1およびMR-1000が2006年に発売されたときのこと。そのレコーディング機材にバンドルされるユーティリティソフトとして登場した。
そのときは本当にユーティリティソフトであり、WAVやDSDの各種フォーマット、つまりDSFやDSDIFF、そしてWSD同士の相互変換を行なったり、MR-1、MR-1000でできないカット処理やフェード処理を簡易的に行なうためのものだった。おまけ機能的にDSDのファイルをリアルタイムにPCMに変換して、オーディオインターフェイスなどで鳴らす便利な機能も装備していたが、当時はこれが多くの人が使うプレーヤーソフトになる、という考え方はなかったように思う。ちなみに、2006年はまだDSD対応USB DACなどない時代であり、そもそもDSDによる配信も始まる前だし、DSD DISCなども発明(?)される前の時代。そのため、どちらかといえばDSDIFFが主流であり、ソニーのVAIOで規格化されたDSFファイルなどは亜流な感じだった時代でもある。
しかし、そのAudioGateがいろいろなところで注目されるようになっていった。とくにプレーヤーとしての側面が評価されるようになったことからコルグもプレーヤー機能を強化させていった。具体的には、プレイリスト的な機能を持ったり、DSDディスクの書き込みができるような改良を加えると同時に、リアルタイム再生もより高音質にできるようにと、エンジン部分は完全に作りなおすなどしていったのだ。
AudioGate 2へアップデートされた際も、当初はあくまでもコルグのMRシリーズ・ユーザーのためのソフトであったが、2010年11月にユーザー以外の人も使えるようにと、Twitterウェアとしてフリー化したのだ。インストール時や変換時などに自動ツイートするということを条件にフリーで使えるようになったので、オーディオファンなどにも浸透するようになっていったのだ。とくにDSDのファイルがリアルタイムでPCM変換されて、USB DACやオーディオインターフェイスで再生できる機能は、当時ほかのソフトにはなかったため、DSDファイル配信の起爆剤にもなった。
その後、2012年11月にはDS-DAC-10が発売されるとともに、念願のDSDネイティブ再生に対応した。また2.8MHzだけでなく5.6MHzの再生も可能になるなど、パッと見は初期バージョンとあまり違いはないものの、着実に進化してきたのだ。
そのAudioGateがついに見た目を一新し、完全なプレーヤー指向のソフトとして生まれ変わったのだ。「画面サイズを自由に変更できるようにしてほしい」、「プレイリストで曲管理をしたい」といったユーザーの要望を取り入れて、新しいソフトとして登場した。
ただ待ち望んでいたユーザーからすると、ずいぶんと待たされた気もする。そもそも、AudioGate 3が発表されたのは、2013年10月。新USB DAC、DS-DAC-100とDS-DAC-100mの発売に合わせて12月上旬にリリース予定だったものが、開発遅れを原因に12月下旬に変更。しかし、12月末になり2014年春のリリースに再延期されたのだ。
ただし、プレーヤー機能に絞ったPlayer VersionであるAudioGate 3 Player v3.0.0が1月末から登場はしていた。正式なアナウンスはなかったが、フルバージョンが3月には出るという情報が流れていたものの、3月末に出たのは一部機能改善をしたAudioGate 3 Player v3.0.1。この時点でフルバージョンは5月下旬とアナウンスされたのだ。そう考えると3回目の延期だったようにも思えるが、ようやくの登場となったわけだ。
今回の新バージョンでは、ついにソフト単体での商品となった。DSD再生ができるHQPlayerやAudirvanaなどが、結構いい値段で発売されていることを考えれば当然のようにも思うが、価格は税込19,980円で7月31日までは期間限定半額キャンペーンとして、税込9,990円という設定。これまでTwitterウェアとしてフリー配布されていたことを考えると、結構大きなギャップも感じるところではあるが、ソフトとして単品購入する以外の利用方法も用意されている。
まずコルグのMRユーザーおよびDS-DAC-100、DS-DAC-10、DS-DAC-100mユーザーは、ソフトインストール後、機器を接続すれば自動的にプロテクトが解除され、フルバージョンとして使える。つまり、コルグ製品の付属ソフトであるという基本的な考え方はいままでどおりなのだ。一方、とりあえずDSFファイルの再生がしたい、というユーザーにとっては無料で使えるライト版が用意されている。インストーラ、ソフト自体は同じものだが、起動時にライト版を選択することで体験版的に使うことができる。ライト版の制限は出力サンプリング周波数が44.1kHzおよび48kHzに限定されていること。各種編集機能が使えないこと、エクスポート機能が使えないこと、リアルタイム変換処理が低負荷というモードのみに対応していること、そしてDSDディスクやCDなどのディスク作成機能に対応していないことだ。
なお、5月30日のAudioGate 3 Fullversion 3.0.2がリリースされたのに伴い、これまでのAudioGate 2.3.3の配布は終了し、新たにTwitterで認証することもできなくなった。ただし、すでに認証しているユーザーであれば使い続けることもでき、変換する際に自動ツイートする機能はそのままになっている。また、AudioGate 2.3.3の代わりに2.3.4というものも実はリリースされている。これは前のバージョンのほうがいいというユーザー向けにTwitter連動機能を省いたバージョンであり、MRシリーズやDS-DACシリーズを持っているユーザー限定のもの。やや探しにくくなってはいるが、AudioGate 3のFAQページの「旧バージョンのダウンロードはできますか? 」の質問のところから、ダウンロードできるようになっている。
波形表示と編集、書き出しなどの新機能を試す
さて起動してみると、AudioGate 2とはだいぶ違うユーザーインターフェイスになっている。これまでAudioGate 3 Player Versionを使ってきた人ならご存知のとおり、まずは画面サイズを自在に変えられるようになっている。これは、GUI部分とプレーヤー機能部分を別々に分け、表示や操作に関する部分をHTML5に委ねることで実現できているのだ。これにより全画面表示もできるし壁紙の変更なども可能となっている。
環境設定画面を開いてみると、まずここでオーディオデバイスの設定ができるようになっている。Windowsの場合、ドライバーの種類としてDirectSound、WASAPI、ASIOの3つが選択できるので、DS-DACシリーズなどがあれば、ASIOを選択する。
DS-DACシリーズがない場合、DSDのネイティブ再生はできないが、高品位なPCM変換をしながらの再生は可能となっている。また、その他タブを見ると、「リアルタイム変換処理」という項目があり、デフォルトでは「低負荷」となっている。これを高品位に変更することでPCMでも高音質な再生が可能になるのだ。このリアルタイム変換処理において、ターゲットとなるサンプリング周波数は接続しているUSB DAC、オーディオインターフェイスの最高のサンプリング周波数が適用されるが、もし必要があれば、デフォルトでAutoとなっているサンプリング周波数の項目を変更するといいだろう。
曲データを読み込んで再生してみると、DSDのデータでもPCMのデータでも画面上部に曲の波形の上半分が表示されるのが大きな特徴。これを見れば、曲の盛り上がりや間奏部分、ブレークするところなどが一目でわかるので、とても使い勝手がいい。こういう画面表示のプレーヤーソフトってあまりなかったように思うが、これだけでもAudioGate 3を導入する十分な理由になるのではないだろうか?
曲データの読み込みは、ファイルごと、フォルダごとの指定も可能だが、iTunesのソングを読み込めるようになったのも大きなポイントだ。
さらにプレイリスト管理が可能になったのもAudioGate 3の重要な要素だろう。画面左側にプレイリスト管理画面を表示でき、曲側のコンテクストメニューからプレイリストに追加したり、新規作成することが可能になっている。
ここでEditモードにすると、画面上部はステレオでの波形表示に変わる。波形エディタというほど高機能ではないが、波形の上半分だけで見るよりも、よりしっくりとくる画面ではある。ここでマーカーを打っていくこともできるし、Divideボタンによって分割することも可能。分割すると、曲リスト上にも前半と後半の2つが追加される形となる。さらに、Normalizeボタンをクリックすると、曲全体がセンシングされ、最大音量が0dBになるように調整される。
ただ、このノーマライズ処理をしても波形の大きさが変わらないので、おや? と思ったのだが、音を聴くと確かに大きくなっている。なぜだろうと思ってマニュアルを見たら、波形には反映されない、とのこと。よく見ると、Gainの表示項目のdB値が上がっており、ここで調整されていたのだ。こうした処理をしていて、ちょっと気になるのが、元のデータをいじってしまっていないのか、という点。ここについてはまったく心配なく、元データを壊したり、上書きしたりという心配は一切ない。曲データのフォルダの中を見てもその点は確認できる。これはフェードインやフェードアウト、左右バランスをいじったりした場合も同様で、あくまでも聴くための機能と捉えればいいようだ。
もちろん、こうした編集処理をファイルとして反映させる機能もある。それがエクスポートだ。つまり分割したり、音量を調整したりした結果を、新たなファイルとして書き出すことができるというもの。元のデータを壊す心配なく新たなファイルが作れるわけだ。
また書き出せるファイル形式が多いのもAudioGate 3の大きな特徴。Windows版ではWAV、BWF、AIFF、DSDIFF、DSF、WSD、MP3、WMA、WMA Professional、WMA Lossless、FLACのそれぞれに書き出すことができる。また、この変換処理においても低負荷と高品位という2つが選択できる。とくにDSDファイルからPCMファイルへ変換する際に有効なようだ。またPCMファイルを出力する際にはディザーを設定することも可能で、TPDIFディザーとKORG AQUAというものが選べるようになっている。
ためしにDSF 2.8MHzで4分31秒の楽曲を96kHz/24bitに変換する速度を低負荷と高品位で比較してみた。その結果、下のような結果になった。
【変換時間】
- 低負荷:15.9秒
- 高品位(KORG AQUAオン):25.8秒
- 高品位(ディザーなし):24.5秒
この辺の機能自体は、AudioGate 2とほとんど一緒ではあるのだが、やはりユーザーインターフェイスが変わって波形を見ながら操作できるようになった点は大きいように思う。一般にDSDの編集自体がほとんど不可能である中、単純な機能ではあるが、カットやフェード処理が簡単にできるというだけでもありがたい存在ではある。
以上、AudioGate 3のフルバージョンについて見てきたが、使い勝手もよく、今後プレーヤーソフトの定番となっていくだろう。ソフト単体での発売はされてはいるが、DS-DAC-100mの実売価格が3万円を切っていることを考えれば、ソフト単体で買うよりもハードを買うのが得であると思うが、捉え方はひとそれぞれなのかもしれない。
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