藤本健のDigital Audio Laboratory

第608回:音質重視のTASCAM USBオーディオ2機種をチェック

第608回:音質重視のTASCAM USBオーディオ2機種をチェック

高音質マイクプリ搭載、ドライバ変更。約18,000円のUS-2x2など

 既報のとおり、ティアックのTASCAMブランドから、新しいオーディオインターフェイス、US-2x2(ツーバイツー/店頭予想価格18,000円前後)、US-4x4(フォーバイフォー/同30,000円前後)、US-16x08(シックスティーンバイエイト/同42,000円前後)の3機種が発表され、このうちUS-2x2とUS-4x4の発売が開始された。ユニークなデザインであり、内蔵のUltra-HDDAマイクプリアンプの高音質性能を前面に打ち出したこれら2製品を使ってみたので、実際の音質がどうなのかなどをチェックしていこう。

右手前がUS-2x2、左奥がUS-4x4

US-366など既存モデルとの違いとは?

 ご存じのとおり、TASCAMはUS-366やUH-7000など数多くのオーディオインターフェイスのラインナップを持っているが、今回のUS-2x2、US-4x4は何かの後継モデルというわけではなく、新たに加わったラインナップ。名称からも想像できるように、US-2x2は2in/2out、US-4x4が4in/4outとなっており、使用するチャンネル数に応じて製品を選択できる形になっている。いずれもスペック的には最高で96kHz/24bitに対応した製品であり、入出力ともにアナログのみ。S/PDIFやAES/EBU、ADATなどのデジタル入出力は装備していない。TASCAMの現行の人気製品としてはUS-366があり、価格帯的にはUS-2x2あたりと完全にバッティングするのだが、マーケティング担当者に聞いたところ、ターゲットユーザーが大きくことなるのだという。US-366は多機能を求めるユーザー向けであるのに対し、US-2x2やUS-4x4はアナログ回路での音質性能を追求したモデルで、レコーディング時の音質性能、再生時の高音質を求めるユーザー向けである、とのこと。

 確かに、US-2x2、US-4x4とUS-366を並べてみると、質感からしてまったく違う。US-366の場合、天板と底板がアルミではあるが、サイドがプラスティックなので、とても軽いが、US-2x2やUS-4x4はオールメタル。サイドのデザインされた部分はアルミで、メインとなるボディーはスチールで、ずっしりとくる。US-366は140×140×42mm(幅×奥行き×高さ)で500gなのに対してUS-2x2は186×160×65mm(同)で1.1kg、US-4x4になると296×160×65mm(同)で1.6kgというところからも雰囲気が想像できるのではないだろうか? まさにガッチリしたオーディオインターフェイスなのだ。また、製品パッケージにはHi-Res AUDIOのロゴが描かれている。オーディオインターフェイスとしては初めて見たような気がするが、オーディオメーカーであるティアックの製品だから、こうしたロゴを積極的に取り入れているのかもしれない。

手前がUS-366、奥がUS-2x2(上)、US-4x4(下)
パッケージにHi-Res AUDIOのロゴ入り

 では、入出力を見ていこう。US-2x2のフロントには入力としてXLRとTRSの双方に対応したコンボジャックが2つ、右側にヘッドフォンジャックが1つある。IN 1、IN 2それぞれにマイクプリアンプのゲイン調整があるほか、MIC/LINEとINSTの切り替えスイッチが用意されているため、双方をINSTに設定すれば2本のギターを接続することも可能だ。また、左下にはファンタム電源スイッチがあるので、コンデンサマイクを使うこともできる。

 リアにはバランス対応のTRS端子でのラインアウトが2つあり、これがメイン出力。この出力レベルはフロントのLINE OUTで調整する。これはヘッドフォン用の出力とは完全独立した形になっているのも便利なところであり、これはこれまでのTASCAMのオーディオインターフェイスを含め共通のポイントだ。さらにMIDIの入出力、そしてUSB端子という構成となっている。

US-2x2は、前面にXLR/TRSコンボ入力とヘッドフォン入力を装備
MIC/LINEとINSTの切り替えスイッチを搭載
背面にライン出力とMIDI入出力、USBを備える

 一方のUS-4x4のほうはフロントを見ると、4つの入力があるが、コンボジャックではなく各チャンネルにXLRとTRSの2つの入力が独立してある。それぞれにマイクプリが搭載されており、独立してゲイン調整できるが、MIC/LINEとINSTの切り替えスイッチがあるのはIN 1とIN 2の2つのみ。IN 3、IN 4はマイクかラインでHi-Z対応にはならないわけだ。またヘッドフォン出力は右側に2つある。ただし、2つのヘッドフォン出力はボリューム調整も含め共通のもので、別々の設定ができるわけではない。リアパネルはTRS端子でのラインアウトが4つとMIDI入出力とUSB端子という構成だ。

US-4x4は各チャンネルにXLRとTRSの2つの入力を独立して装備
MIC/LINEとINSTの切り替えスイッチがあるのは2つのみ
背面にライン出力4系統とMIDI、USBを装備
MONITOR BALANCEノブ

 また、両機種ともフロントにMONITOR BALANCEというノブがある。左に回すとINPUT、右に回すとCOMPUTERとなっているが、これはダイレクトモニタリングを可能にするもの。通常は右に振り切った形で使うが、左に回していくと、入力された音がそのまま出ていく形となり、モニターバックのレイテンシーがゼロとなる。ただし、PC内のエフェクト処理などはできなくなるので、どう使うかはユーザー次第だ。

 なお、実際にPCと接続して使う上で、US-2x2とUS-4x4の間には一つ大きな違いがある。それは、モバイルレコーディングも想定したUS-2x2はUSBバスパワーで動作するのに対し、USB-4x4はACアダプタの接続が必要であるという点。確かにUS-2x2にもDC5Vの入力端子はあるのだが、これは後で紹介するiOSデバイス接続時に使うものであり、PCと接続する場合には不要となっている。またUS-4x4にはACアダプタが付属するが、US-2x2はオプション扱いだ。

 ボディーがガッチリしているとはいえ、US-366が192kHz/24bitまで対応し、最高で6in/6outであることを考えると、US-2x2やUS-4x4は魅力的に見えない気もするが、その点、TASCAMの開発担当者に聞いてみたところ、とくにマイクプリアンプ部分のアナログ回路設計がまったく異なり、US-2x2やUS-4x4のほうがはるかに高品位なものになっているのだそうだ。

 「Ultra-HDDA(High Definition Discrete Architecture)と名付けたマイクプリアンプ部はディスクリート回路で構成しており、1chあたりトランジスタを6基使用しています。US-366が2基であることを考えると、かなり違っているのが分かると思います。6つのうちダーリントン接続に4つ用いており、これによって増幅率が上がります。また低電流であるのもポイントです。マイクプリアンプに供給する電源に、電流が変化しないように低電流用のトランジスタを採用し、ホットとコールドで3つずつ、計6基のトランジスタであるというわけで、ほかにあまり例を見ないと思います」と開発担当者。これによってノイズの少なさを示すEINが-125dBuを達成したのだそうだ。またマイクアンプのオペアンプにTIのNE5532Aを採用しているのもポイント。

Ultra-HDDAマイクプリアンプを装備
マイクアンプのオペアンプにTIのNE5532Aを搭載

 開発担当者によれば、「このオペアンプは特徴としてSN、ひずみ性能がいいのはもちろん、ゲインの可変幅が57dBもあるのです。US-366の場合42dBだったので、14~15dBくらい広がっています。大きい音も歪まず入力できるし、小さな音も捉えられる。最近の多くのオーディオインターフェイスの場合、コンデンサマイクは結構大きい音で入力できるけれど、ダイナミックマイクだとゲインをマックスにしても音量が小さいことがよくあります。でも、今回発表した製品は、ダイナミックでも十分大きい音量が得られるし、コンデンサマイクでもクリップすることなく、いい音で捉えられます。この辺の性能が最大のポイント」とのことだ。

 こうしたアナログ性能面を売りにしているUS-2x2やUS-4x4だが、斬新なデザインも大きな特徴となっている。これはMOOGやWaldorfなどのシンセサイザのデザイナーとして著名なドイツ人のAxel Hartmann氏がデザインしたもの。両サイドの変わった形状の模様だけでなく、フロントパネル側が持ち上がる構造になっている。ハーフラックサイズ程度のオーディオインターフェイスは数多くあるが、水平に設置するのではなく、斜めになっているというのは珍しい。そういえば、だいぶ前のAvidのMbox2などが斜めになっていたが、フロントが持ち上がっていることにより、デスクトップ上での操作が格段にしやすくなる。個人的にはMbox2は不安定なデザインであまり好きではなかったが、こちらはかなりガッチリしているし、実際に操作してみても使いやすい。もちろん、この形状には好き嫌いはありそうだが、やはり水平設置がいいという人は、サイドのアルミ部分を取り外すこともできなくはない。

 11月発売のUS-16x08は、この取り外しが正式にできるようになっており、ここにラックマウント用のアダプタを取り付けられるようになっているが、US-2x2およびUS-4x4の場合の取り外しは自己責任。またその取り外しは、普通のマイナスドライバーやプラスドライバーではできず、六角形のトルクスドライバーが必要となる。試しに外してみたところ、全面ブラックのボディーになった。

サイドパネルのデザインも特徴
サイドパネルを外したところ

国産ドライバを採用。iPhone/iPad接続も

 ところで、今回のUS-2x2およびUS-4x4が従来のTASCAM製品と大きく変わった点がもう一つある。それがドライバだ。従来はドイツのPloytecにドライバの開発を委託していたが、今回は国産ドライバとなっている。設定できるパラメータはそう多くないが、バッファサイズを調整できるほか、出力する信号をダイレクトモニタリングにするのか、PCからの音にするのかといった設定も可能になっている。

ドライバの設定画面

 さて、実際にヘッドフォン、またスピーカーでモニターしてみたところ、Hi-Res Audioのロゴはあるけれど、いわゆるオーディオ機器の音ではなく、TASCAMのモニターサウンド。原音に忠実な分解能が高いサウンドであり、レコーディング用途には使いやすい。ただ、ハイクオリティなオーディオサウンドを求めて使うと、高域がキツ目で硬い音と感じられてしまう可能性も高いのでその点は注意したほうがいいかもしれない。

 では、いつものように、RMAA Proを用いて入力・出力トータルでの性能を図ってみた。US-2x2、US-4x4ともに、似た傾向のものになっているのがわかるだろう。96kHzでの結果を見ても、周波数特性は高域まで非常にフラットになっているのが分かるはずだ。

【US-2x2】

44kHz/24bit
48kHz/24bit
96kHz/24bit



【US-4x4】

44kHz/24bit
48kHz/24bit
96kHz/24bit
ASIO Latency Test Utilityでは正しく測定できなかった

 もう一つDTM性能において重要になるのが、レイテンシーだ。これについても、いつも使っているCentranceのASIO Latency Test Utilityを使ってみた。ここでUS-2x2を96kHzに設定するとともに、バッファサイズを最小の64Samplesに設定。これでテストしてみたところ、信じられないような結果が出た。0.68msecと、恐らく過去最高の数値が出ている。すぐにおかしいと思って、入力と出力を接続してループさせた状態からループを切った上で再度実験してみても、同じ結果になってしまうのだ。つまり、内部で音がループしてしまっており、まさに理想値のままで結果が出てきてしまったのだ。いろいろと設定してみたが、この内部ループを切ることができず、残念ながらレイテンシーテストはできずじまいだった。

 最後に、iOSとの関係についても見ておこう。US-2x2およびUS-4x4は、USBクラスコンプライアント対応となっているため、iPhoneやiPadなどのデバイスとUSB-Lightningカメラアダプタがあれば接続することができ、US-4x4の場合はマルチポートでの入出力にも対応する。実際に先日購入したiPhone6 Plusを接続してみたところ、しっかり4入力のデバイスとして認識することができた。ただし、iOSからは大きい電力供給ができないため、ACアダプタとの併用が必須。前述のとおり、US-4x4にはACアダプタが付属しているが、US-2x2はオプションとなるため、iOSデバイスとの併用を考えているならUS-4x4のほうがいいように思う。なお、Mac OS Xにおいてもドライバなしで使用することが可能だ。ただし、各種設定のためのセッティングパネルをダウンロードして使う形になっている。

iPhone6 Plusを接続すると、4入力のデバイスとして認識
Mac用の設定画面

 以上、TASCAMの新オーディオインターフェイス、US-2x2とUS-4x4を見てきたが、DSP内蔵で、ミキサーコンソールやエフェクトを内蔵するUS-366とは大きくコンセプトが異なる製品であることはお分かりいただけただろう。機能の豊富さをとるか、マイクプリ性能などの音質をとるか……なかなか難しい選択となりそうだ。

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US-4x4

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto