藤本健のDigital Audio Laboratory

第660回

Bluetoothやボカロと連携する“未来のMIDI”。「Think MIDI」で見た最新動向

 12月12日〜13日の2日間、東京のラフォーレミュージアム六本木で「Think MIDI 2015」というイベントが行なわれた。これは、1981年の誕生から34年経っても電子楽器の世界の中枢の規格であり続けているMIDIについて、改めて考えてみようという趣旨のイベントで「公益財団法人 かけはし芸術文化振興財団」が主催している。

ラフォーレミュージアム六本木で行なわれた「Think MIDI 2015」

 過去のさまざまなMIDI機器が展示されるとともに、冨田勲氏、松武秀樹氏、向谷実氏、篠田元一氏、浅倉大介氏、服部克久氏、千住明氏、大島ミチル氏、伊藤賢治氏、氏家克典氏と、MIDIにゆかりのある数多くのミュージシャンやアーティストが登場し、トークセッションを行なったり、ライブ演奏を繰り広げるという豪華なイベントだった。

豪華なミュージシャンやアーティスト陣が、トークやライブを行なった

 ただ、過去を振り返るばかりではなく、FUTURE MIDIと題され、これから先のMIDIの世界を示す、面白い展示も行なわれていた。そこで、ここでは、その新しいMIDIの世界にフォーカスを当てて紹介しよう。

“未来のMIDI”展示

 かけはし芸術文化振興財団って何? という人も少なくないと思うので、まずはその点から少し紹介しておこう。この財団の理事長はまさにMIDIを生み出した本人であるローランド創業者で元社長、元会長である梯郁太郎氏。昨年ローランドから離れ、ATVという新たなベンチャー楽器メーカーを設立した話は先日も書いたところだ。本来、12日のパネルディスカッションに梯氏自身が登場し、冨田勲氏などと対談する予定だったのだが、健康上の理由から急きょ取りやめになってしまったのは、とても残念だった。

 このThink MIDI 2015の展示スペースには、その梯氏がアメリカのSequential CircuitとともにMIDIをはじめてお披露目した際の実機2台が並べられていたのも驚きだった。その実機とはローランドのJupiter-6とProphet-600。いまでも接続して音が出るようで、これらは最新の機材ともそのまま接続できるのもMIDIの大きな魅力だ。

ローランドのJupiter-6とProphet-600が展示された

 「MIDI HISTORY」という展示では、16chあるMIDIの仕組みを活用したデモ・システムが用意されていた。ここには16台(実際には14chまで使った14台だったが)のMIDI音源が円状に並べられており、手元でチャンネルを設定してMIDIキーボードを弾くと、各MIDI音源が鳴ると同時に、そこにある電球が点灯するというもの。さらにはMIDI登場以前の歴史的シンセサイザも数多く展示されたり、「YMO楽器展」と称したYMOのライブツアーで利用された機材セットも展示されるなど、シンセサイザマニアにとっては、最高のイベントとなっていた。

「MIDI HISTORY」のデモ
YMOのライブで使われた機材の展示

 さて、ここからは「FUTURE MIDI」というタイトルの付いた最新のMIDI、未来のMIDIについて見ていくことにしよう。

「FUTURE MIDI」の展示

 展示とデモの中心を担っていたのはAMEI(音楽電子事業協会)だ。要するに電子楽器メーカーの業界団体であり、ここでMIDIの規格内容の協議などもおこなっているわけだが、今回のThink MIDI 2015のステージや展示では、AMEIとしてなかなか興味深い技術、製品を出していたので、紹介していこう。まずは、以下のライブステージをご覧いただきたい。

AMEI(音楽電子事業協会)によるライブステージ
演奏の動画

 この演奏、どうということがないように思うかもしれないが、実は、ここで出ている音源はリズムも含め、すべてWebブラウザであるGoogle Chromeだけを使っての音源を使って、リアルタイムにキーボードを弾いて演奏しているのだ。Web MIDI APIとWeb Audio APIというものを使ったものなのだが、まさにライブで利用できるレベルまで進化しているのである。こうしたブラウザ上の音源については、以前にも紹介したことがあったが、短期間で、まさに実用レベルまで来ているわけだ。

 一方、AMEIの展示スペースのほうで注目を集めていたのは1月下旬に発売が予定されているコルグのミニキーボード「microKEY Air」。見た感じ、特に何の変哲もないUSB-MIDIキーボードなのだが、実はこれ、Bluetooth LE(Low Energy)に対応したもので、ワイヤレスでMIDIが送れるのが特徴。Bluetooth LEでMIDI送受信できる機材としては以前にもmiseluのC.24やQUICCO SOUNDのmi.1といったものがあったが、ここ1年でその仕様が固まり、各社とも互換性のあるプロトコルに集約してきた結果、満を持して大手メーカーのコルグが参入したというわけだ。

コルグのミニキーボード「microKEY Air」

 規格の名称としては「MIDI over Bluetooth Smart」と呼んでいたが、これはもともとAppleがiOSに搭載していた技術をベースに仕様を固めたため、iOSやMac OS Xではそのまま使える形なのだが、ここではWindowsでも動くことがデモされていた。まだプロトタイプとしつつも、WindowsでMIDI over Bluetooth Smartに対応するドライバをコルグが開発しており、これを使ってMIDIの送受信を行なっていたのだ。実際触ってみたところ、ASIO4ALLで動かしていたのにレイテンシーは30msec以下という印象だったので、かなり使えそうだ。今後は正式にマイクロソフトがこれに対応した機能を搭載してくるはずだが、当面の間は、このコルグドライバが大きな力を発揮してくれそうだ。

MIDI over Bluetooth Smartに対応
Windows用のドライバをコルグが開発

 その隣で展示していたのはiPhone上のブラウザで、指をタッチして上下/左右に動かすと、それに伴って音が鳴ったり、映像が動くという、メディアアート的なシステムだ。まったく楽器が弾けない人でも、演奏を楽しめて、グラフィックも動かせるというシステムなのだが、指で触った情報をJSON@WebSocketで小型コンピュータのRaspberry Piに飛ばし、これをプログラムによってMIDIとOSC(Open Sound Control)の信号に変換するというもの。今後、Raspberry Piがハブ的役割をしているわけだが、この仕組みがより一般化されると、さまざまなメディア間通信も可能になりそうで、面白そうだ。

iPhoneのブラウザで音を鳴らし、映像を動かすことができるデモ
iPhoneから、Raspberry Piにデータを飛ばす
MIDIとOSC(Open Sound Control)の信号に変換して鳴らす

 もう一つAMEIでデモを行なっていたのは、ギターを弾くと映像が変化するというシステム。これはローランドのMIDIギターを使ったシステムとなっており、ギターを弾くと、弦の1本1本がMIDI信号として出力される。その信号をそのままPCへ突っ込み、Google Chrome上のプログラムへと送っているのだ。

MIDIギターを弾くと映像が変化するというシステムのデモ

 以前にも紹介したことがあるが、このChromeにはWeb MIDI APIという仕組みが搭載されている。そして入ってくるMIDI信号をリアルタイムに受信できるようになっているので、これを使ってグラフィカルに表示できるような変換を行なっているのだ。実際のデモをビデオで撮影したものが以下のもの。

ギターを弾くと、リアルタイムで映像が変化

 これを見てもわかるとおり、6本の弦の演奏状況が帯のようなグラフィックで表示され、ピッチの揺れが丸い球状のもので表現されているのがわかるだろう。これだけのシステムがブラウザ上の比較的簡単なプログラミングだけで実現できるのがWeb MIDI APIの面白いところ。もちろん、こうした映像系のものだけではなく、メーカーが提供するさまざまなユーティリティをブラウザ上で実現していくなど、さまざまな利用法が出てきそうだ。

VOCALOIDの歌声をリアルタイムで出せるキーボード

 Think MIDI 2015ではメインステージとサブステージという2つのステージが用意され、交互にライブ演奏やセミナーなどが行なわれていったのだが、国産DAWであるAbility ProやMegpoidなどのVOCALOID製品を展開する株式会社インターネットのサブステージでは試作品のVOCALOID KEYBOARDが披露された。これはヤマハが開発した試作品であり、まだ発売されるかどうかなどもまったく決まっていないとのことだったが、なかなか楽しい機材だった。ステージでキーボード奏者の西脇辰弥氏が演奏したものの一部をビデオで撮影したので、ご覧いただきたい。

「VOCALOID KEYBOARD」の演奏デモ
VOCALOID KEYBOARDの試作機を使用

 お分かりいただけるだろうか? Megpoidの歌声を西脇氏がキーボードで演奏すると、それがリアルタイムに発音されている。このキーボードがPCに接続されているというわけではなく、このVOCALOID KEYBOARD自体で発音しているのだが、この中にはDSPが搭載されており、それを使って発音しているとのこと。考え方としては、学研が発売したポケットミクのキーボード版のようではあるが、内部のシステムは大きく異なる。ポケットミクの場合はNSX-1という音源チップを使ったeVocaloidという、ある種プレイバックサンプラー的なものを使っているのに対し、こちらは本家VOCALOID。正確にいうと、iOS上で動くMobile VOCALOID EditorのエンジンをDSP用に移植したものであり、iPhoneやiPadで動くのと同等のクオリティの発音をしてくれるのだ。

VOCALOID KEYBOARDのDSPで歌声を出す
iPhone/iPad版VOCALOIDと同等の発音ができるという

 ユニークなのは、操作性。事前に歌詞データを送っておき、それを元に発音させるのだが、実際に演奏してみると、ミスタッチなどにより歌詞が飛んでしまったり、追い越してしまったりというトラブルが生じやすい。そこで、左手で押せるボタンが5つ用意されており、ここで歌詞操作ができるようになっているのだ。具体的には1文字ずつ、進めたり、戻したり、頭へとリセットしてリカバリーするというもの。また特定の文字で止めて、たとえば「ラ」だけを連続発音させるモードなどもある。先ほどのビデオでも、リカバリーボタンを押しているのに気づいただろうか? 演奏の操作性というのが大きなポイントとはなりそうだが、ぜひ製品化を期待したいところだ。

MIDIでコントロールするオルゴール

 最後にもう一つ変わった楽器を紹介しておこう。スリックという会社が展示していたのはCANADEONというオルゴール。そもそもオルゴール自体は楽器というわけではなく、17世紀に登場した自動演奏装置。シリンダーに並んだピンで櫛の歯をはじくことで音を鳴らす装置であるが、その独特なサウンドに心惹かれる、という人も少なくないはず。そこで、その音色をサンプリングするのではなく、櫛の歯をはじく構造はそのままに、MIDIでコントロールできるようにしてしまったのが、CANADEONなのだ。

スリックのオルゴール「CANADEON」

 スリック自体は楽器メーカーなどではなく、振動・衝撃を記録するショックレコーダーやDV(i.Link)端子機器を作る松本のメーカー。社長の趣味で、CANADEONを開発してきたのだが、特殊な構造ゆえに、膨大な時間と資金を投入してきたのだとか。今回そのデモ演奏がされていたので、ぜひご覧いただきたい。

CANADEONの初代機
CANADEON初代機による演奏デモ

 まだプロトタイプではあるが、製品化のメドはついたので、1年後には発売するという。価格はまだ確定していないが、20万円以内を目指すとのことなので、楽しみにしたい。

 以上、MIDIの未来という点だけに焦点を当ててThink MIDI 2015についてレポートしたが、いかがだっただろうか? このイベント自体は、シンセサイザの歴史やさまざまなミュージシャンによるライブが中心だったので、かなり偏ったレポートではあるが、こんなところからMIDIについて改めて興味を持っていただけると嬉しい。

 ちなみに、Think MIDI 2015の2日目には筆者自身もサブステージで「ポップスでのストリングス打ち込み講座」というプログラムを行なった。これは隔週火曜日にニコニコ生放送で行なっている筆者と作曲家の多田彰文氏による番組「DTMステーションPlus!」の特別編という位置づけ。取材をしつつ、自分も出演するというなかなか楽しい体験でもあった。まさにMIDIの祭典ということでお祭り気分だったわけだが、ぜひ、こうしたイベントが定期的に行なわれるといいなと思った次第だ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto