藤本健のDigital Audio Laboratory

第661回:コルグ「DS-DAC-10R」と「AudioGate 4.0」でDSD録音。他社DAWソフトでも動く?

第661回:コルグ「DS-DAC-10R」と「AudioGate 4.0」でDSD録音。他社DAWソフトでも動く?

 先日の記事でもお伝えした通り、コルグからDSDの録音と再生が可能なUSB DAC/オーディオインターフェイス「DS-DAC-10R」が、11月下旬より発売が開始された。新たにDSD録音ができるようになっただけでなく、アナログレコード再生/録音を想定したユニークな機能なども備えている。そのDS-DAC-10Rを実際に試してみたので、どんな製品なのか紹介しよう。

コルグ「DS-DAC-10R」

これまでのDS-DACシリーズとの違いとは?

 DS-DAC-10Rはコルグがこれまで出してきたDSD対応のUSB DACであるDS-DAC-10、DS-DAC-100、DS-DAC-100mのシリーズに追加された製品。これまで登場してきた製品はいずれも現役モデルであり、生産終了になったモデルはないため、これが4つ目という位置づけ。ただし、従来の3モデルはいずれも基本的な設計は同じで、形状や出力端子が主な違いとなっていたが、今回のDS-DAC-10Rは入力端子が設けられたということもあり、設計も大きく変わっているようだ。価格はオープンプライスで、実売価格は6万円前後。実際、従来3製品はいずれも同じドライバで動いたが、DS-DAC-10Rのドライバは別のようで共通性はないようだ。

ドライバは従来のDS-DACシリーズと別になっている

 既存モデルのDS-DAC-100と、新モデルのDS-DAC-10Rを並べてみると、デザイン的にもずいぶんと異なるが、機能面において何が共通で何が違うのかという点から見ていこう。

 まずリアを見てみると、DS-DAC-100はRCAとキャノン(XLR)の出力が搭載されており、どちらも基本的に同じ信号が出てくる設計だ。それに対し、DS-DAC-10RはRCAのステレオ端子が左右に分かれて搭載されており、左側が出力、右側が入力となっている。また、この印字を見ると入力のほうがLINE IN/PHONOとなっているのが大きなポイントとなっているのだが、この点については後ほど詳しくみていこう。

左が既存のDS-DAC-100、右が新モデルのDS-DAC-10R
DS-DAC-100の背面
DS-DAC-10Rの背面
DS-DAC-100は前面のインジケータでサンプリングレートが分かる

 一方フロントを見てみると、こちらも大きく変わっている。DS-DAC-100の場合はサンプリングレートを変更すると、インジケータであるLEDランプが点灯し、現在何kHzまたは何MHzで動作しているのかが確認できるようになっている。それに対しDS-DAC-10Rの場合、そのインジケータがなくなっている。代わりにボリュームノブの根元で光る色が変わってサンプリングレートがいくつなのかを示すようなっているのだ。

 対応しているサンプリングレートは両機種とも同じでPCMでは44.1kHz/48kHz、88.2kHz/96kHz、176.4kHz/192kHz、DSDでは2.8MHzと5.6MHz。最近徐々に登場しつつつある11.2MHzには対応していないようだ。また、フロントにはヘッドフォン端子が1つ用意されているのも共通であり、再生という面だけを見れば、どちらも基本的な機能は同等。なお、このボリュームノブはDS-DAC-100と比較してもやや重めとなっていて気持ちいい。

ボリュームノブ部のLEDの色がサンプリングレートによって変わる。写真は44.1kHz/48kHz時
88.2kHz/96kHz
176.4kHz/192kHz
DSD 2.8MHz
DSD 5.6MHz

 DS-DAC-10Rでオーディオを再生するには、コルグが配布しているプレーヤーソフトであるAudioGateの最新版、AudioGate 4.0を利用することになる。AudioGate 4.0自体は通常19,980円(2016年1月31日までは12,960円)のプレーヤーソフトウェアとなっているが、これまでのDS-DACシリーズと同様、ソフトウェア起動後、DS-DAC-10Rを接続するとオーソライズされ無料で使えるようになっている。

AudioGate 4.0

 環境設定画面を見てみると従来製品のドライバ名である「KORG USB Audio Device Driver」とは別に「KORG 2ch 1bit Audio Device」というものが入っており、後者がDS-DAC-10R用となっている。これを設定した上で、WAVやFLAC、MP3などのPCMのファイルでも2.8MHzや5.6MHzのDSDのファイルでも、再生することができ、サンプリングレートに合わせてノブの根元の色が変化することを確認できる。

DS-DAC-10Rを接続すると、AudioGate 4.0が無料で使える
環境設定画面

レコーディング時にフォノイコライザの種類を変更可能

 では、ここからが本題。DS-DAC-10Rを使ったDSDのレコーディングとはどのようにして行なうのだろうか? これもAudioGateを用いて行なうのだが、4.0になったことで搭載されたRec機能を使っていくのだ。まず、画面左上の「Edit/Rec」というボタンを押すと編集およびレコーディング用の画面に切り替わる。ここで、まずチェックするのが録音設定についてだ。「Rec Setting」ボタンを押すとと、各種設定をする画面が現れるが、まず「DSD録音ファイル形式」をDSDIFF、DSF、WSDのいずれかを選択する。そして「入力の種類」のところがデフォルトではPhonoになっているが、必要に応じてLineに切り替えることも可能。これを切り替えると、本体がカチン、カチンと鳴ることからもわかる通り、内部にリレーがって、物理的に回路自体を切り替えているようだ。

レコードプレーヤーとの接続例(製品発表時のデモ)
編集/レコーディング画面
DSD録音ファイル形式を選択
Phono/Lineの切り替えが可能

 フォノイコライザを持っていないレコードプレーヤーを接続する場合はPhonoに、フォノイコライザ搭載のレコードプレーヤーや一般のオーディオ機器に接続する場合はLineを選べばいいわけだ。ちなみに、この入力切替は、現在のところAudioGateを使わないと切り替えられないようだ。ユーティリティソフトとして「DS-DAC-10R Setting Tool」があるので、これでできるのでは? と思って確認したところ、現在入力がPhoneなのかLineなのかの確認はできるものの、これで切り替えることはできないため、AudioGate以外に手段がないようだ。

 続いて、画面左上のサンプリングレートが表示されているところをクリックすると、再度環境設定の画面が現れる。ここで、「サンプリング周波数」を設定する。44.1~192kHzを設定すればPCMに、2.8MHzまたは5.6MHzを選択すればDSDでのレコーディングが行なわれることになり、ノブのところのLEDの色も変化する。

「DS-DAC-10R Setting Tool」ではPhono/Line切り替えはできないようだ
環境設定でサンプリング周波数を選択

 入力回路およびサンプリングレートが決まったら、次にInput Monitorをオンにするとレベルメータが動き出すとともに、入力された信号がそのままヘッドフォンおよびメイン出力へとスルーされる。そしてレベルメータ左側のINPUTを上下に動かすことで、入力レベルが決められるのだ。これは、AudioGateのソフト側の入力音量ではなく、DS-DAC-10R内部の入力パラメータをリモートコントロールしているので、ハード的に効く形になっている。この入力レベルについては、前述のDS-DAC-10R Setting Toolでも動かせるようになっているのだが、WindowsにおいてはAudioGateとDS-DAC-10R Setting Toolが排他的な制御になっているようで、両方起動しても連動はしてくれず、やや不安定な動作になってしまった。この辺はまだ発展途上なのかもしれない。

右上の「Input Monitor」をオンにして、入力レベルを決める

 さて、ここで面白いのがPhone接続している際のフォノイコライザだ。再度Rec Settingボタンを押し、「録音用フォノ・イコライザーの種類」のメニューを見てみると、Off、RIAA、RIAA+IEC、NAB、COLUMBIA、FFRR、AESと並んでおり、この中から再生するレコードにあったフォノイコライザを選択できるようになっている。通常はRIAAを選択すればいいはずだが、ものによっては特性の異なるものもあるので、それにマッチしたフォノイコライザを選択してみるというのもレコード再生の面白さかもしれない。通常、異なる特性のフォノイコライザを実現するには、そうしたものに対応した高価な機材が必要になるが、AudioGate 4.0の場合、その機能をソフト的に実現しており、リアルタイムにEQをかけてモニターできるので、気軽に音の違いをチェックすることが可能。これだけのためにDS-DAC-10Rを購入しても損はなさそうだ。

録音用のフォノイコライザを一覧から選べる

 さて、この状態で録音ボタンを押すと、LEDの色が赤く変わり、録音がスタートする。この時、画面には波形は何も表示されず、レコーディングをストップしたところで表示される仕組みになっている。録音された結果は、先ほどのフォノイコライザを掛けた状態での掛け録りだ。一方で、フォノイコライザなしで録音し、再生時にフォノイコライザを掛けるという手段も用意されている。この場合はRec Settingボタンの下にある「Phone EQ」のところをクリックする。通常は「Off」が設定されているが、ここでいずれかの設定を選択すれば、後からでもフォノイコライザを変えて聴くことができる。一般的な使い方ではないが、もしRIAAではないかも知れないという作品で、後からじっくり比較してみたい場合などは、この方法を使うのがお勧めだ。その上で、いずれかのフォノイコライザに確定できれば、その時点でExportボタンを押して書き出すことで、フォノイコライザをかけた状態で保存することができるのだ。

録音が始まると、ボリュームノブ部のLEDが赤に変わる
録音を止めると波形が表示
再生時にフォノイコライザを掛けるには「Phone EQ」をクリック

 以上が、DS-DAC-10RとAudioGate 4.0を使った場合の利用法。基本的なユーザーインターフェイスは従来のAudioGate 3.0を踏襲しているから迷うことはないし、フォノイコライザの掛け方の流れさえ理解してしまえば、誰でも簡単に使えるはずだ。

他のDAWソフトでもレコーディングはできる?

 このDS-DAC-10RをAudioGate 4.0以外のソフトと組み合わせてのレコーディングはできるのだろうか? 残念ながら現時点では他にDSDのレコーディングが可能なソフトが存在していないので、使えそうにない。ASIO 2.1を利用するレコーディングソフトとして、ソニーの昔のSonicStage Mastering Studioがあれば認識してくれるかもしれないが、手元にその環境がなかったためチェックすることができなかった。なお、11月に行なわれた「Embeded Technology」のインターフェイス株式会社のブースでは、DS-DAC-10Rを利用してのレコーディングソフトのデモを行なっていたので、今後そうしたソフトが出てくる可能性はありそうだ。一方で、PCMならオーディオインターフェイスとして機能するのだろうか?

 Cubase Pro 8.5とStudio One 3の2つのDAWを使って試してみた。結論からいうとどちらでもレコーディングは可能で、フォノ入力でもライン入力でも利用することができたし、ドライバ設定画面でサンプリングレートの変更なども可能。ただし、前述の通り、Phone/Lineの切替はAudioGateを使わないとできないので、あらかじめ設定しておく必要がある。また、フォノイコライザが動作したのはあくまでもAudioGate上であって、DS-DAC-10Rそのものには何もないため、これらDAWとセットで使った場合はフォノイコライザは機能させることはできない。

PCMだとCubase Pro 8.5でもレコーディングできた
Studio One 3でもレコーディング可能
ドライバ設定画面でサンプリングレートを変更できる

 もう一つ気になったのは、これらDAWでレコーディングする場合、ノブが赤く光らないということ。AudioGateの場合は、録音フォーマットがPCMであればDSDであれ、録音するときには赤く光ったが、CubaseやStudio Oneの場合はそうならないので、赤く光ったのはAudioGate側からの信号だったのかもしれない。

 同じ設定でPCMでレコーディングしている限り、音質的にはAudioGateでもDAWでも変わりはない。Lineで録音した感じでは、とてもストレートな音で、とくにDS-DAC-10Rを通したから音が変わるというものではなく、とってもドライな音だ。これがコルグ初のオーディオインターフェイスというわけだから、せっかくなので、いつものRMAA Proを使ってオーディオ入出力性能をチェックしてみようとしたのだが、これはうまく動かなかった。RMAA ProがASIO 2.1以上の正式ドライバに対応していないからかもしれないが、これを起動するとハングアップしてしまうので断念した。

 以上、コルグのDS-DAC-10Rについて見てきたがいかがだっただろうか? フォノイコライザを自由に選択でき、リアルタイムに利用できるという面では、非常にユニークな機材だ。PCMベースであれば他のソフトとの組み合わせは可能だが、現時点において、基本的にはAudioGate 4.0とセットで使う、やや特殊なオーディオインターフェイスといったところだろう。今後、このDSD機能をネイティブにサポートするDAWなどが誕生してきてくれると、一段と面白くなってきそうなので、これからさらに期待したい。

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藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto