第404回:ローランドが2010年春の新製品を発表

~ネットブック対応MIDIや、新OCTPADなどが登場 ~


 2月3日、ローランドが東京都港区の赤坂ブリッツでプレスおよび販売店向けに、2010年春の新製品発表会を行なった。1月に米国で開催されたNAMM SHOW 2010で発表した新製品に関する国内でのお披露目となっている。

 約8年ぶりとなるDTM用のMIDI音源「Mobile Studio Canvas SD-50」が登場したり、SONAR 8.5 LEという新バンドルソフトを搭載するMIDIキーボードやギター用マルチエフェクトが登場するなど、精力的に新製品が投入された。実際、どんな製品なのか、紹介していこう。

発表会は赤坂BLITZで行なわれた


■ ネットブックで動作するMIDI音源「Mobile Studio Canvas」など


田中英一社長

 今回の発表会では代表取締役社長の田中英一氏が中心となってプレゼンテーションを行ない、Roland、BOSS、Cakewalkの3ブランドで各種製品が発表された。かなり多くの製品が登場したが、その中で、DTMの観点からすると、目玉は久しぶりのDTM用MIDI音源「Mobile Studio Canvas」だろう。これは、MIDI音源であるSD-50と、DAWであるMUSIC CREATR 5をバンドルした製品で、3月下旬にオープン価格(実売価格:45,000円前後)で発売される。このMobile Studio Canvasというパッケージ名から、往年の名機であるSound Canvas SC-55mkIIやSC-88などを彷彿させるが、これはまさに現代のMIDI音源。

 本体にはGM2やGSのロゴマークもあるため、昔の音源との互換性もあるが、SD-50は昔の音源を復活させることを目的にした製品ではないとのこと。実際ここには高音質・ハイクオリティーな1,125音色、32ドラムセットを搭載しており、中でも特筆すべきがバイオリン、トロンボーン、尺八の3音色だ。実際、ライブ風演出のデモ演奏でも使われていたが、明らかにサンプリング音源とは異なる音であり、ループポイントなどもなく、非常に自然なアコースティック・サウンドとなっているのだ。


DTM用MIDI音源のMobile Studio Canvas本体右下にGM2やGSのロゴ

SD-50の背面

 ローランドではこうしたサウンドを作り出す、「SuperNATURAL」という技術を持っている。SD-50にはSuperNATURALというロゴや記載はないが、この技術の一部が使われている可能性もありそうだ。

 SD-50はMIDI音源であるだけでなく、USBのオーディオインターフェイスとしても機能する。24bit/44.1kHz対応で96kHzなどのハイサンプリングレートには対応していないものの、ギターやベースを直接入力できるHi-Z対応で、ファンタム電源も装備しているためコンデンサマイクとの接続も可能となっている。

 ところで、なぜMobiel Studio Canvasと頭に「Mobile」と付いているのだろうか? 実はこれが、このタイミングでMIDI音源をリリースしたポイントでもある。そう、ネットブックでもDTMが楽しめるようにというのが製品コンセプトとなっているのだ。実際、筆者も試してみたがATOM搭載のネットブックでDAWを動かそうと思っても、重くて動かない。しかし、その動かない最大の要因はソフトシンセであるため、これを外部音源化すれば、快適に動作するというわけなのだ。持ち歩いても利用できるように電源もUSBバスパワー、ACアダプタそして単3電池×6本の3Way方式となっている。

 さて、このハードウェアに対してソフトウェアのMUSIC CREATOR 5はSONARをベースにしたDAWだ。最高で24bit/48kHz、32ステレオトラックでのレコーディングができるソフトで、編集、ミキシング、マスタリングまでトータルして音楽制作全般を支えてくれるものとなっている。

 このMUSIC CREATOR 5は単体でも2月下旬より発売が開始され、単体の場合はオープン価格(実売価格は約7,000円)となっている。もちろんMUSIC CREATOR 5にはMIDIシーケンス機能もあり、SD-50をコントロールできるが、ソフトシンセも4種類搭載。ネットブックで使うのは厳しいが、普通のPCであれば、大いに活用できるはずだ。この4種類の中での注目は新音源、Cakewalk Sound Centerというもの。これはピアノ、ベース、ギター、ストリングスなど150種類の音色を内蔵したものだが、Cakewalkの定番音源であるD-ProとRaptureから使える音を集めたプレイバック専用の音源。あまり音色をいじることはできないが、使える音色がいっぱい用意されている感じだ。

MUSIC CREATOR 5150種類の音色を内蔵したCakewalk Sound Center

Amplitube X-GEARも同梱

 MUSIC CREATOR 5のもうひとつの特徴は、IK Multimediaのギターアンプシミュレータ、Amplitube X-GEARが同梱されていること。ビンテージからモダンまでいろいろなバリエーションが用意されており、アンプモデリング的には12種類があるとのことだ。

 なお、MUSIC CREATOR 5はUSBオーディオインターフェイスのUA-1Gとセットにした「MUSIC CREATOR 5 Audio Recording Pack」(オープン価格:実売15,000円前後)、MIDIインターフェイスのUM-1Gとセットにした「MUSIC CREATOR 5 MIDI Recording Pack」(オープン価格:実売10,000円前後)という商品も用意されている。



■ SONAR 8.5 LEをバンドルするUSB-MIDIキーボード

A-300PRO

 もうひとつDTM関連の製品として登場したのがUSB-MIDIキーボードだ。これまでEDIROLブランドのPCR-300、PCR-500、PCR-800という鍵盤数の異なる3つのコントロールサーフェイス搭載キーボードが主力製品だったが、今回はCakewalkブランドに変更になるとともに、A-300PRO、A-500PRO、A-800PROのそれぞれにリプレイスされることとなった。

 MIDIキーボードとして、またコントロールサーフェイスとしての機能は大きくは変わらないが、今回のモデルチェンジの最大の特徴は7セグメントのLEDによるインジケータから液晶ディスプレイに変わったこと。これによって、操作性が大きく向上するとともに、各音源の音色パラメータなども表示可能になった。実際、前出のSD-50のコントロール・マップにも対応しており、これを選んでおけば音源を内蔵したキーボードのような感覚で操作できる。

A-500PROA-800PROSD-50のコントロール・マップにも対応している

 

SONAR 8.5 LE

 またコントロールサーフェイスの右側に8つのパッドが並んでいる。これを利用すれば、ドラム音源などを叩くことができるので、打ち込み用にはもちろん、ライブパフォーマンス用にも便利に使えそうだ。そしてこれらの共通してバンドルされるのが新たに登場したSONAR 8.5 LE。これまではSONAR 6 LEがバンドルされていたが、最新のSONAR 8.5をベースにしたバージョンに切り替わったわけだ。ユーザーインターフェイスが、SONAR 8.5の渋い感じの画面に切り替わるとともに、機能的にも向上している。最大24bit/96kHzに対応し、オーディオトラック数は32トラックまで利用可能となっている。

 また、このSONAR 8.5 LEと3本のソフトシンセがセットとして1枚のDVD-ROMに収められており、Cakewalk Production Plus Pack(以下PPP)となっている。実は従来のSONAR 6 LEでも同様のパッケージ名であったが中身は大きく変わっている。この3本のソフトシンセとは、MUSIC CREATOR 5に同梱されているものと同じ、Cakewalk Sound Center、そしてマニアックな音作りが楽しめるRAPTURE LE、そして協力なドラム音源であるStudio Instruments Drum Kitの3つ。そのほか、SONAR 8.5 LE本体にはPSYN-II、DropZoneの2つが音源として入っているので、計5つ。これだけあれば、かなりいろいろと使えそうだ。

 このPPPがバンドルされた4種類のキーボードはいずれも3月下旬発売予定でオープン価格。実売価格はそれぞれ25,000円前後、30,000円前後、35,000円前後となっている。なおA-500PROからコントロールサーフェイス部分を取り除いたともいえるキーボード、A-500Sも登場。これは現行機種のPC-50の後継に当たる製品で、同じく3月下旬発売、オープン価格で実売価格が15,000円前後となる見込みだ。

RAPTURE LEStudio Instruments Drum KitA-500S

 SONAR 8.5 LEがバンドルされるのは、Cakewalkブランド製品ばかりではないのも面白いところ。今回発表された製品の中ではBOSSブランドのギター用マルチエフェクト、ME-25にもバンドルされている。ME-25はローランドのCOSMテクノロジーを用いて作られた10種類のアンプモデリングを搭載し、CLEAN、CRUNCH、DRIVE、HEAVY、LEAD、EXTREMEの6つのカテゴリーから音色を簡単に選択できるユーザーインターフェイスの優れた製品。38秒までのレコーディングができるフレーズ・ループ機能なども搭載されている。

 そのME-25にはUSB端子が搭載されており、ME-25のオーディオ出力をそのままオーディオインターフェイスとしてPC側で取り込むことが可能になっている。そしてPPPを使えば、そのままギターの演奏をレコーディングし、音を重ねていくことができるというわけだ。なお、ME-25はACアダプタおよび単3電池×6本でも動作する2電源方式となっている。

Cakewalk Production Plus PackがバンドルされるME-25
Roland BATTERY BANDが結成

 今回の発表会では、篠田元一氏(キーボード)、中野豊氏(ギター)、山崎彰氏(ドラム)、大高清美氏(キーボード)、吉野聡留氏(ボーカル)というプロミュージシャンが、実際の製品を使いながらデモを行なったり、解説・感想を述べるといったライブ形式で進められたのだが、個人的にちょっと面白かったのは、吉野聡留氏をボーカルにバックはローランド社員3名という編成で行なわれたRoland BATTERY BAND。そうその名のとおり、バッテリー駆動する機材だけで演奏するバンドで、ストリートパフォーマンスなどに最適であることを訴えたものだ。

 今回の新製品としてもAC-33(2月12日発売、オープン価格:実売40,000円前後)という15W+15Wのアコースティックギター用のステレオアンプ、KC-110(2月12日発売、オープン価格:実売40,000円前後)というやはり15W+15Wのキーボードアンプが発表され、これがRoland BATTERY BANDのステージに使われていた。

Roland BATTERY BANDのメンバーAC-33KC-110


■ 新OCTAPADや、V-Drums新製品も登場

 ドラム関連では2製品が登場した。ひとつはOCTAPADだ。この名前を聞いてオヤ? と思う方もいるだろう。そう、25年前にリリースされ、一世風靡した8つのパッドを持つ電子パーカッションの名前だが、そのコンセプトをそのままに、型番はSPD-30とRolandのSPDシリーズの最新モデルとして登場したのだ。

 最大の特徴は3種類のキットを同時に駆使することができるフレーズループ機能。レコーディングを目的にしたものではなく、あくまでもリアルタイムパフォーマンスを目的にした機能で、3種類のキットを使い分けながら音を重ねていくことができるわけだ。また670音色というバリエーション、30種類のマルチエフェクトなど基本機能も充実している。ここにもUSB端子が搭載されており、1つはUSBメモリ接続して作成したキットや各種設定のバックアップをするというもの、もう1つはPCと接続して、データをやりとりすることができるようになっている。

 もうひとつはエレクトリックドラムであるV-Drumsの新モデル、TD-12KX-S(2月下旬発売、オープン価格:実売370,000円前後)。ドラム・ハードウェアと音源部のソフトウェア画面に改良を加えたというもの。ハードウェア部としてはドラムを支えるスタンドをより低重心で安定したものを採用したのとともに、バスドラム、フロアタムのパッドをグレードアップしている。一方ソフトウェア部では、音源部であるTD-12が拡張され、ドラマーの好みやインスピレーションで音色のカスタマイズが自在に行なわれるV-Editの機能が拡張されている。

OCTAPADTD-12KX-S

VP-7

 そのほか面白いところでは、キーボードにつなぐだけで簡単にコーラス・ハーモニーが得られるボーカル・プロセッサ、VP-7が登場している。ローランドでは昨年VP-770というボーカル&アンサンブル・キーボードを発売しているが、VP-7はその音源部のいいところをコンパクトにして取り出し、機能的にも充実させたもの。VP-7本体に女性コーラスや少年合唱団のようなヒューマンボイスが入っており、ライブサウンドに厚みをもたせることができる。また自分で歌ったボーカルに対してインテリジェンスにハーモニーとして仕立て上げるボーカル・デザイナー機能が搭載されている。これはボーカルのメロディーとキーボードの演奏を解析し、ボーカルとともに2声から3声の最適なポイントでコーラスを作ることができる。単なるピッチシフタとは異なるため、自然な形でのハーモニーができるのが大きな特徴だ。

 そしてVP-770でも好評なボコーダー機能も搭載。Perfumeのヒットなどからボコーダーを求めている人が増えていそうだが、VP-7には専用のハンズフリーマイクも同梱されているので、MIDIキーボードを持っている人なら、比較的低価格で高品質なボコーダーを入手できることになりそうだ。VP-7は3月下旬の発売でオープン価格(実売:60,000円前後)となっている。

 そのほかにもライブ・パフォーマンス用のキーボードであるV-Combo、RD-700GXにSuperNATURALのピアノ音色を追加するアップグレードキットであるRD-700GX SuperNATURAL Piano kit、無償ダウンロードできるV-Piano用の新音色、エントリー用の電子ピアノRP201-RWSなども発表され、かなりのボリュームの新製品発表会となった。今年のNAMM SHOWは不景気の影響か、出展を控えた企業が多かったり、新製品をごくわずかに絞り込んでいるところが多かったようだが、その中でローランドだけが突出して多くの新製品を投入していたという印象だ。ほかのメーカーも、こういう時期だからこそ、ぜひ面白い製品をどんどんと出して、楽器の世界全体を盛り上げてもらいたいところだ。


(2010年 2月 8日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]