第418回:iPadに裏技? USBオーディオが使用可能

~Camera Connection Kitで接続。録音再生が可能に ~


iPad
 28日、ついに国内でもAppleのiPadが発売された。テレビ、新聞、Webなど、お祭り騒ぎのように取り上げていて、中でも注目されているのが電子書籍。確かに出版の世界に身を置く者として、電子書籍には多大な興味はあるが、本格化するにはもう1、2年かかるのでは……と思っている。

 そんな電子書籍よりも先に来ているのが、iPadを使ったDTMの世界。既にアプリケーションはどんどん登場しており、実はUSBオーディオが使えることが判明するなど、なかなかすごいことになっている。iPadでのDTMをテーマにした記事は、今後いろいろな角度から取り上げる予定でだが、今回はその初回としてオーディオ入出力を検証した。


■ iPad登場で盛り上がるDTMアプリ市場

iELECTRIBE for iPad

 DTMアプリは、iPhone/iPod touch用として、すでに各種リリースされていたが、iPadが登場したことで、その勢いは加速している。極め付けだったのは、米国でiPadが発売された4月3日の前日、iTunes App StoreのiPadアプリが登場したのと同時にリリースされた、KORGの「iELECTRIBE for iPad」だ。

 今回、その詳細は割愛するが、これはKORGのドラムマシン/ダンスギアであるELECTRIBE・RをiPadで再現したもので、2,300円(6月30日までは発売記念プライスで1,200円)で販売してしまって、大丈夫なんだろうか? と心配になるほど高い完成度。事実、国内のミュージック・カテゴリの有償アプリとしては1位をマークし、全カテゴリにおいても6位(5月29日現在)となっている。米国においても、ミュージックカテゴリではずっと1位を走ってきたが、現在は一段落したのか2位となっている。

 iPadを5月28日に入手して、DTM関連のアプリをいろいろとダウンロードしては楽しんでいるのが、PCと違ってCPUパワーやメモリ容量が小さく、現時点ではシングルタスクであるためか、DAWのような総合的なものはなく、ほとんどは単機能となっている。それでも、ソフトシンセやドラムマシン、シーケンサ、エフェクター、クロマティックチューナー、レコーダー……、などなど面白いアプリがいっぱい。まだ、iPad専用というソフトは少ないが、iPhone、iPod touch用のアプリの大半がiPadでも使える。

iPadの内蔵スピーカーはモノラルスピーカーながら、そこそこの音量があり、音質もiPhoneより向上している

 iPadの音声出力は、本体の内蔵スピーカーもそこそこの音量があり、iPhoneと比較するとかなり音質も向上した。とはいえ、小さいモノラルのスピーカーだから、とりあえず音が出せるという程度に考えておいたほうがいいだろう。やはり、きちんと音楽を再生するなら、ヘッドフォン端子を使うことになる。

 ちょっと聴いた感じでは、iPhoneと似た傾向の音であり、音量レベル的にも同程度だ。これを楽器と考えたときに、プロ用のレコーディングに向くかといわれたら、電気的特性やステレオのヘッドフォン出力での接続であることを考えると無理があるかもしれない。とはいえ、S/Nは悪くなく、音が気に入っているなら使ってみるのも、アリではないだろうか?


■ iPadでUSBオーディオが使用可能?

 DTM機材としてのオーディオ性能の情報を探していると、入ってきたのが「iPadでUSBオーディオが使えるらしい」という情報だった。4月中旬にKORGに取材に行って、iELECTRIBEのデモを見せてもらったときに、小耳に挟んだのだ。「USBオーディオといっても、iPadにはUSB端子なんて、無いじゃないか!」と思ったが、実はApple純正のUSBインターフェイスがある。

 それが、「iPad Camera Connection Kit」。製品名の通り、本来の目的はデジタルカメラなどとUSB接続して写真データなどを転送するためのもの。実際の製品としては、iPadのDock端子に接続して、USB端子に変換する形になっている。本当にこれでUSBオーディオが動くものなのか確証はなかったが、2,980円と安価なため、ダメ元でiPadとセットで予約しておいた。

iPad Camera Connection KitのUSB接続アダプタ
iPad Camera Connection KitのSD/SDHCカードリーダ

 ちなみにこのiPad Camera Connection Kit、届いてから気づいたのだが、USB端子に変換するタイプのものと、SD/SDHCカードリーダとして機能するタイプのものの2つがセットになっている。SD/SDHCは汎用的に何でもやりとりできるわけではなかったが、これはこれで使えそうだ。

 Appleも公式にiPadでUSBオーディオが利用できるとは言っていないので、明示的にiPad用のUSBオーディオのドライバがあるわけではない。となると、WindowsやMacでもドライバ不要で動作する標準のUSBオーディオデバイスを使うことになるのだろう。と、思って手元にあるUSBオーディオデバイスを手当たり次第、試してみた。


■ USBバスパワーでの動作は難しい

 まず試してみたのはCakewalkの「UA-25EX」と「UA-4FX」。どちらもドライバ不要で動くようにAdvanced Driverスイッチをオフの状態で接続してみたのだが、いずれも、「アクセサリがありません 接続中のアクセサリは消費電力が大きすぎます」というメッセージが表示されて、まったく使うことができなかった。

Cakewalkの「UA-4FX」(左)と「UA-25EX」(右)「アクセサリがありません 接続中のアクセサリは消費電力が大きすぎます」と表示される

 続いてONKYOの「SE-U55X」というやや古いデバイスがあったので、これも試してみたが、まったく同じ結果になった。やはりUSBバス給電で動かすには、出力パワーが足りないということなのだろうか……。さらにM-Audioの「FastTrack」でも試してみたがこれも同じ、標準のUSBオーディオデバイスではない、Digidesignの「M-box2 mini」はまったく反応もしなかった。

ONKYOの「SE-U55X」
Digidesignの「M-box2 mini」(左)、M-Audioの「FastTrack」(右)

 やはりダメかと諦めかかっていたが、ふと思い出したのが、先日USBオーディオの設計に関するインタビューをさせてもらったラトックシステムのデバイス。あれなら、シンプルな設計で、かつ機能も少ないので、うまくいくのではと、USBオーディオトランスポート「RAL-2496UT1」を接続してみた。

 すると、RAL-2496UT1の赤いLEDが点灯し、iPadには先ほどと違うメッセージが表示された。ダメそうなメッセージではあるが、とりあえず「Dismiss」ボタンを押してみた。さらに、そのままiPod機能を使って音楽を再生してみると、RAL-2496UT1から音が出た。

 やはりiPad Camera Connection Kitを使ってオーディオインターフェイスが利用できるという情報は、嘘ではなさそうだ。ただ、RAL-2496UT1では、かなり動作が不安定であり、接続すれば必ず動くというわけではなかった。さらにiPadのバッテリが70%を切るあたりからは、「アクセサリがありません 接続中のアクセサリは消費電力が大きすぎます」というメッセージも出るようになり、使えなくなってしまった。

ラトックシステムの「RAL-2496UT1」他とは違うメッセージが表示された

ラトックシステムの「RP-USBAK01」
 次にUSBオーディオアダプタの自作キット「RP-USBAK01」でも試してみると、こちらはエラーメッセージは一切でずにRP-USBAK01のランプが点灯した。iPod機能で音楽を鳴らしてみると、しっかりと音が出てくれる。以前実験したときも、RP-USBAK01のアナログ性能自体は、安いキットだけにあまり大したものではなかったが、S/PDIFの出力があるのは大きなポイントだ。

 ここでちょっと気になるのが、iPad自体のオーディオ機能との関係だ。まずRP-USBAK01をUSB接続すると同時に、出力がRP-USBAK01へと切り替えられ、iPadのスピーカー出力やヘッドホン出力が途切れてしまう。

 設定のサウンドのところを見ても、特に切り替えスイッチなどが用意されているわけではなさそうなので、Dock端子に接続したものが優先ということのようだ。なお、音量調整はこの設定の画面またはiPod機能画面のボリュームを使って変更できる。この2つは連動していて、このこと自体は内蔵の音源と同様である。

特に出力切り替えの設定はないUSBオーディオの音量も内蔵音源と同じボリュームで調整する

■ USBオーディオとしてiPadが認識。録音も可能

Cakewalkの「UA-1G」本来ボリュームがあるところに、「UA-1G」と表示されている
 ここで、Cakewalkのシンプルなオーディオインターフェイス「UA-1G」も、ダメ元で試してみたところ、エラーが発生せずに、UA-1Gの赤いLEDが点灯した。さらにiPod機能で再生してみると、しっかり音が出る。

 ここで音量調整をしようとiPod機能の画面を見たが、見つからない。おや? と思ってよく見ると、本来ボリュームが表示されるべきところに「UA-1G」と表示され、ボリューム設定がなくなっている。しっかりと、USBオーディオデバイスとして認識しているようだ。ちなみに、設定のサウンドのところには、ボリュームが消えずに残っていたが、こちらは動かしてもUA-1G側の音量に変化はなかった。

 さらに、UA-1GはRP-USBAK01と違って入力端子もある。ここで、「RecordStudioFree」というiPhone用の4トラック・レコーダーを起動し、マイクを接続して録音してみたら、バッチリ録音もできた。これなら汎用的にマイクが利用できる。

 またUA-1Gはスイッチ切り替えでハイ・インピーダンス入力にも対応し、ギターとも直結できる。そこで、iPhoneアプリである「EffectorLite」を起動させてみた。これはiPhoneの入力に対してリアルタイムにエフェクトをかけるというアプリで、ゲート、ディストーション、フランジャー、コーラスなど7種類のエフェクトを同時にかけられるようになっている。これまでiPhoneの入力にギター出力を突っ込むのは、なかなか難しかったが、UA-1Gが使えるなら簡単に接続できる。

 実際に音を出してみると、確かにリアルタイムにエフェクターがかかる。正確に測定したわけではないが、聴いた感じでは50msec程度のレイテンシーがありそう。とはいえ、UA-1Gを使うことで、オーディオ入出力の幅が大きく広がることは間違いないだろう。

「RecordStudioFree」で録音もできた「EffectorLite」でもUA-1Gが利用できた

 ほかにも、ソフトシンセやドラムなど、いろいろなアプリを試してみたが、いずれもUA-1Gから音を出したり、レコーディングに使うことができた。ただし、ひとつうまく動かせなかったアプリがある。それが肝心なKORGのiELECTRIBEだった。UA-1Gを接続したままの状態で、iELECTRIBEを起動すると、オープニングのロゴが表示された直後に終了してしまい、iELECTRIBEが起動している状態で、iPadとUA-1Gを接続するとiELECTRIBEが落ちてしまう。ここについては、ぜひKORGの今後のアップデートに期待したいところだ。


■ ヘッドフォン出力と音質を比較する

 ハッキリはわからないが、消費電力の少ないUSBオーディオデバイスなら動きそうだ。逆に大きいものであっても、ACアダプタで駆動するタイプであれば、USBからの電力供給が不要なので、動きそうな気もする。前出のSE-U55SXはACアダプタが使用できるが、残念ながら手元になく実験することができなかった。

ZOOMの「H2」
iPadで「H2」として認識された

 ここで思い出したのが、ZOOMのポータブルタイプのリニアPCMレコーダ「H2」。これもUSBオーディオインターフェイスとして機能し、単3電池で動く。さっそく試してみたところ、予想通りうまくいった。ただし、ちょっとした手順がある。USBオーディオインターフェイスとして機能させるためには、まず電源オフ状態でiPadと接続してAUDIO I/Fを選択する必要がある。

 しかし、そのまま選択すると、やはり「消費電力が大きすぎる」というメッセージが出てしまう。このメニューが出ている状態で、H2の電源をオンにするのがポイント。その後に、AUDIO I/Fを選ぶとiPadのオーディオインターフェイスとして機能してくれる。H2にはマイクが4つ内蔵されているので、これらで、そのまま音を取り込んでiPadへ送ることができ、ローカットやコンプレッサ、リミッタなどを使うこともできる。もちろんH2のヘッドフォン端子で、iPadの音をモニターすることもできる。iPod機能の画面を開くと、やはりH2と認識されていた。

 ここで接続をUA-1Gに戻した上で、実験を2つ行なった。まず一つ目は、iPadのヘッドフォン出力での音質と、UA-1Gのアナログ出力音質の比較。あまり厳密なことはできないが、1kHzのサイン波をWAVファイルとして生成したものを、MP3やAACなどに変換せずにそのままiPadへ転送し、iPod機能で再生させてみた。これをそれぞれの場合でUA-101経由でPCに取り込んで周波数分析をかけてみた。劇的な違いがあるわけではなかったが、それなりの価値がありそうなことのはわかる。

iPadのヘッドフォン出力
UA-1Gのアナログ出力

S/PDIF出力は入力データと完全に一致した
 それよりも期待したいのがS/PDIF出力。これが使えるのならiPadの音声を完全な形で外部へ出力できることになる。まずは、AVアンプに接続してみたところ、確かにキレイな音が出ている。

 そこで、今度はUA-101のS/PDIFの入力に接続した上で、Sound Forgeを用いて録音してみた。これを改めて、元のWAVファイルと比較してみた。その結果、1ビットたりとも違わず、完全な形で一致した。


■ まとめ

 iPadのUSBオーディオとの連携について見てきたが、やはり電力供給が大きな問題とはなるが、UA-1Gであれば確実に使えることもわかり、大きな収穫となった。とはいえ、もちろん動作についてAppleもRolandも保証してくれるものではないが、iPadでDTMをする上では、大きな威力を発揮してくれそうな組み合わせだ。

 ただし、iPad単体で使うのと比較すると、バッテリの減り具合は少し早くなるので、要注意。厳密にテストしたわけではないが、感覚的には倍くらいのスピードで減っていく感じだった。したがって、通常はiPad単体で使い、外部にどうしてもつながなくてはならない場合のみUA-1GなどのUSBオーディオデバイスを用いるというのがよさそうだ。

【追記】
 掲載後、電源供給が足りないのが原因であれば、間にACアダプタでの電源供給するタイプのUSBハブを入れればいいのではと思い、直接接続で動作しなかったデバイスの再テストを行なった。

 その結果、USBハブで電源を供給すれば、UA-25EX、UA-4FX、Fast Trackは認識され、iPod機能上でも機器名称を表示。SE-U55Xはやや動作が不安定ながら、音が出ることは確認できた。なお、M-box2 miniは標準のUSBオーディオデバイスでないため、認識されなかった。結果をまとめると下表のとおり。

 【動作テスト結果】
製品名直接接続USBハブ経由で
電源供給
Cakewalk
「UA-1G」
ZOOM
「H2」
ラトック
「RP-USBAK01」
ラトック
「RAL-2496UT1」
Cakewalk
「UA-4FX」
×
Cakewalk
「UA-25EX」
×
M-Audio
「FastTrack」
×
ONKYO
「SE-U55X」
×
Digidesign
「M-box2 mini」
××
○=正常動作、△=不安定だが動作、×=動作しない、-=未検証



(2010年 5月 31日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またAll Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]