第456回:TASCAMから登場した新たな低価格USBオーディオ

~実売15,000円からの「US-200」と「US-600」をチェック ~


 低価格で高機能なオーディオインターフェイスを次々と発売しているTASCAMブランドのティアック。3月にまた新たに手ごろな製品を2機種を発売した。いずれもオープン価格となっているが実売価格が20,000円前後のUS-600と実売価格が15,000円前後のUS-200だ。

 この2機種が追加されたことにより、TASCAMのUSシリーズとしては最上位のUS-2000から最下位のUS-100まで実に8機種も揃ったことになるが、US-600とUS-200はその真ん中に相当する。今回はこの2機種を試してみた。


US-600US-200


■ 自由度の高いインターフェイス

 US-600とUS-200はともに、USB 2.0に対応したオーディオインターフェイスで、24bit/96kHzまで扱えるというもの。もちろんWindows、Macともに使うことが可能で、Windowsのドライバは32bit用、64bit用がそれぞれ揃っている。ともにブラックとシルバーのツートンカラーのシンプルなデザインであり、ボディーがプラスティック製だけに、それぞれ580g、480gととても軽い。2つ重ねてみるとわかるように、2機種の差は入出力ポート数の違いだ。US-600が6IN/4OUTであるのに対し、US-200が2IN/4OUT。またこの入出ポートの違いからUS-200はUSBバスパワーで動作するのに対し、US-600はACアダプタが必要となっている。

2機種の主な違いは入出力端子

 入出力ポートに関して、もう少し具体的にいうとUS-600の場合、フロントとリアにコンボジャックの入力が2つずつあり、計4chのアナログ入力となる。このうちフロントの左チャンネルのみはマイク/ギター入力、それ以外はマイク/ライン入力という構成だ。リアにあるスイッチを使うことにより、+48Vのファンタム電源のオン/オフが可能。またフロントの入力(INPUT I/2)、リアの入力(INPUT 3/4)をそれぞれステレオとして扱うかモノラルとして扱うかの切り替えが可能になっている。さらにリアにはRCAのライン出力が2chとコアキシャルのデジタル入出力が1つずつ、そしてMIDIの入出力も1系統ずつ用意されているという構成になっている。

US-600の入出力端子

 一方、US-200のほうもフロントにコンボジャックの入力が2つある。US-600と同様に左をマイク/ギター兼用とできるほか、リアのスイッチでマイク/ラインに変更することも可能。またこの入力をモノラル/ステレオ変更できるほか、ファンタム電源のスイッチが用意されているのも同様だ。リアにはRCAのアナログ出力がステレオ2系統の計4chが用意されており、デジタル入出力はないがMIDI入出力は搭載されている。

US-200の入出力端子


バンドルされたCubase LE 5で、入出力ポートの状態が確認できる

 US-600、US-200ともに左サイドにヘッドフォンジャックがあるが、これはそれぞれのアナログ出力の1/2chと連動していて同じ信号が出力される。ただし、ここは入力信号のダイレクトモニタリング機能も備えており、PCからの出力と外部からの入力のバランスはMON MIXを用いて調整するようになっている。またUS-200のアナログ出力1/2chのみは、ヘッドフォン出力と同様にMON MIXでの調整したものが出力されるようになっている。

 このように言葉で解説するとちょっと難しく感じるかもしれないが、実際に使ってみればいたって簡単だ。いずれの製品にもSteinbergのDAW、Cubase LE 5がバンドルされているが、それを用いて入出力ポートがどうなっているかを見てみると、よくわかるだろう。

 また、ここからASIOのコントロールパネルを開いてみると各入出力ポートの割り振りを切り替えることができるようになっている。必要に応じて出力先を入れ替えたり、同じ信号を複数ポートから出力できるようにするなど自由度は高くなっている。US-600では、このコントロールパネルにおいて、デジタル入出力をS/PDIFとAES/EBUのそれぞれに切り替えることも可能になっているため、より多くの機材との連携が可能だ。

ASIOのコントロールパネルから、入出力の割り振りを切り替えられるUS-600では、デジタル入出力をS/PDIFとAES/EBUで切り替えることも可能

 そして、この画面を見てもわかるとおり、Audio Performanceという項目を用いてバッファサイズ、つまりレイテンシーの調整が可能になっている。いずれもhighest latency、high latency、normal latency、low latency、lowest latencyの5段階の切り替えだ。ここでいつものようにCentranceのASIO Latency Test Utilityを用いて、入出力をループさせた際のレイテンシーを実測してみた。low latencyを選択した際のバッファサイズが128sampleとなっていたので、この状態でUS-600、US-200ともに計測したところ約20msecとなった。ただlowest latencyに設定したところ、Cubaseで使った際にはまったく問題がなかったのだが、このツールだとうまく測定できなかったので断念。48kHzも同じく128sampleで計測をした。一方、96kHzの場合は96sampleとなるlowest latencyで計測できたので、こちらを掲載する。両機種で数値は微妙に違うが毎回変わるので実際には同じで、誤差範囲内ということだと思う。

Audio Performanceの画面
レイテンシ―のテスト結果


ドライバインストール時のメッセージに、やはりPloytecの名称が

 ところで、このドライバの画面、見覚えがある方も多いと思うが、TASCAMのほかのUSBオーディオインターフェイスもこれとほぼ同じものとなっている。また、以前にも触れたことがあったが、オンラインソフトとして販売されているPloytec GmbHのドライバと見た目がソックリだ。これは標準ドライバで動作するUSBオーディオインターフェイスをASIO化してしまうというものであり、結構評判のいいドライバだ。

 コントロールパネル上には特に記載がないなと思っていたが、ドライバをインストールする際のメッセージに、やはりPloytecの名称が出ていた。もちろん、オンライン販売されているものとは違い、TASCAMの機材用に作りこんだものとなっているが、このことからもドライバ部分はTASCAMオリジナルではなく共同開発となっていることが分かる。



■ エントリーユーザーにも手ごろなオールインワンパッケージ

 最後にいつものようにRMAA Proを用いての音質テストを行なった。US-600、US-200ともに出力がRCAのアンバランスとなっているため、テストを行なう仕様上やや不利にはなるが、44.1kHz、48kHz、96kHzのそれぞれで行なった結果は以下のとおりである。

Cubase LE 5もバンドルされている

 これを見ると、いずれもTHD + Noiseの結果がPoorとなってしまうのがやや気になるところ。グラフを見てみると、1kHzの基準波に対して2倍音、3倍音……と倍音成分が結構多めに出てしまっているのが要因のようだ。ただし、音を再生する限り気になるようなことはなく、ノイズレベルも非常に低いだけに気持ちよく聴くことができる。レコーディング時にやや倍音が強調されてしまうのかもしれない。

 そういった点を考えると、これらの機材でプロ用途のレコーディングができるというわけではないかもしれない。しかし、15,000円また20,000円という価格でCubase LE 5もバンドルされMIDIの入出力も可能なマルチポートのオーディオインターフェイスと考えると、非常にリーズナブルな製品といえる。これからDTMをはじめてみたいという人にとっては手ごろな投資でできるオールインワンパッケージといえるだろう。

RMAA ProでのUS-600の測定結果。左から44kHz、48kHz、96kHz
US-200の結果。左から44kHz、48kHz、96kHz

(2011年 4月 4日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]