第455回:3マイク搭載のオリンパスPCMレコーダをチェック

~小型/低価格になって簡単操作の「LS-7」 ~


LS-7

 オリンパスから新たなリニアPCMレコーダ「LS-7」が発売された。2008年のLS-10、LS-11に続くLSシリーズの第3弾となる製品だが、型番からすると従来機種の下位に位置づけられるようで、同社のオンラインショップでの価格も24,800円と割安。

 もっとも発売当初50,000円程度したLS-11も29,800円まで下がっているので、それほど価格差があるわけではない。どんな機能、性能を持つ機材なのか、他社のリニアPCMレコーダとの比較もまじえて、検証した。



■ 新設計の3マイク構造「TRESMIC」を採用

LS-11

 2009年発売の「LS-11」は、一目見て「LS-10」の後継機種だと分かるデザインであり、機能的にもLS-10のそれを引き継いでいた。確かに24bit/96kHz対応で、WAVのほかMP3やWMAで記録、再生できるという点では共通だが、今回発売されたLS-7は見た目にも大きく違い、マイクの構造なども大きく異なるまったくの別モデルと考えていいようだ。

 手元にLS-11がなかったので、並べての比較はできないが、サイズ的にはかなり小さく、重量的にもLS-11が電池込みで165gだったのに対し、LS-7は90g。iPhone 3GSほかいくつかの機材と並べてみると、その大きさが分かるだろう。サイズ的に近いのはヤマハのPOCKETRAK。上位機種のW24と下位機種のC24のちょうど中間くらいの大きさとなっている。


iPhone 3GSなど他の機材と比較ヤマハのPOCKETRAKと比較


3マイク搭載のTRESMIC構造

 このLS-7の最大の特徴といえるのがマイクの構造。TRESMIC(トレスミック)と名づけられた3マイクを内蔵するもので、オリンパスのICレコーダVoiceTrekのDS-800で搭載されているのと同じ構造のものだ。

 他社のリニアPCMレコーダとしては、以前取り上げたケンウッドの「MGR-E8」 なども3マイク構造となっていたが、MGR-E8とはマイクの考え方は少し異なるようだ。写真を見ても分かるように左右に90度の向きで取り付けられたステレオの指向性マイクに加え、中央に無指向性マイクが搭載されている。

 この中央のマイクは低域をカバーできるものとなっているそうで、メーカーの資料によれば、ステレオマイクだけだと捉えられる帯域が70Hz~20kHzであるのに対し、3マイクにすることで20Hz~20kHzまでカバーできるという。


センターマイクを追加したことで、低域の向上を図っている同社資料による、3マイク/2マイク時の特性の違い

 またオリンパスがLS-7の特徴として大きく謳っているのが英WolfsonのCODECチップを搭載しているという点。チップ名までは言及されていなかったがポータブル機器向けに新開発した最新のCODECエンジンを採用したことで、音の再現性が向上し、低域から高域まで原音に忠実な録音、再生が可能になったという。さらに、Wolfsonの信号処理技術であるReTune技術を採用したことで、内蔵マイクでの録音においてフラットな周波数特性を実現している、という。Wolfsonの資料を見ると、このReTuneはスピーカーやマイクの周波数特性の凹凸をフラットにするための技術のようだが、これがLS-7にも使われているわけだ。

 このLS-7、コンパクトながらアルミボディーで非常にガッシリした作りになっている。黒い部分も含めてアルミであるため安心感がある。バッテリは単4電池×2本で駆動し、ボトム部分に入れる構造となっている。アルカリ電池およびニッケル水素電池の利用が可能で、どちらを使うかはメニューでの設定が可能だ。電池の持ち時間についてメーカーの公称値としては、アルカリ電池の場合、16bit/44.1kHzでの連続録音時間が約30時間、ニッケル水素だと約22時間となっている。気になる24bit/96kHzでの時間は記述がなかったが、一般的に6割弱の時間となるので、それぞれ約17時間、約13時間といった感じだろうか。

底面のカバーを開けるとバッテリ収納部アルカリ/ニッケル水素電池の選択はメニュー上で行なう

 記憶メディアは4GBの内蔵メモリを搭載しているほか、右サイドにmicroSD/SDHCのスロットがあり、こちらを使うこともできる。このスロットの蓋も一般的なラバー素材ではなく、メタリック塗装されたプラスティックで、開閉もしやすい。そのほかの端子としてはプラグインパワーにも対応したマイク入力、ヘッドフォン出力、オプションのリモコンを接続するための端子を搭載しているほか、リアパネルにはモノラルのスピーカーも搭載されている。

microSD/SDHCスロットを装備
側面の端子部背面にモノラルスピーカーを内蔵


■ 簡単な操作で高音質録音が可能

 LS-7の電源を入れて操作をはじめると、すぐに気づくのが日本語の音声ガイド。初心者がマニュアルがなくても戸惑うことがないように、音声でいろいろと案内してくれる。個人的には、あまり必要がないものであり、わずらわしく感じたので、すぐにOFFにしたが、音声ガイドのしゃべるスピードや音量を変えられるほか、表示言語を英語モードに切り替えれば、英語でガイドしてくれるなど、さすがICレコーダメーカーだと感心させられる。

 まずは、MENUボタンを押して、「録音設定」から「録音モード」を選び、「PCM-96kHz/24bit」に設定。モニター用のヘッドフォンを接続してRECボタンを押してレコーディング待機状態にしてみたところ、初期設定ではかなり入力感度が高くなっているのが分かる。液晶ディスプレイを見ながら約30cmの距離で軽く舌を鳴らしただけでオーバーロードしてしまうのだ。

 そこで「マイク感度」を確認してみると高・中・低と3段階あるうちの「中」が設定されている。また録音レベルは0~16まで設定できるうちの「12」となっているから設定上、高くなっているわけではない。試しに、そのままの状態で外に出て、頭上3、4mの距離にいるスズメの鳴き声を録ってみたら、オーバーロードしてしまった。いつも、このテストをする際は、レベルが小さいので、できるだけ大きく録れるようにマイク感度と録音レベルを上げているが、デフォルトの設定でレベルオーバーしてしまったのは初めてのような気がする。

録音設定PCM-96kHz/24bitを選択録音ポーズ中の画面
マイク感度の設定画面付属のウィンドスクリーン装着時


リミッターやコンプレッサーの設定画面

 ただ、それを再生して聴いてみたところ、音が割れているという感じはない。「おや? 」と思って「録音レベル」の設定を確認してみたところデフォルトで「リミッター ON」という設定になっている。これならほとんど音が割れることなく、大きなレベルで録音できるので、結果として簡単にいい音で録れる、この画面を見ても分かるとおり、録音レベルの設定にはほかに「コンプレッサー ON」、「リミッター/コンプレッサー OFF」がある。ただし、コンプレッサーのスレッショルドやレシオを変えるといったことまではできないようだ。

 リミッターがONの状態だと、他の機種との比較もしづらいので、これをOFFにするとともに録音レベルを絞った上で、改めてスズメの鳴き声を録音してみた。あまり飛び回ってくれなかったので、ステレオ感が分かりにくいかもしれないが、音が聴こえてくる方向はかなりハッキリと捉えることができる。

 ここで気になったのが、これが3マイクで録った音なのかどうか、という点。「マイク選択」で確認してみると、デフォルトの設定では「センターマイク ON」となっている。そこで、今度は「センターマイク OFF」にして再度スズメの鳴き声を録音してみた。まったく同じタイミングで録音したわけではないので、比較しづらいかもしれないが、ステレオ感という意味ではあまり変わっていない。また野外であり、どちらも飛行機のジェット音を拾ってしまっているが、飛行機との距離は近いながら重低音が入ってきていない2マイクのほうが、高域を中心としたスズメの鳴き声はキレイに録れているようにも感じた。

 もっとも低域カットが目的であれば、録音設定の中に「ローカットオフ」という項目があり、300Hzまたは100Hzという設定が行なえるため、これを使うのがいいだろう。

センターマイクのON/OFFローカットフィルタの設定


「指向性マイク」の設定

 なお、この録音設定のメニューの中に「指向性マイク」という項目があるが、これは何だろうか? これはLS-10やLS-11にも搭載されていたDiMAGICのDVM(DiMAGIC Virtual Microphone)という技術を使ったエフェクトであり、集音範囲を狭めたり、広めたりする感じを演出するものだ。

 グラフィカルに指向性を表示することができるが、このエフェクトが使えるのは録音モードが「PCM-44.1kHz/16bit」以下の場合に限られる。LS-7ではPCMのほかにMP3やWMAでも録音することが可能であり、これらの場合に利用できるのだ。ただし、「できるだけ高音質で録りたい」という場合には、オフにしておくのが良さそうだ。



■ 3マイク利用で低域が向上。2マイクは高い解像感

 次に音楽を試してみた。いつものように、TINGARAから提供いただいているJupiterをモニタースピーカーで再生したものを、スピーカーから約50cmの距離で24bit/96kHzで録音するという方法。マイク感度を「低」に設定するとともに、録音レベルを下げた形でまずは3マイクでレコーディング。

 さらに同じレベル設定のまま2マイクにして録音してみた。それぞれ、何の編集も加えない状態で波形を比較すると、明らかに3マイクでレコーディングしたほうが大きいレベルで録れていることが分かるだろう。それを一旦、最大レベルを0dBにする形でノーマライズした上で、16bit/44.1kHzに変換したものを聴き比べてみてほしい、明らかに違う音であることが分かる。どちらがいい音なのかはともかくとして、3マイクのほうが低音がしっかりと出ていることは確かだ。ただ、そのせいなのか中高域まで音が少し曇ってしまっているように感じた。 2マイクの音のほうが解像度が高い感じで、音がシャープに聴こえるので、個人的には2マイクのほうが好みに合う。

3マイクでの録音時2マイクでの録音時

 ただ、いつものようにWaveSpectraでそれぞれを周波数分析した結果を見てみると、ほとんど同じようで違いがあまり分からない。そこで横軸を対数表示にしてみたところ、3マイクのほうが10dB程度、低域が持ち上がっていることが見て取れる。また、LS-11での結果と波形を比較してみると、これは違いが見てくる。とくに12~14kHzあたりの減衰の仕方に大きな違いがあり、それが音としても違って聴こえてくるようだ。音を聴き比べてみるとやはり上位機種であるLS-11のほうが上。音のバランスはLS-7の2マイクより3マイクのほうがLS-11に近いけれど、音にキレがなくなってしまう。

24bit/48kHz録音時の周波数分析結果。3マイク使用時2マイク使用時LS-11の分析結果
横軸を対数表示にしたところ。3マイク時2マイク時

 

録音サンプル:野外生録
3mic_bird.wav(11.5MB)2mic_bird.wav(11.4MB)
録音サンプル:楽曲(Jupiter)
3mic_music1644.wav(7.06MB)3mic_music2448.wav(11.5MB)3mic_music2496.wav(23.0MB)
2mic_music1644.wav(7.06MB)2mic_music2448.wav(11.4MB)2mic_music2496.wav(23.0MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは16bit/44.1kHzのファイルと、24bit/48kHzまたは24bit/96kHzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 低価格でより小さく、電池寿命も長くなるとともに、高いマイク感度とリミッター機能で誰でも簡単にいい音で録れるようになったLS-7。その一方で、マニュアルでしっかりレベル調整してレコーディングすると、音質はLS-11には負けてしまうほか、同価格帯の他メーカー製品と比較しても、差を感じる。とはいえ、もちろん24bit/96kHzのレコーダとしては十分な性能を持っていることは間違いないので、音を聴き比べて製品選びをしてほしい。


(2011年 3月 28日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]