西川善司の大画面☆マニア

第175回

群を抜く高輝度3D画質。エプソン「EH-TW8100W」

Wireless HD強化で利便性も大幅向上

EH-TW8100W

 ホームシアター向けプロジェクタは「1,000ルーメン前後が適切」とされてきた。しかし、完全暗室での活用が難しい一般家庭においてや、3Dメガネの影響でどうしても暗くなりがちな3D立体視を楽しむ際においては、輝度性能は高くて困ることはない。

 そんな要望に応えるかのようなモデルがエプソンから発売されている。ホームシアター向けの透過型液晶プロジェクタ ハイエンドモデル「EH-TW8100シリーズ」がそれだ。

 EH-TW8100シリーズでは、Wireless HDに対応し、プロジェクタと出力機器間をワイヤレス化できる上位機「EH-TW8100W」とWireless HD無しの「EH-TW8100」を用意。直販価格はTW8100Wが329,980円、TW8100が299,980円だ。今回はWireless HD対応のEH-TW8100Wを取り上げる。

設置性チェック~奥行きを抑えた横長ワイドボディ。投射レンズは手動

白基調にブラックのアクセントのスタイリッシュなデザイン

 本体寸法は466×395×140mm(幅×奥行き×高さ)で、奥行きを抑えた横長デザインが特徴だ。ボディは全体的に白基調となっているが、レンズ周辺を初めとした前面部はスタイリッシュにブラックアウトしており、なかなかモダンな面持ちとなっている。重さは約8.6kg。

 前面左右に配される対称型ダクトは正面向かって左側が吸気口、右側が排気口だ。よって、左右の側面や後面のクリアランスにはそれほど気を使う必要がない。横長で奥行き方向の全長が抑えられているボディデザインと相まって、本棚の天板などに設置しやすい。なお、本体後面には接続端子があるので、壁に寄せての設置はあまり現実的ではない。

左右にあるダクトは左側が吸気口、右側が排気口だ
側面。向かって右のパネルを開くと操作ボタンが現れる

 脚部は前部の左右2つがネジ式の高さ調整機構を有したタイプで、後部中央には固定式のゴム足が配される。つまり、EH-TW8100Wは、三点支持で接地面に対して立つことになる。前部脚部と後部脚部までの側面から見た時に距離は約23cm程度。

 天吊り金具は、2005年モデルのEMP-TW600からラインナップされている「ELPMB20」(47,250円)が流用できるほか、新デザインの「ELPMB22」(52,500円)と薄型の「ELPMB30」(47,250円)がオプションとして設定されている。

底面側の写真
ネジ式高さ調整対応の脚部
投射レンズは手動調整式
レンズの調整リング

 投射レンズは手動式の2.1倍ズームレンズ(F:2.0-3.17 / f:22.5-47.2mm)。ホームシアター機らしく、短焦点投射が行なえ、100インチ(16:9)時の最短投射距離は約3.0m。6畳クラスの部屋でも100インチ投射は問題なく実現可能だ。ズームレンズを活かして、100インチの最長投射距離は約6.4m。大きい部屋の後ろに設置しても、現実的な大きさのスクリーンに投射できる。

 フォーカス調整とズーム調整は、投射レンズ軸上に設置されたリングを手で回して調整する方式だ。この部分は、エプソンの「ハイエンドモデル」の割には物足りないスペックという印象。ズーム調整はともかく、フォーカス調整は電動リモコン式でないと、一人では合わせるのが結構難しい。

 電動リモコン式ならばスクリーンに近寄って調整できるので、かなり詰めたフォーカス合わせが可能だ。コストに直結する部分とはいえ、下位モデルのEH-TW6100系と差別する意味合いでも、電動フォーカスだけでも付けて欲しかった。ズームは、3m離れたところからでも大ざっぱに調整できるので不満はない。

 EH-TW8100Wはレンズシフト機構も搭載。レンズシフト機構はEH-TW6100系にはないフィーチャーなので、この部分は上位機ならではの部分になる。ただし、レンズシフトも本体天板に備え付けられたダイヤルを回して調整する方式になっている。

 シフト調整範囲は、上下方向に±96%、左右に約47%と非常に広い。特に上下シフト量はとても大きいため、棚上に設置しても投射映像を相当下に落とせるし、床面設置でも映像をかなり上にまで打ち上げられる。家庭での設置に幅広く対応できるだろう。左右のシフト量も多いので、家具などの遮蔽物を避けての設置などにも対応できる。下位機のEH-TW6100系では、ステレオスピーカーをビルトインしているが、EH-TW81000Wでは省略されている。

 騒音レベルは最小22dBと訴求されている。これはランプ輝度(明るさモード)を「低」にしたときの値のようで、この時は、確かに存在を忘れてしまうほど静粛性に優れている。一方、「高」設定にした時は数段階騒音レベルが上がる。エアコンが稼働している程度の騒音レベルになり「動作してまっせ」とアピールしているかのような音を出す。「低」モードが静かなだけに、そのギャップが大きく、「高」モードでも、もう少し静だったら良かったのに、と思う。

 光源ランプは230Wの超高圧水銀ランプ(230W UHEランプ)を採用する。交換ランプは「ELPLP69」(31,500円)。ランプコストは、近年の他社製品と同等レベルだ。消費電力は357W。他社同クラス製品と比較するとやや高い値だ。ただ、同クラス製品としては破格の高輝度性能を有するので、その輝度スペックを考えれば「このくらいにはなるか」という印象を持つ。

 EH-TW8100Wは、3D立体視に対応し、商品セットにも1基の3Dメガネが付属する。アクティブシャッター方式の3Dメガネで、3D立体視メガネの世界共通規格「フルHDグラス・イニシアチブ」規格準拠のものになる。つまり、この規格に準拠したものであれば、他社製の3Dメガネであって利用できる。付属3Dメガネ相当の「ELPGS03」を追加購入する場合の価格は10,500円。

 アクティブシャッターグラス方式では、3D立体視の同期制御のためにシンクロエミッターが必要だが、EH-TW8100Wでは、エミッタを本体に内蔵。しかも、赤外線方式ではなく、Bluetooth準拠のRF(電波)方式を採用している。

付属3Dメガネ「ELPGS03」はフルHDグラス・イニシアチブ規格準拠
側面
電源ボタン部

 本連載で'11年モデルのEH-TW6000Wを評価した際、赤外線方式により、部屋が赤外線で満たされるためか、エアコンや電動スクリーン、本機リモコンまでもが効かなくなると言う事態について苦言を呈した。RF方式エミッタ採用のEH-TW8100Wではそうした問題は確認されず、改善されている。

接続性チェック~WirelessHDによる無線HDMI接続に対応

接続端子パネルは背面にレイアウトされている

 接続端子パネルは本体後面に実装されている。HDMI端子は2系統で、HDMI-CEC、DEEP COLOR、3D立体視(フレームパッキング、サイドバイサイド、トップアンドボトムに対応)に対応する。

 HDMI階調レベルの調整は「映像」-「アドバンスト」メニュー階層下の「HDMIビデオレベル」という項目で設定できる。「通常」設定が16-235階調レベル、「拡張」が0-255階調レベルに対応する。「オート」設定は自動判別の精度が上がり、筆者の実験ではNVIDIA GeForce GTX680搭載のPCでも正常な階調を設定できていたし、他機種では誤認率の高いPS3においても、PS3本体側のHDMI階調レベル設定の「フル」「リミテッド」を的確に認識して正しい設定を行なえていた。頼もしい限りだ。

 アナログビデオ入力はコンポジットビデオとコンポーネントビデオを1系統ずつ。コンポーネント接続では1080p/60Hzまでの映像を正常に表示できた。D-Sub15ピンのアナログRGB入力端子も装備。公称スペックでは「アナログRGB接続ではWXGAまでの対応」となっているが、あえて実験したところ、1,440×900ドットまでは正常表示が行なえることを確認した。この他、リモート制御用のRS-232C端子と、稼働状態の時にDC12V出力を行なうトリガ端子を装備。トリガ端子は、EH-TW8100W稼働に連動し、電動スクリーンの開閉や、電気照明の調整を行なうのに利用する。

 商品セットには、接続端子パネルを覆うカバーが付属するが、これは運搬/端子保護用で、配線を覆い隠すためのものではない。なお、配線を覆い隠す美観用カバーは「ELPCC04W」(10,500円)が別売される。

EH-TW8100Wに付属するWirelessHDトランスミッター

 さて、今回評価したEH-TW8100Wは、商品セットに無線でのHDMI接続を提供する「WirelessHDトランスミッター」が付属する。

 このWirelessHDトランスミッターは、なかなか凝った作りになっており、5系統のHDMI入力セレクタの機能までも統合し、さらにパススルー機能までを搭載した本格仕様になっている。

 伝送方式は60GHz帯のミリ波電波を使用した非圧縮無劣化方式で、3D立体視映像を含めた最大1080p映像の伝送にまで対応している。

独特の形状で前面にWireless HDロゴなど
天板に操作ボタンも

 60GHz帯の電波は無線LAN等の干渉はないとされるが、ミリ波電波の特性から「遮蔽に弱い」という弱点もある。スペック上は直線距離で10mの送受が可能なことになっているが、距離が近くても直下に置いたりすると時々映像が乱れたりする症状があった。EH-TW8100Wと相対する位置にあれば全く問題はなし。

側面にあるのはHDMI5入力と3Dメガネ充電用USB端子
背面部。OUT端子にテレビなどを接続すれば、入力映像をプロジェクタとテレビで選択出力できる
3Dメガネは「WirelessHDトランスミッター」に接続して充電できる

 WirelessHDトランスミッターにはHDMI出力端子があるが、これがパススルー端子に相当する。ここにテレビを接続すれば、プロジェクタ(EH-TW8100W)を使用していないときは、WirelessHDトランスミッターに接続した各種映像機器の映像をテレビに映してみることができる。

 部屋前部にテレビやAV機器、ゲーム機などがあって、部屋の後ろに天吊り設置したEH-TW8100Wとの接続が難しい、というケースでも、WirelessHDトランスミッターがあれば、テレビ中心のAV環境を壊さずにプロジェクタの導入が出来る。テレビ付近に置いたAV/ゲーム機器群をWirelessHDトランスミッターに集約接続し、出力端子をテレビに接続すればいいのだ。プロジェクタへの配線は不要。これはなかなか革新的である。

 もし、アナログビデオ入力やPC入力などを使わないのであれば、EH-TW8100Wの接続端子パネルカバーを付けたまま(つまり、電源以外の有線接続なし)で本体運用することも可能だ。

操作性チェック~パネルアライメント搭載。低表示遅延モードの実力は?

付属リモコン。ボタンがぎっしりと並ぶ。刻印文字は大きい

 リモコンはEH-TW6000系の時から採用されたデザインをそのまま踏襲。最近のリモコンにしては太く幅広でがっしりしている。また、1つ1つのボタンが大きく、ボタン上の刻印文字の大きさも大きい。

 蓄光式のライトアップボタンを押すことでリモコン上のほぼ全てのボタンが自照式発光するが、刻印も字が大きいので暗がりでも見やすい。

 ただ、リモコンの最上段から最下段までぎっしりとボタンが敷き詰められていたり、EH-TWシリーズで広く流用されるリモコンであるためか、[USB]ボタンのような、EH-TW8100Wでは無効なボタンもそのまま実装されており、良くも悪くも作りはマニアックである。

リモコンが見つからない緊急時用の簡易操作パネル。本体側面に配されている。

 リモコン下部に[User]と[Memory]という似たようなイメージの名前のボタンが並んでいるので、一体何のためのボタンだろうと思ったのだが、実は、両者は全く違う用途のためのボタンであった。

 [Memory]は、調整した画調パラメータを保存するためのユーザーメモリ管理メニューを呼び出すボタンだ。

「ユーザーボタン」の設定

 一方、[User」は、「2D-3D変換」「3D方式設定」「3D奥行き調整」「3D明るさ調整」「3Dメガネ左右反転」「明るさ切換」「情報」のうち、いずれか1つの機能メニューの呼び出し用に割り当てて利用できるショートカットボタンになる。たった一個なのが、残念だが、3D立体視を重視した活用が想定されるならば「3D方式設定」「3D明るさ調整」あたりを選んでおくと便利そうだ。

 電源を投入してHDMI入力の映像が出てくるまでの所要時間は約29.5秒。早いとは言い難いが、一昨年レビューした当時の下位モデルEH-TW6000Wよりは早くなっている。

 入力切換はダイレクトに希望の入力系統に切り換えられるように、リモコン上部に[HDMI1][HDMI2][WirelessHD]…という具合の個別ボタンが実装されている。切換所要時間は、HDMI1→HDMI2で約7.0秒、HDMI→コンポーネントビデオで約6.5秒、HDMI→PC(アナログRGB)で約6.5秒。あまり早くはないが、順送り式ではなく直接切り換えられるので我慢できる。なお、HDMI→WirelessHDの切換所要時間も約7.0秒で、他の入力系統への切り換えと大差ない。

 WirelessHDトランスミッター内のHDMI入力系統の切り換えはリモコン上の最下部、WirelessHDトランスミッター制御専用セクションにある[Input]ボタンを押しての順送り式になる。こちらは切り換え所要時間は約10秒で遅い。

「WirelessHDトランスミッター」関連設定項目。受信感度のチェックは設置時には入念に行ないたい

 アスペクト比切り換えは[ASPECT]ボタンを押すことで開くアスペクトメニューから切り換える方式。切り換え所要時間は約1.0秒でなかなか高速だ。用意されているアスペクトモードは下記の通り。

モード概要
ノーマルアスペクト比4:3を維持して表示
フルパネル全域に表示。アスペクト比16:9を維持して表示
ズーム4:3映像に16:9をはめ込んだレターボックス映像を切り出してパネル全域に16:9映像として表示
ワイド4:3映像の外周に行くに従って強く引き延ばす、いわゆる擬似的ワイド表示

 プリセット画調モード(カラーモード)は[Color Mode]ボタンで呼び出した「カラーモードメニュー」から選択する方式。切り換え所要時間は約2.5秒。もう少し早ければと思う。

2画面機能の左右画面をどう割り当てるかを決める設定画面

 プロジェクタ向けとしては、意外に珍しい2画面機能だが、近年のエプソン機ではかなり対応しており、EH-TW8100Wにも搭載されている。

 2画面同時表示が出来る入力系統の組み合わせは、やや制限が厳しく、HDMI1、HDMI2入力同士のようなデジタル入力系統の組み合わせには対応していない。WirelessHD入力もデジタル入力扱いなのでHDMI入力とWirelessHD入力の組み合わせも不可だ。組み合わせとして出来るのは「HDMI1,2入力/WirelessHD入力」×「コンポジットビデオ入力、コンポーネントビデオ入力、PC」のいずれかとなる。

 2画面表示モードは左右に並べての表示であるサイドバイサイドモードに限定されるが、並べた左右の表示映像サイズは「均等」「左拡大」「右拡大」の3パターンから選ぶことが出来る。100インチ投影時の実測では、片画面が約46インチくらい、一方拡大時は大きい画面の方が63インチくらい、小さい画面の方が30インチくらいとなっていた。なお、2画面との境界線にはやや太めの境界帯が入る。攻略サイトを見ながらゲームをプレイする場合などには結構使えるかも知れない。

 パネルアライメント機能も搭載。ソニーやJVCの反射型液晶プロジェクタ機種ではお馴染みとなった色収差やパネル貼り合わせ精度の個体差などによる色ズレを補正できる機能だが、ついにエプソン機でも搭載されることとなった。

 パネルアライメントは、フルカラーピクセルを構成する赤緑青(RGB)のサブピクセルの色ズレを、画像処理で補正するものだ。実際にRGBパネルを移動させているわけではなく、例えば255という値のRのサブピクセルがあったとしたら、これを隣接する2つのRサブピクセルに対して128、127と振り分けるような処理を行なう。

 こうしたパネルアライメント機能は、画面上の何点で補正できるかがポイントになってくるわけだが、EH-TW8100Wでは、四隅の4点での補正までを基本設定としている。これでも不十分な場合は、任意の箇所に対して、追加の補正を与えることも可能だ。

 このパネルアライメントを先にやってしまうと、ピクセル描画がしっとりとしてしまって、投射レンズのフォーカスが合っているか分かりにくくなってしまうので注意したい。EH-TW8100Wは透過型液晶パネルのため、画素開口率が低く、いわゆる格子筋割合が反射型液晶機と比較して太い。なので、この黒格子部分に調整してずらしてきたRGB原色が乗ってきてしまうため、調整は意外に難度が高いと感じた。

液晶パネルアライメント調整画面

 エプソン機はこれまで、長らくゲーム映像表示に特化した「ゲームモード」的なものを用意してこなかったが、EH-TW8100Wでは、「映像処理」という項目名ではあるがゲーム用途に対応した特別な設定項目を設けている。

 設定できるのは「きれい」「速い」のどちらかで、「速い」は「液晶の応答速度を高める」と説明されている。

 応答速度というと、液晶画素へのオーバードライブ駆動などを連想してしまうが、実際のところは、この機能は「表示遅延の低減」をもたらすもののようだ。なお、「表示遅延」問題と「液晶応答速度」問題は別モノなので、混同しないようにしていただきたい。

 表示遅延を計測してみたところ、HDMI有線接続時、「映像処理=きれい」で表示遅延は67ms(60Hz時、約4.0フレーム)、「映像処理=速い」で52ms(60Hz時、約3.1フレーム)となった。テレビ製品のゲームモードと比較すると、まだまだ遅い。

 同様のテストをWirelessHDでテストしてみたところ、88ms(60Hz時、約5.2フレーム)、「映像処理=速い」で58ms(60Hz時、約3.5フレーム)となった。有線接続と比較すると若干遅れることになるが、映像鑑賞用途であれば、ほとんど問題ないレベルではある。

HDMI接続。映像処理=きれい
HDMI接続。映像処理=速い
WirelessHD接続。映像処理=きれい
WirelessHD接続。映像処理=速い

画質チェック~発色良好。3D画質の完成度は競合を圧倒

 採用デバイスは透過型液晶パネル。パネルサイズは0.74型で、解像度はリアル1,920×1,080ドット。世代的には「D9」のHTPS(High Temperature Poly-Silicon:高温ポリシリコン)透過型液晶と発表されており、駆動速度は8倍速の480Hzまで対応する。

 エプソンのD9世代の液晶パネルというとEH-TW6100系と同じだが、EH-TW6000系ぱパネルサイズが0.61型なので、EH-TW8100系の方が大型パネルを使っていることになる。製造プロセスが同じD9で、パネルサイズが違う場合、大型パネルの方が開口率は高くなる。

 実際、投射面に近寄って画素を観察すると、格子筋は従来の透過型液晶パネルと比較すると細く見える。従来は、100インチクラスで投影した際に、中明色の単色で塗りつぶされた領域などで粒状感を感じたものだが、EH-TW8100Wではこれが低減されてはいる。

パネルアライメント=オフ
パネルアライメント=オン

 では、反射型液晶パネル(LCOS)と同等になったか? といえば、その差はまだある。EH-TW8100Wの透過型液晶パネルのピクセルは、LCOSのような完全正方形ではなく、将棋の駒のような上が細い多角形形状で見える。投射映像を近場で見た時には、この形状はほのかな粒状感として見えてくる。

 投射されたピクセルの鮮明度、フォーカス感は、高倍率ズーム、広範囲シフトに対応したレンズの割には良好だ。フォーカス調整は画面中央できっちり合わせ過ぎると、若干周囲がぼけるが、画面中央と画面外周でそれなりに綺麗に見えるように合わせると、満足行くレベルのフォーカス感が画面全域で得ることが出来た。

 最大輝度は2,400ルーメン。これは、民生向けホームシアター機としては最大級の明るさだ。

 プリセット画調モードを「ダイナミック」や「リビング」とした場合は、データプロジェクタと比較しても遜色ないレベルの明るい投射となる。それこそ、蛍光灯照明下でも映像がくっきりと見え、「攻略本を見ながら大画面でゲームプレイ」なんてことも問題なくできるはずだ。

 コントラスト性能は32万:1。この値は、カラーモード「ダイナミック」、明るさ切替「高」、「オートアイリス」(動的絞り機構)オンかつ、ズームがワイド端でレンズシフトが上50%、左右中心時の2D映像視聴時の値と説明されている。

 映像を見てみると、暗いシーンでは、オートアイリスの効果もあって、強い黒浮きはあまり感じられないものの、明暗差の激しい映像では、暗部が周辺の明部に引っ張られるような若干の黒浮きが感じられる。ただ、これもランプ輝度モードを「低」にすれば、それこそLCOS機に迫る締まった暗部を見せてくれる。粒状感に関してはまだLCOS機との差があると感じるが、黒浮きに関しては、熟成を重ねてきたオートアイリスの性能の恩恵もあって「あ、黒浮きだ」と感じる場面は少ない。逆に言えばEH-TW8100Wを安心して活用するためには、オートアイリスの活用は必須だと考える。

オートアイリス=オフ
オートアイリス=標準
オートアイリス=高速

 発色は、純度の高い3原色を出せており、暗色から明色までが破綻のない自然な発色になっている。赤は水銀系ランプとは思えない鮮烈な発色で、黄味に触れていない。特にプリセット画調モード(カラーモード)「シネマ」の赤は深紅の表現までが美しい。緑も黄緑にならず、非常に鋭い発色で中明部でも黄緑にならず純度の高い緑が出ている。青もパワー感があり、かなり暗部においても青の色味を維持できている。おそらく、エプソンが誇る「Newエプソンシネマフィルタ」の恩恵なのだろうが、筆者は少々驚かされた。スペック上ではNTSC色域117%のカバー率と言うから凄い。

 ランプ輝度モードが「低」と「高」とでは、若干色味の傾向が変わる。どちらにおいても、見た目上の色深度に大きな影響は出ていないが、「低」の方が青みが増してやや冷ためな傾向になる。この部分が気になる場合は、ランプ輝度モードが「低」の場合は色温度を1000Kほど下げるといいだろう。

ランプ輝度モード=高
ランプ輝度モード=低

 肌色は、プリセット画調モード「ナチュラル」が一番自然に見える。ランプ輝度モード「高」「低」で一番影響を受けやすいのが肌色なので、映画を見る前に、ランプ輝度モードの「高」「低」に迷った場合は、お気に入りのプリセット画調モードを固定化した上でランプ輝度モードを「高」「低」切り換えて好きな方で見るといいだろう。ただ、ランプ輝度モードの変更はメニューからしか変更できないため、操作は面倒。EH-TW8100Wに限ったことではないが、ランプ輝度が切り替えられる機種は、リモコンに直接切換えボタンを備えてほしいと思う。

カラーモード=シネマ
カラーモード=ステージ
カラーモード=ナチュラル
カラーモード=リビング
カラーモード=ダイナミック
「フレーム補間」設定

 480Hz/8倍速駆動対応の液晶パネルを搭載するが、フレーム補間技術を用いての残像低減は、120Hz/2倍速駆動に留まっている。480Hz/8倍速駆動は3D立体視のためであり、中間フレーム生成は60Hzのオリジナルフレームの表示区間に対して1枚のみとなっている。

 EH-TW8100Wでは、このフレーム補間技術に関する設定を「映像」メニューの「フレーム補間」にて「オフ-弱-標準-強」の4段階で設定できるようになっており、「強」がもっとも算術合成された補間フレームがダイレクトに表示され、「弱」が最もオリジナルフレームの影響を強くして表示される。

 本連載の補間フレーム技術評価で用いている「ダークナイト」ブルーレイで、冒頭およびチャプタ9でのビル群への飛行シーンを見てみた。冒頭では左奥のビルの窓枠で、チャプタ9ではヘリ着陸後の飛行シーンで細い2本のビルでピクセル振動エラー(ノイズ)が顕著に出ていた。弱、標準、強のいずれにおいても出てしまっているが、弱設定はこのピクセル振動ノイズが幾分か低減される。

 安心して映像を見ていたいならば「オフ」か、「弱」設定がいいだろう。

 超解像技術も搭載している。エプソンの説明によれば、1フレーム内処理する信号処理系の超解像アルゴリズムとのこと。超解像を適用できる映像に解像度制限はなく、480pから1080pまで、全ての解像度の映像に対して「機能的には」効かせることができる。「機能的には」とあえて記したのは、筆者の実験では静止画、動画問わず、720p、1080pのHD映像にしかほとんど効果が現れないためだ。480p映像に対して最大に効かせても、陰影が顕在化することなく、ハイライトが明るくなるような効果しか得られなかった。480pコンテンツを1080pや720pにアップコンバートとしてから超解像を適用しても変わらないので、EH-TW8100Wの超解像処理の適性分解能が720p以上になっているためだと思われる。

 720p以上であれば、ボケ気味な陰影がくっきりとし、最近のテレビ製品に採用されている超解像と比較しても遜色ないレベルの陰影顕在化を楽しむことができ。ただ、処理の傾向として映像中のハイライトをやや強めにブーストさせるクセがあるようで、0(オフ)から5(最大)まで設定できる超解像レベル設定で4と5はかなりハイライトがキツくなる。また、もともと十分な陰影がある鮮鋭な箇所において強めに掛けるとリンギングノイズも出る傾向がある。

 「常用するならば3以下」というのが筆者の意見だ。

超解像=0(オフ)
超解像=3
超解像=5

 リモコンには超解像レベルを随時変更出来る[Super-res]ボタンがあるので、「解像感に乏しい映像だな」と感じたときに、このボタン操作で超解像レベルを上下させて好みの画質を探るといいだろう。ただし、個人的にはあまり活用したいと思わなかった。

「3D設定」メニュー

 続いて、3D立体視映像を評価してみた。実写系3Dホラー映画としては意外に評価が高いことで知られる「ファイナル・デッドブリッジ 3D」を見てみたのだが、3D画質は予想以上に素晴らしかった。まず、ホームシアターのプロジェクタで見ているのとは思えないほど、3D映像が明るい。蛍光灯照明下でも3D映像が見られてしまうほどに明るいのだ。

 暗室で視聴した際には、ハイライト表現がまばゆいほどの煌めきを伴った陰影付きの3D立体が実感できる。一般的な3Dテレビ、3Dプロジェクタでは、明部と暗部のエネルギー差が狭まるので、「視差」により立体感は3D立体視システムの恩恵で感じられるが、明暗差の立体感は弱まってしまっていた。EH-TW8100Wの3D映像は、2D映像で見ていた明暗エネルギー差がそのままに3D立体視できている感じなのだ。例えば森の奥の深い闇には奥行きを感じるし、車のフェンダーのハイライト感は眩しく、せり出し感がリアルに伝わってくる。

 液晶パネルの480Hz/8倍速の高速駆動性能は、ほぼ3D立体視のために利用されていると考えていい。「8倍速駆動による高速フレーム描画」×「3Dメガネの両目全閉時間を劇的に短縮」によって、より長時間、適性フレームを対応する目に見せることができており、これにはエプソンは「Bright 3D Drive」というテクノロジー名を付けている。明るい3D映像、パワー感のある3D映像は、このテクノロジーの恩恵だろう。

 3D映像画質の善し悪しを左右するクロストークの大小については、こちらも本連載ではお馴染みの「怪盗グルーの月泥棒」の3Dブルーレイのジェットコースターシーンで検証してみた。

 結論から言うと、よほど「クロストークを見つけてやろう」と気合いを入れて見ないと気づかないレベルにまで到達している。つまり、普段の視聴においては、ほとんど気にならないといっていい。「3D明るさ調整」をデフォルトの「中」設定から「高」に設定すると、クロストークはうっすらと見てとれるようになるが、EH-TW8100Wの場合、ベースとなる輝度が明るいので「高」設定にする必要性を感じない。

カラーモード「3Dダイナミック」
カラーモード「3Dシネマ」

 3D立体視時の発色や階調についても、違和感はない。3D立体視時は、3Dメガネなしで見ると階調が破綻して色もおかしく見えるが、3Dメガネを掛けてみれば、ちゃんと発色も階調も2D映像で見た印象に近いものになってくれる。この辺りのチューニングは、相当、力を入れたのではないかと推察される。なお、3D立体視時のプリセット画調モードは「3Dダイナミック」と「3Dシネマ」の2つしか選べなくなるが、色再現性や階調のリニアリティを重視するならば「3Dシネマ」の一択だろう。

プリセット画調モードのインプレッション

 全てのプリセット画調モードにおいて、デフォルトでは「オートアイリス」オフになっている。EH-TW8100Wは、LCOS機ではないので、明暗が同居している映像では黒浮きは起こりうるので、オートアイリスは積極活用した方が良いと思う。特に暗室で見る場合は、強く奨励したい。

【ダイナミック】

ダイナミック

 水銀系ランプの色特性がむき出しになり、赤が朱色に寄り、緑は黄緑に寄って、肌色も黄味が強くなる。ただし、輝度は強烈に明るくなる。明るい部屋で映像をとにかく見せようとする用途や、明るい部屋でゲームをプレイする用途向きで、汎用性は低い。階調バランスはそれほど悪くはない。

【リビング】

リビング

 もう一つの「ダイナミック」といった風情の画調だが、水銀系ランプの色特性は出来るだけ抑え込もうとする意図が感じられる画調だ。黄味の強さは押さえ込まれ、肌色もそれなりにリアルに見えるようになる。完全暗室にはできないが、それなりに暗く出来るときなどには結構使える画調モードだと思う。

【ナチュラル】

ナチュラル

 実質的な標準画調モードに相当し、色温度も6500K、ランプも低輝度モードになる。肌色が最も自然に見えるため、人物中心の映画やドラマとは相性がいい。とりあえず迷ったら、このモードにしておけばよく、汎用性は高い。

【ステージ】

ステージ

 「リビング」の別バージョンといった印象の画調モードで、ランプは高輝度モードなのだが、発色はシネマに近いチューニングを受けている。赤が鮮烈で、緑や青の純色も美しい。モード名とは裏腹に映画やアニメとの相性も良い印象で、汎用性は高い。「リビング」よりも「色再現性は欲しい。でも明るさも欲しい」という場合に選択するといいモードだ。

【シネマ】

シネマ

 モード名の印象そのままのモードで、暗部の表現力と階調のリニアリティ、色再現性をバランスさせたモードだ。純色の美しさは「ステージ」と甲乙付けがたいレベルだ。「ナチュラル」と同様に、標準画質モードとして活用するといいだろう。

群を抜く3D画質と、Wireless HDの利便性

 今回の評価で、特に感銘を受けたのはやはり3D画質だった。画面の大きさはホームシアタークラスにはなるが、その3D映像の表示品質は、もはや映画館を超えたレベルに達している。「3D立体視において高輝度性能は最大の武器」と改めて思い知ることになった次第だ。

 また、この高輝度性能は3D立体視だけでなく、暗室にしづらいリビング環境での投射との相性もいいはず。レンズシフト範囲も広く、ズーム倍率も高いので設置性も高いことから、初心者の初プロジェクタとしてもオススメできる。

 新型のWirelessHDトランスミッターも、AV機器との配線をやり直さなくていい利便性と、テレビとの併用までを想定した使い勝手の良いものとなったことは高く評価できる。このWirelessHDトランスミッターを搭載しない末尾に"W"のないモデル「EH-TW8100」もラインナップされているが、後付けでWirelessHDトランスミッターは追加できない。価格差は3万円程度なので予算に余裕があればEH-TW8100Wを選択したい。

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トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら