西川善司の大画面☆マニア
第188回
ネイティブ4Kの新たなスタンダード「VPL-VW500ES」
アナログな4Kとリアルな3Dのソニー新4Kプロジェクタ
(2014/2/13 11:11)
「4K」というキーワードの盛り上りを実感したのは昨年2013年のことだが、ソニーはプロジェクタ製品としては、いち早くリアル4K解像度の製品を2011年末に発売している。本連載でも取り上げたことのある「VPL-VW1000ES」だ。
VW1000ESは168万円のフラッグシップモデルであったが、その発売から2年。リアル4K解像度プロジェクタの第2世代モデル「VPL-VW500ES」が'13年末に発売された。価格もVW1000ES(168万円)の半分、84万円と、かなりリアル4Kが身近になってきた。今回は、このVPL-VW500ESの実力を検証する。
なお、VW500ESと同時に、VW1000の後継モデル「VPL-VW1100ES」も発表されている。こちらはVPL-VW1000ESにHDMI 2.0対応などを盛り込んだアップデートバージョンという位置づけだ。
設置性チェック~キャリブレーション機能を新搭載
型番はVW1000ESから半分になったが、ボディの大きさまではそうはならなっておらず、相変わらず大きい。外形寸法は495.6×463.6×195.3mm(幅×奥行き×高さ)で、VW1000ESから奥行きがちょっと小さくなったくらいだ。
ボディ色は黒一色なのだが、本体側面から上面をつや消し塗装とし、投射面は光沢塗装としたツートーンの質感は、VPL-VW1000ESのイメージそのまま。投射レンズの外周にはブロンズ塗装されたヒートシンク状の円形オーナメントがあしらわれている部分もVW1000ESのデザインを継承している。
ただ、VW1000ESに搭載されていた、電源オフ時に投射レンズを覆う電動シャッターのギミックはVPL-VW500ESでは省略された。電動シャッターは下位モデルVPL-VW95ESにも搭載されているので、これは意外だった。
かなりの巨体なので、本棚の天板などへの設置は難度が高い。底面の脚部間の距離を実測したところ、前脚部間の距離が約39cm、前脚部から後部脚部までの距離が約32cmであった。
エアーフローは背面吸気の前面排気。後ろから吸って前から吐く……という空気の流れになっている。側面には吸排気口はないので、設置時に左右のクリアランスはそれほど気にしなくてもよいが、背面には吸気口が有るので、後部を壁に寄せて設置することは避けるべきだ。
前面の排気口のスリットは外側に向いているため、今回の評価でも、熱気が投射映像側に流れて、映像が揺れるといったようなことはなかった。
天吊り金具は、VPLシリーズ定番の「PSS-H10」(80,850円)がVPL-VW500ESでも引き続き利用ができる。下位モデルとは重量が2倍違うので、天井補強をちゃんとしている必要があるが、天吊り金具が流用できるというのは嬉しい。
VPL-VW500ESの重量は約14kg。重量も一般的な家庭用プロジェクタ製品の2倍はある。筆者は11kgのDLA-HD350の天吊り設置を1人で行なった経験があるが、今回のVPL-VW500ESは持った時に無理かも……と思った。VW500ESは、HD350に対して約3kg増だが、椅子に乗った状態で、両手で上に担ぎ上げて位置合わせするのは、この重さは相当難しい。今回は台置き設置のため、一人で設置ができた。
投射レンズは電動制御の光学2.06倍ズームレンズ(f21.7-44.7mm/F3.0-4.0)で、VW1000ESのものと若干仕様が異なっている。投射レンズ開口部の直径も約85mmで、民生機では大口径レンズの部類に属するが、VW1000ESの約90mmより、小型化されているようだ。
100インチ(16:9)の最短投射距離は3.05m、最長等射距離は6.28m。約3mで100インチは最近のホームシアターでは平均的な光学性能だ。投射距離を6m強とっても100インチ画面に映像を収めることができる。光学約2.0倍ズームは、あらゆる大きさの部屋で、投射距離が近くても遠くても希望の画面サイズに映像を収められるように与えられた性能ということなのだろう。
フォーカス調整、レンズシフトも電動制御に対応。シフト幅は上85%、下80%、左右±31%という上下非対称調整幅になっている。レンズ仕様が変わったこともあり、シフト量もVPL-VW1000ESから微妙な仕様変更が行なわれている。ただ、実用上、これだけのシフト幅があれば不満はない。上85%は台置き設置には十分だし、下80%はオンシェルフ設置にも不満のないシフト量だ。左右±31%のシフト量も天吊り時に照明を避けて設置する目的には事足りるだろう。
VW1000ESで筆者も高評価を与えた「ピクチャーポジション」(レンズメモリー機能)は、VPL-VW500ESにも無事継承された。
VW500ESの映像パネル解像度は4,096×2,160ドット、フルHD(1,920×1080ドット)の縦横2倍の4Kで、4Kテレビで採用されている3,840×2,160ドットよりも横方向解像度が多く、アスペクト比は17:9となる。
この映像パネルに一般的なセルコンテンツなどのアスペクト比である16:9の映像を表示すると左右に未表示領域ができる。スクリーン上に16:9映像をフル表示させる際には、この未表示領域をズームレンズを制御してスクリーン外にクリップアウトさせ、この状態でフォーカス等を合わせてやる必要がある。
一方、シネマスコープ(2.35:1)、ビスタサイズ(1.85:1)のアスペクト比の映像を、この映像パネルで最大表示させると、16:9でクリップアウトしていた領域にも映像が表示されることになるので、ズームレンズの拡大率を下げて映像全域が表示されるように再調整する必要がある。フォーカス合わせも同様だ。
このレンズのズーム、フォーカス、シフト状態をパラメータとしてメモリーしておける機能が「ピクチャーポジション」というわけだ。
一度、各アスペクト比の映像を表示した際に満足のいく調整が行なえたなら、ピクチャーポジション機能のメモリに記録させてしまえばいい。記録先は「1.85:1」「2.35:1」「カスタム1~3」の5つが用意されており、一度登録したピクチャーポジションメモリはリモコンの[POSITION]ボタンから呼び出せる。アナモーフィックレンズを組み合わせた設置ケースや、16:9ではない2.35:1のスクリーンを使用しているケースなどは、特にこの機能が重宝されるはずだ。
VW500ESで新設された機能もある。それが「オートキャリブレーション」機能だ。
プロジェクタは光源ランプの経年劣化でホワイト(カラー)バランスが徐々に基準スペックからずれていくことになる。色ダイナミックレンジは狭まることになるが、色調のズレをデジタル次元で基準に戻すシステムがこのオートキャリブレーション機能になる。
やり方は簡単で、設置完了状態、普段使用している状態のまま、入力映像の有り無しにかかわらずメニューからオートキャリブレーションを実行するだけ。
一度実行すると画面が消えたり真っ白な映像が出たりして画面は慌ただしくなり、数分間の時間を要するが、ユーザーが何かの操作をする必要はない。本体前面にカラーイメージセンサを内蔵しており、投射映像を実際に計測して調整が行なわれるので、なるべく普段の視聴環境(暗室で見ているならば暗室状態にする)で実行すべきだ。このオートキャリブレーションの機能に「プリチェック」というのがあるが、これは、調整を行なわず、現在の投射映像のカラーバランスを測定するだけのモードだ。基準性能から現在の状態がどのくらいずれているかを調べるときに使うといいだろう。
VW500ESは、ランプ輝度が高いので、ランプ寿命を超えても結構明るく映るため、使おうと思えば予想外に長く使えてしまうことだろう。ただ、経年で色バランスはズレてくるはず。この機能は、高輝度プロジェクタ製品には、今後採用が進んでいくことになるのかも知れない。
光源ランプは出力265Wの超高圧水銀ランプ「LMP-H260」を採用、価格は49,875円。最近の100万円未満のソニー製プロジェクタの交換ランプは、3万円台が主流だったので、相対的にはやや高価だ。
消費電力は375W。ほぼ同等の輝度性能のフルHD機は300W前後なので、それと比較すれば若干高めという印象だ。ただ、VPL-VW1000ESの480Wと比べればずいぶん消費電力は抑えられている。
騒音レベルは公称値で26dB。この公称値はランプ輝度モード「低」の時の値だと思われるが、「高」でも、それほど騒音は大きくはならない。輝度スペックの割には大きいボディは、この騒音の封じ込めにも貢献していると思われる。昔からソニーのプロジェクタはどのモデルも静音性に優れてきたが、今回もその伝統は守られている。
接続性~ついに入力端子はHDMIオンリーに。PCからは4,096×2,160ドット出力も確認
接続端子パネルは本体正面向かって左側にまとめられている。映像機器においてアナログ入力端子が急速に姿を消しているが、VPL-VW500ESの入力端子は、ついにデジタルオンリーとなった。具体的にはHDMI入力端子2系統のみだ。
HDMI端子はHDMI 2.0規格に対応。つまり、4Kの60Hz(60fps)入力に対応している。また、Deep Color、x.v.Colorにも対応している。NVIDIA GeForce GTX780Tiを用いてVPL-VW500ESに接続してみたところ、4,096×2,160ドット、3,840×2,160ドットのいずれの4K解像度においても表示が行なえた。GeForce GTX780TiはHDMIの4K/60Hz出力には対応していないので、今回の評価ではフレームレートは30Hz(30fps)までの確認しか行なっていない。
HDMI階調レベルは、本機では「ダイナミックレンジ」という名称のパラメータで設定が可能だ。今回の評価で用いたPlayStation 3(PS3)、GeForce GTX780Tiの両方で「オート」設定が正しく機能していた。手動設定では「リミテッド」(16-235)、「フル」(0-255)の設定が行なえる。
Ethernet(RJ-45)は、ネットワーク経由でVPL-VW500ESを制御するために提供されていて一般用途では使用しない。REMOTE(RS-232C)端子もシリアルケーブルで制御するために利用するもの。
USB端子は、ファームウェアのアップデート用途とのことで、USBメモリ内のAVコンテンツの再生には対応しない。IR IN端子は赤外線リモコンからの信号を本体に引き込むための端子だ。TRIGGER1/2は、本体が電源オン時に特定の設定状態になったときにDC12Vを出力する端子で、電動シャッターの開閉、スクリーンカーテンの開閉、アナモーフィックレンズの脱着といった用途に応用する。「設置設定」メニューの「トリガ切換」設定で、どういう設定状態の時にどのトリガ端子を駆動するかを関連づけることができる。
操作性チェック~リモコンに大きな変更はない。表示遅延は100msと大きめ。
上位クラスに位置するVPL-VW500ESだが、リモコンは下位モデルとほぼ共通で、VPL-HW50ESなどに採用されてきたお馴染みのデザインのものが付属する。
[LIGHT]ボタンを押すと全てのボタンが自照式に青色発光する。ボタン上に機能名が刻印されているので暗がりでもボタンと機能の対応も掴みやすい。入力切換の[INPUT]ボタンと[LIGHT]ボタンそのものは蓄光式に鈍く発光する。
[電源]ボタンを押してからHDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間は約29秒。29秒後に表示される映像は暗く、ここから徐々に明るくなっていく。最近の機種としては起動はやや遅い。
入力切換は[INPUT]ボタンを押して入力切換メニューを出し、そこから希望入力を選択させる方式。[INPUT]ボタンを連打することで、順送り式の入力切換えもできる。切換所要時間は約2.5秒~3.5秒。切換先の解像度の組み合わせによって若干、長短の幅がある。入力端子数がHDMI 1/2だけなので、順送り式の入力切換でこの早さでも、それほど不便は感じない。
プリセット画調モードの切り替えは、リモコン上にある各モード名のボタンを押すことで直接、希望の画調モードに切り換えられる。このクラスのユーザーは、こうした画調モードの切り替え頻度は相当高いはずなので、こうしたデザインはユーザーのニーズにうまくハマっていると思う。切換所要時間は一瞬の画面ブラックアウトを伴うが0.5秒以内で切り替わるので待たされない。
アスペクトモードは[ASPECT]ボタンを押して順送り式に切り換える方式。切換所要時間はゼロ秒だ。
用意されているアスペクトモードは下記の通り。VPL-VW1000ESと共通だ。
モード名 | 概要 |
---|---|
1.85ズーム | ビスタサイズ(1.85:1)の映像を縦横比を維持しつつ上下に黒帯を出さずに最大拡大して表示する。3,996×2,160ドット領域を使用して表示する。16:9スクリーンでは左右に映像が若干クリップアウトされる |
2.35:1ズーム | シネスコサイズ(2.35:1)の映像を縦横比を維持しつつパネルの左右幅を一杯に使って最大表示する。2.35:1映像そのものは4,096×1,742ドット領域を使用して表示されるが、入力映像が16:9映像の場合には上下を若干クリップアウトして4,096×2,160ドット全域に表示を行なう |
ノーマル | 余計なクリップアウト付き拡大処理を一切せずに映像パネル内に収まるようにアスペクト比を維持しつつ最大表示 |
ストレッチ | 入力された映像が4:3フレームにスクイーズ(圧縮)されたものとして16:9アスペクトに変換して表示 |
Vストレッチ | シネスコサイズ(2.35:1)の映像をアナモフィックレンズ装着状態で正しいアスペクトで見るためのモード。アナモフィックレンズを通したことにより横方向に拡大変形された映像を正しいアスペクトに表示されるように32%ほど縦方向の拡大処理を介入させる。映像表示自体はパネルの4,096×2,160ドット全域を用いう |
スクイーズ | アナモフィックレンズ装着状態で16:9映像や4:3映像を正しいアスペクトで表示する。アナモフィックレンズを通したことで横方向に拡大変形された映像を正しいアスペクトになるように横方向の縮小処理を介入させる。映像表示自体はパネルの2,908×2,160ドットを使う |
一言で言うと、「1.85:1ズーム」と「2.35:1ズーム」は、映像パネルをなるべく広く活用して表示するモード。「Vストレッチ」と「スクイーズ」は市販のアナモーフィックレンズを組み合わせた時に活用するモードとなる。
表示遅延の測定はプリセット画調モード「ゲーム」にて行なった。比較対象は今回も「0.2フレーム(3ms)/60Hz」という低表示遅延性能を誇る東芝REGZA 26ZP2だ。
VPL-VW500ES側はプリセット画調モードを「ゲーム」に設定。測定結果は26ZP2に対して約100msの遅延が確認された。約100msは毎秒60コマ(60fps)換算で約6フレームの遅延となる。これは最近のモデルとしてはかなり遅い。ソニーの最近のフルHD/SXRD機は24ms(60fps時で1.4フレーム相当)まで短縮されていただけに残念だ。
ゲームをしないユーザーでも、PCと本機を接続して4Kディスプレイ的に活用した場合には、マウス操作が遅延するのが分かるレベルだ。プレイステーションブランドを有するソニーとしては早急に改善すべき点だろう。
画質チェック~高品位4Kが楽しめる「Mastered in 4K」。「触感」まで見える新感覚な3D
映像パネルは今さら説明は不要だろう、当然、ソニー独自の反射型液晶パネル「SXRD」(Silicon X-tal Reflective Display)だ。解像度はDCI(Digital Cinema Initiatives)規格の4Kで、4,096×2,160ドット。パネルサイズは0.74型で、ドットピッチは4μmとなっている。
0.2μmといわれる画素を仕切る格子筋は、100インチ程度の画面サイズではほとんど視覚できないレベル。スクリーンに近づいてやっとうっすらと見えるほど精細だ。
100インチ画面で視聴距離2m未満になるとフルHD解像度では、ドット粒状感が何となく感じる瞬間があるのだが、VPL-VW500ESの4K映像は格子筋がほとんど見えず、4Kの高解像感と相まって、非常にアナログ的なしっとりとした質感で見える。
もちろん、ボケていてしっとりして見える、というわけではない。仕様変更された光学系は、VPL-VW1000ESに優るとも劣らぬ完成度。完“精度“ともいうべきフォーカス力で、画面の全域でキッチリとピントが合っている。今回は左右レンズシフトを少々、下方向レンズシフトを0.5画面分くらい行なっての投射となったが、この精度のフォーカス力は圧巻だ。
しっかりフォーカスしているのにアナログ的な質感で見えるのは、固定画素系プロジェクタ歴が長い上級ユーザーであればあるほど「おお」と驚くことだろう。たとえるならば、超高解像度のウルトラハイエンド三管プロジェクタの画質の味わい……といったところか。
ソニーお得意のデジタル次元での1ドット未満のパネルシフト機能「パネルアライメント」機能も搭載されている。VPL-VW1000ESを評価した際には、手元に届いた評価機は画素ズレがかなり大きかったのだが、今回の評価機はパネルアライメントを駆使せずともほとんど画素ズレが起きていなかった。4Kプロジェクタの第2世代と言うことで組み付け精度等も向上しているのかも知れない。
輝度性能は1,700ルーメン(ランプコントロール「高」設定時)。VW1000ESの2,000ルーメンと比較すると若干落ちるわけだが、一般的なホームシアター機は1,000ルーメン前後なので、それと比較するとかなり明るい。
蛍光灯照明下でも、画調を「ブライトシネマ」に設定すれば、データプロジェクタに近い明るさで映像表示が行なえてしまうほど。
公称コントラストは20万:1。これは動的絞り機構を組み合わせての値だ。VPL-VW1000ESが動的絞り機構を組み合わせて100万:1を謳っていたので、数値的には若干落ちることになる。ただし、VW1000ESよりも5倍もコントラスト性能が劣るのかというと、視覚的にはそういう感じはない。
黒の締まりは良好で暗室で全黒を表示させて、投射映像を手で遮ると、手の影は見えるには見えるのだが、その影は相当に暗い。
一方で、1,700ルーメンの輝度力は凄まじく、シーン内にハイライト表現があると、あたかもそこが自発光しているのではないかと思えるほど煌めいて見える。
星空や夜景など、漆黒に近い暗い背景の下地に、かなり明るい光がちりばめられた映像などでも、SXRD特有の安定した局所コントラスト性能により、背景の暗い表現の締まりはしっかりしていて、ちりばめられた光は鋭い点の輝きを放ってくれる。
コントラスト感、ハイライトの伸びはかなり優秀だ。
発色はプリセット画調モード「シネマ1」が最も鮮烈。赤も鋭く、青の純度も高い。緑は黄緑に振れずとても自然に見える。肌色の質感はプリセット画調モード「リファレンス」が最もリアルに感じる。シネマ系画調の肌色は血の気を強めに感じるが、時々やや赤味が強く感じることがある。
階調表現はどの画調モードもトータルバランスは良くまとまっているが、「シネマ1」はやや黒浮きが強い。「シネマ2」は黒浮きが低減される分、ピーク輝度は抑え気味だ。「リファレンス」は黒浮きの少なさとピーク輝度のバランスがいい。
VPL-VW1000ESでは、水銀系ランプを採用しながらもキセノンランプ風の色域を作り出す「DCI」「AdobeRGB」などの特殊カラーモードを「カラースペース」から設定ができたが、VPL-VW500ESでは、光源ランプの変更もあってか、それら2モードはカットされている。
sRGBと同等のHDTV規格ITU-R BT.709に準拠した「BT.709」モードは引き続き搭載されている。これ以外には「カラースペース1,2,3」の3つが用意されており、シネマ系画調モードはやや色域を拡張した感じの「カラースペース3」が選択されていた。一般的な映像を視聴する際には「BT.709」か「カラースペース3」の2択でいいだろう。いろいろ試してみた感じでは緑やマゼンタ領域で発色の違いがわかりやすい。
液晶テレビBRAVIAシリーズにも採用が進む、ソニーが誇るデータベース型超解像技術「リアリティクリエーション」は、VPL-VW500ESにも搭載される。また、新要素としては、データベースモードに「Mastered in 4K」モードが追加された。
「Mastered in 4K」は、ソニーピクチャーズが推進する4Kマスタリングされたブルーレイソフトのブランドだ。
Mastered in 4Kのブルーレイも、現行ブルーレイ規格内の製品なので映像の記録解像度はフルHD記録どまりだ。なので、4Kあるいはそれ以上で撮影されたスタジオマスターデータをブルーレイ製品にする際にはフルHDコンバージョンを必要とする。VPL-VW500ESに新設された「Mastered in 4K」モードとは、フルHD映像を超解像処理して4K化するにあたって、ソニーピクチャーズが採用する「4K→2K」変換処理の逆方向アルゴリズムを適用する。これによって、表示映像が元のマスター映像に極めて近づく、というのがソニーによる説明だ。
「Mastered in 4K」ブランドのブルーレイはフルHD出力、x.v.Color対応であればプレーヤーの種類やメーカーは特に問わない。ということで、今回はx.v.Color対応のPS3で再生を行なった。
適切な「Mastered in 4K」の再生方針がVPL-VW500ESの取扱説明書に書かれていないので、ソニーに確認したところ
・「リアリティクリエーション」の「データベース」設定は「Mastered in 4K」に変更する
・「カラースペース」設定は「BT.709」に設定変更する
・「エキスパート」設定の「x.v.Color」設定を「入」設定に変更する
という手順を踏む必要があるとのこと。
さて、実際に推奨設定を行なって、Mastered in 4Kブランドのソニーピクチャーズ製ブルーレイ「トータルリコール」「世界侵略:ロサンゼルス決戦」「エリジウム」等を、この「Mastered in 4K」モードで視聴した。
リアリティクリエーションによる4K化超解像は通常設定の「データベース=ノーマル」では画面全体にある一定のレベルで陰影が先鋭化される印象だが、「データベース=Mastered in 4K」では、わざとらしい陰影強調が影をひそめシーン内に各所において不自然に見えない程度の超解像化が行なわれる。
例えば「トータルリコール」では、緊迫する場面で主役のコリン・ファレルのアップショットが多いのだが、「ノーマル」では肌の肌理が過度に強調されて毛穴が目立つ表示になってしまうが、「Mastered in 4K」モードでは、肌理の陰影は際立つようにはなるが、わざとらしさはなく、本当に4K表示ならばこうなるんだろうな……という説得力がある。
「エリジウム」では、視聴者の視線を画面内の特定方向に誘うために作中演出として、やや過剰なデフォーカス(ピンぼけ)表現があるのだが、この時のボケ表現には陰影の尖鋭化は行なわれない。
最初は「ここが超解像処理されているのだろうな」と推測しながらみていられるのだが、しばらく見ていると、そうした思考を忘れ、普通に4K映像として見てしまっている自分に気がつく。それだけVPL-VW500ESの4K化映像は完成度が高いということだ。ユーザーになった暁には、ぜひとも「Mastered in 4K」ソフトを推奨設定で見ていただきたいと思う。
Mastered in 4Kソフトのx.v.Color対応度については、今回視聴したタイトルはグレー基調のアクション戦闘映画ばかりだったので、それほど大きな違いを感じられず。ただ、ネオンサイン等のシアンと緑、マゼンタと赤付近の微妙な色表現に違いを感じることはあった。
画質的には素晴らしい「Mastered in 4K」モードだが、Mastered in 4Kソフトを楽しむために行なう設定が面倒というのは課題だ。プリセット画調モードには、用途が重複するものもあるので、これらを整理して「Mastered in 4K」モードがあってもよかったのではないか、と思う。なお、この「面倒くささ」を、現状の仕様の範囲内で解決する最も現実的なアプローチは、画調モードのユーザーメモリに、自分なりの「Mastered in 4K」モードを作成して記録してしまうことだ。
VPL-VW500ESは、3D映像にも対応している。ただし、3Dメガネは別売で「TDG-BT500A」(実売5,500円前後)が設定されている。駆動は電池式(CR2025)で、充電には対応していない。PS3の一部のゲームでサポートされる、1画面を時分割表示して2人分の映像を全画面表示するSimulViewシステムにも対応しているのもトピックだ。
3D映像表示同期用のシンクロエミッターは内蔵式で、2.4GHz帯の電波(RF)式を採用している。赤外線方式のVPL-VW1000ESでは、3D映像視聴中は部屋に赤外線が充満してリモコンが効きにくくなってしまったりしたが、VW500ESではそうした問題もない。電波式なので遮蔽物の影響もなく同期が取られるため、3D映像の表示同期は極めて安定していた。
3D画質は発色は良好。3Dメガネを掛けて見た時の色調変化はうまく調整されていて、違和感は皆無だ。
3D映像特有の二重像(クロストーク)現象は、うまく抑えられてはいるが、「怪盗グルーの月泥棒」のジェットコースターシーンなどのシビアなシーンでは若干だが感じられる。ただ、これもデフォルトでは「3D明るさ=明」になっているところを「標準」とするとだいぶ低減される。もともと映像輝度が明るいので暗室で見る分には「3D明るさ=標準」でも不満はない。クロストークが気になる人はまずはここを変更するといい。
さらにクロストークが気になる人は「3D奥行き調整」を基準の「0」から「1」へと変更してみよう。個人差やソフトによっての多少の差異はあるとは思うが、今回の評価ではクロストークはさらに低減された。
3D映像においてもリアリティクリエーションは作用し、ちゃんと4K化された3D映像となる。2D→3Dコンバージョンされたタイトルではなく、3D撮影された映画やCGベースの3D映画では、リアリティクリエーションの効果は2D映像の時以上に効果が分かりやすく感動的だ。というのも、肌の肌理、髪の質感、衣服の布目なとの陰影までもが立体的に見え、質感や触感のようなものまでが伝わってくるのだ。現在の3D映像表現は視差による立体視が支配的なわけだが、VPL-VW500ESの3D映像は、ディテール表現における異方性のハイライトまでを立体的に見せてくれるため、このような質感や触感を伝えてくるのだと思う。
もう一つ、鏡面反射をしている素材に映り込んだ鏡像までが立体的に見えてくるのも驚かされた。
VPL-VW500ESの3D映像を見ることで、今回、改めて3D映像の奥深さを再認識することができた。VW500ESユーザーには、ぜひともリアリティクリエーションを適用して4K化した3D映像も見ていただきたい。
映画を楽しむプロジェクタとして不満無し
リアル4Kプロジェクタの先駆者、VPL-VW1000ESの型番と値段を半分にして登場したVPL-VW500ES。性能が半分かというとそんなことはなく、リアリティクリエーションのMastered in 4Kモードの搭載など、2年後のモデルとしての進化も盛り込まれており、画質性能に関しては、84万円という価格に見合うプロジェクタに仕上がっていると思う。
確かに色域モードのDCIモードなどは省かれているものの、シネマ系画調モードの完成度は高く、フルHD解像度のSXRDプロジェクタユーザーからのステップアップなどでは、何の不満もないはずだ。リアリティクリエーション(超解像)のクオリティも高いし、本文では触れなかったが、補間フレーム挿入の倍速駆動の品質も安定している。現状、映画コンテンツを高品位に楽しむプロジェクタとしては申し分ないと思う。
ただ、パーフェクトかと言われると、やはり、ゲームモードの遅延には不満が残る。4Kのアナログ的な質感や、そしてリアリティあふれる4Kの3D画質など、4Kプロジェクタの新しい基準となる製品だけに、この点は改善を望みたい。