第160回:リアル4Kプロジェクタついに登場

~質感をも立体化する4K 3Dの潜在力 ソニー「VW1000ES」~



VPL-VW1000ES

 CESレポートでも触れたしたように、今年の映像機器のトレンドの1つに「4K2K」がある。

 メーカー主導の提案という点では、2010年の「3D立体視」に似た部分はあるが、デジカメの撮影解像度が1,000万画素超となり、ビデオカメラにおいてもオーバーフルHDの流れが見え始めてきたことを考えると、4K2Kがメインストリーム化するのもそれほど先の未来ではないのかも知れない。

 HDMIも高速化されるし、PCI Expressは3.0になる。超高解像メディアを取り扱うためのお膳立ても揃いつつある。ソニーの4Kプロジェクタ「VPL-VW1000ES」は、そんな4K2Kテクノロジーを先取りしたハイエンド製品になる。価格は168万円。



■ 設置性チェック ~光源ランプは水銀系

 VPL-VW1000ESは168万円の高級機だ。ソニーは過去にもQUALIA004、VPL-VW100、VPL-VW200といった100万円超の高級機を出してきたことがあるが、いずれも、何かしらの「エポックメイキング要素」が存在していた。今回はそれが「4K2K」ということだ。

 こうした高級機は、所有する喜びも重要な評価ポイントになってくると思うが、VPL-VW1000ESのボディの大きさは、「高いものを買った」という所有欲を満たしてくれるのに十分過ぎるほどの迫力がある。

VPL-VW1000ES。キセノンランプ搭載の2007年発売のハイエンド機VPL-VW200よりも大きい
手を掛けやすいところに配置されたスイッチ群。移動や運搬の際には注意したい

 外形寸法は520×640×200mm(幅×奥行き×高さ)。辛うじてQUALIA004よりは小さいが、キセノンランプ採用の最後のモデルのVPL-VW200よりも大きい。実際に設置時に持った感想は「分厚い」だ。

 重さは約20kgもあり、天吊り設置のために一人で持ち上げるのは不可能だ。今回、電源コードをつないだままの電源オフ状態で、1cmほど横にずらそうと思って持ち上げてみたところ、勝手に電源が入ってしまい驚いた。正面左側の輪郭部には電源などの操作ボタンが実装されており、ここを押してしまったためだ。運搬時には手を掛けやすい場所なので、力の掛けようによってはボタン自体を破損させてしまうこともあるかも知れない。注意されたし。

 天吊り金具は、歴代VPLシリーズのほとんどで利用できる「PSS-H10」(80,850円)や「PSS-610」(52,500円)。下位モデルとは重量が2倍違うので、天井補強をちゃんとしている必要があるが、天吊り金具が流用できるというのは嬉しい。

 一方、台置き設置をしようとしている人は、相当大きな台を用意する必要がある。本体底面前部にはネジ式の高さ調整対応脚部を左右に、底面後部側の脚部は固定式のゴム足を備えている。前後の脚部の距離は約42cm程度なので、VW1000ESを載せるにはこれ以上の奥行きの台が必要になる。

 棚の天板などに設置する場合、気を付けたいのは後面のクリアランスだ。VW1000ESは前面吸気の後面排気なので、本体を壁に寄せきった設置はまずい。ソニーとしては最低でも5cmのクリアランスを設けるようにというガイドラインを示している。事実上、家庭では、天吊り設置が基本ということになるだろう。

 投射レンズに目をやると、黄金色というかブロンズ色というか、金属光沢を伴ったヒートシンクのようなもので囲われている。これは実はプラスチックでできた飾りだが、これがあることでとても見栄えが勇ましく見える。まるで宇宙戦艦ヤマトの波動砲発射口みたいだ。なお、ここは吸気口も兼ねている。

背面スリットは排気口黄金色のヒートシンクのようなギミックは飾り。ただし、ここは吸気口も兼ねている

 投射レンズ自体は光学2.1倍ズームレンズ(f21.3-46.2mm/F2.9-3.9)。非常に大きい開口部なので計測してみたら、なんと直径は90mm以上もあった。民生機では余り見たことがないほどの大口径レンズである。

 当然、電動制御に対応しており、フォーカス、ズーム、シフトはいずれもリモコンからの操作で調整できる。嬉しいのは、フォーカス、ズーム、シフトのレンズ設定状態をメモリーに保存しておけるところ。

5つの投射レンズの設定状態を記録して呼び出すことができる「ピクチャーポジション」機能

 「ピクチャーポジション」と名付けられたレンズメモリーは5つ用意されており、その5つのメモリーには「1.85:1」「2.35:1」「カスタム1」「カスタム2」「カスタム3」と名前が付けられている。最初の2つは視聴する映像コンテンツのアスペクト比を連想させる名前になっているが、実際には、アスペクト比切換操作とは連動していない。なので5つのメモリーは好きな目的で使える。

 活用例を挙げるならば、2.35:1のシネスコサイズのスクリーンを設置している場合に、16:9映像をスクリーンに最大表示できるレンズ設定と、2.35:1映像をスクリーン全域に表示するレンズ設定を記憶させておき、視聴するコンテンツのアスペクト比に合わせたレンズ設定を呼び出す……という感じになるだろうか。

 「レンズシフトを使うのは最初の設置時の位置決めのときだけ」という人も多いかと思うが、こうしたレンズメモリー機能を組み合わせれば、レンズシフトに新しい利用価値が見出せる。というわけで、この機能はけっこう便利だ。個人的には中級機以上の全てに採用して欲しいとまで思う。

 さて、画質重視の上級機はあえてレンズシフト機能のシフト幅を少なめにした光学設計にする傾向が強いが、VW1000ESは少し違う。シフト幅は、上下±80%、左右±31%(16:9映像であれば±33%)というかなり贅沢な仕様だ。

 100インチ(16:9)の最短投射距離は2.96m、最長投射距離は6.46m。図体はでかいが、一般的な家庭の部屋のサイズから、中サイズ会議室クラスまでの大きな部屋にまで対応できる。なお、2.35:1のシネスコサイズの100インチの投射距離は最短2.93m、最長6.39mとなっている。

ガイドラインを参考に、各アスペクトモードごとに、スクリーンにめいっぱい表示できる投射拡大率を求めていこう

 映像パネルは4,096×2,160ドットでフル表示時のアスペクト比は17:9になる。これは、一般的な16:9の映像ソースの他に、映画コンテンツに多い1.85:1のビスタサイズ、2.35:1のシネスコサイズの映像をなるべく多くの画素を用いて表示するための配慮からだ。設置時の位置合わせにはテストパターンが利用出来るが、このテストパターンには2.35:1、1.85:1、1.78:1(16:9)などのガイドラインが含まれている。

 例えば16:9スクリーンに16:9映像を最大サイズで投射する際には左右を若干スクリーンからクリップアウトさせるようにズームさせる必要がある。具体的に言えば、4,096×2,160ドット(17:9)のうち、3,840×2,160ドット(16:9)をスクリーンの表示域に合わせるので左右128ドットずつはみ出させる投射にする。逆に2.35:1のシネスコスクリーンへの投射の場合には、4,096×2,160ドットのうち、4,096×1,742ドットをスクリーン表示域に合わせることになるので、上下209ドットずつをはみ出させて表示する。1つのスクリーンに対し、なるべく大きく画面を表示させようとすると、ズーム、シフト、フォーカスが変わってくるので、これをプロファイルとして登録して電動制御の呼び出しに対応させたのが、前出の「ピクチャーポジション」(レンズメモリー)機能というわけだ。

 光源ランプは330Wの超高圧水銀ランプを採用する。これまでのソニーの100万円超のSXRD機はキセノンランプだったが、VW1000ESではついに水銀系ランプになった。ランプそのものは新開発で型番は「LMP-H330」。出力330Wの高出力ランプということもあって、価格は52,500円となった。二桁型番のVPL機のランプがずっと3万円前後だったので、かなり高価になったといえる。

LMP-H330光源ランプは本体上面の扉から交換可能

 定格消費電力は480W。なかなかの電気食いだが、それでもキセノンランプ搭載機のVPL-VW100/200が600W超だったことを踏まえれば、十分控えめ(エコ?)になったものだ。

 騒音レベルは22dB。出力330Wの高出力ランプを採用している割には、この静粛性は立派だ。高出力ランプを使用しているのに静粛性を維持できた理由は、ボディサイズが馬鹿デカイことと無関係ではあるまい。騒音は冷却ファンを高速回転させるから起こりやすく、かつてのQUALIA004もボディを大きくして大型ファンをゆっくり回すことで静粛性を確保した。その発想がVW1000ESにも生きているのだろう。

 実際に筆者宅で設置して稼動させたときの動作音は、ランプコントロール(ランプ輝度モード)設定を「低」にしたときには1m未満に近づいてもだいぶ静か。高輝度モードの「高」設定にするとファンノイズは確かに聞こえてくるが排気方向の反対側に1mも離れれば気にはならない。背面排気という点を配慮して設置すれば、かなり静粛性の高いホームシアターが構築できるはずだ。


■ 接続性チェック~HDMI階調レベルの手動設定がソニー機でついに採用に

 接続端子パネルは、ソニーVPL機伝統(?)の正面向かって左側の下部にレイアウトされる。天吊りの場合は問題はないが、台置き設置だと膨らんだボディの出っ張り部分が手に引っかかってアクセスしにくい。

接続端子部は向かって左側に集約上面が強く張り出したデザインのため、台置き設置時は端子脱着しづらい

 昨今のアナログ入力端子の撤廃の流れをうけ、アナログ入力端子はコンポーネントビデオ入力(RCA)だけ。さらに同端子はD4(1080i/720p)までの入力対応で、D5(1080p)は表示不可となっている。

 HDMI入力は2系統を装備し、HDMI CEC、3D、x.v.Color、Deep Colorに対応する。HDMIの4K2K入力に対応しているが、今回は対応するPCのグラフィックスカードが準備できなかったためテストは行なえていない。仕様上は3,840×2,160ドットが24Hz(23.976)、25Hz、30Hz(29.97Hz)、4,096×2,160ドットが24Hzの入力に対応している。ちなみに、AMDのRADEON HD 7900シリーズがこうした解像度の出力に対応しているようだ。

 また、2012年春頃までにPlayStation 3(PS3)用の4K写真コンテンツ伝送アプリ(ファームウェア?)がリリースされることが予告されている。これは、PS3のHDMIを利用して4K出力を可能にするアプリとなるが、4K2K映像を分割して送る独自方式で、HDMIの規格外となるそうだ。つまり、VW1000ESと組み合わせたときにだけ有効で、他社の4Kテレビでは表示できない。

HDMI階調レベルの手動設定機能を搭載

 HDMI入力に関しては、ソニーがずっと対応を見送ってきたHDMI階調レベルの明示設定モードがついに搭載された。CEATEC JAPAN 2011のソニーブースでも開発関係者から「今度は搭載しましたんで」とお声かけ頂いたが、ロビー活動がやっと報われたようだ(笑)。

 この機能を簡単に解説すると、PCやPS3のようなゲーム機などのHDMI出力におけるRGB各8ビット出力では0~255のダイナミックレンジを全て活用して階調を出力するが、ビデオ機器はこれを16~235の範囲で出力しており、この不整合が表示映像の階調崩れを引き起こす。これは自動認識で対処するのがスマートなのだが、PCやPS3との接続時はこれがうまく働かず、高い確率で失敗する。これまでのVPLシリーズでは、この自動認識に失敗した際には、ユーザーがプロジェクタ側で調整する手立てがなかったのだ。

 VPL-VW1000ESでは、この調整項目が「機能設定」メニューの「HDMIダイナミックレンジ」の項目で与えられるようになった。「オート」設定がデフォルトとなっているが、「リミッテッド」(16-235)、「フル」(0-255)に切り替えが可能になっている。これでPCやPS3を接続する際にも、正しい階調が出せるようになった。

 PC入力は、アナログRGB接続(D-Sub15ピン端子)にも対応。Xbox 360では、640×480ドット、1,024×768ドット、1,280×720ドット、1,280×768ドットでの正常表示を確認した。ただし、アスペクト比の変更が出来ず、上記で言えば、640×480ドット、1,024×768ドットは4:3固定、1,280×720ドットは16:9固定、1,280×768ドットは15:9固定となる。1,920×1,080ドットは正常に表示されない。

 この他、リモート制御用のRS-232C端子、IR IN端子、LAN端子、そして立体視同期用の外付け3Dエミッタの接続用端子(3D SYNC端子)、電動開閉スクリーンやアナモーフィックレンズの連動脱着に利用するトリガー端子もある。電源オン時に常時12Vを出力する「電源」のほか、アスペクトモード「Vストレッチ」あるいは「2.35:1ズーム」のときに12V出力する「Vストレッチ」設定や「2.35:1ズーム」設定が選べる。

 3D SYNC端子はLAN端子と同形状のRJ-45端子を採用。市販のLANケーブルで3Dエミッターを接続し、設置できる。なお、3Dエミッタは、本体前面向かって左側にビルトインしているため、視聴距離5mの範囲内であれば、外付けの3Dエミッタ(TMR-PJ1/実売8,000円前後)は不要だ。実際、筆者の10畳程度のホームシアターでは問題なく内蔵3Dエミッターで3D立体視表示が行なえ、特に信号をロストすることもなかった。

 3Dメガネは商品セットに2個、付属する。追加で必要な場合は、ソニー純正の「TDG-PJ1」(標準付属のものと同一)を追加することになる。実勢価格は1万円前後。


■ 操作性チェック~充実のアスペクトモード

リモコンは下位モデルと同一デザイン。かつては上位機専用のものが奢られたものだったが……

 リモコンはVPL-VW95ES/HW30ESなどと同デザインのものが付属。左上の[LIGHT]ボタンを押すことで全ボタンが青色LEDで自照するギミックも共通だ。

 [電源]ボタンを押してから、HDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間は約40秒とあまり早くはない。電源オン時には投射レンズを覆っていた扉が左右にガーと開くオープニングセレモニーが格好いいが、収納状態時、真ん中に割れ目があるのが何となく野暮ったい。JVCのDLAシリーズのようにスライド式の1枚ドアの方が、電源オフ時には一枚板で閉じ、見栄えがいいと思うのは筆者だけか。

 入力切換は[INPUT]ボタンを押す事で開く入力切換メニューから希望入力を選択する方式。[INPUT]ボタンを連続押しすることで順送り式の切り換え操作にも対応する。HDMI→HDMIの切換所要時間は約4秒、HDMI→コンポーネントビデオは約4.5秒、HDMI→入力A(PC入力)は約4.5秒と、こちらもあまり早くはない。入力系統が4系統と少ないので、直接切換できる個別ボタンをあしらってもいいような気がする。


電源オンと共に、左右に扉が開いて投射レンズが姿を現す

 ちなみに、入力切換先が異なる画調モードで、切換前と切換後の画調モードの組み合わせによっては+4秒ほど長くなることがあった(つまり、入力切換に合計8秒超待たされる)。電気的な入力切換のあとに、カラーフィルタや絞りのメカ調整が入るためだと思うが、電気的な切換とメカ切換をオーバーラップするなどして高速化してほしいところ。10秒近く画面になにも映らない状態が続くのは暗室では不安になる。

 プリセット画調モードは全9種類。各モードのインプレッションや詳細については後述する。切換所要時間は約1.5秒。アスペクト切換は[ASPECT]ボタンによる順送り式に行われる。切換所要時間は約1.0秒。

 用意されているアスペクトモードもVPL-VW1000ES独特のもの。ラインナップは以下の通り。

モード名概要
1.85ズームビスタサイズ(1.85:1)の映像を縦横比を維持しつつ上下に黒帯を出さずに最大拡大して表示する。3,996×2,160ドット領域を使用して表示する。16:9スクリーンでは左右に映像が若干クリップアウトされる
2.35:1ズームシネスコサイズ(2.35:1)の映像を縦横比を維持しつつパネルの左右幅を一杯に使って最大表示する。2.35:1映像そのものは4,096×1,742ドット領域を使用して表示されるが、入力映像が16:9映像の場合には上下を若干クリップアウトして4,096×2,160ドット全域に表示を行なう
ノーマル余計なクリップアウト付き拡大処理を一切せずに映像パネル内に収まるようにアスペクト比を維持しつつ最大表示
ストレッチ入力された映像が4.3フレームにスクイーズ(圧縮)されたものとして16:9アスペクトに変換して表示
Vストレッチシネスコサイズ(2.35:1)の映像をアナモフィックレンズ装着状態で正しいアスペクトで見るためのモード。アナモフィックレンズを通したことにより横方向に拡大変形された映像を正しいアスペクトに表示されるように32%ほど縦方向の拡大処理を介入させる。映像表示自体はパネルの4,096×2,160ドット全域を用いる
スクイーズアナモフィックレンズ装着状態で16:9映像や4:3映像を正しいアスペクトで表示する。アナモフィックレンズを通したことで横方向に拡大変形された映像を正しいアスペクトになるように横方向の縮小処理を介入させる。映像表示自体はパネルの2,908×2,160ドットを使う
標準画調モードとも言えるプリセット画調モード「リファレンス」では約5フレームの遅延

 表示遅延の測定は、今回も「0.2フレーム(3ms)」という表示遅延性能を誇る東芝REGZA 26ZP2をリファレンスに用いた。値はいずれも26ZP2との相対遅延となる。写真は、奥の大きい画面がVPL-VW1000ES、手前の小さい画面が26ZP2になる。

 まず、プリセット画調モード「リファレンス」で測定してみたところ、60Hz表示(1フレームの表示時間=16.7ms)において約5フレーム(約83ms)遅延を確認。最近の機種としてはかなり遅延が大きい。

 VW1000ESには、プリセット画調モードとして「ゲーム」があるので、こちらで計測してみたところ、約3フレーム(約50ms)に短縮された。最近のゲーム対応を謳う機種は遅延を1フレーム前後にまで抑え込んできているので、早い数値ではないが、約2フレーム分短縮する点は評価したい。

 3Dモードにして、なおかつプリセット画調モードを「ゲーム」としたときの表示遅延は、2D時の「ゲーム」時よりもさらに約1フレーム表示遅延が短縮し、約2フレーム(約33ms)となっていた。これは、3Dモードとしては、まずまずの速さで、リアルタイム系のゲームであってもなんとか許容できる遅延だと思う。


VPL-VW1000ESは高級機だが「ゲーム」画調モードを搭載する。ただし、表示遅延は約3フレームであまり早くはない3D立体視時の「ゲーム」画調モードでの遅延は約2フレーム。意外に速い

■ 画質チェック~立体的な「触感」までを想像させる4K2K 3Dの感動

新開発の0.74型4K2K SXRD

 VPL-VW1000ESの映像コアとなる映像デバイスは、反射型液晶パネル「SXRD」で、解像度は4,096×2,160ドット、パネルサイズは0.74型。思い返せば2003年、最初のSXRDプロジェクタ「QUALIA004」のSXRDが0.78型/フルHD(1,920×1,080ドット)だった。ほぼ同型(やや小さい)サイズで4倍の解像度を詰め込んだのだから、その技術の進化ぶりたるや凄いものである。

 製造プロセスも従来SXRDと比較して微細化された。VPL-VW95ES/HW30ESなどのフルHD機のSXRDは0.61型で、ドットピッチが7μmだったが、今回の0.74型4K2KのSXRDでは4μmへと縮まった。画素サイズにすると、フルHDのSXRDの画素と比較して面積比で約33%にまで小さくなっている。

 実際に100インチに投射した映像を見てみたが、もはや「ドット」としての形状は視認できないほどの高精細さだ。スクリーン面に近づいて目をこらせば、見慣れたフルHD画素サイズよりも遙かに小さい細かさでドットの仕切りが確認できる。ソニーの発表によれば画素間の格子筋の幅は0.2μmだそうだ。もはや100インチ程度の画面サイズでは、面表現においても粒状感はほぼ皆無だ。


「リアリティクリエーション=入」×「ピクセルアライメント=入」時「リアリティクリエーション=切」×「ピクセルアライメント=入」時

 ただ、4K2Kパネルの組み付け精度には、苦労があるようで、最初に筆者宅に到着した評価機は4K2K画素レベルで、5-6ドットほどRGB(赤緑青)が互いにずれてしまっていた。

 ソニーのVPL機には「パネルアライメント」機能と呼ばれる、RGBの各パネルを上下左右方向にデジタル画像処理で移動させる機能が有るので、これで補正を試みてみたが、画面全域での色ズレが収まらず、やむなく評価機の変更を依頼した。だが2台目の評価機もこれまた2~3ドットほどずれていた。このズレは、色収差により画面外周へいくのに従ってずれるものではなく、画面全域にわたってズレているので、おそらくSXRDパネルの組み付け精度が原因と思われる。

 2台目の評価機に対してもパネルアライメント機能を使って補正を掛けたが、特に画面左側が赤と緑のズレが完璧には押さえきれず、やや妥協した状態での画質評価となった。

 VPL-VW1000ESは高額商品なので、ユーザーとしてはどの程度のズレまでが交換対象となるのかは明確なガイドラインが必要なのではないか。オーナーとなった際には、パネルアライメントを「切」として、メーカーサイトに示されているような精度が出ているかどうかを確認したほうがよいだろう。2台の評価機を見た感じでは、まだまだ組み付け精度に関して、発展途上という印象を持った。今回は不本意ながら、パネルアライメント機能を駆使して「R(赤)=H+2,V-20」「B(青)=H+6,V-17」という補正を掛けた状態で評価している。


「リアリティクリエーション=切」×「ピクセルアライメント=切」時。二台目の評価機は幾分マシになったが、またずれていた。画面全域でこのようにずれているので色収差の影響ではない。ピクセルアライメントは色収差補正のための機能のはずで、ここまで全域にずれてしまっているのはやや問題かと思う「リアリティクリエーション=切」×「ピクセルアライメント=入」時。今回の評価はこのように調整してから行なっている

 SXRDパネルの組み付け精度はともかく、投射レンズの光学性能はすこぶる良い。レンズの口径も大きい恩恵もあるのだろうか、矩形4辺は限りなく直線に見え、中央でフォーカスを合わせれば、外周まできっちりと合ってくれる。一般的なプロジェクタでは、外周のフォーカスのズレを押さえるために、中央のフォーカスをベストなポイントから僅かにずらして妥協して合わせることが多いが、VW1000ESの場合は100インチ程度での画面サイズでは中央に合わせればそれでOKだ。ARC-F(All Range Crisp Focus Lens)の看板に偽りなし、といったところだ。

 公称最大輝度は2,000ルーメン(ランプコントロール:「高」設定時)。さすが高出力ランプを採用するだけあって明るい。これは一般的なホームシアター機の2倍の明るさになる。実際、明るい部屋で映像を見るための「ブライトシネマ」モードに設定すると、蛍光灯照明下でもかなり明るく映像を見ることができた。

 公称コントラストは動的絞り機構と組み合わせて100万:1を謳う。ネイティブコントラスト値は非公開だ。ダイナミックコントラストの数字は意味はないに等しいが、同じ計測方法で計られたと思われる同社製のVPL-VW95ESが15万:1ということを考えると、ネイティブコントラスト値も相当向上していることは想像できる。

 実際に暗室で見てみると、星空のような暗い映像では、夜空の暗闇がしっかりと沈んで見えるし、その漆黒の部分に指をかざして出した「指の影」と映像としての「黒」の明暗差がほとんどでない。つまり、映像の"黒"が部屋の暗さに限りなく近いという、プロジェクタの黒表現の究極形に近い表示が出来ているということだ。さらに驚くのが、夜景のビル群のような、比較的、明部表現がちりばめられた映像中の黒も、その「沈み込み」が明部に引っ張られない。これは大したものだ。

0.74型4K2K SXRDの構造

 今回の4K2K SXRDの製造にあたっては、ウェハの平坦化をさらに推し進めたという。反射型液晶パネルの場合、入射光を「反射させる」「反射させない」で階調を得るので、反射光を作り出すアルミパッド部分とこれを支える基板層、そして液晶を配向させる配向膜部分が平坦であればあるほど性能が理論値に近づいていく。ソニーによれば、今回の4K2K SXRDでは、液晶分子や配向膜に関しての大きな革新はないとのことだが、このより進んだ平滑化とそれがもたらす液晶層の厚みの均一化が大きく改善したことが、コントラスト性能の向上に結びついたに違いない。

 発色は、水銀系ランプのクセを感じさせない素直さで、確かにこの“色”であれば、100万円超の上級機にもキセノン・ランプが不要になったことにも納得がいく。

 発色の傾向は主に「カラースペース」(色空間)設定で決定される。「カラースペース」設定には「BT.709」「DCI」「Adobe RGB」「カラースペース1」「カラースペース2」「カラースペース3」の総計6つ用意されるが、映像鑑賞においては、「BT.709」と「DCI」をメインに使い分けていくことなると思う。


「カラースペース=BT.709」「カラースペース=DCI」。写真でも分かるように緑の色域が広がる「カラースペース=Adobe RGB」
「カラースペース=カラースペース1」「カラースペース=カラースペース2」「カラースペース=カラースペース3」
各色域モードの表色範囲の比較

 「BT.709」(ITU-R BT.709)モードはHDTV向けの色域でsRGBに相当するものだ。

 実際に見てみると、水銀系ランプの輝度を最大限に活かしつつ、その中でベストバランスな発色を追求したモードという感じで、赤などの鋭さはなくなるが、白い肌の表現のハイライトの質感などは伸びがあって心地よい。いわゆるこれまでのVPL-VW/HWシリーズの発色に近いモードなので、歴代機ユーザーはなじみ深い印象持つことだろう。

 もう一つの「DCI」(Digital Cinema Initiatives)モードは、ハリウッドメジャー6社が参画するデジタルシネマの標準化団体DCIが定める色域にならったものだ。こちらは、多少の輝度を犠牲にしてでも、光源色のスペクトルからRGBの純色の美味しいところだけを利用してフルカラーを表現するモードだ。DCIモードでは最大輝度は1,400ルーメン相当になるという。

 実際に見てみると、赤と緑の発色が鋭くなり、中明部から暗い方向への色解像力が向上する。つまり、色ディテールがより見やすくなり、材質表現のリアリティが増す。

 階調表現の傾向については、BT.709とDCIとで大きな違いはないが、色深度に関してはDCIの方が優秀だ。暗部階調の分解能が向上しているためか、かなり暗いシーンでもSN比がよく、そして色情報量の多い見栄えになる。3D映像は輝度が武器になるのでBT.709モードの方がいいだろうが、2D映像視聴でなおかつ暗室にできるならばDCIモードで見た方が上質な色表現が楽しめると思う。

 さて、VPL-VW1000ESは4Kプロジェクタだが、現状はネイティブな4K映像コンテンツがないし、4K出力できる映像機器も限定的であるため、主な視聴コンテンツはフルHDとなる。投射側は4Kパネルを採用しているので、映像エンジン側で「フルHD→4K2K」というアップスケール処理を介入させて表示させることになる。ここにいわゆる超解像処理を介入させることで、フルHD映像を4K化するのだが、この処理にあたっては「4K表示デバイス向けデータベース型解像処理LSI」を新規に開発し、その機能名には「リアリティクリエーション」という名称を与えている。

 この超解像処理のベース技術は、BRAVIA用の映像エンジン「X-Reality」だそうで、X-Realityで採用しているオブジェクト型超解像技術データベース型複数枚超解像技術のアルゴリズムが応用されているという。

4K対応のデータベース型超解像処理LSIVW1000ESの超解像処理の流れ

 実際の映像を「リアリティクリエーション」をオン/オフとして切り換えて見比べてみると、オン時にはまるでフォーカスが一段階さらに上がったような、あるいは視力が向上したかのような見え方をする。

 中でも感動的なのが、フルHD状態では気がつかなかったような色ディテールがリアリティクリエーションで4K化されることで浮かび上がることだ。肌の肌理などは、リアリティクリエーション・オフでも陰影感や面の表現として十分美しいが、オンにすることで、そこに質感のようなものが再現される。フルHD解像度ではグラデーション表現に落ち込んでしまっていたような箇所においても、階調が付加されて色ディテールとして復元されるような事が起こっているのだと思う。そして、こうした高精細な色ディテール群を見たときに、脳が過去の経験から想像して「質感」を感じ取るのではないか。髪の毛、布などをみてもほぼ同様な感動が得られる。確かに“リアリティ”+“クリエーション”の名に恥じない画質効果が出ている。

リアリティクリエーション=切
リアリティクリエーション=入

 意地悪にも自然映像だけでなく、CGや文字に対してもこのリアリティクリエーションを適用してみたが、オンにすると、角度の浅い斜め線などのジャギーが低減されて滑らかになることが確認できた。輪郭などがしっとりとした見栄えになるので、CGに対しても相性は悪くない。文字に関してもほぼ同様の効果がもたらされる。一部、「画」のような“穴”の空いた漢字で、穴の中に余計な陰影が付加されることはあるが、オンにしたことによる文字のジャギー低減効果の方が大きいのでそれほどは気にならない。

 3D映像の視聴評価も行なったが、まず、左右の目の映像が混ざって見えるクロストーク現象は、ほぼ皆無といっていいくらい少ないことに驚かされる。3Dメガネの明るさ設定は「標準」と「明」の2段階が用意されており、「明」の方が、表示映像がやや明るく見えるようになって、ごくごく僅かにクロストークが入るが、それでも、ほとんど見えないといいレベルだ。クロストークチェックにはとても便利なシビアなシーンである「怪盗グルーの月泥棒」のチャプター13のジェットコースターのトンネル内の電球群も二重映りで見えているところはない。

 これまでにも3D映画などの1080/24pの3D映像はクロストークがそこそこ抑えられている機種はあった。しかし、720p/60Hzのゲームの3D映像ではハイフレームレートになる関係からか、クロストークが目立ってしまう機種があり、まさに先月評価したJVCのDLA-X70Rはそういった傾向がみられた。VW1000ESではどうかと思いつつPS3用の「アンチャーテッド~砂漠に眠るアトランティス」「Child of Eden」を3Dでプレイしてみたが、なんと、ほとんどクロストークが出ず。見た目の感じとしては、1080/24pの3D映画の見え方とほとんど変わらない「クロストークほぼ皆無」の状態で表示されていた。

 3D映像におけるクロストークの少なさは、プロジェクタ製品の中でトップクラスと言い切れる。

 ただ、絶対的な映像の明るさに関しては特記しておきたい。というのも、2,000ルーメンというスペックから想像される明るさよりも、メガネを通して見た映像が暗いのだ。感覚的なインプレッションになるが、1,300ルーメンのVPL-HW30ESと同じくらいの明るさという印象を持つ。おそらく、3Dメガネのシャッターの開いている時間を相当削って低クロストーク性能の実現にあてているためではないか? VW1000ESの4K SXRDパネルは2倍速120Hz駆動対応で、VPL-VW95ES/HW30ESのような4倍速240Hz駆動ではないので、それを埋めるためのメガネ駆動を行なっていると推測する。

 3D画質の発色もうまく調整されている。メガネを透過することで若干色温度が変化することを踏まえて、プリセット画調モードを調整しているようだ。

 2D→3D変換機能は「シミュレーテッド3D」という名称で搭載されているが、簡易的な物でそれほど説得力のある立体感は得られない。また、画面下部付近(下5分の1あたり)にティアリング(表示が上下にずれるアーティファクト)が常時発生していることに気がついた。これは改善を要する点だ。

 もう一点、最近の3Dテレビ、3Dプロジェクタに共通する問題だが、赤外線信号による3Dエミッタの影響で、3D視聴時はVW1000ES自身のリモコンの効きも悪くなり、操作レスポンスが落ちる。これも改善して欲しいポイントだ。

正面向かって左側のボディ内部に3×5の配列で並ぶ3D表示同期用の赤外線LED。かなり強力なのはいいのだが、VW1000ESのリモコン自体の効きが悪くなる(笑)

 さて、リアリティクリエーションは3D映像にも効く。4K2K対応プロジェクタはJVCからもDLA-X70R/X90Rが出ているが、あちらはe-shiftと呼ばれる時分割光学系を組み合わせての疑似4K2K表示であるため、3D映像投射時は4K化が無効化されてしまっていた。VW1000ESでは、フルHDの3D映像に対してもリアリティクリエーションによる超解像処理が効いて4K2K化されるので、現状、唯一の4K2K 3D映像を楽しめるプロジェクタということになるのだ。

 実際に視聴してみると2Dの時よりも、格段にインパクトがでかい。

 2D映像では、精細な色ディテールなどの顕在化で質感が感じ取れることを上で述べたが、3D映像では、この質感までが立体的な見え方をするのだ。

 例えば、3D映像に含まれる、岩盤の凹凸、アスファルトの凹凸、衣服の布目/網目の凹凸などのテクスチャディテールは、左右の目の両方の映像に存在しているわけで、これがリアリティクリエーションを通ると4K2K化される。そして、この4K2K化された微細凹凸を3Dで見ると、なんとフルHD状態では気がつけなかった微細凹凸の立体感が見えるのだ。2Dでは色ディテールが顕在化したが、3Dでは微細凹凸の視差が顕在化するのだ。

 これまで通り、3D映像をオブジェクトの立体感や前後感だけで楽しむこともできるが、ひとたび意識してディテール側に視線を向ければ「触感」に近いものまでを想像できる。これはVPL-VW1000ESユーザーの当面の特権になりそうだ。

フィルムプロジェクション=切フィルムプロジェクション=入。VPL-VW1000ESにおけるこの機能は、歴代VPLシリーズと比較すると表示がそれほど暗くならないので使える!

 残像低減技術「MotionFlow」も搭載。光源の明滅を駆使して映像のインパルス表示を行なう「フィルムプロジェクション」と、算術補間フレームを挿入して倍速駆動する残像低減技術「モーションエンハンサー」の2つから構成されるが、VPL-VW1000ESでは、使われ方がとても限定的だ。なにしろ、フィルムプロジェクションは輝度が劇的に下がってしまうため、3D立体視モードでは利用できなくなるし、モーションエンハンサーは主要なプリセット画調モードでデフォルト設定がオフとなっている。しかし、この両機能、実際に使ってみると地味に進化している。

 フィルムプロジェクションは、VPL-VW80以前と比べるとチラツキが少なく、実際に見てみると残像は確かに低減するし、2,000ルーメンのVW1000ESならば、輝度が落ちても絶対的な明るさはあるので、結構使える機能になっていると思う。

 モーションエンハンサーは、「ダークナイト」のビル群飛翔シーンでも、動きベクトル検出ミスによるピクセル振動はほとんど起きてない。「カンフーパンダ2」を全編視聴した時にも活用してみたが、目立ったアーティファクトも感じられなかった。元フレームの支配率の高い「弱」設定ならば、常用もいけそうだ。

プリセット画調モードのインプレッション

【シネマフィルム1】

 マスターポジフィルムの色再現を目指したとする画調。色域モードはDCI、色温度は6500K、そして輝度も明るく、使い勝手はかなりいい。人肌の発色もナチュラル。実は隠れたもうひとつの標準画調モードといえそうなほど、万能な画調モードだ。イチオシの1つ


【シネマフィルム2】

 色調はFILM1とほぼ同傾向だが、フィルムプロジェクション機能がオンになり、アドバンスドアイリス(動的絞り機構)も最大絞りとなって、かなり輝度を押さえたモード。暗部の階調を楽しむのに適したモードだ


【シネマデジタル】

 デジタルシネマを再現した画調とのこと。わざとなのか、やや水銀ランプの色あいの特徴である黄味の強さが顔を出し、肌色などは黄に振れる。フィルムプロジェクション機能を有効化しているのでやや暗い。


【リファレンス】

 色域はBT.709モードとなり、液晶テレビのような、よく見慣れた画調になる。色域がDCIモードではなくなるので、緑が淡くなるが、全体的な発色バランスは良い。アドバンスドアイリスはオフになり、輝度ダイナミックレンジを活かしたコントラスト感溢れる映像になる。事実上の標準画調で、こちらもイチオシ。


【TV】

 色調は「リファレンス」をベースとして、動的絞り機構を組み合わせたやや暗めな画調モード。モーションエンハンサーは有効化されている。


【フォト】

 色温度を5500Kとしたモードで柔らかな人肌表現が楽しめるモード。色域モードはAdobe RGBなどではなくBT.709だし、動的絞り機構もフィルムプロジェクション機能もオフになっているので明るく、モード名の割には適応範囲の広そうな画調だ。


【ゲーム】

 低表示遅延を実現したモード。画調そのものは「リファレンス」がベースになっているようだ。


【ブライトシネマ】

 事実上のダイナミック画調モードで、明るい部屋での使用を想定したモードだが、画調そのものは「シネマフィルム1」に近い。「シネマフィルム1」よりも輝度重視の画調になっているので3D映画との相性がいい。モーションエンハンサーは有効。


【ブライトTV】

 色温度が9300Kに設定されており、パソコン用の液晶モニタのようなやや青みがかった画調になる。使いどころが見出せず。



■ おわりに~ コンテンツはなくとも感じる“4K”の意義

 リアル4K2Kのコンテンツがほぼ皆無である現状では、VPL-VW1000ESのようなフルHDソースを超解像化して4K2K表示で楽しむことが当面の「4K2Kとの付き合い方」になりそうだが、それにしても色ディテールの顕在化によって具現化される「見える質感」体験や、その立体視によってもたらされる「みえる触感」体験は、実に感動的だった。ソニーによる「VPL-VW1000ESの映像はより近づいて見て欲しい」との主張も納得がいった。

 気になるのは“初物”ならではの不安感だ。本文でも述べたように、今回2台の評価機が共にRGBのドットが数ドットずれていたので、ユーザーが買い求めた個体でもそうなっている可能性はある。リアリティクリエーションを掛けて4K2K化してとしても、数ドットもずれていると輪郭やテクスチャの細部で色滲みを生じてしまい、なんだか充血した目の視界でみているような画質になってしまう。できればデジタル画像処理の誤差拡散的な手法で実施されるパネルアライメントは微調整にしか使いたくないので、この点は早急に対策と改善を講じて欲しいところだ。

 さて、今期の4K出力に対応したLCOSハイエンド機ということで、DLA-X70R/X90RとVPL-VW1000ESのどちらを購入すべきか迷っている人がいるかもしれない。2012年2月初頭の実勢価格ではX70Rが約70万円、X90Rが約100万円、VW1000ESが約150万円といったところ。

 ただ、「DLA-X70R」編でも述べたように、DLA-X70R/X90Rの4K表示はe-shiftデバイスと呼ばれる時分割光学系を組み合わせた疑似4K表示であり、ジャギー低減のための機能という感じであった。また、その4K表示も3D立体視では利用できないという制約もある。

 VW1000ESは、4K2Kパネルを使用したリアル4K表示であり、フルHD→4K化においては、ジャギー低減だけでなく、超解像処理の恩恵で、かなり高精細に表示してくれる。機能的には確かにVW1000ESの方が上だといえる。そして、前述のように4K 3Dの潜在力を感じさせてくれるのはVW1000ESのみとなる。

 軽くミドルクラスの3D対応機が買えてしまうほどの価格差があるが、そこまでして機能差を手に入れたいか。DLA-X70R/X90RかVPL-VW1000ESか。悩んだときの判断のポイントはそこになるだろう。

(2012年 2月 10日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。