【新製品レビュー】

サイズはミニでも機能は強化したB&W「Zeppelin Mini」

-USBオーディオ対応で、“iPodスピーカー以上”の魅力


発売中

標準価格:58,000円



Zeppelin Mini

 「iPodスピーカー」のジャンルは、登場し始めた頃に比べると、一括りにしにくいほど機能や価格の幅が広がっている。真空管アンプを内蔵したオーディオ的なもの、ブックシェルフスピーカーのスタンドのような大型モデルから、iPodから給電する低価格なポータブルタイプなど、様々な用途に向けた製品が存在する。

 筆者がまだiPod nanoやtouchをメインに使っていた頃は、iPodの音源をわざわざスピーカーで聴く、という必要性はあまり感じていなかったが、iPhoneを使うようになってから、毎日充電するためのドックが必要になり、どうせならスピーカーと一体型のものが寝室にあれば、と思うようになった。ベッドサイドに置くようなiPodスピーカーは多くのメーカーから販売されているが、PCとの同期など利便性もあって、音もよさそうだと感じるものは、店頭でもあまり見つからなかった。

 こうした製品の高音質化へのアプローチとしては、最近、iPodとのデジタル接続に対応したスピーカーが見られるようになった。iPodのDACを通さずスピーカー側のDACとアンプを使うもので、今回のB&W「Zeppelin Mini」や、パイオニアの「NAS5」がこの機能を大きな特徴としている。単体スピーカーではないが、ケンウッドの小型コンポ「K-521」も、iPodのデジタル接続に対応しており、個室での利用に適した製品だ。

パイオニアの「NAS5」ケンウッドの「K-521」
 「Zeppelin Mini」は、製品情報サイト(B&Wサイトの日本語訳)では、「iPodデジタル接続」とは明記していないものの、「今までのiPodスピーカーはアナログで取り込むため、不要な変換が行なわれ、貴重なデータの一部が失われるリスクがありますが、Zeppelin Miniは違います」と書いてある。

 試聴する機会があったので、日本でこの製品を取り扱うマランツに尋ねると、接続はデジタルで行なっているとのこと。これから買うのであれば、せっかくなのでデジタル接続のものにしたいと思っていたので、より欲しいという気持ちが強まった。また、PCと接続することでUSBスピーカーとして利用できるほか、iPodをPC/Macと同期できるという、利便性の高さも気になるところ。今回、実機を借りて、iPod/iPhoneやPCに接続して、音質や操作性などを試した。


 

 ■ 細部にZeppelinデザインを投入

 B&WのZeppelinといえば、2008年に発売された(米国では2007年)モデル(87,800円)のインパクトが大きい。その名の通り、飛行船を思わせる形状と、iPodから出ているとは思えない強力な低音が印象深い。新モデルのZeppelin Miniはそれに比べると形は、より「普通のiPodスピーカー」に近づいており、写真で見た時は「どこがZeppelin? 」という印象だった。しかし、鏡面仕上げの天面(Zeppelinは後部が鏡面)や、上から見ると楕円形をしているところ、丸みのあるリモコンなど、細部にZeppelinシリーズとしてのデザインを取り入れている。価格も、日本では58,000円と、iPodスピーカーとしてはかなり高級な部類だ。

 実機を見た印象は、写真で見たときに比べ本体の薄さが目を引いた。電源も内蔵しているZeppelinと比べると、かなり狭いスペースでも置けそうだ。ただし、ACアダプタはノートPCに付属するようなサイズなので、それを上手く隠せるとすっきりした設置ができるだろう。外形寸法は320×100×200mm(幅×奥行き×高さ)、重量は2.5kgで、7.5kgというZeppelinと比べるとかなり軽量化されている。

iPod/iPhone接続時はLEDが青色に点灯

 アーム部でiPodが宙に浮いているように見せるデザインは、Zeppelinから踏襲。Miniの特徴として、このアーム部を左右どちらにも90度回転させることができるため、iPod touch/nanoやiPhoneのCoverFlowを活かした操作も可能だ。横にしたときに、重量のあるiPhoneやiPod touchが落ちないように、アームに固定するブラケットも付属している。

 本体にディスプレイは無く、動作を示すのは前面のLEDランプのみ。iPodを接続すると、スタンバイ時は赤で、iPod/iPhone接続時は青、外部入力字は緑に光る。外部入力は、パソコンとのUSB接続(USBオーディオ対応)と、ステレオミニのアナログ音声の2つが利用可能。iPhone 3GSを接続すると、「このアクセサリはiPhoneでは動作しない」旨のアラートが表示されたが、問題なく使用できた。


サイズ的にはかなりコンパクトになった印象第5世代iPod nano装着時アームを左右どちらにも90度回転できる
iPhoneを接続。パワーサポートの「Airジャケット」を着けたままでも装着できたCoverFlow表示時側面。筐体はかなり薄型化されている

 付属リモコンは、Zeppelinのものとほぼ同じデザイン。河原の小石のような丸みのある形状で、適度な重さと手になじむ大きさ。ボタン数は電源、ボリューム、曲送り/戻し、入力切替というシンプルな構成で、慣れれば手元を見ずに操作できるだろう。なお、本体側面にも電源とボリュームのボタンを備えている。

 デジタルアンプを内蔵し、出力は18W×2ch。スピーカーは75mm径フルレンジ×2。再生周波数帯域は38Hz~20kHz。専用DSPも内蔵しており、ジャガーカーズの「ジャガーXJ」などの開発から得た成果を盛り込み、「卓越した音響体験を実現する」という。

iPod touchやiPhone用のブラケットが付属ACアダプタは大きめ特徴的なデザインのリモコン
Zeppelinとの比較


 

 ■ 薄型のイメージを超えるボーカル描写

iPod touchを接続。ボリュームはスピーカー側からの操作となる

 第2世代iPod touchや第4/5世代iPod nano、iPhoneを接続して音楽再生をしたところ、第一印象は、派手な味付けが無く、フラットに近い特性。ジャンルをいくつか変えて試して見ると、特に中域の描写が緻密なことが分かる。手嶌葵のささやくようなボーカル、横山剣(クレイジーケンバンド)の腹の底からの力強いボーカルが心地よく響く。再生帯域も、フルレンジながら、この筐体からイメージする以上の広さが感じられる。

 ボーカルの無い曲でも、人の声の音域に近いとされるアルトサックスやチェロが気持ちよく鳴るところが印象的。ロックでは、ベースの鳴りが足りないと感じるときもあるが、全体のバランスが損なわれるほどでは無い。これには、本体背面のバスレフポート「フローポート」が、歪みを抑えつつ低域を強化していることが貢献しているという。ある程度まで音量を上げても、付帯音が気になることはなかった。それ以外のジャンルでは、エレクトロニック系の音源で、個々の音が際立って感じられるところが気に入った。

 また、YouTubeなどのビデオ再生も試してみた。低ビットレートの圧縮音源を補完するような機能は謳っておらず、再生音にも驚くほどの変化はないが、iPhone/iPod touchのスピーカーで聴く厳しさに比べれば、格段に聴きやすい。ビデオ再生は自動でヨコ画面になるため、アームの回転機構は便利だ。

 合わせて試用したZeppelinと比較すると、25W×2ch+50Wという強力なアンプと、ユニット5基を持つZeppelinの迫力は圧倒的だが、Zeppelinのバランスはかなり低域寄りで、Miniと傾向は大きく異なる。Zeppelinは見た目もそうだが、音でも強烈な個性を持っていると改めて感じられた。

Dockコネクタ部背面独自の凹凸を備えた「フローポート」を備える

 なお、Zeppelinは、Miniとの違いとして、光デジタルとアナログ兼用の音声入力を持つほか、S映像/コンポジットの映像出力も備えている。また、MiniはUSBオーディオとしても動作するが、ZeppelinのUSB端子はファームアップデート用で、USBスピーカーとしては利用できない。こうしたことから、用途としても両機種は少し異なることがわかる。

 操作面では、付属リモコンでiPod/iPhoneの曲送り/戻しやボリューム増減などが可能。iPod本体でボリュームは操作できなくなるが、接続する前の本体ボリュームの値を引き継いでいるようで、接続前にiPodのボリュームを下げておくと、接続したときの基準となるボリューム値も低くなっていた。


 

 ■ USBスピーカー/PC同期に対応。操作には戸惑いも

 PCではiTunes(Ver.9.0.2.25)とWindows Media Player(Ver.10.00.00.4074)で再生した。iPodを再生したときと、音質の傾向に違いは感じられない。ただ、一体型であるために、左右別筐体のスピーカーに比べると、デスクトップPC用に使うには、置き場所が難しい。机の上で使うなら、例えばノートPCを脇で動かして、DLNA対応のLAN HDDにある楽曲を鳴らすといった利用法が、この製品に合うように思う。

 付属リモコンを使えば、iTunes/WMPの曲送り/戻しといった操作も可能。WMPでは、プレーヤーのウィンドウがアクティブでない場合でも、リモコンで曲送り/戻しが行なえて便利だった。そのほか、実用的な使い方ではないが、試しにアナログ音声入力と、USBを同時に鳴らしてみると、両方がミックスして再生された。

ノートPCと接続USBデバイスとして自動認識された外部入力時はLEDが緑に点灯

 PCをつないでいて一つ気になったのは、入力切替時の動作。iPodのみ、またはPCのみつないでいるときは、自動で入力ソースを選んでくれるため、特に気にせず操作できるのだが、両方つないでいて、iPodからPCへ、またはPCからiPodへと入力切替するときには、うまく認識されないことがあり、USB端子やiPodを挿し直す動作が必要になることがほとんどだった。

 iPod/iPhoneをPCのiTunesと同期する場合は、スピーカーに装着したまま本体をスタンバイ状態にすると自動で切り替わる。これは分かりやすいのだが、再びiPodをスピーカーで再生する場合は、ただ電源を入れ直すだけでなく、USBまたはiPodをもう一度抜き差しする動作が必要だった。これにはiPodの仕様と関わる理由があるのかもしれないが、オンキヨーのND-S1のように、同期専用のボタンがあればわずらわしさが無いように思う。

 このように、操作性では少し迷うところもあったが、機能としてiPodとUSBの両方が使えることは歓迎したい。こうした機能は、個別で見ると対応している機種は多いものの、全てに対応するというものは意外に少ないものだ。前述のパイオニア「NAS5」も、Bluetooth接続(別売ユニット利用)や、環境音声とのミックス再生など、ユニークな機能を持っているが、USB接続機能は持っていない。このあたりの機能が必要かどうかが、1つの分かれ目になりそうだ。


 

 ■ 用途が合致すれば、価格に見合う魅力

 利便性からいえば、PC周辺機器メーカーのiPodスピーカーは多機能のものが多い。アラームクロックとして使えるものや、テレビへの映像出力を持ったものなど、クレードルとして十分の機能をもち、スピーカーとしても使えるものが、それほど高くない価格帯でそろっている。一方で、オーディオ機器メーカーからは、音質を追求したモデルがいくつも登場している。ミニコンポにクレードルを備えたものや、AVアンプに専用クレードルをオプションで用意するものなどで、ソースがiPodでも、できるだけ高音質で再生する試みは多くの方法でなされている。

 ただ、音質を求めたモデルの多くは、PCとの同期機能がないほか、iPodとの接続はアナログのものがまだほとんどだ。その中には、圧縮音源の補間機能など、さまざまなアプローチで音質改善されたモデルも存在するが、iPodをソースとして楽曲を聴きたい、と思えるものはあまりなかったように思う。

 製品ジャンルは少し違うが、オンキヨーのトランスポート「ND-S1」は、小型の筐体でiPod/USBデジタル接続を低価格で実現し、iPodのデジタル接続対応を身近にしたことで話題となった製品。Zeppelin Miniも用途としてはこれに近く、その先のDACやアンプ、スピーカーも一体にしたものだ。もちろん、アンプやスピーカーは単品を自分で選ぶという楽しみは十分理解できるが、リビングではなく、寝室やデスクトップ用としてなら、場所をとらず手軽に高音質が実現できることも重要だと思う。個人的には、寝るときなどに聴くネットラジオが、ノートPCの貧弱なスピーカーとは比べものにならない音質で聴けることも大きなポイントだ。

 ただ、Zeppelin Miniがいいと思っても、ネックとなるのは価格。B&Wの製品であることはもちろん、初代Zeppelinの価格が今も発売当時から変わらないところを見ると、待てば価格が下がるということは考えにくい。実際、置いている販売店はアップルストアや、ヤマギワLIVINAなどのため、家電量販店のポイントのような割安感は得られないだろう。

 しかし、iPodデジタル接続や、USBスピーカー、PC同期などの機能を見ると、単なる「おしゃれで高級なiPodオーディオ」という見方はこの製品には当てはまらない。例えば、前述のND-S1をiPodドックにして、まともなデジタル入力対応のアクティブスピーカー、またはアンプ+スピーカーを個別に購入すれば、同額、またはMiniに近い金額にはなるだろう。一体型なので拡張性は無いが、高音質化への取組みをこのサイズで実現したことは大きいと思える。また、PC周辺機器メーカーではなく、オーディオ機器メーカーがこの方面に意欲的であることは興味深い。

 発売から2年近く経つZeppelinも、これまで細かなアップデートを重ねており、その時々の新しいiPod/iPhoneでの動作改善などが行なわれている。こうしたユーザーへの配慮により「高かったけどすぐ使わなくなった」という事態にはならないだろう。USBスピーカーとしての利用などは、万人に便利な機能、とは言わないが、Miniとつながる製品が複数ある部屋に置くなら、長く使えるものになりそうだ。



(2009年 12月 22日)