西田宗千佳のRandomTracking
第618回
元SIE・吉田修平氏が語る「ゲーム業界の30年」 その2:ゲームはこれからどう変わっていくのか
2025年3月31日 08:00
前回に引き続き、元ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)/ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の吉田修平氏へのロングインタビューをお届けする。
今回は「PlayStation」というハードウエアを作っていた人々の話、そして、現在のリードアーキテクトであるマーク・サーニー氏の関わりについて語った後、ゲーム業界が抱える規模の問題や、インディーゲームがそこで果たす役割について聞いた。
変わっていく「PlayStationの作り方」
2008年、吉田氏はアメリカから日本に帰任する。ワールドワイドスタジオ全体を統括しつつ、当時始まっていた「次世代プラットフォーム」の開発に関わるためだ。
吉田氏(以下敬称略):アメリカにいた私は、平井(一夫)さん時代(2008年)になって、「日本に帰ってきてくれ」って言われたんです。
筆者注:平井一夫氏は、2018年までソニー(現ソニーグループ)CEO。2006年よりSIE代表取締役社長を務めた
吉田:それはどういうことかというと、ハードウエア、PlayStation 4(PS4)とPlayStation Vita(Vita)のプロジェクト。これを「ゲーム制作側と一緒に作ってくれ」と。そのために日本に戻ってきてくれないか……って言われました。
それ以来、日本のハードの人たちとずっと仕事一緒にしていたんですけど、気持ちよかったですね。
ゲームスタジオ側も「世界で1番いいゲーム作ろう」って一生懸命頑張っているし、それをやらせてもらえる素晴らしい環境だったんですけど、ハードの人たちも「世界で1番いいハードを作る」、もうそれしか考えてないんですよ。クオリティについても、ユーザビリティについても。
「世界トップのものを、1番いいものを作りたい」っていう気持ちでいる人たちがやっているから、ハードウエアのチームは素晴らしいと思うんです。
今後PlayStationのハードの役割がどう変わっていったとしても、彼らの作るハードはすごくいいものであろうし、ユーザーさんが、うん、評価してくださるでしょう。
だから、西野(秀明)さん時代のPlayStationビジネスでも、ハードは非常に重要な一部であり続けると、私は思っています。
筆者注:西野秀明氏は、現在のSIE代表取締役社長CEO。ゲームプラットフォーム開発を統括、今年よりCEOに
吉田:PS3までは、ハードウエア開発チームとの関係は、「ハードが出来上がってきた段階で情報がディスクローズされる」形です。
ディスクローズのタイミングは、もしかしたらサードパーティーさんよりも早かったかもしれないんですけども、久夛良木さんはサードパーティーのトップチームが大好きだったので、そのせいもあってか、サードパーティーさんのトップチームとほぼ同じタイミングで知らされる、みたいな感じです。
「はい、ハードはできたのでこれで何か作りなさい」みたいなところはあります。言い方がずるいんですけど、「俺はトップクリエイターを信じている。俺ら作るハードをうまく使ってくれるに違いない」と。
いや、そういうクリエイターも確かにいますけど……みたいな(笑)。
そんな感じだったんです。
サードパーティーさんはどうしてもマルチプラットホームエンジンを作らなきゃいけませんから大変なところはあります。
我々は(PS3だけを開発すればいい)ファーストパーティーなので、先にPS3を使いこなすことはできました。
その結果、ハードの人たちに頼まれて我々が作ったエンジンも供給していたんです。「これどうぞ使ってください」みたいな感じで。
PS3の中期以降では、SCE(当時)が提供するソフトウエアを使って最適化したゲームが増えていく。その中身は、ファーストパーティーである吉田氏のチームが作ったエンジンだったわけだ。
吉田:DUAL SHOCK 4のシェアボタンを提案したのは我々です。ハードに対してのフィードバックもやっていましたし、もちろんハードを活かすようなゲーム作りを継続的にやっていました。
あまり知られてないことなんですけど、ハードに1番近いレイヤーのドライバーの開発もスタジオ側でやりました。
なぜかといえば、優秀な人たちがたまたまスタジオに、私のチームにいたんです。
私は「(ドライバーなどの)ハードの仕事やっていいですか」と聞かれて、「自分たちの方がいい仕事ができると思ったらやってください」って答えたんです。
社内では、「ファーストパーティーの予算でハードの仕事をやるのはどうなのか」という話もありました。
でも「いやいや、会社全体のために自分たちの方がいい仕事ができるんならやってください。もしハードのチームに、自分たちと同じぐらい優秀な人がいたら、やるのはやめてください」という話をしたおぼえがあります。
彼らは今も社にいると思います。マーク・サーニーが新しいハードを作るときに、同じチームになってやっているんですよね。マークもそういう人たちを頼ってハード開発に引き込んでいるところはありますね。
ここで「マーク・サーニー氏」の名前が出てくる。多くの人にとっては、PS4・PS5のリードアーキテクトとして記憶されているのではないだろうか。
彼はそれ以前にも多くのゲームを開発した著名なゲーム開発者でもある。ハードウエアについても多くの知見を持っており、吉田氏がPlayStationのハード開発に引き込んだ形だったという。
吉田:久夛良木さんが社を去った後で、PS4とPS Vitaの開発をどうリードしていくのか、という話がありました。
当時の開発リーダーは茶谷(公之)さんでしたが、「マーク(サーニー)はハード分かりますよ。引き込んだらどうですか」って紹介したんです。私が、マークと茶谷さんのチームの契約の、中継ぎまでしたんですよ。
マークもゲーム制作の方でも大きな仕事をしていました。だから、日本的な考えで言うと「普通ちょっと考えられない条件」になるんですけど、それを私が間に入って、条件面を含めて仲介しました。
当時、2つのハードのプロジェクトはすでに始まっていたんです。
Vitaの開発について、マークが入った時に最初にやったことは、SoCを変えることでした。ファースパーティーのチームとマークが一緒に評価して、「これは弱すぎる」「これだとできない」って言って、最終的に、PS Vitaに採用されたチップに変えてもらったんです。
そんな感じでスタートしました。
ハードの人たちは、もうマークとファーストパーティーの意見を本当に取り入れていこう、という体勢でしたね。そこでは、茶谷さんがリーダーとして、うまく下の人たちをモチベートしながらやってくれたんだったと思います。
そこからはPS4とVitaがセットで進み、PlayStation VRがあり、PS5へ……。もうずっとマークが関わっています。
とはいえ、マークも、ゲームの開発を続けているんですよ。『ラチェット&クランク』とか『スパイダーマン』にもずっと関わってもらっていました。
だから私が間に入って、マークのマネージャーじゃないんですけど、「ハードにこれぐらいの時間使ってもらって、ゲームにはこれぐらい関わってもらって」みたいな形で。比率は時期によって変わっていますが、今も両方やっていると思います。
もう一つ、SIEが手がけたハードウエアとして「PlayStation VR」から始まるVRハードウエアがある。PS4・PS5と連携する周辺機器であるが、それらのプラットフォーム自体に比べると普及率は低い。
吉田氏は積極的にVR関連の開発もしてきたが、その点をどう見ているのだろうか。
吉田:VRについては、ビジネス領域でかなり使われるようになってきているものの、ゲームでは可能性を伸ばしきれなかったという意識はあります。
当時はやっぱりね、「どうなるかわかんない」とは思いました。
なんだけど、これは面白い。
面白すぎて「やらない判断はない」という形で進みました。ハードの人たちもそう思ってくれたし、ソフトのチームもそう思っていましたね。
だから頑張ったんですけど、「伝えにくい」というのが厳しかったですね。
VRをつけていない方は、「映像」で見るじゃないですか。その時、VRは映像のクオリティが「前世代のコンソール」のものになってしまうんですよね。パフォーマンス半分以下になるので。
VRの中に入ると「世界に完全に入ってしまうインパクト」の方が強いんですけど、トレーラーでVRの映像をフラットに変えて見せた時には、「なんかしょぼいグラフィックだな」みたいになるんですよね。
本当に、エクスペリエンスバリューを伝えられないっていうのが、1番きつかったし、まずかったと思います。
今後もよくなり続けると思うので、いつか幅広く普及すると、私は今でも思っています。
今でも思っているんですけど、「当時思っていたよりは長くかかるんだな」っていうのが正直な感想です。
VRは、ある意味「違うメディア」だと思うんですね。人間としての体験であり、人間そのものに対しての造詣が深まったというか。その価値は今後も変わりません。
「ゲームの規模拡大」が抱えるジレンマ
ゲーム業界では現在「収益性の低下」が話題になっている。ゲームの開発規模が拡大し、その結果として開発コストも増大しているが、それに比した収益が得られるとは限らず、今後の拡大には耐えられないのでは……と言われている。
この問題は以前から指摘されているが、吉田氏はどう捉えているのだろうか?
吉田:ゲームが拡がる過程で、AAAタイトルの規模がどんどん、どんどん大きくなり続けてきました。いまや、1本ゲーム作るのに数億ドルです。
そうなると(出資する)パブリッシャーも、「売れるもの」に賭ける。結果売れるのは、続編とか、同じようなジャンルの作品になります。しかも、そういうのを年間にたくさん作るわけにはいかないので、本数も減らし、何年かに1度、ということになってきました。
そうなると、間を埋めるのは、もう全部デジタル配信のゲーム。年々、インディーゲームの重要性は上がっています。
そういう意味では、インディーゲームの規模も大きくなってきていますね。
いまだに1人でつくって大ヒットするゲームもある中で、50人とかの規模で作っているものもあります。しっかりファンディングして、独立系でセルフパブリッシングして……みたいな。インディーゲームの市場も、個人の製作者からAAぐらいまでをカバーするようになって、AAクラスなら売上規模も相当に大きくなっている状況です。
ゲーム開発規模が大きくなる、という話は、ゲームプラットフォームが新しくなるたびに課題となってきた。吉田氏はもちろん、そこに直面してきた。
吉田:毎回、プラットホームが変わるたびに、開発費が倍になっていたんですよ。もちろん、ビジネス的にも会社のマネジメント的にも、そうなってほしくないですよね。
私は開発のトップとして、「次のプラットフォームで開発費はどのぐらい増えるんだ?」って毎回聞かれるわけですよ。
「いやいや、そんなに増えないように頑張ります」みたいに、一応答えるんですけど、クリエイターはできることが増えるので、やっちゃうわけですよね。
ライバル意識も強いので、他のスタジオの出してくるものをみると、「やっぱりここまでやんなきゃいけない」と考えてしまう。
だから、止めることはできなかったですね、私の時は。
私が(開発のトップを)やっていた5年前だと、1番予算をかけたゲームでも2億ドルぐらいまでだったんです。
でもね、その後さらにね、増えています。同じプラットフォームでも、続編を作ると開発費が倍になるとか。
かといって、かけたコストが売上と比例するかというとそうではない。
コロナ禍後の落ち込みもあわせてですけれど、ここへ来て、「なんとか開発費を本当に抑えないとヤバい」という流れに、業界全体が向かっていると思います。
ユーザー視点で見ても、AAAのゲームが巨大すぎるんですよね。
「オープンワールドで100時間以上遊べます」みたいな形だと、「もうエンディング見られないじゃん」みたいな。そこを含めてね、やっぱり作りすぎてきた、開発費かけすぎてきたところはあります。
AAAのゲームを作ることについて、業界は真剣に見直す時期に入ったと思います。
ゲームの「長さ」を意識して作らなきゃいけないですよね。
もちろん、ジャンルによって大きく違います。
昔からMMOなどは何千時間もプレイされる方も多かったと思います。オンラインゲームだと相手が人間なので、面白いからずっと遊べるじゃないですか。
ユーザーは「長く遊べるゲーム」を好む傾向にある。AAAゲームなら特にだ。そのことはゲームの規模拡大にも影響している。
この問題を吉田氏はどう考えているのだろうか?
吉田:例えば、ナラティブベースのアドベンチャーゲームだと、長さはあんまり問われない。それよりは、ストーリーのクオリティとか、うん、グラフィックスだとか、「最後までやった感」っていうか、それを問われるので、そんなに長さはこだわらない。場合によっては短い方がいい、って言われるユーザーさんもいます。
作り手の視点から見ると、あるジャンル、あるものを作る時に「ユーザーの期待値はどこにあるんだろう」っていうのを考えますね。ジャンルによって、ユーザーさんの期待値を理解して作っていると思います。
今の「ゲームの長さ」問題は、まさに期待値との関係もあります。
AAAでオープンワールドのアクションRPGが主流になって、その規模がどんどん、どんどん大きくなっていった。その結果として、ユーザーさんの期待値を上げてしまった部分があります。「フルプライスなら100時間遊べる」みたいな期待値を作ってしまったことが、自分たちに返ってきていると思うんですよ。
昔から、ゲームは「コスパが高いエンターテイメント」。遊べる時間に関するコストが非常に低い。元々そういうもので、だから「リセッションになっても強いみたい」な言い方をされます。
そこはね、ユーザーさんはいくらでも欲しがります。欲しがられるので、提供する側もできる範囲で頑張らないと……ということになる。
それが、これまでに起きたことじゃないかと思いますね。
コンソールゲーム機は、今後どうあるべきか?
ゲームの規模やコストは1つの壁にぶつかりつつある。
では、ゲーム機(コンソール)は今後どうあるべきなのだろうか?
PS4からPS5への流れから解説していただいた。
吉田:PS4までは当然ながら、クリエイター側も「まだまだできることある」「やりたいことがある」「次のプラットホームではこれをやりたい」ということが明確でした。ユーザーさんも一見して「おお、すげえ」みたいなことができて、わかりやすかったんですよね。特にPS4 Proまでは。
ところが、PS4からPS5に行った時に、考え方を変えています。
マーク・サーニーはほんと賢いなと思ったんですが、SSDとともにPS5の持ち込んだバリューとは「ロードが速いこと」ですよね。
今はスマホでもなんでもそうですけど、もうユーザーさんは「とにかく待てない」。瞬間瞬間に結果が欲しい、レスポンスが欲しい。
その中では、PS4までの長いローディング時間がもう耐えられなかった。そこを解決しただけで、私のような開発側から考えると、レビュースコアがね、同じゲームでも10点ぐらい上がっているんじゃないか、と思うほどです。
例えば『Dark Souls』的な難しいゲームがあったとします。PS4でやると、死んだ後のやり直しの前に長いローディングが挟まるわけです。そうなると、もうそこでやめると思うんですよ。
ところが、PS5だとロード時間が短く、すぐ復活しますよね。だから「もう一回やるぞ!」となって、やめないんですよ。
PS5は結果的にだが、PS4と同じペースで売れており、「速度」を軸にした変化は成功したと考えていいだろう。
だが、そろそろ「次」の波を考える必要は出てきている。そこでは「新しい世代に期待する」と吉田氏は言う。
吉田:PS5からPS5 Proになってレイトレーシングの性能が上がりました。画質向上は重要なことなんですけど、違いは分かりづらい。
昨年、私やジム・ライアンの世代から、西野さんの世代へ引き継いだことになりますが、本当にいいタイミングで世代交代できたと思っています。
筆者注:ジム・ライアン氏は2023年までSIEの社長 兼 CEOを務めた。彼も吉田氏と同じく30年、SCE/SIE時代を支えた
吉田:これまでのPlayStationのDNAは、久夛良木さんの時代から続く「最先端のグラフィックス」のような価値で引っ張ってきました。ユーザーさんも、そういうものをPlayStationのゲームだと期待しておられました。
しかし、そろそろ考え直さなきゃいけない時に来ているはずなんですよ。
もちろん、(グラフィックのクオリティで)てっぺんを求める方に、それを提供する必要はあると思います。
ですが、広い意味でのユーザーさんにウケ続けるためには、当然考え方を変えなきゃいけない。
その時には、やっぱり若い世代が望ましい。PS1からずっとやってきた。ジム・ライアンや我々の世代じゃない。西野さんはまだ40代。彼らのチームがどんなことをこれからやってくれるのか、期待しています。
これからも「インディーゲーム」にかかわる。インディーの価値と面白さとは
吉田氏は2019年より、SIEでインディーゲームの推進に関わってきた。
そして、SIEを辞したこれからも、インディーゲームの世界に関わっていくとしている。
吉田:毎朝起きてXを見て、フォロワーさんにリプライするのは楽しいですよ。自分のこれまで得られた信頼があるというか……。
「吉田がおすすめしてくれたインディーゲームをやってみたら面白かった」みたいなことを、よく言われるんですよ。
このことはすごく意識していて。
だから、いいゲーム以外はポストしないようにしています。「信頼のソース」というか、チャンネルになるためですね。これはもう、SIEでインディー担当になった時も、SIEを辞めたあとでも同じです。
自分のチャネルを持っている、という意味では、ほんとにありがたいことだと思っています。
変わったこともあります。
やっぱりマルチプラットホームで活動されているパブリッシャーさんの手助けをしていますので、それこそ普通に任天堂さんであったりXboxさんであったりの話も出てきます。これからそういった立場でビジネス的な部分を考えていけるっていうのは、すごい刺激があって楽しいですね。
とはいえですね、SIE時代から、インディーの部分では、プラットフォーマー同士のつながりはすごくあるんですよ。任天堂の方々とも、Xboxの方々とも。横のつながりは深いですね。みんな国内だけでなく、海外のイベントにも足繁く通っていますから。
プラットフォーマーとしても、なにが面白いかという話も、結局(イベントに)行かなきゃわからない。
インディーという立場でいえば、色々なプラットフォームに出す方がビジネスも最大化されるのが当然のことですし。
ですから、「競合するプラットフォーマーだから」みたいなガチガチな話はまったくないし、垣根もないです。
その上で、ゲーム業界におけるインディーゲームの価値を、吉田氏はこう述べる。
吉田:インディーゲームは、作り手が作りたいものを作ることができる。それが1番大きいと思っています。
ゲームをビジネスとして捉えると、どうしてもいろんな人の手が関わって、ゲーム開発がスタートする前から、ゲーム開発者以外の人たちのいろんな意見がはいってくる。そうやって最終的にスタートするのが、AAAなんですよね。かける金額であるとか、開発にかかる期間であるとか、リスクであるとかも大きいですから、それを開発者だけに勝手に任せるわけにはいかないというのは、当然の企業としての論理なんですよね。
その結果できるものっていうのは、「とにかく欠点の少ないもの」です。そのことはやっぱり大事なこと。幅広いユーザーさんには楽しんでもらう必要があるので、それはそれで別に否定はしないんです。
ですがそうなってくると、同じようなものしか出てこなくなる。
やっぱりエンターテインメントなので、違うものが出てこないとユーザーさんも飽きちゃいますよね。ゲーム業界全体としての広がりとか進歩がない。
そんな時に「こんなものは売れないよ」って大手からは言われるようなものでも、「いや、でも自分で作りたいから作ります」と言えるのがインディーである、と言えます。
誰に相談するでも、誰の承認を得る必要もなく「作りたいから作った」ものが、出してみれば大当たりする。
初期のバトルロワイヤルものもそうですし、『マインクラフト』(2009年)もそうだったと思います。
ゲーム業界の新しい流れを作ったり、新しいジャンルを生み出したりっていうのは、もうインディーからしか生まれない……と、私は思っています。
だから「インディーも大事」というよりは、「もうインディーがないと業界の発展はない」。
私はそこまで思っていますね。
個人的にはとにかく新しいもの好きなので。
「こんなのなかったよね」っていうゲームが、もう毎年毎年出るんですよ。たくさん。
去年出たゲームで面白かったのは『未解決事件は終わらせないといけないから』という韓国のゲームですね。Somiさんというクリエイターが1人で作っている作品。3時間で終わるアドベンチャーゲームですが、本当に面白くて。
10年前のハードウエアでもできるものですが、ゲームデザインのアイディアは過去には存在しなかった。そういうものが、今でもどんどん、どんどん出てくるんです。「アイデアが枯渇することはない」という点が、個人的には本当にインディーゲームの好きな部分ですね。
そんな中、ゲームをマーケティングする上で重要になっているのが「動画」だ。ゲームに限らず、あらゆる製品の情報は文字から動画へと情報の重要性が移ってきている。
特にゲームにおいて、そのことはどういう意味を持っているのだろうか?
吉田:私は5年前にインディー担当になったんですが、もうこの5年間の変化っていうのはものすごく大きくて。色々なリサーチを見ても、ゲームユーザーが新しいゲームの情報を入手する1番大きなメディアは、完全にYouTubeなんですよね。
メディアでのゲームレビューよりも、口コミ、自分の知っている人の評価、あるいは自分の好きなインフルエンサーさんの評価の方が重要だってユーザーさんは思っています。もうそこが1番大きい。
そもそもゲームって、ある意味「映像のメディア」なので、当然動画の影響は大きくなりますよね。ユーザーさんが映像媒体を見ている時間がものすごく長くなっていることが、やっぱり根底にあるのかなと思いますね。
要はテレビ放送をあんまり見なくなっている。その結果として、宣伝はあんまり信用しなくなっていて、一方でYouTubeであるとかソーシャルネットワークには、常に触れていて。だからこそ、「ユーザーさんが見ているところに情報を持っていく」という形へと流れが移ってきた……ということでしょう。
ただゲームの場合、「動画を見るだけでプレイしない、買わない人」の存在が問題視されてもいる。ストーリードリブンのゲームでは特にそうだ。
そのことをどう考えればいいのだろうか?
吉田:東京インディゲームサミットで、(インディゲームメーカーである)Odencat代表のDaigoさんと、その話をしていたんです。
Odencatの『メグとばけもの』(2023年)は、すごい泣かせるストーリーベースのアドベンチャーゲームで、評判いいですよね。
かなり幅広く知られていて評判がいいんですけども、知られている量・広がりに比べると、ゲームの売り上げはそこまで多くない。
だから「やっぱり映像で満足しているユーザーは相当いるんだな」ということは、言われていましたね。
ただ、やっぱりそういう「買わない人たち」がいてもマイナスかいうと、そうではないと思うんですよね。「良かったよ」と口コミで拡散してくれているわけですから。配信だけ見て楽しんでいる人を、単純にマイナスと考えない方がいいとは思っています。もしかすると、次の新作が出た時に買ってくれるようになるかもしれないもしれないですしね。
そういうところも含めて、もちろん課題はあるにはあるんだけど、でも、ゲームを知ってもらうための体験として、動画っていうのはあきらかに有用であり、ゲームの作り手は意識しています。
「このゲームは配信者にとって面白く配信できるものだろうか」ということを、常に自問自答していますよ。
30年で、ゲームの形もプラットフォームも、そして売れ方も変わった。
おそらくはこれからも変わり続けるのだろう。吉田氏はSIEから離れても、またゲームの現場に立つ。吉田氏のXアカウントからは、今後も「おすすめのゲーム」情報が発信され続けるから、ファンはぜひチェックしていただきたい。