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西田宗千佳の
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日本版デジタルコピー「e-move」はどんな規格か

今春から導入。VGAのSD-VideoでSDカードに出力


e-moveの概要。自宅のBD機器で、BDソフトのコンテンツを携帯電話やスマートフォンなどに転送できる

 日本仕様の「デジタルコピー」ともいえる「e-move」が、近日中にスタートする。2月14日、DEGジャパン内に「e-move協議会」が設立され、商品化・規格運用に向けた動きが本格化する。

 基本的には市販のブルーレイに記録したポータブルプレーヤー用ビデオデータを携帯電話などに簡単に転送できるものだが、e-moveはどのような規格で、どのように利用することができるのだろうか? その詳細をお伝えする。



■ ディスクにポータブル用データを同梱。ネット認証で「著作権保護されたデータ」をコピー

 昨年以降、日本でも「デジタルコピー付属」と書かれたBlu-ray/DVDタイトルが増え始めている。

 デジタルコピーとは、簡単に言えばBlu-ray/DVDに収録された本編の他に、携帯電話などのポータブル機器で見られる映像をDVDなどに収録しておき、それをコピーして利用する、というもの。映像をリッピングすることなくポータブル機器で利用できること、映像ソフトの「初回特典」として添付することで拡販が見込めることなどから、特にアメリカ市場では、2008年頃から運用が進められてきた。詳しくは私の連載で2008年7月に書いた記事をご参照願いたい。当時は映像をネットからダウンロードして利用するのが一般的であり、現在はデータを収録したDVDを添付する例が多くなっているが、活用の方法はあまり変わっていない。

 日本では、2008年末にワーナーから発売された「ダークナイト」に映像をダウンロードするコードを記録したチケットを同梱したのが最初だと記憶している。その後、特に2010年以降、いくつかのタイトルで採用が始まっている。

 とはいうものの、日本でのデジタルコピーの活用はまだまだ広がっていなかった、というのが実情だ。最大の問題は「使い勝手」だろう。現状の日本向けデジタルコピーは、その多くがWindows Media形式のDRMを使っている。そのため、パソコン上での設定が難しくなりやすい。常にWindows Media Playerを最新のバージョンに更新している人なら問題は少ないのだが、そうでない場合には更新作業が複雑でわかりにい。また、Windows Media形式を主に利用するポータブル機器が少なくなっているのも難点の一つといえる。

 デジタルコピーでは、主にソニーグループがPSPに向けたものを、他社の場合にはアップルのFairPlayを使い、iPhoneやiPod touchなどで見れるようにしたものを採用する場合も多い。この場合には、Windows Media形式に比べるとずっとシンプルに使えるのだが、利用できる機器には当然制限がかかる。また結局、データのコピーにはパソコンが必要になるのも変わらない(PSP向けの場合にはPS3からのコピーが可能になるので多少簡単になるが)。

 ソフトメーカー側からみれば、映像本編の他にディスクを添付せねばならない、という点もマイナスだろう。製造コストは下がったとはいえ、ディスク枚数は少ない方がいい。ポータブルコピー用のデータはせいぜい1GB程度だから、BDであれば容量的に問題になることもないが、現状ではパソコンで利用することを前提としているため、DVDを別途添付するのが一般的となっている。

 前置きが長くなったが、これらの問題に一定の解決策を提示しよう、というのがe-moveの狙いである。


■ e-moveはBDとSDカードを活用。家電を視野に「アカウント登録」はナシ

e-moveの構成と目的

 e-moveと従来のデジタルコピーとの違いは、主に2つある。

 一つ目は、映像を別のDVDに記録するのでなく、本編が収録されたBlu-rayに入れ、さらに「家電向けに統一された仕組みで認証する」ということだ。

 収録されたポータブル機器向けの映像データを、オンラインで認証した上でコピーする、という大枠の仕組みは変わらない。だが、e-move協議会で家電で利用することも想定した「認証とコピーの仕組み」を用意し、それに従って処理をすることで、より広範な機器での利用が可能になる。

 実際、すでに家電としてのe-move対応製品第一弾は出荷済みだ。パナソニックが2月初旬より出荷を開始した新BDレコーダー「DMR-BZT900/800/700/600」は、e-move対応の機能を搭載しており、今年春以降に予定されている「e-move対応タイトル」の発売にあわせ、同機能が利用可能になる。また、ポータブルプレーヤーとしては14日にパナソニックの「SV-MV100」が発表されている。


e-move対応のブルーレイDIGA「DMR-BZT700」 e-move対応のポータブルプレーヤー「SV-MV100」

 実は、Blu-rayにポータブル機器向けの映像を収録して利用しよう、という発想は、BDの規格策定段階から存在しており、BDの活用を推進するためにも、早期の導入が検討されていた。対応製品がパナソニックから登場したことでもおわかりのように、この規格はパナソニック主導で検討されてきたものであり、規格管理もパナソニックが担当する。とはいえ、規格の運営はDEGジャパンが、その内部組織となる「e-move協議会」で行ない、賛同企業が共同で利用できる規格となる。家電向けではパナソニックが最初に採用する他、パソコン向けではNECパーソナルプロダクツが採用を予定している。

 e-moveの賛同企業は以下の通り。

  • ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
  • エイベックス・エンタテインメント株式会社
  • NECパーソナルプロダクツ株式会社
  • ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメントジャパン合同会社
  • 松竹株式会社
  • ソニー株式会社
  • 株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
  • 東映株式会社
  • 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン株式会社
  • パナソニック株式会社
  • バンダイビジュアル株式会社
  • 株式会社ポニーキャニオン

 簡便さを重視するため、e-moveでは「アカウント登録」に類する行為は存在しない。ネットに接続された対応機器(パソコンを含む)でe-move機能を呼び出し、パッケージ内に含まれる「クーポン」に記載された認証コードを入力するだけでコピー作業が終わる。入力作業は「ブルーレイレコーダのリモコンで終えられる、簡単なもの」(パナソニック担当者)を想定しているという。

 二つ目は、映像と著作権保護の規格に「SD-Video規格」を利用する、ということだ。この規格は、SDカードの著作権保護機能を活用して映像を記録するもの。一般的には、携帯電話向けのワンセグ記録向けに使われる例が多い他、BDレコーダの「携帯電話向け映像書き出し」規格としても活用されている。

 e-moveで活用されるのは、その中でも2つの映像方式である(表参照)。簡単に言えば、ワンセグと同じものと、VGAクラスの解像度のものだ。携帯電話はもちろん、カーナビやパソコンなど、すでに数多くの機器で利用されている規格なので、e-move向けに新しい機器を用意する必要はない。他方、iPhone/iPod TouchやPSPでは使えなくなる。

【e-moveのフォーマット】

形式 SD-Video
Mobile Video Profile
SD-Video
ISDB-T(ワンセグ)
ファイル
フォーマット
SD-Video H.264
Mobile Video Profile
SD-Video ISDB-T
Mobile Video Profile
解像度 640×360ドット/30p 320×180ドット/15p
ビデオコーデック MPEG4-AVC Baseline Profile
最大ビデオビットレート 1Mbps 384kbps
オーディオ 64kbps/チャンネル 32kbps/チャンネル
システムコンテナ
フォーマット
MP4 MPEG-2 TS
2時間でのファイルサイズ 約1GB 約470MB
カードへの転送時間
(クラス4カードでの理論値)"
約240秒 約117秒

 著作権保護はSDカードの暗号化機能を使って行なうため、著作権保護機能のない安価なメモリーカードには転送できない。また、特にパソコンを利用する場合には、SDカードリーダー側にも著作権保護機能への対応が必要となる。逆に言えば、著作権保護はメモリーカードそのものに紐付いているため、映像の入ったカードを差し替えれば、複数の機器で同じ映像を楽しむことが可能になる。


■ ディスクからのコピーは「基本1回」、ムーブバックは「現実的には活用せず」

 今後、DVDやBlu-rayのリッピングが「個人でも」違法とされる可能性もある。そうなるなら、せめてe-moveのような仕組みが広がらないと不公平だ。ポータブル機器向けのファイルはDRMフリー、というのが理想ではあるが、著作権者側としてはそういうわけにもいくまい。メモリーカード差し替えで複数機器に対応できる、というe-moveの落としどころは、現実的なところといえる。

 e-moveは「SDカード」そのものの特性を最大限に生かした方式となる。BDからの転送が行なえる「e-move対応機器」が増えれば、活用そのものはかなり容易になるだろう。現状、パナソニックのブルーレイレコーダのみではあるが、今後他社のレコーダにも対応が広がり、パソコンでも利用が進めば、日本国内ではもっとも簡単な「ポータブル機器で市販ディスクの映像を見る方法」になるだろう。逆にいえば、e-move普及のカギを握るのは、対応ソフトの登場と同様、対応機器の広がりにあるといっていい。

 アンドロイドやWindows Phoneなどを採用したスマートフォンであれば、今後もSDカードを採用していくのは規定路線であり、対応端末数の点で不安は少ない。ただし、特にmicroSDカードになってからは、メモリーカードの取り外しが面倒な機種が多いのが気にかかる。他方、この世界で最大のプレーヤーであるアップルへの対応が問題とはなるが、そこは逆に周辺機器メーカーの力の見せ所、となるかも知れない。

 基本的には「カードの差し替え」によって複数機器へ対応することを前提としているため、1ディスクからの「複数回数コピー」への対応は重視されていない。パナソニック側によれば「e-moveでのムーブ回数はスタジオ側で指定が可能だが、多くのスタジオは1回、という意見が支配的」であるという。また、メモリーカードからのムーブバック(メモリーカード内のデータを削除し、e-move回数を元に戻す)についても、「SD-Video形式のオーサリングで指定が可能」(パナソニック担当者)だが、対応ソフトがなく、利用されていないことから、こちらも当面は活用されない可能性が高い。

 このようなことから考えると、SDカードに転送したものは「いくつかのデバイスにメモリーカードを差し替えて視聴後、消す」とう補助的な使い方が中心となるだろう。ライブラリーとしてはあくまでBDで用意し、モバイルデバイスでの視聴は一時的ななもの、という形だ。SDカードが大容量化しており、32GBの製品でも5〜6,000円程度と低価格化していることを考えると、消さずに複数の映画をカード内に貯めていく、という使い方をしてもいいのかも知れない。できればムーブバックが活用できるようになり、好きな時に持ち出せるようになるのが理想ではある。

 残るは「どんなソフトが対応するのか」。

 すでに述べたように、どうやら「春以降」に対応ソフトが登場すると見られており、e-move協議会に参加するメーカーからは登場するだろう、と期待されるが、現状ではまだ公式なアナウンスはなされていない。初回リリース時にBlu-rayを買ったらe-move対応なのが普通、くらいの状況になれば、利便性はかなり高まると思うのだが。

(2011年 2月 14日)


= 西田宗千佳 =  1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]