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「Amazonインスタント・ビデオ」の勝算は? 「アマゾン一体」を強みに

TVやゲーム対応も検討。国内市場が大きい「アダルト」

アマゾン ジャパン デジタル音楽・映像事業部マーケティング部長の浅岡範子氏

 11月26日、アマゾンジャパンはビデオオンデマンドサービス「Amazonインスタント・ビデオ(Amazon Instant Video)」をスタートした。海外ではすでに定着したサービスであり、日本でも開始が待ち望まれていたものだ。

 同ビジネスを日本で担当する、アマゾン ジャパン株式会社 デジタル音楽・映像事業部マーケティング部長の浅岡範子氏に、狙いと今後の展開を聞いた。

ドラマ・アニメに期待、日本で市場が大きい「アダルト」

 アマゾンがAmazon インスタント・ビデオにつながるVODサービスをアメリカでスタートしたのは、2006年9月のこと。その後いくどかの名称変更・サービス内容の変更を経て現在の形になったが、どちらにしても、日本でのスタートには7年以上の時間が必要だった。浅岡氏は「日本でのサービス展開については、ずっと準備を進めてきた」と説明する。

浅岡:インスタント・ビデオのサービス立ち上げに関しては、コンテンツの調達も含め、社内のチームが準備を続けてきました。このタイミングでようやくすべてが整ったので、サービスを開始した、というところがあります。

 26,000本以上の国内外映画を揃えられた、ということが大きいのですが、コンテンツ提供について、特にこの時期に、コンテンツ提供元の方々の意識・戦略が大きく変わったから……という事情があるわけではありません。実際のところ、スタートまでに時間がかかった理由についても、特別困難な理由が存在した……とは認識していません。

 コンテンツという点では、ストアの立ち上げに向けて、コンテンツ調達のチームが長く準備をすすめていたのですが、今回、テレビ局の皆様が快く協力していただけたため、日本のテレビドラマを揃えられたことが大きいと感じます。日本のお客様からは、特にテレビドラマの需要が大きいだろう、と分析しています。

Kindle Fire HDXでAmazonインスタント・ビデオを利用

 特に海外の映画やドラマについては、字幕版とともに吹き替え版の需要が大きい。この点はどうだろうか?

浅岡:字幕と吹き替え、両方のコンテンツをお持ちの事業者様からは、できるだけ両方をご提供いただけるよう、交渉をしています。特に子供向けのアニメーション作品では、吹き替えは重要ですよね。

 コンテンツ面の特徴として、「モンスターユニバーシティ」のようにディスクメディアが発売されたばかりの作品や、「パシフィック・リム」のようにダウンロードを先行する作品が用意されているところがある。こうした点は「コンテンツ提供側との協力体制によるもの」(浅岡氏)と説明されているが、アマゾンならではの「交渉材料」もあったようだ。

浅岡:弊社はDVDやブルーレイの販売でも、かなりの数量を扱わせていただいております。DVD販売をスタートして11年になりますが、映画会社とは良好な関係を築けています。今後は、先行配信に合わせて旧作をセットで安価に配信したり、旧作のメディア版を販売したり、といった連携も考えられると思います。

 ドラマなどと並び、アマゾンが力を入れているのがアニメの配信だ。この点についても、ディスクメディア販売との関連が強い。

浅岡:ご存じのように、弊社のサービスをご利用の方々の多くは、アニメがお好きな方がとても多いのです。ですから、アニメは特に期待しているジャンルです。

 他方、コンテンツの数量を見ると、いわゆる「アダルト」ジャンルが多いことにも気付く。スタート段階の26,000タイトルのうち、9,000タイトル程度がアダルトで占められている。

浅岡:ディスク販売などから、アダルトについても大きな需要があることが分かっていますので、ラインナップに加えさせていただいています。成人向けコンテンツについては、もちろん、ディスク販売などと同様、年齢制限をかけた上での取り扱いになります。

 日本の市場では特に、アダルトの市場は大きなものと認識しています。

ダウンロードは2台まで、テレビやゲーム機などへの拡大も

 インスタント・ビデオは、標準画質(SD)のコンテンツとHD画質のコンテンツが用意されている。アマゾンとしても、1万本を越えるHD画質コンテンツを用意できたことを、サービスの特徴に挙げている。

浅岡:HDについては、基本的に1,920×1,080です。ただし、コンテンツによっては縦720ドットのものもあるはずです。この辺は音声についても同様です。Amazon インスタント・ビデオはドルビーデジタルプラスに対応しているのですが、すべてが対応というわけではなく、古いものの中には未対応なものもあります。

 現在のサービスは、PCのブラウザーと同社のタブレット端末・Kindle Fireシリーズ向けとなっている。前者はストリーミングのみ、後者はストリーミングとダウンロード、という形だ。しかしサービス用の端末バリエーションは「今後順次拡大していく」と浅岡氏は説明する。

浅岡:アメリカでは、Kindle Fire以外の端末にも広く対応しています。その中には、テレビやゲーム機も含まれます。現在はブラウザー向けとKindle Fire向けですが、順次拡大を検討していますので、お待ちいただければと思います。

 ダウンロード配信については、アメリカでも日本でも、2台までの端末へ同時にダウンロード可能、という形です。

 インスタント・ビデオはクラウドでコンテンツを管理する仕組みになっていますので、アメリカの場合、PCやスマートフォンのブラウザ上で購入後に、他の端末から視聴することもできます。この点についても、日本のサービスでも変化はありません。

 端末としては、PCとタブレットでどのような役割分担になるのだろうか? アマゾンとしてはどちらが主力とみているのだろうか?

浅岡:アクセスの簡単さから、PCで見る方は少数かもしれない……と分析しています。しかし、ユーザーの母数はPCの方が圧倒的に多いのが実情です。アマゾンとしては、お客様に選択の幅を提供する、という考え方ですので、どちらをお使いいただいてもかまいません。簡単に、快適にアクセスしていただける選択肢は、今後とも広げていきます。

 新しいKindle Fire HDXはドルビーデジタル・プラスに対応していますので、より高音質に楽しめます。この点はアピールポイントになるでしょう。

「レンタル」と「販売」の比率については、アメリカの状況を見る限り、レンタルの方が圧倒的に数は多くなると予想しています。ただし、単価は「販売」の方がずっと大きいので、販売金額では「販売」の方が大きくなる可能性があります。

Kindle Fire HDXでAmazonインスタント・ビデオ。映画「パシフィック・リム」も先行配信
Kindle Fire HDXで購入した映画を、Miracastを使ってテレビに表示

 アメリカと日本のサービスを比較した場合、日本では単品でのレンタル・販売が主になったサービスとなっている。だがアメリカでは、単品のVODに加え、会員制サービスである「Amazon Prime」会員向けの定額・見放題サービスも用意されており、アメリカ版の方がお得なサービスに見える。サブスクリプション型・見放題サービスは、日本でも導入の可能性があるのだろうか?

浅岡:日本でまずはサービスを立ち上げた、というところですので、皆様のご要望を見つつ、見放題のサービス導入も検討していきます。

「アマゾンである」ことを利用して攻める

 現状のKindle Fireでは、TSUTAYA TVやHuluなど、他社のVODも利用できる。インスタント・ビデオにとってはライバルだが、アマゾン側は「排除するつもりはない」という。

浅岡:お客様へ選択肢を提供する、という意味合いがあります。我々のサービスを利用していただきたいのは山々ですが(笑)。もし我々のサービスに見たい映像がなく、他社様のものにあるなら、先方を使っていただいてもかまいません。その上で、できるだけ弊社をご選択いただけるよう努力していきます。

 そこでの差別化点として、浅岡氏は「アマゾンとして一体となった提案」を示唆する。

浅岡:音楽のダウンロードサービスもおかげさまで順調です。

 映像を探したら音楽も、本もすぐに見つかる、という連携が生まれれば、大きな価値になるはずです。そうしたアマゾンのデジタルコンテンツ全体での価値を提供できれば、と思います。

 実は最近、「半沢直樹」のサウンドトラック販売が好調なんです。そういう部分で、映像と音楽が連携する、という形も考えられます。

 海外に比べ、日本はVODの利用率が低い。また、アマゾン以外のVODもすでに複数存在している。その中で、アマゾンの強みはどこになるのだろうか? 浅岡氏は「手軽さ」を挙げる。

浅岡:やはり、まずは試していただきたいと考えています。レンタルビデオと違って借りにいく手間も、返しに行く手間もありませんし。

 なかなかつかっていただけなかった理由は、わざわざアカウントを作ったり決済を登録したり、という障害があったと分析しています。しかしアマゾンであれば、普段お使いのアカウントで、そのまま利用できます。ネックである「品揃え」「アカウント作成の手間」がありませんので、ハードルは低くなっていると考えます。

 すなわち、電子書籍においてKindleが成功したモデルで、VODも攻めていこうという戦略のようだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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