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日本テレビに聞く「これからのHulu、TV局のネット施策」

Hulu単独買収の理由と、ネットで求められるコンテンツ

日本テレビ放送網・事業局コンテンツ事業部長 船越雅史氏

 2月28日、日本テレビ放送網は、ネット配信サービス「Hulu」の事業譲渡を受けると発表した。このニュースは、多くの人にとって大きな驚きだっただろう。Huluは、スマートフォンやタブレット、ゲーム機などでマルチデバイスに利用できて、ハリウッド系ドラマを中心に多くの映像が月額料金制で見放題になる「SVOD」(Subscription Video On Demand:定額制動画配信)の代表例として知られていた。

 それがテレビ局傘下になることで、「日本テレビ以外のコンテンツはなくなるのではないか」「サービスの方向性が変わるのではないか」との懸念が噴出した。

 そもそも日本テレビは現在、映像コンテンツのネット配信に非常に積極的である。各配信サービスへコンテンツを提供するだけでなく、独自のVODサービスとして「日テレオンデマンド」も運営している。2013年3月には、エイベックス・グループ・ホールディングスから「ニコニコ動画」「ニコニコ生放送」(以下、ニコ動・ニコ生)を運営するドワンゴの株式の譲渡を受け、同社に出資する形ともなっている。今年1月には、アニメ制作会社のタツノコプロの筆頭株主にもなった。

 複数の動画配信に手を伸ばし、ビジネス展開を広げる同社の真意はどこにあるのだろうか? Huluはどうなるのだろうか? 日本テレビの配信事業を担当する、事業局コンテンツ事業部長の船越雅史氏に話を聞いた。

買収は「Hulu側からの提案」、危機感をもってSVODへ全力投入

Hulu

「Hulu買収についてのネットでの反響は、賛否両論+否、みたいな感じでしたかね」

 船越氏はそう笑う。一方で、買収については、その背景に「長い経緯があった」と説明する。

船越氏(以下敬称略):テレビの事業は、景気の影響も受けていますが、民間放送始まって以来60年、良いビジネスモデルができていて、本業が上手くいっていないわけではない。ここはアメリカと事情が違うところです。「これから先細りする」と言われてはいながらも、テレビ事業自体で年間3,000億円くらいの売上げがあります。もちろん順風満帆ではないですし、色々な努力はありますが。

 そこにネットが入ってきました。もう10年前から「放送と通信の融合」と言われていますが、結局は「テレビのコンテンツをネットに出せ」と言われているだけじゃないか……という我々の思いもありました。

 結局テレビのコンテンツは面白いんです。コンテンツ制作力という点では、テレビ局の制作力は、日本においてはきわめて優れている。24時間365日コンテンツを作り続けられる企業というのは、そんなに多くない。

 ネットビジネスにどう乗り出すかは、この10年、慎重ではあるけれどやらなくてはいけないことだったんですね。

「第2日本テレビ」は2005年にスタートしたが、後に日テレオンデマンドに集約

 弊社は先鞭をつける形で「第2日本テレビ」をやりましたが、ちょっと先鞭をつけすぎたところもあって(笑)。当時のインフラ環境的にもそうですし、「地上波ビジネスがそこそこうまくいっているのに、本当にこれに乗り出して大丈夫なのか。カニバリゼーションは起きないのか」ということも論議されました。各権利者団体としても、ここに乗り出すことで、テレビからの利益が阻害されることはないのか、議論があった。横目で「出版業界とインターネットの間で起きたこと」は見ていましたから、「同じようなことになるのでは」という慎重論がありました。

 テレビ局の持つ「コンテンツ制作能力」を生かしてネットオリジナルの展開を……という「第2日本テレビ」の試みは失敗に終わる。その理由は、「放送への遠慮」だった。

船越:「第2日本テレビ」を作って先鞭をつけた形にはなっていたのですが、そこにテレビ局が最も得意とする「放送コンテンツ」をそのまま乗せる、ということが、当時の理解ではできませんでした。各権利者団体のみなさんもそうだったし、なによりも社内の理解もなかった。ネットワーク各局の理解もなかったです。だから魅力あるコンテンツを出せず、結果的には失敗に終わりました。

 しかし、時代は確実に移り変わっていた。ネット利用者の増加による影響力の拡大は、もはや無視し得ない状況にあった。

船越:「第2日本テレビ」の失敗があり、日本テレビはネットビジネスを慎重に見てきました。いまから3年前には、「どうにもこうにもやるしかない。そうでないと乗り遅れるかも知れない」という危機感もありました。私が現事業部に移ったタイミングだったんですが。

日テレオンデマンド
(c)NTV

 その時期、3年前に「日テレオンデマンド」というブランディングをして、番組供給を始めました。2年前からは自らサイトを立ち上げて、第2日本テレビ同様、日テレオンデマンドというブランドだけでなく、自社サイトでの配信を始めました。

 私は社長(日本テレビ放送網・現社長の大久保好男氏)に、次のように言ったんです。

「現状は、色々な実演家の方々の権利者団体の要望もあり、TVOD(筆者注:トランザクション型VOD。都度課金型VOD)しかできません。ですからこれでビジネスをやります。今やらないと後がないので、まずこれでスタートします。しかしTVODは事業モデルとしては決してよろしくありません」

 仮に10億円の売上げがあって、経費が8億円だったとします。利益率2割ですね。これが20億のビジネスになった時に、経費が13〜14億とか、さらには10億と、損益分岐点を超えると利益率がどんどん上がっていくのが良いビジネスモデルです。しかしTVODのビジネスモデルは、仮に20億になっても同じ16億の経費がかかっていっこうに利益率が向上しない。それどころか、人件費がかさみ、100億・200億の売上げになると赤字になりかねない。TVODでは利益率改善が難しい。

「では、どうすればいいんだ?」と問われたので、私は次のように説明しました。

「必ずSVODの時代が来ます。その先にはADVOD(筆者注:広告運営型VOD)の時代が来ます。その時には利益率が上がってくるし、なんらかのビジネスチャンスは大きく飛躍するはずです。その時のために、いまTVODをやっている必要があります」

 また、当時からわかっていたことですが、VODの世界には、GoogleやYouTube、Netflixなど、海外のプラットフォームが必ずやってきます。そういう状況が確定してしまった時は、テレビ局としては「仕方なくコンテンツを出す」という形になってしまいます。コンテンツを提供する側と流通する側の力関係として、流通する側が圧倒的に強い状況になってはいけない。

 我々はなんらかのアグリゲーター(コンテンツを意識的に集める側)とならないと、流通側に主導権をとられてしまい、単にコンテンツを渡すだけになってしまう。せっかくいいコンテンツを作っても、届け方次第では、我々にとっても、視聴者の方々にもいい結果にならないことになるかもしれません。

 そうするとどうなるか。今のテレビ受像機メーカーがそうなりつつありますが、「コンテンツを作り続ける力」さえ失う可能性があります。

 ですから社長には「アグリゲーターをやりましょう。将来的にSVODを始める時には、なんらかのプラットフォーマー、アグリゲーターになっていなければいけません」と話しました。私としては、当時で2年後、今よりちょっと早い時期にそうなると思っていたんですが。

 そこにあったのが「Hulu」だった。

船越:一昨年のHuluが始まる前くらい(筆者注:2011年9月)から、Hulu側より「コンテンツ提供をお願いします」とはお話いただいていたんですが、今お話ししたような経緯もあって、ちょっと慎重にコンテンツの出し方を考えていたんです。

 そうしたところ、2011年の10月くらいに、Huluさんの側から「出資をいただいて、一緒にやっていきませんか」というご提案をいただきました。「これはいいな」と考えましたね。プラットフォーマーとしてビジネスに関与できますので。

 最初は自分達のSVODプラットフォームをやってみようと思っていたのですが、なかなか単体では厳しい。dビデオ(筆者注:NTTドコモのSVODプラットフォーム)もあり、Huluもあり、彼らが一定の成功を収めている中で、我々が日本テレビの作品だけでSVODをやってどれだけの会員を集められるのか? 限界があります。

 そこにHuluさんからのお申し出がありました。ですので、一昨年の10月から、Huluさんと出資の話をさせていただきました。

 ここからは想像なんですけれど、アメリカのHuluの方も事業売却の話が出ていて、成立直前に来てはブレイク(破談)……ということを繰り返していましたよね。

 その過程で、1年あまり出資の話を交渉していく中で、結果的に「100%買いませんか?」という話が出てきました。1年半の交渉の中で、100%子会社化という件は、最後の最後、この2カ月で出てきた話なんです。

 そこからはトントン拍子で話が進んでいったんですが、結果としてはSVOD事業を(日本テレビが)引き継ぐことになった……というところなんですね。

 すなわち、Huluへの出資・買収は先方から持ちかけられたことであり、「独自のプラットフォームによるSVOD進出」を検討していた日本テレビにとっては、ちょうど良いタイミングだったのである。アメリカのHulu本社が何度も身売り交渉を行なっており、日本国内のビジネスについても、顧客獲得をしつつも経営状態を安定させる必然性に迫られていたのは事実なのだろう。それが結果的には、「日本テレビによるHulu買収」につながる。

「乗り合い」でなく自らリスクをとって「日本のプラットフォーム」を目指す

 日本のテレビ業界は「横並び」の意識が強いところ……という印象が強い。VODについても、各社が参画する共通プラットフォームで、という存在がいくつもある。Huluが初期には「出資を」という申し出であったのも、そうした「横並び」を意識してのこと、と筆者は予想している。テレビ局同士はライバルでもある。だからこそ、日本テレビがHuluを傘下に置き、SVODで突出した存在になると、他局はコンテンツを提供しないのでは……と感じる人が多いのだろう。

 しかし日本テレビ側は、そうした思惑を否定する。そして、最初からHuluへの出資も「単独で行なうことを想定していた」(船越氏)のだという。

船越:テレビ局同士が一緒に出資をして……という事例は過去何度もありますが、正直言うと決して上手くいっていない。ネットに積極的なところもあれば、懐疑的で腰を引いているところもあります。一緒にやって失敗した事例は枚挙にいとまがないわけです。

 そんな中で経営陣と話してきたのは、「ある一定程度大きくするまでは、日本テレビだけでやっていこうよ」ということです。これは偉そうに聞こえるかもしれませんが、「ウチが本腰を入れて一生懸命続けてやっていこうよ」と。

 将来、ある一定の成功を収めたあとであれば、一緒にやっていけるところがあれば共同で、ということになるでしょう。Huluの買収を発表した後には、弊社社長の大久保のところに、「すぐにも一緒にやりたい」という出資に関するお申し出が、テレビ局のみならず、数社からお話があったようです。しかし大久保は、「私の責任である一定レベルまで引き上げますので、その後一緒にやることも含めてお話させてください」とお返事したようです。

 問題は、日本テレビ1社体制で、Huluがどのような存在になるのか、ということだ。船越氏も「懸念は良く理解している」と話す。

船越:皆さんの懸念は一つ。「我々が単独出資をした場合、色んなところからコンテンツが出てくるのかどうか」ですよね。

 社長はプロジェクトメンバーに、「Huluを『日本テレビのHuluにする』ことだけは止めろ。将来的には『日本のHulu』にする。日本のプラットフォームにするんだ」と話しています。

 Huluの目玉はハリウッドのコンテンツですが、アメリカのコンテンツのみならず、イギリスのものもあるでしょうし、その他ヨーロッパのものもあるはず。そして日本も、日本テレビのコンテンツだけが突出するのではなくて、今もTBSやNHKやテレビ東京のコンテンツがありますが、さらにこれ以上に出していただく努力をしないければいけない。共同歩調もとらなくてはいけませんし、ご理解をいただけるようなプラットフォームにしていかなくてはなりません。ネットワーク各局、それもNNNやNNSといったうちの系列だけでなく、すべての局、もっといえば、番組制作会社・アニメ制作会社、いかなるコンテンツ制作元にも門戸を開きたい。

 そして、Huluを「日本のSVODプラットフォーム」という大きな事業にして、将来的には一緒にやっていけるところがあれば一緒にやることも視野に入れて……ということになるでしょう。

 要は、Huluは日テレコンテンツ専用にする意図はなく、今まで以上に「色々なテレビコンテンツが集まる場所」にしたい、ということなのだ。それが守られるのであれば、Huluの方向性は今の延長線上にある、と考えて良さそうだ。

 船越氏は、「Huluも昨年は、積極的なビジネス展開が難しいところがあったのでしょう」と話す。アメリカの本社も日本法人も買収交渉のさなかにあったためだ。コンテンツは増えていたものの、圧倒的なスピード、というわけではなかった。この4月以降、Huluは日本テレビ傘下でビジネスをスタートするが、「コンテンツ調達の速度は加速するし、Hulu側が費用を負担してのコンテンツ最適化も行なう」と船越氏は説明する。例えば、プロモーション用の特別番組を作ったり、吹き替えコンテンツを用意したりといった可能性もより高くなりそうだ。

船越:コンテンツ開拓・最適化への費用負担は加速します。これは100%断言していい。そういう交渉が始まっています。制作費とまではいいませんが、コンテンツ最適化の費用を負担していく、という計画は進めています。

 いままでのHuluには、その余力もなかったですし、想像にすぎませんが、強力なコンテンツホルダーである株主さん達への遠慮もあったのではないか、と思います。そういう意味では、今後は遠慮なく「最適化していきましょうよ! 費用の一部はわれわれが負担します」という提言もさせていただくつもりです。

 そもそも、日本テレビはHuluのどこに魅力を感じたのだろうか? 一つは「テレビを含めたマルチプラットフォーム性」だ。

船越:我々がもっとも興味を持っていたのは「マルチデバイス」である、ということです。テレビのコンテンツはテレビの画角で最高の効果が生まれるように作ってあります。テレビで見ていただくのが一番いい。

 これだけ多様な社会で、「いつでもどこでも」が実現できる技術の進歩を忘れてはいけません。スマホでもタブレットでも見ていただきたい。とはいえ、テレビでいつかは見ていただきたいし、それができることが重要だと思います。

 実際Huluの利用者の中でも、テレビでの視聴者は、我々の想像以上に多いです。日テレオンデマンドはPCとスマホ・タブレットだけでやっていますが、どんどんスマホ・タブレットの比率が上がってきています。同様にHuluも、スマホ・タブレットの比率が多い。そうなるのが今の流れだとは思うのですが、テレビでの利用者がこんなに多いとは思いませんでした。ゲーム機での視聴も多いのですが、そうでないスマートテレビでの視聴比率も高い。

 もちろん、日本でもっとも大きなシェアを持つ「dビデオ」は優れた技術をお持ちですし、今後もパートナーとしてコンテンツ供給をきちんと続けていきます。ですが、Huluはやっぱり「テレビで見ていただける」「マルチデバイスである」ことが、我々にとっては非常に大きな魅力です。

テレビ、ゲーム機、モバイルなどマルチデバイス対応がHuluの特徴

 日本においては、dビデオが450万人近いユーザーを集めており、SVODとしては圧倒的な利用者数を誇る。携帯電話契約時にセット割り引きを前提にプロモーションする、という手法でユーザーを増やしたものだが、他のSVODに比べ、文字通り「桁違い」のユーザー数であるのは事実。Huluの現在の利用者数は公表されていないが、数十万人クラスとみられており、dビデオよりはかなり少ない。

 会員獲得という意味で、日本テレビは勝算をどう見ているのだろうか? 目標とする会員数はどの辺なのだろうか?

船越:ドコモさんが400万ユーザーを越えているとのことなので、少なくとも目指すところはあのくらいだろうな、とは考えています。正直。4月になってから事業譲渡を受けるので、そこから本格的に事業計画を考えていくことになります。

 お話を伺っている範囲で見ると、Huluはアクティブユーザーが非常に多いのが特徴です。我々も上場企業ですので、Huluの会員数をどこかのタイミングで明らかにすることになると思いますが、「え? そんなにいるの?」という数ですよ。

 それよりもっと驚くのがアクティブユーザー比率です。もちろん100%とは言いませんが、会員になっている方がほぼほぼコンテンツをご覧になっている。アクティブユーザーの数同士で比較すると、おそらくドコモさん(dビデオ)より多いですね。

 特にこの1年数カ月の間、いわゆる出資の話をずっとしている状況だったので、Hulu Japanとしても、ハリウッドの新作がどんどん入ってくるわけでも、追加のコンテンツがどんどん入ってくるわけでもないという、苦しい1年だったと思います。

 しかし今後は、ハリウッドのものを中心に新作をどんどん入れていきます。テレビ局としては、得意なコンテンツがありますから、ドラマ・アニメに限らず、色んなものを入れてパイを広げていきます。

 ですから、会員数はまだまだ伸びる余地があると思っています。400万人を越えるドコモさんというのは、我々にとって、「まずはあそこまでは目指そうよ」という目標になっています。

 会員獲得の手法ですが……。社長の大久保からも、「Huluは全身全霊をかけて大きくする。第四の伝送路として経営の柱にするんだ」ということで、全社に「知恵を絞れ」という号令が下っています。この半月くらいで、びっくりするようなアイデアが色々出てきています。

 もちろん、最大の武器は「魅力的なコンテンツ」。しかし魅力あるコンテンツをただ並べているだけでは、なかなか「月額980円」(注:4月からは1,007円)という額はお支払いいただけない。魅力あるコンテンツを揃えた上で、「これだけ揃えましたよ、どうぞ見てください」という事を伝える手段については、どんどん色々なアイデアが出ています。今は4月以降のHuluに「ご注目ください」としか言えないですね。やり方次第では、そんなにお金をかけることなく、これまでのビジネスを棄損することなく、ある一定の成果を得られるのではないかと思っていますし、期待もしているところです。

見せ方はテレビと変わる?! 「全話視聴」に強い需要あり

 ではその上で、日本テレビが目指す「日本のSVOD」としてのHuluは、どんな存在になるのだろうか? カギになるのはやはりコンテンツのあり方だ。そしてその部分こそが、日本テレビが「SVODプラットフォーマー」になりたかった理由でもある。

船越:これからSVODをやるわけで、SVODにふさわしいコンテンツとはなんだろう? と考えています。我々はそう遠くない将来に、ADVODのビジネスを始めます。将来的には、Huluの中でSVODとADVODが有機的に使われる形になっていきます。

 ただ、どのコンテンツをどこに置くのか、ということはこれからです。

 例えばTVODについては、アニメ・ドラマで一定の成功を収めましたけれど、バラエティは、一部例外はあるものの、そんなに売れませんでした。少々おごった言い方かも知れませんが、バラエティというのは非常によくできていて、一週見逃したからといって翌週見られないような作りにはなっていないし、どの時間から見てもなかなか面白く見られる。60年間の知見で、あらゆる工夫がなされています。

 なので、見逃したバラエティを1話300円で買いますか? というと、なかなか買わない。ところがADVODにすると、ある一定程度需要がある……というのがわかってきています。

 ただ、視聴動向を見ているとですね……。例えば日テレオンデマンドでは「しゃべくり007」を44、5分の本編をそのままどーんと置いているわけですけれど、決して全部をいっぺんに見る人はいない。これがドラマだと、一気に最後まで見る人の割合は非常に多いんですが。スマートフォンやタブレットが普及してくると、「ワンステーション動画」じゃないですけれど、ちょっとした時間を埋めてくれるものとしてはバラエティの方がはるかに向いています。バラエティには5分のコーナーなんていっぱいありますからね。

 それをどうサービスの中に置いていくのかは、これからの検討事項です。

 そうした部分については、他社のサービスにも大きなヒントがあったようだ。

船越:「おっ?!」と思ったのは、テレビ東京さんが展開している、経済系番組が月額料金で見放題になる「テレビ東京ビジネスオンデマンド」です。

 ニュースはどんどん更新されるものなので、ネットで有料で見るものなんだろうか……という意識があったんですが、一日分をネットにまとめて置いておくと、通勤途上ですとか朝会社についてPCを立ち上げた時などに見たり、あるいは仕事しながら音で内容を拾って、という需要が大きかったようで、かなりの成功を収めていらっしゃいます。

 ニュースというのはTVODでは絶対に売れないんです。朝7時のニュースを9時に有料で見る必要はまったくないわけですから。ただ日経さんとテレビ東京さんがやったものには需要があった。

 ということは、「時間を埋めてあげるコンテンツ」には強い需要があるのかな、と考えています。そこをSVODでやる、という形はあり得る。TVODだと44分のバラエティには需要がなかったかもしれませんが、短いコンテンツならある。

 またあるいは、放送に入らなかった動画・取材フィルムの活用。SVODになにがふさわしいのか、これから考えていこうと思います。

 そういう意味では、当初はあらゆるものがHuluの中で展開されていくことになると思います。

 ある人は「闇鍋ですか」という表現をされたのですが、まさにそのつもりでやっていこうと考えています。

 ネットに向いたコンテンツとはなにか。テレビのために制作したコンテンツの展開は当然想定されているが、ネットから出て行くコンテンツも「当然ある」と船越氏は言う。特にSVODにおいては、アメリカのNetflixでオリジナルドラマ「House of Cards」が大ヒットし、エミー賞9部門にノミネートされ、高く評価されたこともあり、「本格的で力の入った展開」へと時代が移りつつある。日本でのSVOD、しかも費用負担も含めた「番組制作能力」では図抜けているテレビ局がイニシアチブをとることになるならば、そうした部分が気に掛かる。

船越:もちろん考えています。それはHuluに関係なく、です。

 特に「ネットの住人は誰なのか」を考えると、十代・二十代が多いのかな、と。ただ、三十代から六十代でも、ネットに特化した人々はどんどん出てきています。しかし、まずはアニメを見ている世代が多い。そこがドワンゴへの出資ともつながってくるわけですが。決して「放送先出し」でない、というか「放送を考えない」ようなアニメも、今後考えていきます。

 ドラマでそういうものを作れるだけの余力が、まだ日本テレビにはない。多分各局さんにもないでしょう。スピンオフは作れます。すでにフジテレビさんが「踊る大捜査線」でやられていましたよね。そういうものはあるでしょうが、本格的なものをいつどうやって……というのはまだ先の話かと思います。

 現在は、そこまでの財政基盤がネットにはないので、「House of Cards並のものということになると、もうちょっと待ってください」というお話になるかと思いますね。

 日本テレビは、すでに「日テレオンデマンド」というTVOD型のサービスをやっている。コンテンツ提供という意味では、SVODとして最大のライバルであるdビデオにも提供しているし、様々なVODプラットフォームにも同様に提供している。ニコ動も重要なものだ。それらの使い分けはどうなるのだろうか?

船越:日テレオンデマンドは、当面の間変わりません。TVODでしか出せないコンテンツがあるので、それがある限りやっていく義務があると考えます。

 しかし将来的に、すべてSVODで出せる環境になった場合、日テレオンデマンドをHuluに吸収する、ということは視野に入れています。

 ニコ動については、まったく役割の異なるものです。色んな展開をドワンゴさんと一緒に考えていきます。

 「もっとTV」ですか。あれは思想として「地上波ビジネスに貢献できるネットビジネスを考えましょう」ということで、電通さんの元で各地上波局が集まってやっているものです。各局色々な思惑はあり、出しているコンテンツは違いますが、少なくとも我々は「地上波番組のキャッチアップ」、見逃したものはここで見られますが、また地上波に帰ってきていただく、というビジネス手法です。ドラマはいま10話から12話しかなくて、1話見逃すとついていくのが非常につらいんですよ。「もっとTV」でカバーできる部分は多いと思います。しかし、「もっとTV」は電通さんのビジネスですので、今後どうなるかは電通さんの意思次第です。

 その他のプラットフォームについては、我々はコンテンツホルダーとして「コンテンツをご提供する」立場。そこから先のビジネスはみなさんでお考えいただくもので、コンテンツ価値最大化・収益最大化し、それを制作現場に還元することを第一に考えます。

 そして、Huluは「損して得取れ」。日本の大きなプラットフォームに育てば、テレビの未来にとって大きなビジネスが待っているはずです。それを日本テレビとして独占するわけではなく、広く門戸を開いてやっていきます。そこでどうするかは、事業計画は、コンテンツを作ることも含めて考えていきます。

 VODとテレビ番組には、明確な補完関係がある。それはすでに、アメリカの例でも分かっているし、日本でも特にアニメでははっきりしてきている。

 そして、日本テレビにもドラマで成功例があり、そのことが、SVODへの「拒否感」を緩和し、ビジネス展開加速につながったようだ。

船越:日本テレビには一つの成功例があるんですよ。「ホタルノヒカリ」(筆者注:2007年・2010年にドラマ化)というドラマがありましたよね。その頃は「SVODとどう向き合うか」逡巡しているところもあり、なかなかコンテンツを出せなかったんですが、2012年6月に映画版が公開されることになったので、「では、1シリーズ・1クールの連続ドラマ版を、dビデオに出してみましょう」ということになったんです。映画版があるなら見たいと思う人は多いだろうし、当時は日テレオンデマンドもまだ小さくて、TVODとして大きな売上げが立っていなかった、ということもありました。

 色んな交渉をしたんですよ。それまでには。「ミニマム・ギャランティ(最低保証額)をいくらに設定するのか」とか。初月の返金の額を見た時、たまげましたね。「ゼロが2つ違うんじゃないですか?!」と思わず聞き返しました。交渉の段階でも、「これならミニマム・ギャランティの設定はいらないですよ。すぐにクリアーできますから」と言われたんですが、ちょっと信じられなかった。でも結果的には、3日くらいで一カ月分のミニマム・ギャランティをクリアーしていたんです。

 ドラマを(地上波などで)再放送するといっても、20話連続ではなかなかできません。一話ずつやっていくことになると、月曜から金曜まで1話ずつ、しかも夕方などの一般の視聴者さんからすると見づらい時間帯にならざるを得ません。毎日確実に見ていただけますか? というと、そうではないですよね。

 ところがdビデオに出した「ホタルノヒカリ」は、映画の公開直前に圧倒的な支持を得ました。「この手法はあるな」とはっきり思いましたね。その辺からヒントを得て、アニメやドラマの最終回の前に「全話一挙配信」といったことをどんどんやってみよう、ということになったんです。ユーザーにはその欲求がある、という確信があります。

 こういうやり方の場合、あまり「編成」を考えなくて済みます。明日の編成をすぐ考えて、「勢いあるからトップ画面に『ホタルノヒカリ』を持ってこよう!」とできるのは、とても有効です。地上波でドラマを再放送する場合には、あらゆる調整が必要になるんですよ。それこそ、タレント事務所の「ウラかぶり」(他局の裏番組で競合が起きないようにすること)の確認からなにから……。そういうことが必要なテレビとはまったく違うスピード感があって、有効だと思いますね。

「局のブランド」よりコンテンツ、ネットユーザーに寄り添って「闇鍋」的に

 日本テレビは、Huluを軸に本気でネット展開を拡大しようとしている。一方「テレビ局とネット」という関係では、ユーザーの間にアンビバレンツなものがあるのも事実。冒頭で「Hulu買収の反応は、賛否両論+否」と船越氏が笑ったのも、そうした状況を把握しているためでもある。だが船越氏は、かなり真剣にネットと向き合いながら「映像配信ビジネス」を進めているようだ。

船越:私自身はこれまで事業部として、「日テレオンデマンド」をやってきました。

 コンテンツ事業部はアニメ制作部でもあり、私自身はずっと「ネットユーザーと向き合って」ビジネスをやってきました。ウチの部にもそういう人間が非常に多いです。他局さんでは難しい先進的な試みもいくつかやってきました。アニメについては、最終回前に全話24時間配信……といったこともやっています。

 例えば「GJ部」というアニメでは、「24時間GJ部マラソン」なんてこともやっています。最終話までに見て最終話に備えましょう、的なことですね。

 今我々が作っているアニメは、関東ローカル・深夜帯のものです。一部ネットワーク局でもやっていますが、決して全国でやっているわけではない。ネット配信すると、「全国でやっていないことに不満があるのだな」ということがよく分かってきます。

 深夜アニメではありますが、ニコニコ動画上で「放送と同時に配信する」ということをやりました。

 正直局内でも最初は摩擦がありました。「配信を同時にをやるんだったら放送している意味があるのか」と。一時は「これはダメかもな……」と思ったくらいなんですが、そこはなんとか調整してやりました。今は理解を得て、普通に展開できています。

 ニコ動でアニメを流すと、盛り上がった時には色んな弾幕が出て、画面は隠れてしまいますよね(笑)でも、放送と同時に流すことで、彼らは、放送は放送で見つつ、弾幕は弾幕で見る、という「セカンドスクリーン的な楽しみ方」をしているんですよ。面白そうな時は弾幕を見て、普通のシーンは番組を見る、という感じで。

 そのためものの見事に、ニコ生上での再生数と、地上波の視聴率はほぼ連関しています。「今週はちょっと視聴率が悪かったね」という時には、ニコ生の再生数も少なくなっています。一緒に楽しむ、というやり方がネットユーザーにはあるんだな、と。ここには、一つの需要があります。

 今後色々なもので、こういうことが起きるのだと思うんです。あるものはネット先出しかも知れないし、あるコンテンツはそういうことはまったく意味がないかも知れない。短く切り出すことがいいコンテンツもあれば、ドラマのようにどっしりと腰を据えて寝る前に観たいものもあるでしょう。

「なにを」「どう出すか」ということについては、まだまだ考える余地が残っています。我々も、視聴者・ユーザーのニーズすべてにお答えできているとは到底思っていませんが、ネットユーザーがなにを欲しているのか、常に見ています。

 その過程では、日本テレビにとってチクリと痛い経験もあったようだ。

船越:2011年の12月、著作権侵害も含め、色々なことがあって出展していなかったコミケに、我々もようやく出て行きました。

 でも、我々は最初失敗したんですよ。「日本テレビ」という名前を前面に出して、ロゴを大々的にフィーチャーしてブースを作ったんですが、コミケに来る何十万人という人が、素通りしていました。これには、地上波に対する穿った見方もあったのかもしれません。

 彼らは「日本テレビがなにかしてくれる」ことに期待しているわけじゃないんです。「どんなコンテンツ」「どんなキャラクター」を我々に届けてくれるんですか? ということにしか興味がないんです。文化放送さんのやり方を見たりして、色々勉強させていただきましたが、「ああ、違うんだ。局がなにをするかっていうのは、誰も望んでいないのか。『どんなコンテンツ・どんなキャラクターを出してくるの?』 『どうやって楽しませてくれるの?』ということだけを望んでいる。局の看板を背負ってやったって意味がないんだ」とよく分かりました。今の若いネットユーザーはみんなそうなんだと思います。

 ですから「日本テレビがなにかする」のではなく、「ネットユーザーに寄り添ってやる」ことが重要なんだろうと思います。

 もちろん我々の信念として「これを届けたいんだ」ということを前面に立てる場面もあるとは思いますよ。しかし、ネットユーザーがなにを求めているかが重要です。

 社長もよく使う言葉に「視聴者ファースト」というものがあります。ここでは「ユーザーファースト」。ユーザーがなにを求めているか、から離れてはいけない。

 「テレビ局として、日本テレビとしてなにをやりたいか」は当然大事ですが、結局は我々のコーポレートメッセージである「見たい、が世界を変えていく。」の通り、みなさんが「なにを見たいのか」「なにをどう使いたいと思っているのか」がなにより大切。それを考えながら、今回のこと(Huluの買収)を進めていきます。

 ニコ動での知見は、そうした「ネットによりそうやり方」を諮るうえでとても重要なもの、と船越氏は言う。

船越:ドワンゴさんとは毎週のように話していますが、ニコ動は、良くも悪くもユーザーさんとの関係が近い。これはHuluの距離感ともまったく違います。ユーザーさんから運営へのご批判も非常に厳しいものがありますが、それだけ「自分達が作っているんだ」という意識が強い場です。あそこでのコメントの書かれ方・視聴動向というのは、今のネットの社会でなにが起きていてなにが求められているかを知るには、とても役に立っているというか、貴重なものです。

 ドワンゴの社員の皆さんは、もちろんそうしたことを常に意識しておられるので、お話していると非常に興味深い話がいっぱい出てきますね。「ドラマを単に流すだけではダメですよ」ってハッキリ言われましたから。あの「家政婦のミタ」ですら、「うーん、流すだけだったらどうですかね……?」って言われました。そういうところなんです。

 もう一つ、「コンテンツとネットの関係」という意味で、船越氏は「多少不適切な部分があるかも知れませんが……」と前置きしつつも、非常に興味深い指摘を行なった。

船越:YouTubeが2006年にドーンと伸びて来た時、結局そこで人気のコンテンツはテレビから違法にアップロードされたものでした。「やっぱりそうじゃないか」ということで、怒りをもってYouTubeさんと交渉した部分はありますが、それはともかくとして、一方で非常に大きなヒントになったのは、YouTubeへのコンテンツの上げられ方が、地上波の番組構成とは違う形だったことです。要は、面白いところだけをつまんで出す、という形です。

 現場では「権利侵害だ、ふざけるな」とは言っていましたけれど、その「出し方」「出され方」からは、学ぶ部分が多かった。MADビデオの作られ方にしても、確かに元になったのはテレビのコンテンツなんだけれど、出し方は全く違っていて、確かに面白いんです。全く別の作品になっちゃうこともあるわけですが、そこで「なるほど」と思う部分もあった。

 そういうまったく違った切り口の部分を、「正規に作っていく」ということも踏まえて考えていかなくてはなりません。MADにしろなんにしろ、素人の方が作ってあれだけ面白いものができるわけです。そもそもアニメ制作会社には、そうした能力・素養を持った人がたくさんいます。その人達は間違いなくMADを作れるし、中には個人的に作って出していた人がいたかも知れない。そういったことを考えると、そうした「ネット的コンテンツ」を作る能力を持った人々はプロにもいっぱいいるはずなんです。

 深夜に「てさぐれ!部活もの」というアニメをやっているのですが、これがニコ動ではとても人気があります。実は、ネット上では「神」と呼ばれる人を監督としてお呼びして作っていただいています(筆者注:監督の石ダテコー太郎氏のこと。またこの作品の制作には、いわゆるMikuMikuDance動画の職人が多く関わっている)。一昔前なら地上波に流れるコンテンツではなかったかもしれませんが、今は流れている。あれは少なくとも、ニコ動上では非常にウケている。

 我々には、いままでの地上波にはそぐわなかったようなコンテンツを作る力も出てきています。「日本テレビにある」という意味ではなく、コンテンツメーカーにはその力がある、ということです。

 ですから、ネットと地上波のギャップは、必ず埋まると思っています。ネットの距離感と「テレビ」的な価値観。そのバランスがどうかということは、今はまったく分かりません。だから「闇鍋」なんです。ひょっともすると「闇鍋のまま」がいいのかも知れません。

 なにが見られるのかを確認しながらやっていきます。そうしないと、ある程度のお客様を獲得するのは難しいんじゃないかな……と思っています。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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