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PS4特化で没入感を生む。SCEの新HMD「Project Morpheus」開発機材を体験

 3月19日、アメリカ・サンフランシスコで開かれたゲームデベロッパーズカンファレンス(GDC)にて、SCEは、ゲームに特化したヘッドマウントディスプレイ(HMD)の商品化計画「Project Morpheus」を発表した。発売時期はまだ公開されておらず、発表された機器も試作機だが、没入性重視のバーチャルリアリティ(VR)が注目されていること、HMDを長く手がけてきたソニーが開発することなどから、GDCでも大きな話題となった。

「Project Morpheus」の開発途上機材。GDCで発表されたものと同じ個体だ。正面には位置認識用に4つのLEDが組み込まれている

 Project Morpheusは開発途上の製品であり、現在も、製品化の予定や製品版の仕様などは公開されていない。しかし今回、開発担当者に話を聞きながら、現在の試作モデルを体験する機会を得た。Project Morpheusの使い勝手と狙うところはどこなのだろうか? 筆者は個人的に、昨今のVR対応HMDブームの先駆けとなった「Oculus Rift」の開発キット(いわゆるDK1)も持っている。Oculus Riftの最新開発キット(DK2)も体験済みだ。そうした機器との比較も含め、色々と確かめてみた。

視界の広さで「没入感」を演出

 Project Morpheusは、PlayStation 4(PS4)と組み合わせることを前提としたHMDである。本体には前方にLEDが4つ、後方に2つつけられていて、PS4のカメラ「PlayStation Camera」を使い、位置認識などに利用する。映像はHDMIから入力するが、その他コントロール用と電源供給用にUSBも併用する。コントロールボックスが用意されていて、ここにHDMIとUSBを入力する形だ。

今回体験した機材。ディスプレイの左隣にあるのがコントロールボックス。ディスプレイ上部の「PlayStation Camera」で、位置と向いている方向の認識を行なう

 現状、表示デバイスとして使われているのは5型の液晶パネル。1,920×1,080ドットのものを中央で分割、片目あたり960×1,080ドットの映像を実現する。

 この辺は、HMDとしてみればさほど珍しいものではない。画質だけでいえば、ソニーがAV向けに発売している「HMZ-T3」の方がいいだろう。

 しかしそもそも、HMZ-T3とMorpheusでは狙いがかなり異なる。Morpheusはゲーム向けの「没入感」を重視した設計になっており、得られる映像の体験がずいぶん違うのが印象的だ。

 まずはデモとして用意されたもののうち、CCP Games開発による「EVE Valkylie」を試してみた。すぐにわかるのは、視界のほとんどが映像で覆われるので、HMZ-T3に比べ没入感が高い、ということだ。「EVE Valkylie」はいわゆる3Dシューティング・ゲームで、顔を向けた方向に自機が飛び、コントローラーのトリガーを引けば敵が攻撃できる……というタイプのものだが、視界全体が覆われる感覚になるので、迫力は非常に高い。スペック上、Morpheusの視野角は90度。HMZ-T3の視野角は45度だ。HMZ-T3などの一般的なHMDは、「ちょっと先に解像度の高い画面が浮いている」ようなイメージだが、Morpheusは「目の前に全体に映像が貼り付いている」ような印象を受ける。

 もちろん秘密はある。HMZ-T3などが、ストレートに画像を表示する光学系を採用しているのに対し、Morpheusは視野角を重視する代わりに、映像の周辺部がゆがみやすいレンズを採用しているからだ。レンズの接写は許されなかったものの、次の写真をみていただければ、なんとなくレンズの形状もおわかりいただけるのではないだろうか。映像がゆがむ分は、元々画像の周辺部をゆがませて生成し、レンズを通して表示した時に正しく感じるようにするわけだ。

Morpheus動作中。左の本体の「目の部分」に注目。レンズは少々特殊な形状で、周辺部がゆがむ代わりに視野角が広くなるようになっている。

 こうした没入感重視のやり方は、Oculus Riftが採用したことで有名になった。費用対効果を考えると適切なものに思える。Morpheusもそれに倣った……と思われそうだが、開発者曰く「Oculusを見て変えたのではなく、開発初期から、没入感を高める手法として研究をすすめていたもの」だという。

 写真は、GDCでProject Morpheusが発表になった時のプレゼンテーションから抜粋したものだ。2012年に開発されていた初期の機材だというが、「この機材ではすでに没入感重視で湾曲系のレンズが使われていた」と開発者は話す。

GDCでのプレゼン。2012年の開発機材では、すでに湾曲光学系の採用が決定していたという。

 こうしたやり方のデメリットは、補正によって周辺部の解像感が落ちることだ。よく見れば、Morpheusでも解像感は落ちていた。しかし、人間の視野は中心の解像度が高く、周辺部が低いという性質がある。没入感を感じ始めると、意外なほど「周辺部の眠さ」は感じにくくなる。ゲームやVRのようなニーズでは、そうした傾向の方がプラスなのだろう。

 他方で、映画を見る、という用途を考えると、話は別になる。周辺部までしっかり美しく見えることが重要だ。Morpheusでは映画などの再生についても「前向きに検討」(開発者)しているというが、あくまで目的はゲーム。没入感重視であるため、周辺部の解像感が気になる、という結果になる可能性は高い。

 Morpheusは開発中の製品なので、表示画質はまだ変わる可能性が高い。Oculus Rift DK1に比べると解像度が高く上質だが、DK2とは解像度も同じで、視界についてはDK2の方が広い。利用しているディスプレイデバイスの関係から、DK2の方が若干映像のキレが良かった印象だ。だがこの点についてはSCE側も認識しており、「映像の残像感については改善項目として検討している」(開発者)という。

 なお、現状でのフィット感については、筆者が体験したどのHMDより、Morpheusが良かった、という印象を持った。もう少し気軽にセットできるようになって欲しいが、セットはHMZ-T3に比べても簡単で安定度が高く、非常に満足度が高かった。

HMDとヘッドホンを同時にセット。非常にしっかり止まって、ずれることもなかった。操作にはPlayStation Moveも併用できる

「60フレーム維持」で酔わないVRを狙う

 二つ目のデモは、SCE・LONDON Studioが開発している「The Deep」だ。これは、海中探検をモチーフとしたもので、向きや位置を重視したコンテンツになる。自分が潜水夫となり、深海へとひたすら潜っていく……というモチーフのもので、視界は全部、自分が見た「深海の風景」になる。上を向けば海面が、下を見れば自分の足と潜るためのゴンドラが見える。これぞまさにVR、というコンテンツだ。

 ここで告白しておくが、筆者はVR系コンテンツが苦手だ。けっこう酔いやすい体質で、FPSタイプのゲームですら、モノによっては酔ってしまって長時間できない。取材でVR系コンテンツを体験すると、やはり酔うことが多い。だから、Oculus Rift DK1を持っているものの、あまり使う機会はなかった。Morpheusの体験についても、ちょっと警戒していた……というのが本音だ。

 だが意外なことに、今回のMorpheusの体験取材ではほとんど酔わなかった。「The Deep」で、首をグルグル動かして色んな方向を見ても、酔うことはなかった。

「The Deep」体験中。ちょっと上を見ているのは、上の方にやってきた魚を見ていたからだ

 これはなぜなのか? 一つは、PlayStation CamerとMorpheus内蔵のジャイロセンサーを組み合わせた位置把握の精度が高く、自分が脳内で感じている位置と視界のずれが小さい、ということが考えられる。

「Project Morpheus」の開発途上機材。背面にも2つ、位置認識用LEDがある

 別の要素として開発者が指摘したのが「フレームレート」だ。

 今回のデモでは、縦1,080ドット・毎秒60フレームの映像が維持されていた。これは「酔い」を防ぐためにとても重要なことであるようだ。

「30フレームになると、1フレームの間は33ミリセカンド。そうすると、操作と表示の間には33ミリセカンドの遅延が発生します。これがパッドであれば、自然に遅延を予測して操作するので大きな問題にならないのですが、VRの場合、その遅延によるずれが、酔いにつながるのです」(開発者)

 動作が操作につながるVRの場合、フレームレートの高さが自然な使用感に直結する、ということだ。

 これは筆者にも頷ける。Oculus Rift DK1で酔う、と書いたが、それは筆者の自宅でテストした時が多い。Oculus VR社が用意したデモでは、そこまでひどい酔いを感じることはなかった。理由はおそらく、映像の生成に使っているPCの性能差や、コンテンツの性質によるものだ。HMDとしての性能がより高くなったOculus Rift DK2はもちろんより酔いにくいが、それでも、映像生成はPC側の性能に依存するため、高性能なPCであればあるほど酔いにくくなるだろう。

 一見あたりまえのことにも思えるが、ここがOculus RiftとMorpheusの本質的な違いである。

 MorpheusはPS4に特化した作りになっていて、コンテンツももちろん、PS4に合わせて作る。特定の性能の機器に合わせてチューニングできるため、フレームレートの維持が簡単である。また、方向や位置の把握のチューニングも容易だ。「酔いを防止して最適な体験を提供する」という意味では有利である。ただし、PS4+MorpheusのデベロッパーとしてSCEに登録しないと、開発が難しい。

 他方、Oculus Riftのような汎用機器では、映像を表示する機器の側を特定しづらいので、フレームレートを安定させづらい。だがその分、コンテンツ開発の自由度は高く、試行錯誤が容易だ。

 この辺は、ゲーム専用機とPC、ゲーム専用機とスマートフォンなどの関係そのものであり、「Morpheusはゲーム専用機と同じメリット・デメリットを持つ」と考えて差し支えないだろう。

ゲーム機的体験から「ソーシャルスクリーン」にこだわり

 もう一つ、ゲーム機的な特性として重視されているのが、「ソーシャルスクリーン」と呼ばれる機能だ。コントロールボックスにはHDMI出力があり、Morpheusへの映像出力の他、テレビへの映像出力を担当する。

「Morpheusをつけている人だけでなく、一緒に楽しむ人にも映像が見れるように、ソーシャルスクリーンの機能は重視している」と開発者は説明する。Oculus Riftは本質的に外部ディスプレイなので、ソーシャルスクリーンのような「同時表示」をするには色々と工夫が必要だが、Morpheusはその辺、かなりシンプルになっている。

 Morpheusに出力された映像は、左右分割で、さらにそれぞれ周辺をゆがませた形でレンダリングされている。コントロールボックスからソーシャルスクリーンとして表示する場合には、それを処理し、片目分+ゆがみを補正した形でHDMIから出力する。だから、通常の1画面分のゲーム表示に比べれば眠いものになる。

 コントロールボックスには別の使い道も検討されている。元々VR非対応で作られたゲームの映像を、Morpheus向けの映像に変換して表示するという、通常とは逆のアプローチだ。ただし「VRに特化したコンテンツを作っていただくことがベスト」(開発者)としており、この機能はそう重視していないようだ。また、PS4の側で映像を変換して出力する機能を持つことも想定されており、現状では、最終的な製品でどういう使い方をするかは、まだ検討中であるようだ。

 こういった点も含め、Morpheusは良くも悪くも「ゲーム専用機のデバイス」であることが特徴だ。特化の利点はコンテンツに直結しており、評価は「いかに良いコンテンツを同時に、たくさん用意できるのか」にかかってきそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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