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PS4成功の理由と「PS Now」「Morpheus」に秘められた未来戦略

SCE アンドリュー・ハウス社長単独インタビュー

 E3では毎年お届けしている、ソニー・コンピュータエンタテインメントのトップインタビューをお届けする。ご回答いただいたのはもちろん、SCE社長のアンドリュー・ハウス氏だ。

SCE アンドリュー・ハウス社長

 PlayStation 4(PS4)はアメリカ市場で大きな成功を収めている。他方、日本市場ではまだブレイクしきれずにいる。SCEは、アメリカで成功した理由をどう分析しているのだろうか?

 また、ゲームソフトラッシュの影に隠れ気味ではあるが、SCEは、未来戦略の準備も進めている。ストリーミングゲームの「PlayStation Now」(PS Now)は7月末よりオープンベータテストに移行し、2015年発売予定のヘッドマウント・ディスプレイ「Project Morpheus」は、このE3ではじめて一般に公開された。SCEはこれからどんな戦略を描くのか。今後について聞いた。

アメリカで増える「コアゲーマー」、PS4で「PS1の理想」を現実に

−PS4のローンチは大成功といえると思います。なぜここまでヒットしたのでしょうか? 「ヒットを確信している」というお話はいただいていましたが、年度末で700万台という数字は、SCEの予想も超えるものでしょう。今年のアメリカ市場は、明らかに家庭用ゲーム機市場が復権しています。ヒットした理由はなんだと分析していますか?

ハウス社長(以下敬称略):いくつかの理由があります。

 まず、市場自体が、欧米では、前世代(PS3・Xbox 360世代)からかなり長い間、新しいハードウェアを待ってくれていた、ということがあります。また、我々が目指そうとしていた新しいユーザーインターフェイスのうち、「SHARE」機能やソーシャルメディア連携に関わる部分が、幸いなことに、我々が思った以上に、ユーザーのみなさんに受け入れられたようです。

 前の世代に比べると、我々の戦略は異なっています。できるだけ早い段階で、開発のみなさまとハード開発計画などをシェアし、ゲームが作りやすいようなアーキテクチャを選択しました。結果、非常にいいソフトが、かなり早い段階で揃ってきたというのが、ヒットの要因だと考えています。

−確かにソフトのラインナップは、先日のプレスカンファレンスを見る限り、PS3の世代と比べても充実していると思います。同様に、PS3世代からの移行速度が速い、とも感じます。そうした部分は、SCEの戦略として意識している部分なのでしょうか。プレスカンファレンスでも、PS3のタイトルの話はなかった。PS2からPS3、PSPからVitaの時とは違います。

ハウス:その通りですね。プレスカンファレンスについては、正直言うと、PS4とVita、PlayStation TVなど盛りだくさんで展開したのですが、それでも大変に長いプレスカンファレンスで、しかも予定時間より伸びてしまって申し訳ない……ということです。なんとか今年こそ1時間半に収めよう、と内部では話していたのですが(笑)

 PS3からの移行については、正直、地域による違いがかなり見えてきました。

 移行が特に早いのは、アメリカ市場です。多少残念ながら、PS3の売り上げは前年に比べ売り上げが大幅に落ちてしまっているのですが。

 ヨーロッパについては、SCEの定義ではかなりバラエティに富んだ国々が含まれるため、まだまだPS3もかなり売れています。日本も同じ状況です。ヨーロッパを含め、新興国では、価格設定も含め、まだまだPS3が広がる可能性はあると思っています。

 日本・ヨーロッパと比べると、アメリカの移行はとにかく早い。アメリカで急速に移行が進んでいる原因はいくつか考えられると思っているのです。

 まず、アメリカ市場向けには、ゲーム以外の機能が非常にしっかりしていることです。NetflixやAmazon Videoといったビデオサービスが揃っています。ゲーム以外の機能もよく使われています。アメリカはこうしたサービスが進んでいる市場ですので、PS4はとても受け入れられやすい、と思っています。そうした部分で確証となるデータがあるわけではないので、あくまで私の感想として、ですが。

−アメリカで好まれるゲームのテイストと、日本など別の市場で好まれるゲームのテイストの違いについては、どう考えていますか? ローカライズや地域に合わせたコンテンツの準備が必須ですが。

 日本の発売が2月にずれたのもソフトの準備が理由だったはずです。しかし、日本向けのゲームソフトの数は、まだ潤沢とはいえない状況です。

ハウス:日本での発売を2月に伸ばしたのは、若干、日本のゲーム開発者の皆さんの動きが遅れてしまったからです。しかし、もう追いついてきたと感じているので、日本発のPS4タイトルのヒットはこれから、と感じています。

 ゲームに対するセンスの違いは、私はそれほど感じません。しかし、我々のマーケティングチームから聞こえてくるのは、アメリカにおいて、我々の定義する「コアゲーマー」のターゲットとなる消費者が非常に増えてきている、ということです。ヨーロッパは逆にそうでもない。したがって、アメリカでは「濃い」センスのゲームがウケる人々の割合が多くなっている……ということかと思います。

 とはいいつつ、ヨーロッパは違う状況です。

 実は、ヨーロッパでのPS4購入者のデータを見ると、最初の数カ月でPS4を買った人達だけを見ても、38%くらいが、PS4を購入して、はじめてPlayStation Network(PSN)のIDを持つ人達なんです。アメリカでもPSNの新規ユーザーは多い。ただそれは、Xbox 360からのスイッチなのだな……ということが分かるのですが。背景には、業界全体としては残念なこととして、任天堂さんの勢いが弱い、ということも影響しているかも知れません。

 要は、ヨーロッパのユーザーは、思ったよりもカジュアルなユーザーがPS4を買ってくれている、ということなのです。

 プレスカンファレンスの中では、割合的には確かに、「濃いめ」のゲームが多かったと思います。

 しかしネットなどを見ていると、「No Man's Sky」のような、ぜんぜん違うセンスの作品も人気だったようです。彼らはインディーのデベロッパーなんですが……。ちなみに、あのタイトルって、開発チームが何人かご存じですか? 実は4人から6人、だそうなんですよ。粒子から地形、動物、惑星まですべてがプロシージャル(注:手続き的。ゲームやCGでは、計算による自動生成のことを指す)で作られていて、そんなに小さなチームで非常に印象的な作品を作っています。私もバックステージで見ていて、感動しました。

SCEのプレスカンファレンスでも紹介された「No Man's Sky」。惑星やその環境、そこに住む生物まですべてが計算生成されたもの。その世界を冒険するゲームになる。開発は、メインメンバーが4人しかいない「HelloGames」で行なわれている

ハウス:PlayStationのプラットフォームとしての戦略は、「できるだけ幅広い、バラエティに富んだゲームを提供する」ということです。幅広いゲームを作っていただくことは、我々の目的に適います。非常に大きいチームで開発しているパブリシャーの作品も多く紹介していますが、インディー系であるとかも重要です。

 私がいま感じているのは、「これは、最初のPlayStationが出た時の精神に戻ったんだな」ということです。今はデジタル配信が定着し、PSNのアクティブユーザーも増えています。毎月5,200万以上のユーザーが、PSNをアクティブに使っています。音楽業界でいうところのA&R(注:Artist and Repertoire、アーティストの発掘と育成、プロデュースなどの職務をまとめたもののこと)を担当し、ゲームに期待しているアクティブなユーザーに、ゲームタイトルを紹介するのが、我々の役目になります。

 PS4世代ですと、デジタル配信も定着し、セルフパブリッシングも可能になっていますから、ゲーム業界のためには健全な歴史かと思います。

 歴史を振り返ってみると、久夛良木さんがSCEを作った時、よく僕と話していたのは、「光ディスクがあるからこそ、ゲームのディストリビューションが変わることによって、新しいゲームとその開発会社が世に出ることが出来るし、新しいジャンルも作れる」ということです。久夛良木さんはそれを確信していました。

 今度はデジタル配信で、まったく同じような革命をおこすことができるでしょう。そういう意味では、今のPlayStationはとても元気である、と私は思っています。

−去年のプレスカンファレンスと違ったのは、インディー系タイトルが「インディーゾーン」のような時間でまとめて発表されたのではなく、「インディである」ことを強調せず、大手タイトルと同じように発表されていたことです。

ハウス:よく気付いていただけました!(笑) 我々としても、「インディーゾーン」的な扱いをしていくことからは、もう卒業なんではないか、と思っているんです。開発規模ではなく、クリエイターのタレントであるとかゲーム自体と紹介する方向に行きたい。それが目的なんですから。

ゲーマー層拡大のために「ストリーミング」を活用

−PlayStation Now(PS Now)が7月末にオープンベータを迎えます。現場での使われ方や、これからのビジネスモデルの組み立て方について教えてください。特に、ストリーミングで難しいのはビジネスモデルの組み立て方だと思うのですが。

ハウス:ビジネスモデル構築の検討は、まさしく、オープンベータの目的の一つです。

 ネットワークのインフラはもう整ってきました。プライベートベータの目的は、どちらかと言えば技術やユーザー体験の面でのテストです。ここはかなりいい体験が出来ている、という結果が出ています。

 次のフェーズはオープンベータ、私は時に「コマーシャルベータ」と呼んでいます。クローズドベータは技術検証ですから、ゲームをタダで楽しむことが出来ました。しかしオープンベータでは、価格設定などをテストします。特に、レンタルがいいのか買い切りがいいのか、都度課金なのか月額制なのか、ユーザーの反応を見ながら、確実に進めていくことを目的としています。

E3会場でデモされていたPS Now。オープンベータテストはPS4版が7月からスタートし、PS3・Vita・テレビへと、年内に順次広げるという

−ということは、オープンべータの中で、価格設定やレンタル・買い切りの切り換えは行う、ということですね?

ハウス:そうです。お客様には透明性をもって、「ベータですから条件が変わる可能性があります」ということをご理解いただいた上で進めていきます。価格の点は、ユーザーとだけでなく、PS Nowにご参加いただいているパブリシャーの方々とも、話し合いをさせていただきます。ビジネスモデルについては、ユーザーもパブリシャーも、みんなが満足できる形を考えたいです。

 ゲームにとっても、はじめてこれだけ大きな規模で、こうしたサービスを展開することになるので、慎重にビジネスモデルを検討していきたいです。

−これは私の印象ですが……。ソニーは、2000年以降の「ダウンロード時代」についてはフロントランナーではなく、遅れた存在でした。しかし、2010年以降の「ストリーミング時代」については、なんとか最前列で戦おうとしているのだろう、と感じています。それはサービスでも、ハードウェアの面でもです。その中にPSN・SENとPS4がある、という認識です。

ハウス:それは正しいご理解ですね。私は、できるだけトレンドに引っ張られるのではなく、我々が最先端にいって、新しいことを巻き起こせるように……と考えています。

「なぜ北米から始めるのですか?」とも聞かれますが、それも同じ観点によるものです。我々が読んでいる限りでは、どんなコンテンツにおいても、ストリーミングでの配信はアメリカの方が進んでいます。それに合わせて、アメリカでまず導入する、ということです。

 ストリーミング時代が来ている予兆があります。おそらく西田さんもご存じの数字だとは思うのですが……。2013年、アメリカで、デジタル・ダウンロードミュージックの販売量が、はじめて減少に転じたんです。若干、6%ではありますが。一方、ストリーミングは30%以上成長している。

 エンターテインメントビジネス全体を見ると、だいたい、音楽で最初のトレンドが起きて、次にビデオ。最後がゲームですよね。技術的なチャレンジが大きいものがインタラクティブ、ゲームですからね。ストリーミングの便利な部分の便利さが受け入れられるのではないでしょうか。我々のユーザー調査では、英語でいう「instant gratification」、すぐに得られる満足が、ユーザーにとって大事なところです。

 ストリーミングゲームが、ゲーム業界全体の中でどれだけの地位を占められるか、ということは、これからしっかりと検証していくことだと思いますが。すぐプレイできるので、私は、カジュアルユーザーが受け入れていくのでは、と考えています。特に、コンソール以外であれば、なおそうでしょう。

 我々の目的は、業界全体のパイを大きくすることです。なるべく新たなユーザーを、いままでとは違う配信のやり方でプレイヤーになっていただくのが、ベストかと思います。

−そう考えると、PS Nowが単純に「PS4でPS3のバックワード・コンパチビリティのために使われる」と理解するのは不完全である、ということですね。テレビも含めた、カジュアルなデバイスでの利用拡大が目的である、と。

ハウス:はい、ユーザー層拡大が、まず第一の目的です。

 もう一つ、ゲーム業界の戦略としてできていないのは、映画業界のように、「昔のいいコンテンツ」を長い間供給し、人々がいい価格設定で楽しむ、ということができていないということです。一番いい例は、ディズニーの作品ですね。ディズニーのクラシック作品は、いつでも楽しめますよね。

 そうした環境を、ゲームでも実現したいんです。ある意味、PlayStationアーカイブ(注:PS1やPS2タイトルのダウンロード供給のこと)はその一つですね。16ビット時代のゲームでも、ゲーム性とかクリエイターのアイデアはいまだ光っていますから、そうしたものを、新たな世代・新たなオーディエンスに紹介するのは、ゲーム業界としてポジティブなことだと思っています。

「Project Morpheus」は新しい体験をめざし慎重に開発

−現在、Project Morpheusを進めていらっしゃいます。ゲーム機開発に続く意欲的な試みですが、その狙いはなんですか?

Project Morpheus

ハウス:誤解ないように説明しておきますが、投資額としてはけっしてチャレンジではないです。抑えています。新しいゲームプラットフォームを作るような規模のものではありません。しかし、テクノロジーとしては十分にチャレンジングだと考えています。

 Project Morpheusを始めた理由ですが……、主に2つあります。

 歴史から言えば、GDCで吉田さん(SCE・WWSプレジデントの吉田修平氏)が紹介したように、何年も前からこのジャンルにパッションを持っている技術者達は、社内にけっこういたんですよ。なぜいまかといえば、ようやく、スクリーン技術面でも、ゲーム開発の部分でも、グラフィックプロセスの部分でも、技術進化が揃ってきたところなんです。今度こそチャレンジできる、と決断した、ということです。

 もう一つは、私自身が「よし、やろう!」と確信できた理由でもあります。ご存じの通り、Oculusさんが先に開発キットという形で配布したわけですが、その段階で、よく聞こえてきたのが、いろんな開発チームが興味を示して、場合によってはマネタイズを考えず、趣味のように自分の時間を使って取り組んでいる、ということです。これだけゲーム開発者が興味を示すのであれば、ムーブメントになり得るのではないか、と決断できた、ということです。

 E3でも展示はしていますが、完成品ではありませんし、まだまだ発売のタイミングでもありません。アナウンスとしては「2015年」としています。

 なぜこれだけ早い段階で開示しているかというと、PS4から学んだ部分が多いです。冒頭でご説明したように、開発の早い段階、デザインフェーズの段階で、ゲーム開発者のみなさんと「新しい体験を作っていきましょうよ」とお声がけをした、ということです。隠れてこっそり作ることもできますが、開示して参加を働きかけるのが、健全なやり方だと思います。

 驚いたことに、ゲーム会社だけでなく、大学やNASAのような、それ以外の業界からも興味を示していただいています。

 私は、Project Morpheusを大きな目でみていますが、おそらくは2段階に分かれます。第一段階は、きちんと「まったく新しく感じるゲームの体験」を作ること。そしてその上に、ゲーム以外の分野やバーチャル観光のような世界があるでしょう。360度視界を持つカメラで映像を撮影して、それで面白いことをやるとか。それは次の段階ですね。色々がんばります。

−それは2015年のいつの段階ですか?

ハウス:まだ言えないです(笑) がんばって開発していきます!

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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