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nasne開発陣に聞く「リモート視聴」対応とVer.2.50の狙い

ついに宅外からのテレビ視聴に対応! FLACも

nasne

 前々から予告されていた、nasneの「リモート視聴」対応が発表された。アップデート日は9月25日。PlayStation Vita向けの「torne PlayStation Vita」での対応はもちろん、Android・iOSなどにも対応する。

 では、その使い勝手はどのようなものになっているのだろうか? そして、どのような技術で実現しているのだろうか? 本連載ではおなじみとなった、nanse開発コアメンバーへのインタビューをお届けする。

 今回ご登場いただいたのは、SCE 戦略・商品企画部 担当部長 同1課課長の渋谷清人氏、研究開発本部2部 担当部長 同3課課長の石塚健作氏、研究開発本部 2部 4課の大橋良徳氏の3名だ。

研究開発本部2部 担当部長 同3課課長の石塚健作氏(左)と、研究開発本部2部 4課の大橋良徳氏(中央)、戦略・商品企画部 担当部長 同1課課長の渋谷清人氏(右)

9月25日にアップデート、Vita、Android、iOSで可能に

 リモート視聴とは、自宅のテレビ/レコーダなどの受信番組や録画された放送番組を、外出先のモバイル端末から専用アプリを使って視聴可能にする仕組み。2月に本連載でも紹介しているが、次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)が主導したテレビの利便性向上のための規格で、一度家庭内でモバイル機器とテレビ/レコーダを紐付け(ペアリング)しておけば、外出先から家庭内のテレビ/レコーダにアクセスして、放送のリアルタイム視聴や録画番組視聴が可能になるというものだ。

 まず、nasneのリモート視聴がどういうものなのか、整理しておこう。

 nasneはSCEが販売しているレコーダー兼ネットワークストレージ。PS4やPS3、Vitaでは専用ソフト「torne」を使ってテレビ視聴が行える。DLNA+DTCP-IPという一般的な規格を使っているため、AndroidやiOS、PC上でのテレビ視聴にも使える。ソニー製のアプリとしてはスマートデバイス向けの「TV SideView」と、PC向けの「PC TV with nasne」(以前はVAIO専用のバンドルソフト「VAIO TV with nasne」だったが、7月より広く販売が始まった)があり、それらでの視聴が可能だ。

 今回のリモート視聴対応は、nasneとそれらアプリの連携で実現されるわけだが、リモート視聴対応の軸はあくまで「nasne」という製品だ。宅外から家庭内のネットワークに入り、nasne内の映像が視聴できるようになる。ハードウエアは現行製品と同じままで、nasneのシステムソフトウエアのバージョンアップでの対応となる。記事が公開される9月1日現在のバージョンは「2.11」だが、9月25日に「バージョン2.50」の公開が予定されており、それによってリモート視聴が可能になる。

 リモート視聴にはSCE/ソニー側が用意するアプリを使う。Vitaでは「torne PlayStation Vita」を、iOSとAndroidではソニーレコーダ用の「TV SideView」を使う。

torne PlayStation Vita
nasne ACCESSで放送中番組を視聴

 さらにAndroidでは、これまでプライベートコンテンツへのアクセスにだけ対応していたSCE製アプリである「nasne ACCESS」が、テレビの視聴にも対応する。すなわち、Androidではnasneでリモート視聴する方法が2つあるわけだ。

 家庭内視聴では、ソニー以外のアプリも使えたが、リモート視聴では利用できない。また現状、PC向けにはリモート視聴環境が用意されておらず、「PC TV with nasne」も未対応だ。詳しくは表を参照していただきたい。


対応環境 家庭内(LAN)
視聴
リモート(宅外)
視聴
パーソナル
コンテンツ視聴
torne PS3/PS4 PS3/PS4 × ×
torne PlayStation Vita PS Vita ×
nasne ACCESS Android
TV SideView Android、iOS
PC TV with nasne Windows × ×
他社製DLNAクライアント 各種 ×

 と、言葉ですべて説明するとなにやら複雑そうに見える。しかし実際にはシンプルだ。「各プラットフォームでソニー製のアプリを使えば、宅内でも宅外でもnasneでテレビと録画番組が観られる」と考えればいい。それぞれのアプリは、nasneのシステムソフトウエアがアップデートする9月25日に合わせてアップデートされ、組み合わせて利用することになる。torneとnasne ACCESSは9月25日に、TV SideViewは9月25日以降にアップデート予定となっている。

 基本的な仕様はNexTV-Fの仕様に準拠しており、リモート視聴のため、親機と子機は、あらかじめ宅内でペアリングを行なっておく必要がある(外出先からのペアリングはできない)ほか、ペアリングの有効期間は最長で3カ月。同時にペアリングを有効化できる子機の台数は6台までで、同時にリモート視聴できる子機は1台までとなる。

接続は「独自方式」、ローカルであることを意識させない操作性に拘り

 ソニー製アプリに対応が限定されている理由は、nasneからのリモート視聴が、他社で使われているDTCP+でなく、独自ソリューションによって実現されているため。nasne専用であるtorneとnasne ACCESSはnasne専用方式のみに、ソニー製レコーダにも対応するTV SideViewはnasne専用方式とDTCP+の両方に対応することになる。

 リモート視聴を実現するための運用ルールである、次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)の「デジタル放送受信機におけるリモート視聴要件 Ver1.0」では、DTCP+以外の技術によるリモート視聴も認めている。DTCP+を使ってもいいが、それ以外であっても「ルールに準拠し、メーカー側が責任を持つ」限り、どのような方法でもかまわない。

 では、なぜ独自の手法を使ったのだろうか? 答えは「快適さの実現」にある。

石塚氏

石塚氏(以下敬称略):以前の取材でもお伝えしたと思うのですが、どうせやるんだったら、快適でないといけません。「自分で言ってハードルをあげたな」(笑)とも思うんですが、正直な話をすれば、自分でもそのくらいでないと使わないだろうな、と思ったので、できる限り家の中と変わらないくらいの快適さを実現できるよう、チューニングしました。さすがにビジュアルシーンサーチの表示にはちょっと時間がかかりますが、それ以外の操作では、宅内と宅外の差はあまり感じないはずです。

 そういいながら石塚氏は、試作バージョンのソフトを使い、実際に目の前でリモート視聴を行なってみせた。Wi-Fiでスマホをテザリングしての視聴だったが、正直、拍子抜けするほど「いままで通り」の操作だ。画面右上に、今がリモート視聴であることを示すため「AnyTimeAccess」(エニイタイムアクセス)のマークが出るが、違いはそのくらいである。もちろん、外部の回線を経由している以上、反応速度はまったく同じ、とはいかない。だが、回線事情さえ安定していれば、番組の切り換えや操作も実にスムーズ。リモートアクセスにつきものの「水の中で無理矢理動くような重さ」とは違う。筆者の主観でいえば、「汎用のクライアントを使ってLAN内で、タブレットなどからnasneを使った時」よりは快適だ、と感じた。

torne PlayStation Vitaでリモート視聴時には、右上に「AnyTimeAccess」(エニイタイムアクセス)を示すマークが表示される
エニイタイムアクセスアクセス設定有効
渋谷氏

渋谷:独自の実装にするかどうかは、正直色々な議論がありました。しかし、快適な操作性を実現するということや、コスト的なものも含めて考えた上で、独自の方法で実現することにしたんです。結果的に、TV SideViewについては、DTCP+とnasneの方式の両方を実装してもらうことになりました。

 実は、今回テストに使ったnasneは、都内でなく鹿児島に置いてあるものだった。そのため、torne内から見える番組表も、リアルタイムで表示される番組も、もちろん鹿児島のものだった。リモート視聴の狙いはあくまで「自分が自宅にいない時でもテレビを楽しむ」ことであり、「遠隔地の番組を域外でも観られる」こととイコールではない。その辺の微妙なニュアンスの違いに留意は必要なのだが、要は「遠くへ出張した時でも視聴ができる」という例と考えていただきたい。SCE内部では、すでに東京に置いたnasneを、台湾やアメリカから視聴するテストも行なっており、「回線が問題ない状況であるなら、快適に視聴できた」(渋谷氏)という。

 デフォルトでの転送画質は、映像・音声込みで720×480ドット/2Mbps程度。この他、nasne側で設定を変えれば、1Mbps(速度優先設定、2Mbpsは画質優先設定)に落として再生することもできる。画質設定はnasne ACCESSで直接変更できるほか、どのクライアントでもブラウザからnasne HOMEを開いて変更できる。

 長時間じっくりチェックできたわけではないが、不満を感じることはなかった。なお、ビットレートについては録画に伴って決定されるため、nasne側(設定変更はtorne内でなく、nasne Homeで行なう)で設定変更をした後から有効になる。

 機能面でも、ローカル視聴とほとんど変わらない。リアルタイム番組視聴も録画番組視聴も、同じ操作でOKだ。番組表を開けば、そのまま録画予約もできる。従来、宅外からの録画予約には、TV SideViewかウェブアプリのChan-Toruを使う必要があったのだが、Vita版を使う場合、不要になる。

 早見機能については、2倍速までの再生が可能になっている。「子機に搭載されるリモート視聴機能には、明らかにCMスキップを目的とした機能は設けられないことが望ましい(例えば、タイムラインバー、早送り、巻き戻し等は可)」(デジタル放送受信機におけるリモート視聴要件 Ver1.0より抜粋)というルールに基づき、チャプタースキップ機能は使えなくなっているが、約15秒後ろに戻す「フラッシュ戻し」、約30秒前に進める「フラッシュ送り」は使える。

 「フラッシュ送りとフラッシュ戻しは、元々CMスキップを目的にしたものでなく、早送り機能である、という判断」(石塚氏)だからだ。

鹿児島に置いてあるnasneをリモートで視聴

 逆にいえば、操作としての違いはそのくらいである。自宅でnasneが視聴できるよう設定を行ない、そのまま宅外に持ち出したとしても、そこで十分な速度の回線が用意できれば、そのままテレビが見れるようになるのである。

石塚:動いてしまえば「まったくもって普通に観られる」だけで、差も分からない感じになるのですが、そこまで持ってくるためにだいぶ労力をかけました。

 実はリモート視聴の他に、さらにもう一つ「ローカルと同じになる」点がある。

石塚:実は今回から、Vita版torneでもニコニコ実況機能に対応します。この場合、リモートでも実況が使えます。その場合には当然、映像はリモート視聴で取得し、実況コメントは別途取得することになります。

 それだけでなく、Vitaへ書き出した映像であっても、同じようにコメントが流れます。Vitaでは、映像を再生しているのであれば、どのような形であっても同じように観られるようにしたかったんです。

 torneにおけるこだわりは、リモート視聴も含め「どこでもどんな環境でも、同じように観たいテレビが観られる」ことである、ということなのだ。

「nasne ACCESS」がテレビにも対応、FLACへの対応も追加

nasne ACCESSで録画番組リストを表示

 今回、リモート視聴機能が拡張されたのはtorneだけではない。Android用のアプリである「nasne ACCESS」でもリモート視聴が可能になる。

 nasne ACCESSは、昨年10月にnasneのシステムソフトウエアが「2.0」になった際に登場したもので、nasne内に蓄積した写真や音楽、ファイルなどへのアクセスを助けるアプリだ。Androidからnasne内のファイルへと自由にアクセスし、表示・視聴が可能になる。宅内での視聴はもちろん、宅外からも簡単にアクセスが可能であったことが特徴だった。自分が持つ音楽や写真、動画などをスマホへコピーして持ち出さずとも、どこからでも使えるのは確かに便利だ。また、スマホのストレージの空き容量が小さくとも、好きな音楽・映像を使える、というメリットもある。

nasne ACCESSの再生画面

 だが他方で、登場した時から「これでテレビが観られれば」という声が大きかったのも事実だ。nasneはNASである以上にレコーダであるからだ。今回、約1年の時間をかけて、ようやくnasne ACCESSで「テレビ視聴」も可能になった。

 特にnasne ACCESSの場合、高速なLTE回線を備えたスマートフォンやタブレットから、直接それらの回線を使ってアクセスできる、という点は大きな価値になる。通信の安定度やパケット通信量を考えると、テレビ視聴などはWi-Fi+固定回線が使える状況が望ましいが、それでも「手軽さ」という意味では、スマホからの直接アクセスがもっとも有望だ。

大橋氏

大橋:nasne ACCESSはnasneをパーソナルクラウド化するアプリなのですが、昨年に提供を開始した時から、最終的にはリモート視聴を見据えて開発を進めてきました。新しく「テレビ」というタブがついて、そこからテレビ番組の視聴が可能になります。画質などはtorneの場合と同じです。torneと違い、フラッシュ送りなどはないので、シークバーをタッチして操作することになります。当然ながら、複数のnasneがあっても、まとめて扱うことができます。

 当然ながら、こちらも速度にはこだわっている。torneほどではないが、一般的なDLNAなどに比べてもかなりすばやい。しかも、リモートアクセス時も速度にはこだわっている。

大橋:今回、写真や映像の視聴についても、相当に高速化しました。体感で2.5倍くらいまで高速化しました。現在、nasne内の最大10万までのコンテンツを扱えます。

 テレビへの対応が注目されるが、それだけでなく、AV的にはもう一つ大きなトピックがある。それが「FLAC」対応だ。nasneがついにハイレゾ・ロスレスに対応し、各ハイレゾ機器との連携が容易になる。

大橋:今回、nasneのバージョンアップに伴い、音楽ファイルとして「FLAC」に対応しました。FLACを再生可能な環境であるならば、nasne ACCESSからもロスレスのまま、リモートアクセスで聴けます。

渋谷:nasneのDLNA機能のロスレス対応については、以前からご要望をいただいていましたが、やっと対応できました。まずはFLACからですが。

 DLNAについては、新たに「DLNAアップロード」にも対応しました。例えば、PS3のXMBから、PS3内に蓄積したプライベートコンテンツを、nasneにアップロードできます。バージョン4.65以上のシステムソフトウエアを搭載したPS3であれば利用できます。

 他にも、細かいアップデートはたくさんありますよ。例えば、nasneには1,000件の録画制限がありますが、1000件に近づいたらアラートを出したり、リモート視聴のペアリング期間制限である90日間が近づいた時の通知機能も搭載しました。

意外と難題な「宅内アクセス」にはソニーのノウハウを結集

 今回のバージョンアップのキモは、もちろん「リモート視聴」だ。だが、そこでは問題も多々ある。宅内のLANにある機器へと、安全に、確実に接続するのはけっこう難しい。家庭によって通信環境も、ルータの設定も、LANの設定も異なるため、トラブルが非常に起きやすい。

石塚:結局、回線が一番問題なんです。都市部ですと光回線が多いのですが、地方だとまだADSLも多い。ケーブルテレビのメタル回線、ということもある。そうすると、上り回線の帯域が足りないこともあります。でも、自宅の“上り回線”の速度がどれくらい早いのか、把握されている方は非常に少ない。

 torneは「機能アップ」なので、リモート視聴機能に追加料金はかからない。まだ入手していない方の場合823円(税込)だが、これはtorneそのものの価格である。

 しかし、nasne ACCESSなどでのリモート視聴には、別途追加機能の購入が必要になる。追加機能は500円だが、きちんと動作を確認してから購入する必要がある。

大橋:そこで、お試し的な機能を入れることにしました。20秒間、何回でも試すことができます。それでうまくいったら、Google Playから追加機能を購入していただく、という形になります。

渋谷:環境依存があるので、ちゃんと試していただいた上で使っていただきたいのです。とはいうものの、ほとんどの環境では、問題なく動作すると思います。特別な設定もありません。それを目指して、昨年のプライベートコンテンツ向けの機能を提供した時から、ソニーの部隊と協力して開発を続けてきました。

石塚:基本的にはつながると思いますよ。ただ、一部のISPさんの中には、ISP側で特別なファイアーウォールがかかっていて、それがわからないと接続できない、といった場合もあるようです。

大橋:そういった問題への対応については、かなりがんばっていますね。実はクラウド上に2つサーバーが用意されていて、そういった人々を救うようになっているんです。

石塚:ソニーと協力して、どんな環境にも対応できるようにライブラリーを作っているので、多くの場合には大丈夫だと思います。動作状況についてはホームページで案内する予定ですので、そちらもご覧いただければと思います。

 実際問題、リモート視聴用機器では、いわゆる「NAT越え」が難しく、設定で苦労する人も少なくない。torneにしてもnasne ACCESSにしても、設定はいままで通り、宅内から使う時と変わらない。その時に「リモート視聴用のペアリング」なども行なわれ、実際にリモートアクセスをする際には、ネットワークの品質や経路をチェックした上で再生が行われることになる。

 こうした部分については、ソニー全体で家庭用機器で使う、ということに加え、ネットワークゲームのために蓄積した部分ノウハウがあり、それがnasneでも生かされている、ということのようだ。

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西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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