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今春にも実現? テレビの新しい可能性「リモート視聴」とは

スマホから「合法的」に遠隔視聴。NexTV-Fに聞く

 2月13日、次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)は、「デジタル放送受信機におけるリモート視聴要件 Ver1.0」を公開した。これは、自宅で受信している放送を、インターネット経由で、好きな場所で視聴するための「リモート視聴」を実現する技術要件を定めたものだ。

 ただ、その示すところが今ひとつピンとこない、なにが起きるのかよく分からない、という人もいるはずだ。今回は、NexTV-F事務局の今泉浩幸氏に、同技術要件成立の経緯や、これでできるようになることを聞いた。そこからは、デジタル放送スタート以降停滞していた「新しい宅外視聴」の可能性がはっきりと見えてきた。

需要の高さを勘案し「いち早く実現」へ

 具体的になにができるのか、どうなるのかを知りたいところだが、その前にNexTV-Fの位置付けと、なぜ今回の技術要件をまとめるに至ったのかを整理しておこう。それを知ると、結論がよりすんなりと理解できるからだ。

 NexTV-Fは一般社団法人であり、産官学共同のプロジェクトとして、2013年6月に設立された。その元々の目的は、スーパーハイビジョン(SHV、いわゆる8K)や4K放送を早期に実現するための枠組み作りである。同年5月まで総務省が開催した「放送サービスの高度化に関する検討会」の報告を元に、高度な放送の実現を準備するためのものとして作られたわけだ。

 なので元々の計画では、リモート視聴は同フォーラムが担当する領分ではなかった。しかし事情の変化により、とりまとめをNexTV-Fが行なうことになった、と今泉氏は説明する。

次世代放送推進フォーラム 今泉浩幸氏

今泉氏(以下敬称略):「放送サービスの高度化に関する検討会」の中で、リモート視聴に関する議論が出てきて、検討会のとりまとめ結果の中にも盛り込まれた、というのがそもそもの始まりです。

 とりまとめの中では「次世代のスマートテレビ」という書き方がされていますが、そこで、魅力的な、あるいは視聴者の方々の要望の多い新しい機能として、『リモート視聴』が盛り込まれました。いちいちSDカードなどに家で映像をコピーして持ち出すのは非常に大変ですし、私的利用の範囲でインターネットを使って自宅のテレビが見れるのであれば便利。テレビの機能として追加してもいいのではないか、ということになりました。

 総務省検討会には、「SHV」「次世代スマートテレビ」「ケーブルテレビ・プラットフォーム」の3つのワーキンググループがあった。そのうち次世代スマートテレビ向けとして、「年内(筆者注:2013年)を目途に『ハイブリッドキャスト対応サービス(仮称)』及び『リモートアクセス視聴 (仮称)』を実現するための技術的手法や運用条件等について、技術面、ビジネス面の双方から検討、結論を得て、次世代スマートテレビに実装していくことを目指す」(総務省とりまとめ資料より抜粋)とされており、そのうちリモートアクセス視聴に関するものが、今回NexTV-Fでとりまとめられた、ということなのだ。

・「放送サービスの高度化に関する検討会 検討結果取りまとめ」の公表
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu12_02000044.html

 そもそも検討会の対象は「将来の高度化したテレビと放送」を題材としたものだった。だが、リモート視聴については消費者の要望も大きい。そのため、検討と実装を前倒しで進めよう、ということになった、という経緯もある。

今泉:NexTV-Fは、どちらかといえばスマートテレビというよりは、SHVや4Kの実現を目的に作られた組織です。ですから、当初からリモート視聴やスマートテレビ関連も連携して……という話になっていたわけではありません。しかし現在は、スマートテレビを含めた高度化も、ということになっています。

 総務省の検討会の中では「リモート視聴は、『どこかで検討しましょう』」とだけ、議論されていたのです。そこで、『NexTV-Fはスマートテレビも担当していますよね』ということで、担当することになりました。

 要望の多い機能ですし、4Kや8Kを待たず、今のハイビジョンにも搭載できるのであれば搭載してもいいのでは……という話もありまして。Dpa(一般社団法人デジタル放送推進協会)やIPTVフォーラムが扱うものかな、とも思っていたのですが、「新しい組織があるのですからそこでやっては」ということになった、と記憶しています。

 すなわち「すぐに実現するにはどうしたらいいか」ということで動いた結果が、NexTV-Fでの検討だった、ということなのだ。

「私的利用」ならネット経由視聴が完全解禁、この春にも実現か

 今回の技術要件で規定してるのは、外出先からインターネットを経由して、自宅のテレビ放送や録画番組をストリーミング視聴する「リモート視聴」だ。メモリーカードなどにコピーして視聴する「持ち出し視聴」は、すでに実現できているものなので、考慮していない。だからできることは「好きな番組を好きな端末から、ネット経由で視聴できるようになる」ことだ、と考えて差し支えない。

リモート視聴の利用イメージ

 そこで重要だったのは「私的利用の範囲である、と説明できることだった」と今泉氏は言う。

今泉:デジタルテレビ受信機にはTR-B14/15という運用規程がありますが、その中では、IP・インターネットへの出力は「同一サブネット内に限る」と要件に書かれています。そのルールを守って実装すること、というルールになっていますので、それを守っている受信機であれば、宅外でインターネット経由で見るというのは、「今のところルール違反」です。それを私的利用について緩和するルールを定めましょう、ということになりました。

 デジタルテレビ受信機(要はテレビやレコーダだ)の映像ストリームをインターネット内に流せない理由は、それが「放送のIP再配信」につながるからだ。放送局としては、「業として」どこかの企業が放送内容を再配信する形になるのは避けたい。いわゆる「まねきTV」裁判も、再配信を「業として行なっていた」とする放送局側が、運用会社側を訴えたものだった。

 そうした主張の是非はともかく、放送局とともに作る運用ルールとしては、その可能性を排除する必要がある。そのために設けられたのが、同一サブネット内=LANの中だけに限る、というルールだった。

 だが、個人に対するリモート視聴の要望は高い。要件を定める中で、放送業界としても「業として営まれるのではない」=「私的利用である」と明確にできるならば、同一サブネットを越えて映像が出ていってもいい……というルールへ変更する、ということになった。具体的には、ARIBから発行されているデジタル放送運用規定であるTR-B14/15から、「リモート視聴における私的利用の技術要件」として、NexTV-Fが定めた今回の要件を参照する、という形を採る。

 つまり、リモート視聴の技術要件は、「新規格を作った」というより、「従来の技術的制限を緩和して、ルールを整備したもの」といえる。

 その結果どうなるのか?

 要は、現在家庭内で利用している「デジタルデータのままテレビ番組を視聴する仕組み」が、ネットを越えて観られるようになる、ということである。もちろん「合法的に」だ。

 ネットの帯域さえ十分であれば、デジタル放送のストリームがそのまま伝送される。Ethernetでつながったレコーダの映像を見る感覚で、スマートフォンやタブレット、ゲーム機などから映像視聴が可能になる。ネットにつながっている状態なら、国内・国外場所を問わずだ。配信ビットレートや解像度などは機器やアプリ側での実装に委ねられており、「映像のビットレートや視聴場所を制限すべきだ、という議論・要求はなかった」と今泉氏は話す。利用上、宅内であろうが宅外であろうが「自宅のテレビの映像が見られるようになる」という、シンプルな理解でかまわない。

 実際には、インターネットの帯域の問題があるため、視聴時にはトランスコーダなどを使い、解像度・ビットレートなどを最適化する必要があるだろう。だがそれにしても、テレビやレコーダの多くではすでに搭載している機構なので、実装は難しくない。特にレコーダでは、家庭内でDTCP-IP経由でタブレットなどに配信するためにトランスコーダを搭載している製品は多い。

今泉:Dpaでの運用規程は、3月にも改訂される見込みです。そうなると、4月にも、参加されているメーカーは製品を出してくる可能性があります。そもそも宅内ではできていることから制限を取り除くだけなので、実装上は難しいことではないです。規格が整えば遅れずに出てくるのでは、と予想しています。

 インターネット経由で視聴可能にする「条件」は、私的利用であることを明確にする、ということと、適切なコンテンツ保護である。

 この技術要件で言えば、親機と子機の間で「ペアリング」を行なうことと、伝送路でAES(鍵長128bit)程度の強度での暗号化を行なうこと、そして、子機からの出力についても暗号化による保護が必要だ。

今泉:ペアリングについては、「自分のテレビで受信したコンテンツを自分自身が見ているだけだ」ということを担保するために必要です。台数制限は6台、としていますが、これに強い根拠があるわけではないのです。あまり少ないと使い勝手が悪いですし、多すぎてはまた問題。一人でスマートフォンとタブレットを同時に使うとして、3人家族で2つずつ、6くらいは必要でしょう、という判断です。ペアリングは最長で3カ月に一度行なう、ということになっていますが、これも「定期的に(受信機に)近いところにもってきてください」ということです。また、1つの機器あたりの同時利用は1台に制限されます。こうした台数制限が入って、明確に「私的利用の範囲です」という説明ができることが重要です。

 暗号化についてはAES-128bit、ということにしていますが、これも明確に定めているわけでなく「相当」のものであればかまいません。端末からの出力は、HDCPやSCMS-Tでの保護を、ということになっていますが、これらは現在TR-B14/15での保護と同じものです。

 なにやら複雑な制限があるように思えるが、冷静に観てみると、「ペアリング」と表現されている機器同士の認証についても、経路の暗号化などについても、今泉氏の言う通り、家庭内で、DLNA+DTCP-IPの組み合わせで実現されているものと、技術的には大差ない。だから、導入はスムーズに進むだろう……という話につながるわけだ。

 実際、家庭内LANで録画番組の共有ができているテレビやレコーダ製品の中には、ちょっとしたソフトウエアのアップデートで対応できる製品も出てくるだろうし、筆者としてもそうなることを期待している。

運用ルールがシンプル化

 リモート視聴の要件が決まった一方で、同様にリモートアクセスソリューションとして一部のメーカーが推進していた「DTCP+」という機能もある。DTCP+と新しいリモート視聴要件との関係はどうなのだろうか。

今泉:現在、DTCP+の機能をもっているところもありますから、それを利用してリモート視聴を実装する企業もあるでしょう。

 現在は、TR-B14/15による制約から、実装に制限をかけているのが実情です。現在のTR-B-14/15では、チューナを搭載した機器にはDTCP+サーバーになってはいけない、ということになっています。そのため、NASをある種「抜け道」として利用し、リモート視聴が実現されています。しかしこれからは、受信機自体に宅外視聴機能が盛り込めることになります。抜け道でなく、こちらが正しい、利便性を高めた形かと思います。

 これに限らず、今までは「どんなビジネスに使われるかわからない」ということで止められていた部分があります。そこであえて「先走り」するメーカーさんもあったわけですが、そのやり方が本当に大丈夫なのかどうかは、わからなかったわけです。

 しかしこれからは、ルールを定めた上で、メーカー側も安心して作れるようになります。

 これまでのDTCP+対応機器は、今泉氏の言う通り、NASなどにDTCP+サーバー機能が実装され、レコーダから映像を転送した上で、さらにNASからリモート視聴を行なう……という手順を踏む必要があった。この複雑さはDTCP+の本質ではなく、あくまで「TR-B14/15による制約の回避」が目的だ。今後は回避そのものが不要になるのだから、よりシンプルに、リモート視聴実装用の技術の一つとして使われていくことになるだろう。

 具体的な製品を出す際には、親機を作るメーカーは、「リモート視聴要件の遵守」することについて、NexTV-Fへ届け出する必要がある。これは、各ルールの厳守とそれに伴う責任をメーカー側に持たせるための仕組みであり、デジタル放送機器の製造と同様のフレームワークである。

 このリモート視聴技術要件では、「具体的にどの技術を使ってリモート視聴を実現するのか」は明確に定められていない。条件を満たすのであれば、その実現方法はメーカー側が責任を持つ限り、自由に任されている。ここで採られたのも「スピード重視」の策である。

今泉:各メーカーが、自社で開発した視聴アプリや、自社と契約を交わしたアプリメーカーの視聴アプリを組み合わせて実現する場合が多い、と認識してます。だとすれば、「要件は守る形でできますよね」とメーカー側に任せ、先行して実装できるようにした方がいい、と判断しました。

 ただし、そうしたルールを第三者が許諾するスキームも必要だ、という議論もありました。確かに、そうした運用についてのルールについて提案されることもあるでしょう。今後必要だ、ということになれば、検討することになるでしょう。

放送業界は「CMスキップ」への配慮を要望

 NexTV-Fのリモート視聴技術要件については、その中身が今ひとつわかりにくかったことから、「また制約がつくのか」と冷ややかに見る意見を耳にすることも多い。

 だが、NexTV-F側の説明を受け、その内容を精査すると、個人の利用としては、むしろ「明確」かつ「シンプル」で、プラスの側面が多く、歓迎すべき変更が多いと考える。制約に見える事項の多くは、今の携帯電話向けワンセグやフルセグの実装と同じような条件である。

 ただし、技術要件の中でひとつ気になる要項がある。

 それは「子機に搭載されるリモート視聴機能には、明らかにCMスキップを目的とした機能は設けられないことが望ましい。(例えば、タイムラインバー、早送り、巻き戻し等は可)」(デジタル放送受信機におけるリモート視聴要件 Ver1.0より抜粋)という条項だ。読んで字のごとく、録画番組について、CMをスキップする機能は好ましくない……ということである。

今泉:特殊再生はできれば搭載して欲しくない、というのが、民放側の意見です。元々民放の収入源泉はCMですから。しかし、来客時に一時停止もできないとか、巻き戻して見られないとかでは、利便性が落ちてしまいます。そこを制限するものではない。

 とはいえ、例えば、CMチャプタをつけてチャプタ単位で移動するとか、15秒・30秒といった「いかにもCM尺の長さ」でのスキップをするものは、できれば止めてほしい。「望ましい」という表現にしているのはそういうところでしょう。CMあってこそ作れる番組なんだということを理解していただきたい……ということかと思います。

 実際のところ、この条項にはあまり強制力はないようだが、「リモート視聴といういままでにない利便性が提供されたことと合わせて考えていただきたい」とも話す。

 このあたりは確かに難しいところだ。おそらくメーカー側も完全に無視するわけにはいかず、「ある程度配慮した上で」機能を実装することになるだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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