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ビデオからテレビ? 日本最大の映像配信「dTV」の戦略

VODデマンドはなかった? 反省から生まれたザッピング

 4月22日より、定額制ビデオ配信(SVOD)サービス「dビデオ」は、ブランド名を「dTV」に変え、サービスを大幅に刷新する。dビデオは、NTTドコモとエイベックスが合弁で展開する事業であり、3月の時点で460万人と、日本のSVODとしては2位を大幅に引き離す、圧倒的なユーザー数を誇る。

dビデオはdTVに進化

 数だけで言えば強いdビデオだが、両社はそこに満足していなかった。今回の大幅なサービス刷新とブランド変更には、どんな狙いがあるのだろうか? 同サービスの企画と運営を担当する、エイベックス通信放送 取締役の村本理恵子氏に話を聞いた。彼らはHuluなどのライバルともまた違う発想で、マスを強く意識したビジネスを指向している。

VODは「デマンド(要求)」ではなかった?!

 すでに述べたように、dビデオは日本最大のSVODだ。460万という加入数は立派なものであり、エイベックスグループにとっても、映像ビジネス収益の大半を占める屋台骨だ。しかし同社は、この結果に満足していない。およそ2年間に渡って、ユーザー数の伸びが止まっているからだ。dビデオはNTTドコモがスマートフォン契約とセットにする形で拡販してきたが、その効果が一巡し、ある種の踊り場にさしかかっている。今回のリニューアルは、そうした現状を打破する狙いがある。エイベックス側もそれを強く意識している。

エイベックス通信放送 村本理恵子取締役

村本氏(以下敬称略):私どものお客様の多くが、当然スマートフォンで映像をごらんになっている。一部PCはありますが。

 逆に申し上げると、他のVODサービスに比べると、いわゆる「VODを使っている」という意識でどんどん見られる方というよりは、もうちょっとライトなお客様が多い、ととらえていますし、実際の動向をみてもそういうところがあります。

 我々のサービスは、いわゆる携帯電話販売店の店頭でおすすめされて加入した方が多い。そういう意味で、元々ビデオサービスをよく使う方というよりは、店頭で出会って「いいね」ということでお使いになられる方が多いです。

 ただ私どもとしては、「スマホで見る」のは大切なのですが、それだけでは限界を感じています。というのは、やはり画面が小さい。本当に人が映像を楽しむのであれば、もっと大きな画面がいい。日常生活でお客様がごらんになっているデバイスで、きちっとサービスを展開することが必要だな、というのが、今回の発表につながりました。

 レンタルビデオやDVDはテレビで見ているわけです。なのに(SVODは)PCやスマホで見ろというのは、実は違っているのではないか、という、単純な発想です。

 村本氏によれば、現在dビデオを「テレビ」で観ている人は、「10%を超えている」という。dビデオはChromecastやApple TVでのAirPlayなどに対応しており、スマホからテレビに転送して表示するのも、一定のハードルはあるが可能だ。「使い方が簡単になればもっと増えるだろうな、と単純に思っている」と村本氏は説明する。

 テレビ向けに本格的なSTBである「dTVターミナル」を用意し、今後、大手テレビメーカーとともに「テレビへのdTVアプリ搭載」も検討していく。4月2日に開催された発表会では、NTTドコモ側より「ソニーのテレビへの搭載が進んでいる」とのコメントがあったし、dビデオの時代からソニー製テレビには対応している。メーカー名は伏せるが、ソニー以外の大手も実際にすでに動いている。

dTVターミナル

 ただし、サービス名を「テレビ」としたのは、テレビに表示できればいい、という単純な話とは違っている。その点について、村本氏は大胆な発言をする。それは、dビデオに対する冷静な分析から生まれたものだった。

村本:VODって、これまでは「4割弱」の方々のものだったんですよ。「今コレが見たいという明確なものがない、6割の方々は使わなかった。でも我々は、その6割の方々も含めてサービス提供をしたい。そこに尽きます。

 テレビは、ポン、と点けると、なにか始まるじゃないですか。それがつまらなかったら、ザッピングする。なにかが始まる、これはある意味「一つの基準を示す」ことだと思っているんです。「これどう? 」っていわれると、それを「おもしろいね」とか「つまんないね」と思えます。

 しかし基準がゼロだと、「さてどうしよう」と戸惑ってしまう。そう分析しています。好きか嫌いか、という判断もできない。なにも基準がない中で選べといわれると、“選ぶこと”にエネルギーがいると思うんです。仕事で疲れて帰ってきて、テレビで楽しみたい時に、そんなエネルギーをつかいたいかな……と。

 私たちがこれまでやっていたことは、お客様にそうした無理を押しつけているな……という部分があって、それをなんとか変えたいんです。

「オンデマンドってなんだっけ? デマンド(要望)、ないんじゃないの?」

 今回、1年かけて全体を見直したんですが、この疑問がスタートラインです。

 確かに「あなたのデマンドなんですか?」といって答えられる人って、そうそういないと思います。しかし「あなたの観たいものはこれですよね?」といわれれば「そうそう」と答えられる人はたくさんいると思うんです。そういう「出会わせ方」がいままでのサービスではできていなくて、相手にぽーんと放り投げちゃって「何万コンテンツあります」という数だけを誇る、というようなところで競争していたんだな、という意識です。でもそれは、本当にお客様が求めているものではない。

 dTVでは、新たに「ザッピングUI」と呼ばれる考え方が導入される。これは、テレビ向けもスマホ向けでも同様だ。VODでは、番組をジャンルや番組名ごとに分類して並べるのが基本だ。番組名などを入れれば、もちろん検索もできる。一般的なオンラインストアと同じ考え方である。この仕組みは、dTVにも存在はしている。

dTVでは「ザッピングUI」を導入

 だが、dTVのザッピングUIは、考え方が大きく異なる。

 ザッピングUIでは、まずいきなり予告編動画が再生される。動画は「時間軸」と「ジャンル軸」で作られていて、左右に動かすと動画のジャンルが替わって再生が始まり、上下に動かすと、別の時間におすすめされた動画が表示される。ザッピングという言葉通り、テレビのチャンネルをザッピングする感覚で使うのだ。「ビデオ屋さんの棚とは違うものを作りたかった」と村本氏は説明する。

dTVでは「ザッピングUI」を導入

村本:VODのサービスって、朝見ても夜見ても、変わらないですよね。更新頻度は、お客様の視聴頻度と重なるべきなんじゃないか、と考えているんです。なので今回「タイムライン」という考え方を導入しました。1時間ごとに新しいコンテンツが浮かび上がってくるので、画面上では6時間ごとにラインナップが変わります。そういう新しさがあるから「また来よう」と思うような感じです。どうもVODは、今のアプリのおもしろさに向いていないような気がしたんです。

 なんでいつもFacebookを見てしまうんだろう……と考えると、常に新しいものが出てくるからですよね。そういうことができていないと、お客様は頻繁に見に来ない。遊びにきてはもらえない、遊び場にはならないだろうな、と。

左に動かすと[オススメ]、[邦画]、[洋画]などジャンルが切り替わりながら、主要作品を再生開始
コンテンツを選ぶと、エピソード一覧が表示される
横位置表示でもザッピングUIに

 d“TV”とブランド名をつけたことから、放送との対抗軸、というイメージを持つ人もいるだろう。だが、エイベックス側の狙いはそこにはない。彼らにとって「テレビ」とは、楽にユーザーがコンテンツへアクセスするための「窓口」を象徴するもの、という意味合いがある。

村本:今回サービスに「dTV」とつけていますが、地上波にとって替わろうという話ではなく、デバイスとして「テレビ」ということです。同時に、テレビが持っているザッピングを含めた「気楽さ」、そこも含めて、キャッチフレーズとして「ドキドキテレビ」と言っています。これまでVODと呼んでいたものは、ドキドキしないし気楽でもなかった。それを取り入れたのがdTV、ということです。

 その結果、「これ500円なの?! いいじゃん」と思っていただければいいんです。

テレビでもdTV

エイベックスがビジネスを主導、時代に合わせて自己否定も辞さず

 エイベックスとNTTドコモが、dビデオの刷新を検討している……との噂は、昨年中から業界内に流れていた。だが、結果的にここまで大胆に変えてくると予想した人は少なかったろう。こうした背景にあるのは、同事業に対するエイベックス側の力の入れ方がある。dTVの前身となるdビデオは、2009年にスタートした「BeeTV」がベースになっている。当時より、ビジネスの主体となっているのは、エイベックス・デジタルとNTTドコモが合弁で設立した「エイベックス通信放送」であり、出資比率もエイベックス側が70%と多い。

村本:いまはエイベックス通信放送が、システムも調達もやっています。ドコモさんは販売をやってくださっている、というのが実際のところです。自分たちが「こういうのがいいね」となったら、それをどう作れるか。技術的にどうするかも、自分たちの中でやっています。もちろんエイベックス通信放送は合弁会社ですので、ドコモからの出向の方と、がんばっていっしょにやっています。

 今回のリニューアルには強い自信をもっているのですが、それは、単に思いついて作っているのではなく、しっかりとしたリサーチをした上で開発しているからです。独りよがりで作っているわけではないです。

 また、コンセプトが古くなったとしても変えていくだけ、だと思っています。例えばBeeTVがスタートした時には、「コンテンツがオリジナルだ」ということを強調していました。しかしdビデオになった時には、ぱっとそこを切り替えているんです。今回は、dビデオという形を自ら否定して、dTVを立ち上げます。自分たちが作ったコンセプトも、環境に応じていくらでも切り替えて、新しいものを作ることをやり続けるんだ、というのが我々のスタイルなんです。

 そんな中、ザッピングとともに強化したのが「レコメンド」である。ザッピングで出てくるコンテンツは、サービス側がおすすめしたいものが出てくるだけでなく、これまでの視聴履歴などを参考に、「この人にはこういう作品が適切」としておすすめしてくるものもある。一般的なレコメンド機能はこれまでもあったが、dTVではそこを大幅に強化している。

レコメンドを強化

 映像コンテンツのひとつひとつには、1,000を超える「フィルムメタ」と呼ばれる、内容を示すメタデータが付加される。そのデータは、同社が「フィルムアナリスト」と呼ぶ映像のプロフェッショナルが人の手でつけていったものだ。それをいわゆるビッグデータ的に解析し、従来よりも精緻なレコメンドを目指すという。こうした手法は海外でも広がっているが、エイベックス側は、先行事例に倣っただけでなく、すでにdビデオでやっていた手法の「改良版」だ、と説明する。

フィルムアナリストが1,000以上のフィルムメタで、作品を分類

村本:dビデオ時代から、タグは入れていたんです。映画を見るとしても、人によってその映画で「惹かれている部分」は違うので、どこを見ているのかを示してあげるための窓口を作りたいね、というのが発想です。dビデオの検討を開始した当初からのアイデアです。

 しかしこれまで6年間の視聴実績をみていくと、「タグをもっと、こう付け直したほうがいい」とか、色々改善点が出てきました。なので、もう一度タグの振り直しをした、というのが正しいです。タグを直接お客様に選んでいただくのではなく、もっとビッグデータとして精緻なものにして、我々の方でお客様にご提案する、という形になります。

現在のdビデオのタグ画面。ジャンルなどもあるが、かなり独自性の高い表記で、直感的に「どういう番組を指したものか」がわかりづらかった

 この辺は、dビデオのタグを見るとよくわかる。dビデオ時代のタグは、タグ自身が非常にユニークな表記になっていて、「タグのおもしろさから番組をみつけてもらう」ことを目的としていた。確かにおもしろい試みなのだが、ユニークすぎてなんの番組を示してるのかわかりにくいところがあった。要はやりすぎだったのだ。それを内部向けのデータへと切り替えてゆき、番組への出会いにつなげるのが、今回の修正の狙いでもある。

村本:「ああ、ここにこういう作品があったんだ。おもしろいね」と思っていただけるような、出会いを作ることが大事だと思っているんです。しかし、いままでのdビデオはそうではなかった、という自分たちへの反省があります。

 4月2日の発表会で、dTVターミナルや新しいスマホアプリを、筆者も試している。その思想性は、確かに村本氏のいう通りだ。VODのもっていた「結局選ばないと観れない」「探さないと観れない」という制約をカバーしようという工夫の跡が見える。

 一方で、VODとしては、いきなり選んでいない動画の再生が始まることがあまりに斬新で、従来のサービスに慣れた人には違和感があるかもしれない。また、開発途上であるせいもあるとは思うが、特にdTVターミナルでの操作性には疑問もあった。

 しかし、そうした部分は技術的に解決できる部分が多く、改善も可能だ。エイベックスの「今にこだわらない」姿勢は、すばやく改善を積み重ねるには有利なものである。VODになじみがない人々にどう受け入れられていくか、筆者としても興味深い。

dTVターミナルのザッピングUI。リモコンの上下でチャンネル切替
dビデオ風のコンテンツ検索UIも

「加入限界」は使い勝手強化でブレイク

 ここまで挙げたリニューアル施策は、すべて「会員数の踊り場」を超えるための策だ。dビデオは500万加入を前に、利用者増が伸びなやんでいる。衛星放送などの有料放送も、おおむね400万加入前後でユーザー数が伸び悩む現象がある。そのため、「無料の地上波の強い日本では、有料でテレビを見る人は400万くらいで頭打ちなのでは」と言われることも多い。

 しかし、村本氏はそう考えていない。問題の本質は「VODを使ってもらうための前提条件の弱さ」にあり、そこを突き崩せば市場は伸びる、と考えている。

村本:我々はその壁を突き抜けると思っています。問題は、使い勝手が悪かった、ということです(笑)

 要は、500円払ってなにが得られるのか、ということだと思っているんですよね。500円だけど、それがその人たちにとって「プチ贅沢」になればいい。「これでこんな映画が見られるんだ、これが500円ならいいよね」という価値観を打ち出せればいい、というお話です。

 例えば水も、昔の日本ではタダでした。でも今は普通に買うわけで。なにかで意識が変わることで、まったく違うところに行ける、と信じています。広げるためにはdTVにも広告・無料モデルを……という話ではないです。

 もちろん、広告モデルを無視するわけではないです。検討はしています。でも今は、SVODのモデルでまだまだいける、と思っています。

月額500円を訴求

 現在、地上波のキー局は、放送番組の「見逃し視聴」に積極的になりつつある。そのため、SVODでも見逃し視聴コンテンツの充実がカギだ、とする声は多い。村本氏もその意見は否定しないし、dTVにも見逃し視聴コンテンツは存在している。だが、単純にそれだけで利用者が増える、という発想もないようだ。

村本:「見逃し視聴」は大事な要素ではあるが、見逃し視聴のために加入してくれる、という単純なものではない、と考えます。よほどそのコンテンツへの関与度が高く、「どうしてもそれが見たい!」とならなければ、そこまでいかないと思うんですよ。

 例えば、dビデオでやっている「ウォーキング・デッド」の見逃しでは、お客様が入ってこられる。これって、洋ドラのもっている吸引力というか、ロイヤルユーザーの力です。地上波で普通に流れているドラマには、そこまでの関与度を持つものが少ない。持つものもあるんですが、洋ドラとはちょっとタイプが違うんではないかな、と、我々は思っています。

 そういう意味では、洋ドラとアニメの関与度は、別格ですね。だからこそ、アニメや洋ドラに力を入れるんです。お客様の粘着力が強い、というか。

エイベックスがプレミアムで「連動コンテンツ」を選ぶ理由

 dTVへのブランド変更に伴う施策の中で、コンテンツ面での強化策が「プレミアムコンテンツの充実」だ。この点は、Huluにしても、秋の参入を予定しているNetflixにしても、同じような方向性を向いている。dTVでも、先行配信作品やオリジナル作品を用意し、差別化を行なう。その中でも大きな武器であり、発表会でもアピールされたのが、夏に公開が予定されている実写映画「進撃の巨人」のオリジナルスピンオフ作品を、dTVが配信する、ということである。

実写映画「進撃の巨人」のオリジナルスピンオフ作品をdTVで独占配信など、オリジナルコンテンツを強化

 これに限らず、エイベックスはBeeTV・dビデオ時代から、映画やドラマとのタイアップを軸にしたスピンオフ作品を、プレミアムコンテンツとして提供する戦略を採っている。その狙いはどこにあるのだろうか?

村本:「連動」という言い方はしていますが、問題なのはそのクオリティだと思っているんです。はっきり申し上げれば。

 例えば、今「仮面ライダー4号」を配信していますが、あれ、見た方の中には「(劇場公開中の)3号よりおもしろい」という方もいらっしゃるんです。マニアの方々はみんな集まっていただけている。

 我々にはスピンオフを作るという意識はまったくないんです。同じクラスの作品をもう一本作りましょう、というスタンスです。「進撃の巨人」もそうです。ものすごいCGですし、ごらんになっていただくと「ちょっとスピンオフで紹介的なものを作ったのではない」ことが、おわかりいただけると思います。そこが私どものコラボ企画の特徴です。進撃の巨人のコラボ企画についても、1話・2話を見ていただければ本編がもっと楽しくなる、という位置づけです。

 また、コラボ企画においては、アニメがあって、さらにdTVで展開している「ムービーコミック」、そして実写がある、というように、色々な形でお客様に楽しんでいただける、のが我々のやり方だと思っているんです。単にぽーんと作品を入れるのではなく、お客様がもっと楽しくなるものを出せる作品に力を入れている、というのがポイントです。

 複数の関係者の話によると、村本氏が例として挙げた「仮面ライダー4号」は、劇場公開されている姉妹編の「スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号」と、ほぼ同クラスの予算で制作されているという。もちろん作品によって予算は色々だが、エイベックス側として「お手軽なタイアップ」と見ていないのは事実であるようだ。

村本:コンテンツを作るという意味では、今回の東宝さんと組んだ「進撃の巨人」の例のように、直接やらせていただいています。ここには、長年培った関係が生きています。「プレミアム作るから寄っておいで」みたいな感じではないです。

 こうした発言は、新興のライバルを強く意識したものだろうが、確かに、音楽・映像の分野で強い影響力のあるエイベックスとして、ともにビジネスをやってきた日本の既存のコンテンツ制作者との関係が大きな財産であるのも事実である。

マルチデバイス・キャリアフリーを推進。UULAとは「年齢層で棲み分け」

 他方で、コンテンツ調達施策としては、テレビ的・映画的コンテンツばかりに注目しているわけではないことも強調する。そこが独自性でもある。

村本:ジャンルとして「ショートショート」というものを用意しています。あれなんかは、うち独特だと思います。決して地上波では流れない。短尺・25分なので隙間で観るにはいい作品が多いんです。それがうちからの、ユーザーの皆様への提案だと思っています。劇場中継を流す「シアター」もそうですね。お客様へのご紹介というか、「こうやって観るともうちょっとおもしろいものあるよ」というパターンですね。そういう新しいやり方を生み出していくところが、地上波と異なるところかな、と思います。

 新しく始まる「ノベル」もそうですね。映像として文字が流れていくものなのですが、ホラーだとその中で急に手が出てきたりとか、新しいおもしろさがあるんです。スマホというデバイスを中に持っているからできるもので、さすがにテレビでは観ないが電車では観るよ、という感じですね。そういう使い分けができるよう、中をしっかり作り分ける、というところでしょうか。

 すなわち、dTVは「テレビ」を軸にしつつも、ユーザーがいろいろなデバイスを使い分ける「マルチデバイス」であることを強みとする、という姿勢である。当面はテレビとスマホが有望な端末と考えている、というが、「これからはまた変わるかもしれないし、こだわりはない」(村本氏)という。そうした方向性は、NTTドコモとも共同歩調をとっており、「スマホとテレビ両方で使えればメリットが大きい」ことを一体訴求していくという。

 一方で、dTVはNTTドコモの契約者しか使えないサービスではなく、すでにキャリアフリーな存在である。エイベックスとしても、従来のNTTドコモ頼りではない売り方・顧客との接点が求められている。

村本:新たな顧客との接点は、積極的に広げていきます。

 これは具体案があるわけではなく、あくまで「例」としてですが、マンションの契約をした時にそのマンションにはdTVがついていて、好きに観れるようになっている……というやり方は、アリだと思ってます。そういう風に、生活の中の何かで、お客様にわかりやすい入り口を用意する、というイメージです。

 また、組んでいただけるパートナー企業様にとっても、お客様へのサービスにつながらないと意味がない、と思っています。単にアフィリエイトで売ってください、という話ではないです。その企業様にとっての戦略の中で、私どもと一緒にやることがお客様へのサービス向上につながったり、お互いにいいものが生まれる形でない限り、パートナーシップの提携はない、と思っています。

 エイベックスグループには、dTVの他にもう一つ、大きなビデオ配信プラットフォームがある。それが、ソフトバンクと共同で運営している「UULA」だ。dTVには負けるものの、UULAも3月の段階で141万人の加入者を集めている。村本氏はUULAの運営責任者でもあるが、dTVとUULAの関係。棲み分けはどうなるのだろうか? すでに述べたようにdTVはプラットフォームフリーなサービスで、ソフトバンク利用者でも使えるものだ。

村本:みかけは似たようなサービスでも、お客様の層が違うんです。ソフトバンクのお客様は、やはりお若い方が多い。観ているコンテンツの種類もdビデオとは違います。両者の違いは、そういった方々に合わせてサービスを充実させていく、というあり方です。UULAはUULAで、その中で発展させていきますし、「これじゃなきゃいけない」という形はないです。お客様の特性に合わせてサービスを進化させていきます。

 エイベックスグループの映像配信事業は、2015年第3四半期の段階で237億円の売り上げだ。これを大きく伸ばしていくことが、同社にとって重要なポイントである。そこでは、dTVとUULAで事業内容に重なりがあっても、顧客層を広く押さえるという意味ではプラスである、という判断がなされている、ということなのだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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