西田宗千佳の
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スカパー! HDを「ダビング」する

~ソニー「BDZ-RX50」と東芝「RD-X9」でテスト~


 10月1日より、スカパー!のハイビジョン多チャンネル放送「スカパー! HD」がハイビジョンチャンネル数を58チャンネルに拡大、「第二期」をスタートさせた。

テストに利用したスカパー! HDチューナ。

 懸案であったハイビジョンによる録画機能も、当初の予定から大幅に遅れたものの、8月18日よりスタートしている。

 そうなると、次に気になるのは「ダビング」。東芝とソニーから「スカパー! HDダビング」に対応したレコーダが登場し、こちらもおおむね準備が整いつつある。今回は、ソニーの「BDZ-RX50」と東芝の「RD-X9」を使い、スカパー! HD録画をディスクにダビングする過程をテストしてみた。

 なお、スカパー! HD録画の詳細については、7月に本連載にて解説している。今回はその点についてはシンプルな説明にとどめたので、併読していただけるとありがたい。



■ 第2期でチャンネル拡充した「スカパー! HD」

 まず最初に、スカパー! HD「第二期」で拡大された放送の印象から述べていこう。スカパー! HDは、2008年10月1日からサービスを開始していたが、ハイビジョンチャンネルが少なく、魅力に欠けていた。だからこそ、チャンネル拡大が行なわれる「第二期」には期待が集まっていた。スカパー!自身も、この時期にあわせ、積極的なマス媒体への広告展開を中心としたマーケティングを行なっており、みなさんも目にする機会が増えているはずだ。

10月1日のスカパー! HDのEPG。それまではチャンネルが埋まっておらず、スカスカだったものが、サービスが開始され、一気に既存のスカパーに近いレベルに増えてきた

 筆者も日々e2(110度CSデジタル)を中心にスカパー!を視聴しているが、特に最近、「ハイビジョン放送にしてほしいな」と感じることが増えてきた。理由は、放送ソース側が「HD放送を想定したもの」になり始めてきたからだ。スカパーは基本的にSD/縦横比4:3の放送だが、そこに16:9の映像がレターボックスで入ってくるので、実解像度がさらに落ちている。スカパーは圧縮の関係でそもそも解像度が低く見えるので、画質がかなりつらく感じるのである。

 今回、スカパー! HDのチャンネル拡大により、普段見ているチャンネルがハイビジョンになり、その不整合はかなり是正された。テストに使ったのは、スカパー!が提供しているチューナ「SP-HR200H」。チャンネルとしては主に「ディスカバリーチャンネル ハイビジョン」と「スーパー! ドラマTV HD」、「FOX HD」などを視聴してみたが、これまでのSD放送よりは、確実に見やすくなっている。

 とはいえ、スカパー! HDの場合、1,440×1,080ドット、4~8MbpsのAVCで配信されるため、圧縮ノイズも目立ち、BSデジタルや地デジに比べると解像感は劣る。だが、「純粋な画質よりも多チャンネル」を優先するスカパーの立ち位置を考えると、現実的な落としどころかな、と感じる内容である。

 スカパー! HDのディスクへのダビングを試す前に、スカパー! HD録画の概要をおさらいしておこう。

 SD放送時代と違い、スカパー! HDでは、録画を「LAN上でのストリーム記録」という形で行なう。技術的にはDLNAとDTCP-IPを使い、チューナで受信した放送データを、そのままLAN上の「録画対応機器」にストリームとして記録するわけだ。データ変換や再圧縮は行なわれない。

 録画対応機器は、現在のところ、アイ・オー・データ機器のLAN HDD「HVL1-G1.0T」などの、DLNA+DTCP-IPに対応したネットワークストレージ(NAS)が中心だが、ソニーと東芝は、自社のビデオレコーダで、スカパー! HDの録画に対応している。仕組みはNASと同じであり、以前のレコーダにあった「スカパー! 連動」とは異なる。

 録画予約は、基本的にスカパー! HDチューナ側で行なう。EPGから録画したい番組を選び、録画設定を行なうと、その情報がチューナに蓄積され、指定した時間になると指定したチャンネルを表示し、「録画機器」へと受信した放送データをLANで転送、記録して残す、という形式である。

スカパー! HD録画の設定画面。EPGから録画したい番組を選び、設定するとその番組が録画予約される。チューナで作業を行なうことを除けば、一般的な録画予約と変わりない

 だがどうやら録画に関する細かな使い勝手や機能は、録画機器によって相当異なるようだ。今回は、ソニーのBDレコーダ「BDZ-RX50」と、東芝のDVDレコーダ「RD-X9」の2機種を用意してテストを行なったが、実際の動作には色々な違いが見られた。

ソニー「BDZ-RX50」東芝「RD-X9」

 違いはまず、録画予約の点に現れる。予約作業そのものは同じなのだが、予約情報の扱いが少々異なるのだ。

 NASに「録画」する場合とレコーダに録画する場合では、1つ大きな違いが存在する。それは、レコーダの場合、スカパー! HD以外の録画が同じ時間に行なわれている可能性もある、という点だ。レコーダの場合、スカパー! HDの録画は、ユーザーの目からは「地デジやBS/CSチューナの代わりに、LAN上のスカパー! HDからの映像を録画する」と見える。

 特にBDZ-RX50の場合にはこの傾向が顕著だ。この機種はダブルチューナ機だが、内部的には「録画2でその時間に録画する」という形になる。そのため、スカパー! HDでの録画予約時には、重なる時間に「録画2」を使っていないかどうかをチェックする必要があるのだ。

 といっても、ユーザー側が特別になにかをするわけではなく、通常の録画予約と同様、レコーダ側が時間の重複チェックをしてくれる。そのため、録画予約を行なうと、まずはレコーダ側と録画予約情報をやりとりし、レコーダとチューナの両方に録画予約情報を登録する。ただし、BDZ-RX50の場合には、レコーダ側の予約情報には、予約段階では番組名などの情報が書き込まれていない。どうやらそれらの情報は、実際に録画を行なう段階で記録されるようになっているようだ。


チューナ側の予約リスト(左)、BDZ-RX50側の予約リスト(右)。同じ番組が並んでいるが、レコーダ側には、レコーダ自身で受信・録画する地デジ番組の予約も入っている。BDZ-RX50側では、この時点では番組名などが入っていない点にも注目
チューナの予約リストで「HD録画機器側の予約リスト」を呼びだすと、レコーダ(BDZ-RX50)に登録された予約情報がすべてリストアップされる。レコーダ自身での予約情報は、チャンネル番号と時間だけ

 その時に時間が重なっていれば、レコーダ側からチューナ側に「録画時間が重なっている」旨の警告が出る。チューナからは、レコーダとチューナの両方で、現在どのような時間に録画が予約されているかを確認することもできるようになっている。チューナ側からは、レコーダ側に予約された番組のチャンネル番号や時間がわかるだけで、番組名までは分からないので、レコーダ側で重複チェックをした方がいいだろう。

 録画が行なわれると、後は地デジやBSデジタルなどの録画時と同じで、特に注意すべき点はない。すでに述べたように、スカパー! HD録画はストリーム記録なので、表示上は「DR記録された番組」ということになる。番組名やキャスト情報なども、きちんと転送されてくる。


BDZ-RX50の録画リスト。中央の3つがスカパー! HDの番組を録画したもの。「DR」モードで記録した番組、ということになっている。予約段階ではチャンネル名や番組名は入っていなかったが、録画終了後は通常の録画同様、きちんと表示される録画番組の詳細情報。EPGに記載された細かな情報も転載されている。フジテレビNEXTの場合、容量は50分で3GBとなっていた。

 


■ ソニーと東芝では「録画の方法」が異なる? DLNAや追いかけ再生など、制限の多いRD-X9

 それに対し、同じ「レコーダへのスカパー! HD録画」ではあっても、RD-X9への録画は挙動が異なる。

 録画予約をチューナのEPGから行なう点はBDZ-RX50のそれと同じだが、録画予約の情報は、「チューナ側」にしか蓄積されないようだ。録画予約を行っても、RD-X9側の録画予約リストにはなにも追加されない。また、BDZ-RX50では表示できた「HD録画機器側の予約リスト」も表示できない。

「録画予約後」のRD-X9の予約リスト。スカパー! HD録画の情報は一切記録されていないスカパー! HDチューナ側のリスト。BDZ-RX50の時と違い、「HD録画機器側の予約リスト」には対応してない

 このような違いになる理由は、RD-X9の場合、スカパー!HD録画は、常に「待ち受け」の状態で利用することになるからなのである。挙動としては、NASのそれと同じといっていい。スカパー! HD録画は、RD-X9の場合には、同機が持つDLNA+DTCP-IPでのダビング機能「ネットdeレック」の一機能として実装されている。要は、スカパー! HD録画対応のNASと同じ機能が、レコーダの中にそのまま入っている、と考えるとわかりやすいだろう。そのせいか、録画予約と違い、「フォルダ」や「保存メディア」を選んで録画予約をすることはできない。録画データは、まず強制的にすべてのフォルダの外(PC的に言うなら内蔵HDDのルート)に保存されることになる。フォルダ移動は自分で行なう必要があるのだ。

RD-X9での録画リスト。スカパー! HDの録画番組は内蔵HDDのルートに保存される。録画形式は「TSE」となっている

 スカパー! HD録画時に「デジタルチューナのチューナのスロット」を一つ消費してしまう、という点は、BDZ-RX50と同じである。RD-X9の場合には、デジタル放送用の「TS2」を占有する。同じ時間にTS2での録画予約があると、スカパー!HD録画は停止されるので、やはりBDZ-RX50同様、注意が必要である。

 録画番組は、RD-X9の場合、「AVCのTS録画である」ということから、「TSE」という扱いになる。これは、同社のレコーダのAVC録画時のモードだ。残念ながら、BDZ-RX50と違い、RD-X9では、番組名以外の番組情報が転送されないようだ。そのため、録画番組の情報を見ても、キャスト・スタッフ情報などは入っていない。


RD-X9で録画した番組の詳細情報。EPG情報など、細かいデータは記録されていない。「スカパー連動」機能での録画とは大きく異なる

 このように録画した映像は、どちらもレコーダ側で、通常の録画番組と同じように再生などが行なえる。残念ながら、どちらも自動チャプタ付与機能は働かない。

 だが、こと再生機能については、ソニー、東芝の双方でやはり機能に違いがある。

 一つ目の大きな違いは「他のDLNA機器からの再生」だ。BDZ-RX50は、本体からの再生の他、スカパー! HDチューナやPlayStation 3など、DLNA+DTCP-IPに対応した、他の機器からの再生もできる。だがRD-X9については、他のDLNA機器からの再生ができない。これは、RD-X9に「TSE録画タイトルはDLNAで再生できない」という制限があるためのようだ。多くの場合、録画番組はレコーダ自身で再生するだろうから致命的な問題とは言い難いが、離れた部屋から見る用途などを考えると、ソニーの仕様の方が魅力的である。

一番左はBDZ-RX50を、中央はRD-X9をチューナから見た場合。BDZ-RX50の中にある録画番組は再生できるが、RD-X9の中のものは再生できない。一番右は、RD-X9をPS3で見た画面。RD-X9の「TSEタイトルはDLNAで配信できない」という制限に引っかかっているようだ

 二つ目の違いは「追いかけ再生」への対応だ。BDZ-RX50の場合、録画中の番組を再生すれば、地デジなどの録画と同じく追いかけ再生が行なえるが、RD-X9の場合にはそれができない。録画が終わるまで見れないのは、やはりちょっと不便である。

 


■ ダビングしたBDを再生できない機器も。基本は「録画した機器での再生」か

 では、ダビングについてはどうだろうか?

 双方とも光学ドライブを搭載しており、スカパー! HD録画番組を、光ディスクへとダビングできる。ダビングルールは、そのチャンネルが定めるものに添った形となる。すなわち、コピーワンスの局ならコピーワンス、ダビング10ならダビング10、という扱いだ。この辺はe2などと同じである。

 ただし、ダビングできるディスクには違いがある。BDを搭載したBDZ-RX50は基本的にBDへのダビングを想定しているのに対し、DVDドライブ搭載のRD-X9は「HDRec方式」でのDVDへの書き込み(HDVRディスク)か、SD画質にダウンコンバートしてのDVD-VR形式書き込み、となる。

BDZ-RX50のダビング画面。ダビング作業そのものは、他の録画タイトルを行なう場合と変わりない。作業もごく普通に進む
RD-X9でのダビング画面。こちらも、録画対象がスカパー! HDであることを意識する必要はほとんどないHDVRディスクとしてダビングする際は、3倍速以上の記録に対応したディスクが必要。そうでないとエラーがでる

 HD DVDのビジネス終了に伴い、現在、HDRec形式(HDVRディスク)に対応しているのは、ほぼ東芝のDVDレコーダだけといえる。そのため、この方式で記録した場合には、ほぼ「手持ちのレコーダで再生するためのディスク」になる、と考えていい。冒頭で述べたように、スカパー! HDのハイビジョン放送は、ビットレートが4~8MbpsのAVC形式なので、そのままハイビジョンで残した場合には、1時間で2~4GB程度になる計算になる。今回テストに使った番組(放送時間50分のドラマ)の場合、3GB程度の容量となっている。

 となると、やはり容量的に有利なBDが使えるBDZ-RX50が有利……ということになるのだが、思わぬ問題が存在した。

 今回、BDZ-RX50でBDへのダビングを行なったが、このディスクが正常に再生できないBD機器が多いのである。当方でチェックしてみた限り、PlayStation 3とソニー「BDZ-X95」、パナソニック「DMR-BW830」の3つの製品では、ディスクこそマウントできるが正常な再生が行なえなかった。唯一問題がなかったのは、BDZ-RX50での再生、という状況だ。

BDZ-RX50でスカパー! HD番組をダビングしたディスクを、PS3に入れてみた。ディスクとしてはきちんとマウントされるが、実際に再生しようとするとエラーが出る。

 このうち、ソニーのレコーダに関しては、すでにバージョンアップにて対応する旨の方針が示されているが、他については未定のままだ。どうやら、BDの録画規格に完全準拠したデータというわけではないようだ。ネット上の情報では、BDZ-RX50同様再生できる機種もあるようだが、現状では、「すべてのBD機器で再生できるわけではない」と思っておいたほうが良さそうだ。

 他方、RD-X9の強みは、外付けUSB HDDへのダビングだろう。スカパー! HDチューナからの録画は内蔵HDDのみで、外付けUSB HDDへの直接録画はできないが、保存したいものを外付けのUSB HDDへとダビングすることはできる。別のレコーダやPCなどにつないでも、その映像を見ることはできないため、やはりライブラリ用というよりは、あくまで「バックアップ用」という印象を受ける。話数の多いドラマやアニメなどをまとめて保存したい、という人ならば、光ディスクより魅力的かも知れない。

 これらのように、ディスクへのダビングができたとしても、スカパー! HD録画を「ライブラリー化する」のは、まだ色々問題が残っている。BDダビング時の再生互換性が高まれば、もう少し安心して使えるようになるだろう。また、録画操作などをチューナ側でやらねばならない、という点も、操作性の面ではマイナス。特に、RDシリーズの「スカパー連動」を知っている身としては、ちょっと寂しい。自動録画機能との連携など、さらなる改善を期待したい。

(2009年 10月 8日)


= 西田宗千佳 = 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]