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「スカパー! HD」のハイビジョン録画を試作機でテスト
~DTCP-IPネットワークダビングの可能性を探る~
だがどうやら、ようやく準備が整いつつあるようだ。今回は、スカパー!が提供しているチューナ「SP-HR200H」に、「スカパー!HD録画対応ファームウェア」の試作版を組みこんだものと、アイ・オー・データ機器のDLNA対応LAN HDD「HVL1-G1.0T」、デジオンのDLNAクライアント「DiXiM Digital TV」などを組み合わせ、「スカパー! HDの録画環境はどうなるのか」をテストしてみた。
これまでの録画環境とは異なる、「DLNAをベースにしたネットワーク録画」がどのようなのものになるのか、感じ取っていただきたい。
テストに利用した、スカパー! HDチューナ。作の「スカパー! HD録画」対応ファームウェアを組みこんだものだ | アイ・オー・データ機器のLAN HDD「HVL1-G1.0T」。スカパー!HD録画の他、東芝REGZAシリーズの録画番組ダビングにも利用できる |
■ MPEG-4 AVC映像を「ストリーム記録」。録画設定は意外なほど簡単
まず最初に、スカパー! HDの「ハイビジョン録画」に関する仕組みについておさらいしておきたい。
ご存じのように、既存のアナログ映像出力から録画が出来るのは、一般的にSD解像度まで。スカパー! HDの場合も例外ではなく、PCでのキャプチャをのぞけば、チューナからの外部出力の録画はコンポジットやS映像出力によるSD解像度のものに限定されていた。
そこで、スカパー! HDがハイビジョン録画の手段として採用したのが、DLNAに著作権保護技術であるDTCP-IPを組み合わせた、「ホームネットワークによるデジタル録画」である。チューナが放送のストリームを受信し、それをDTCP-IPで暗号化した上で、LAN上でのセキュリティ保護とDLNAサーバー上での著作権保護を行なう、という形態であり、現在、東芝の液晶テレビ「REGZA」にて、デジタル放送をLAN HDDにダビングする際に使われている枠組みに近い。
ただし、スカパー! HDは、地上/BSデジタル放送などで実績があるMPEG-2 TSではなく、伝送方式に「DVB-S2」を、圧縮方式に「MPEG-4 AVC/H.264」を採用している点が大きな違いといえる。
録画には「スカパー! HD録画対応チューナ」の他、DTCP-IPでのダビングや録画に対応したLAN HDDなどの「サーバー機器」が必要になる。ストリームをそのまま記録するため、原理的には画質劣化は起こらない。
冒頭で述べたように、今回利用するのは、試作版のファームウェアを搭載した、スカパー! HD対応チューナと、アイ・オー・データ機器のDLNA対応LAN HDD「HVL1-G1.0T」。これを、家庭内LAN(有線、Gigabit Ethernet対応)に設置し、録画や再生のテストを行なった。
また、今回のテストは、あくまで「スカパー! ブランドで供給されるチューナ」でのテストだ。今秋には、ソニー製のスカパー! HDチューナ「DST-HD1」も、録画機能への対応を行なう予定となっている。利用に関する大まかな流れは同様だろうが、細かな使い勝手については、異なる可能性も高い。
結論からいえば、録画は拍子抜けするほど簡単に、スムーズに行なえた。
まず、LANに双方の機器を接続後、設定メニューから、「HD録画機器登録」を行なう。LAN内にあるDLNAサーバーが一覧表示されるが、スカパー! HDの録画に対応する機器(この場合にはHVL1-G1.0T)以外はグレーアウトした状態になっているはずだ。利用可能な機器を選べば、準備は完了だ。
設定用のメニューの中に「HD録画機器登録」という項目がある。ここを開くと、LAN内にある「DLNAサーバー」がリストアップされる。スカパー! HD録画に対応する機器以外はグレーアウトするので、間違って選ぶ可能性は低い |
このチューナには、地デジとスカパー! HD、両方のチューナが搭載されており、録画ももちろん、両方の放送に対応している。予約録画はEPGを使って行なうが、特に変わった点はない。ちょっと違うのは、その際にLAN HDD側の状況もチェックしている、ということだ。また、録画が禁止されている番組や、契約していないチャンネルの番組などは、録画時にチェックが行なわれ、警告が表示されるようになっている。
スカパー! HDチューナのEPG。解像度表示などが追加されていることをのぞけば、SD解像度専用のチューナのものと大差ない | EPGから録画したい番組を選ぶと、録画予約設定が行なわれる。ストリームをそのまま記録するので、画質設定などはない。設定が終わると、録画機器(DTCP-IP対応サーバー)に接続し、録画出来るかどうか確認した後、録画設定が行なわれる |
もちろん、手動操作での録画も可能だ。「ツール」ボタンを押してメニューを呼びだし、「現在番組録画」を選べば良い。基本的には、その番組が終わるまでの録画になる。
また、スカパーのチャンネル同士はもちろん、地デジとスカパーの場合でも、録画時間が重なっている場合、警告が発せられ、録画予約ができない。
意外だったのは、EPGを使った番組録画の「短さ」に制限があったことだ。理由は不明だが、5分よりも短い番組は予約できない。ミニ番組を狙って録画する場合には、手動で前後の番組も含めて録画予約する、といった工夫が必要だろう。また、この制限は手動録画でも存在する。そのため、「6時55分に気になる映像を見たので録画を始めようとしたが、7時に終わる番組だったので録画できなかった」といったことも発生しうる。
録画予約時間が来ると、チューナは自動的に起動し、録画するチャンネルに切り替わる。SD用のスカパーチューナを使った録画予約の場合と似たような挙動である。ストリームをHDDに記録する形式とはいえ、映像を表示しないで録画することはできない。録画中にLAN HDDへ耳を近づけると、カリカリとした音が聞こえ、実際にデータが記録されていることが確認できる。
■ 再生機能は至ってシンプル。30秒送りや「続きから再生」も可能
では、再生はどうだろう? 再生は、チューナ側から行なうことになる。
リモコンにある「タイトルリスト」ボタンを押すと、LAN内に存在するDLNAサーバーがリストアップされる。すなわち、スカパー! HDの録画に使ったLAN HDD以外もリストアップされるのだが、その点については後述することとして、まずはLAN HDDからの再生を見ていこう。
録画済みのLAN HDDを選択すると、画面には、LAN HDD内のDLNAサーバーが管理しているフォルダ・タグの一覧が表示される。パソコンやPLAYSTATION 3など、他のDLNAクライアントでDLNAサーバーを見た時と、同じようなイメージである。少々素っ気なく、分かりづらい印象もある。ここでは映像を記録したわけだから、「Video」を選ぶ。
LAN HDD内を見ると、まずは大まかな分離が表示される。録画映像は「Video」内にある。階層を下りていけば、きちんと番組名や放送ソースなどが分かる形でリストとして表示される |
スカパー! HDチューナとLAN HDDの組み合わせの場合、録画日やジャンルのタグが書き込まれており、それで自動的に分類されている。どちらかで絞り込み、再生することになる。
LAN HDD内では、映像ファイルに埋め込まれた「タグ」で分類が行なわれる。主に使うのは「日付」と「ジャンル」だろう。これらは、録画時にEPGなどから取得した情報を元に自動的に設定される |
操作は基本的にカーソルキーで行なう。「戻る」ボタンは停止ボタンを兼ねる。画面に表示されるUIは、しばらく操作しないと自動的に消える |
映像を選ぶと、チューナは「再生モード」に変わる。映像の上には、画面のようにコントロール用のUIが重ねて表示される。リモコンのカーソルキーの上で30秒前に、下で15秒後ろに映像が戻るようになっている。早送り・巻き戻しは5段階に速度調整が可能だが、最高速でもさほど送るスピードは速くない。中央の「決定」ボタンは、再生/一時停止のトグル動作だ。
これらの操作はすべてLAN越しに、LAN HDDに対して行なわれることになるのだが、「LAN経由である」ことを感じさせるのは、最初の番組呼びだしの時だけ。再生開始には数秒かかるが、トリックプレイを中心としたそれ以外の操作では、反応の遅さなどを特に感じることはない。
とはいえ、単純な「再生」であり、編集やチャプタ設定などの機能はない。機能のイメージとしては、HDD内蔵テレビの録画機能に近い。「録画機」として見ると、非常にシンプルなものといっていいだろう。
なお、再生を途中で停止した場合でも、その位置は記録されるため、再度その番組を呼びだした場合には、問題なく続きから見始めることができる。この辺りは、「録画機」として見ればあたり前だが、DLNA機器として見れば珍しく、ありがたい機能である。
■ スカパー! HDチューナからBDレコーダの中身が再生できる?
スカパー! HDの録画は「DLNA+DTCP-IP」で行なわれている。ということは、スカパー! HDチューナからLAN HDDを直接呼びだすだけでなく、他のDLNAサーバーやDLNAクライアントとの組み合わせも可能なはずである。
すでに述べたように、スカパー! HDチューナからは、録画に使ったLAN HDDだけでなく、他のDLNAサーバーの中身ものぞける。まずは、他のDLNAサーバーの映像が再生できるかどうか、試してみよう。
実際のところ、各DLNAサーバーの中身を見て、フォルダ内にどんなコンテンツがあるのか、というところまでの確認は、かなりスムーズに、問題なく行なえる。ただしもちろん、すべてのコンテンツが再生できるわけではない。以下の結果も、あくまで「想定外使用」の一例である。
DLNAサーバー機能を備えたBDレコーダである「BDZ-X95」の録画番組の場合、DRモードで記録したものは、地デジ、BSデジタル、スカパー! e2どの放送であっても、問題なく再生された。番組の頭には「どの放送のものか」を示すアイコンまで表示されており、LAN HDDの場合と、使い勝手も大差ない。ただし、AVCで圧縮して録画した番組については、映像は再生できたものの、音声はまったく再生されなかった。すなわち「未対応」ということだろう。
パソコンで作成したファイルは、AVIやDivXはもちろん、MPEG-2やAVCも一切再生できなかった。
PC用地デジチューナ「GV-MVP/HS2」で録画した番組を、DLNAサーバー上で公開したものを視聴 |
ただし、同じパソコンをサーバーにした再生でも、きちんとDTCP-IPに対応した地デジ録画機能との組み合わせの場合には、話は別である。今回は、アイ・オー・データ機器のPC用地デジチューナ「GV-MVP/HS2」を使い、PC内の録画データをLAN内で共有してみた。ちなみにこのチューナではAVCなどを使った長時間録画機能は備えておらず、DRモード(ストリーム記録)のみとなっている。そのためか、再生は何の問題もなく行なえた。動作状況も、LAN HDDの映像と同様である。
このような結果から見ると、スカパー! HDのチューナからは、「DTCP-IP対応のDLNAサーバー上の、ストリーム記録の映像ならば再生できる」といえそうだ。ちなみに、アイ・オー・データのPC用地デジチューナは、DLNAサーバーとして、デジオンのDiXiMを採用している。LAN HDD側もDiXiMであったことを思えば、相性が良いのも当然かもしれない。
■ PC用クライアント「DiXiM Digital TV」でスカパー!HDの映像を再生
では逆はどうだろう? 他のDLNAクライアントからは、スカパー! HDの録画データはどのように見えるのだろうか? 先週デジオンより、ついにWindows用DTCP-IP対応DLNAクライアント「DiXiM Digital TV」が発売された。今回はこのソフトを使い、各種DLNAサーバー内コンテンツの視聴もテストしてみた。
DiXiM Digital TVは、比較的動作条件が厳しいソフトだ。CPUパワーもかなり要求するし、搭載チップセットやグラフィックチップの種類などにもセンシティブである。購入前には、同社が公開している動作確認ソフトでチェックしてからの方がいいだろう。
どうやら理由は、「AVCを含む比較的重いコーデックにも対応する必要があること」、「COPPなど著作権保護上必要とする技術が多く、条件の組み合わせが厳しいこと」の両方が重なった結果であるようだ。古いPCやネットブックのような非力なPCで使うには厳しいのが残念なところだ。例えば、再生品質を落として性能の低いPCでも動作するようにした「ネットブック版」などがあってもいいかも知れない。
DiXiM Digital TVは、動かすためのハードルこそ高いが、動いてしまえば後は非常に簡単なソフトだ。実際のところ、設定は一切ない。自動的にLAN内のDTCP-IP対応DLNAサーバーを見つけ出し、映像をリストアップしてくれる。
逆に、DLNAサーバーであっても、DTCP-IP非対応のものは表示されない。その名の通り、あくまで「デジタルテレビ、デジタル放送のためのDLNAクライアント」という位置づけだ。
DiXiM Digital TVの動作画面。LAN内にあるDTCP-IP対応DLNAサーバーにある映像が、まとめて一覧表示される。画面右側に、どの映像がどのサーバーのものなのかが表示されているところに注目 | 今回は、都合3台の対応サーバーを用意し、接続してみた。すべてのサーバーを同時に見ることも出来るが、もちろん、それぞれのサーバーを選択して表示することも可能 |
再生中の画面。映像は、著作権保護技術が働いているため、静止画ですらキャプチャできない |
再生互換性も高い。スカパー! HDで録画した番組だけでなく、BDZ-X95でAVC録画した番組も再生できる。このあたりは、家電機器よりパワフルで柔軟性の高いPCならでは、といえるかも知れない。
再生機能は、スカパー! HDの再生機能同様、非常にシンプルなものだ。15秒送りと早送り・巻き戻しといった、基本的な操作のみ。ただし、BDZ-X95で録画した番組のように、元々はチャプターが設定されている映像でも、それらは反映されない。
■ 重要なのは「サーバーの性能」? パソコンからの「DTCP-IPダビング」も可能に
複数のDLNAクライアントが存在するということになると、やはり気になるのは「同時再生」だ。複数の機器からの同時再生については、主に映像を送出するDLNAサーバー側の性能に依存するようだ。
今回利用した「HVL1-G1.0T」は、同時に2ストリームの映像を転送できるため、スカパー! HDチューナとDiXiM Digital TVの両方で、同時に映像を再生しても問題はなかった。だが、元々「同時出力は1ストリームのみ」という仕様であるBDZ-X95では、後から再生を行なった機器の方でエラーが発生し、同時再生は行なえなかった。このあたりは、HVL1-G1.0Tの方がDLNAサーバーに特化していることもあり、一歩上手というところだ。
また、HVL1-G1.0Tには、地デジチューナ「GV-MVP/HS2」で録画した番組をDTCP-IPを使ってダビングする機能もある。GV-MVP/HS2付属の地デジ録画/管理ソフト「mAgicTV Digital」で録画番組の管理画面を呼びだし、番組を右クリックして「エクスポート」→「DTCP-IPサーバーへのダビング(コピー/ムーブ)」を選ぶと、Webブラウザ上でダビング対象となるサーバーを選び、ダビングを行なう画面が登場する。
ダビングは「mAgicTV Digital」から、番組を選んで「エクスポート」をする、という形をとる | 最終的なダビング作業は、Webブラウザ上で行なう。まず転送先となるサーバーを選択、その後、「ムーブとなる可能性がある」という警告を承認すれば、転送が始まる。終了までの時間はプログレスバーから読み取る |
ちなみに、有線LANのGigabit Ethernet環境の場合、5分ちょうどの番組をダビングし終わるのに、約3分20秒ほどかかった。実時間の7割程度の時間がかかる、と思っておけば良さそうだ。
録画番組は、スカパー! HDチューナのタイトルリストから消去できる。また、HVL1-G1.0Tの場合には、機器自身にアクセスして消去する。といっても、パソコンでファイル操作を行なうわけではない。HVL1-G1.0Tの持つWebインタフェースを使って、「番組一覧から消すものを選ぶ」形で操作するのである。すなわち、HVL1-G1.0Tを保存先に使う場合には、PC(もしくはそれに類する、Webブラウザを備えた機器)がないと、不要な番組の削除はできない、ということになる。
HVL1-G1.0Tの設定・操作用画面。無線LANルーターや一般的なLAN HDD同様、Webブラウザを使って操作す | 録画されている番組が一覧表示されるので、消したいものを選んで「消去」をクリックする。他に同様の機能を持つLAN HDDがあれば、映像を「転送」(ムーブ)することもできるようだ |
まだまだ「家電」というのは少々荒っぽい部分があるものの、DTCP-IPによる「LAN内ダビング、LAN内録画」は、思った以上に便利であり、魅力的なソリューションだ。スカパー! HDのチューナは、このような形の「先陣」となるわけで、開発の難航も頷けない話ではない。
ディスクへのダビングとともに、新たな「ライブラリー化」の手段として、DTCP-IPはなかなか面白い地位を占めそうな予感がする。カギは、来年にかけて、どのくらいのレコーダが対応してくるか、という点になるだろう。もし、多くのレコーダが対応するといった流れになれば、一気に注目される組み合わせになりそうだ。
そのスタートを切る意味でも、一日も早く、スカパー! HDチューナのファームウェア・アップデートが行なわれることを期待したい。
(2009年 7月 23日)