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第430回:Blu-rayはまだまだおあずけ? 東芝「RD-X9」

~ 2TB HDD搭載、USB HDDも使えるフラッグシップ ~



■ 存在感を示す?

 レコーダの発売時期というのは、もうだいたい秋のCEATEC前というのが定番になってきたようだ。今月はちょっとレコーダ強化月間のような格好になりつつある。

 東芝はHD DVD撤退後、'08年6月のRD-X7、そして秋にはRD-X8を発表した。HD DVDは辞めたが、かといってBlu-rayにも行けず、といった苦しいチャンレンジが続いていたが、8月10日にはBDAへの加盟申請を行ない、Blu-rayへ参入する意向を見せた。実際にIFA2009では早くも、Blu-rayプレーヤーも発表し、いよいよ東芝製Blu-rayレコーダも夢の話ではなくなってきたようだ。

 残念ながら今回レポートするRD-X9(以下X9)は、Blu-ray搭載モデルではない。X一桁台としては最後の数字であり、Blu-ray参入を前にした最後のXとなる可能性もある。前回X8の時は、超解像技術を応用したXDEをフィーチャーしたが、今回のX9の目玉は、USB HDDを増設できる点である。従来テレビのREGZAシリーズではUSB HDDやLAN HDDに録画できるソリューションを打ち出してきたが、レコーダにも拡張されたわけである。

 では早速、東芝の新作X9の実力をチェックしてみよう。


■ ボディデザインは変わらず

デザイン的には前作X8とほぼ同じ

 前作X8の時は、フロントパネルを閉じればボタン類は電源ボタンしかないというシンプルかつ大人のデザインが特徴的であったが、今回のX9はそれを踏襲というか、まったく同じデザインである。先週のソニー「BDZ-EX200」も前作と同筐体であったが、完成された筐体であるとはいいながらも、やはり消費者としてはせっかく高額商品を買うわけだから、多少はデザインの目新しさも欲しいところである。

 カバー下部のストライブ部は、以前は電源投入時にブルーに光っていたが、今回は白である。X8とは写真で比較するしかないが、見た目で気づく違いはそれぐらいだ。

 搭載HDDは2TBで、地デジをそのまま記録しても、内蔵HDD内で259時間の録画が可能。圧縮記録であるTSE記録を行なった場合には、HD解像度では最大約1,322時間、SD解像度では最大約2,948時間となっている。HDDレコーダとしては容量2TBというのが今年のトレンドのようで、東芝、ソニー、パナソニックのフラッグシップ機はすべて2TBとなっている。

 前作から搭載されたXDEボタンもそのままだ。ただ前作よりもアルゴリズムが改良され、より自然な形で効くようになったという。これは後でテストしてみよう。

 DVDドライブは、DVD-R 8倍速、RW 6倍速、RAM 3倍速。DVDにHD映像を記録する「HD Rec」もサポートしている。もし今後レコーダにBlu-rayを搭載するとなると、引き続きこの規格のサポートが可能なのか、RDファンにしてみれば、早めにアナウンスが欲しいところだろう。

 背面に回ってみよう。前作同様経年変化に強いステンレスパネルはそのままで、放送波は地上/BS/110度CSデジタルを2系統、地上アナログを1系統装備している。

フロントパネルを開けたところ。ボタン類にも変化はないDVDドライブのトレーはRAMカートリッジ非対応タイプUSB端子が増設された背面

 今回の目玉であるUSB HDDは、背面のUSB端子に接続する。前面にもUSB端子があるが、これはキーボードなどの接続用で、HDDは接続できない。

 背面パネルも前作とほとんど変わらないが、USB端子がある場所は、以前電話線用のモジュラージャックがあった場所である。そういえばそういう視点でこれまで機器の背面パネルを注意して見たことがなかったが、モジュラージャックをなくしたレコーダは珍しい。

黒を基調とした新リモコン

 リモコンも見ておこう。前作とはカラーリングが異なり、今回は光沢のある黒となっている。ボタンで違うのは、4色カラーボタンが半透明の樹脂製がゴム製に変わったこと、「サーチ/文字」ボタンに変わって「録画モード」ボタンが付いたことぐらいだろうか。



■ USB HDD接続の実際

 では今回の目玉である、USB HDDの扱いについて調べてみよう。概要としては、背面のUSB端子にHDDが8台まで接続可能である。ただしこれは、USBハブを使って8台が同時に接続できるということではなく、接続できるのは常に1台だけである。別々のHDDが8台まで登録できる、という意味だ。

 動作確認済みのHDDとしては、アイ・オー・データ機器「HDCN-UAシリーズ」と、バッファローの「HD-CEU2シリーズ」、「HD-CLU2シリーズ」が公式サイトに掲載されているが、それ以外のものでも繋がるようである。ただメーカーではここまでしか確認しないということだろう。

 なお2.5インチHDDにはUSBバスパワーで動作するものが多いが、X9ではこのタイプのHDDは動作しない。ただし、別途外部電源を接続すれば、使用できる。今回はテスト用として、以前ノートPCに入っていた2.5インチHDDを、アキバで適当に買って来た外付けケースに入れたものを使用したが、外部電源を接続すれば問題なく利用できた。

「クイックメニュー」からDVDドライブとUSBを切換

 具体的な使用方法としては、まず録画や再生をしていない状態で「クイックメニュー」から「DVDからUSBに切換」を選ぶ。したがってそれ以降の操作体系としては、DVDドライブの代わりにUSB HDDが収まることになり、ダビング先などの表示も全部、DVDがUSBに入れ替わるわけだ。したがってDVDを見たいなーと思ったら、クイックメニューから「USBからDVDに切換」を選ばないとアクセスできない。

 リモコンやソフトウェアの変更を最小限に抑えてUSB接続機能を実現するために、DVDとUSBを切換式にしたのだろうが、元々RDは多彩な編集機能やダビング機能で人気を博した製品なので、DVDドライブの利用率は案外高いのではないかと思われる。せめてドライブ切換ボタンで3つのメディアがローテーションできると良かったのだが。

 さて、USBに切り替えた後は、HDDをテレビ番組記録専用とするために、登録と暗号化しなければならない。管理設定の「記録用USB登録設定」で、USB登録番号とディスク名を決め、登録を行なう。続いてHDDの初期化が始まり、内容が暗号化される。したがってUSB HDDをPCなどに接続しても、内容を読み取ることはできなくなる。別の用途と共用では使えなくなるので、注意して欲しい。

USB HDDは8台まで登録可能暗号化のためにHDDは初期化される

録画予約時にもUSBドライブへの録画指定が可能

 登録と暗号化が終わったら、あとは内蔵HDDとほぼ同様のことができる。録画予約に関しても、内蔵HDDかUSB HDDかが選択できるようになる。

 またコピーに関しては、DVD以上のことができる。内蔵HDDに録画した番組を通常通りコピーすれば、コピー回数を1回消費してコピーされるだけだが、ムーブを行なうとコピー回数を保持したまま、USB HDD側へ移動となる。本体HDDからはなくなってしまうが、まさに待避先として利用できるわけだ。

GUIとしては、従来DVDドライブがあった場所にそのままUSBが入れ替わる格好ダビング10管理によるコピーや移動は、「高速コピー管理ダビング」を使用

 ただしUSBとDVDドライブが兼用であるため、USB HDD内の映像からDVDを作ろうと思ったら、いったん内蔵HDDに番組を移す必要がある。またそれ以外にも、USB HDDから別のRDへのコピー/ムーブができない、LAN経由のコピー/ダビングができないといった制限がある。コンテンツを活用するためには、いったん内蔵HDDへ移す作業が必要になるという点をよく理解しておく必要がある。

 また暗号化したUSB HDD内のコンテンツは、録画またはムーブしたVARDIAでしか再生できない。USB HDDとVARDIA本体とどっちが寿命が長いかという問題がある以上、コンテンツの保管という用途としてはUSB HDDは使い辛い。せめてB-CASカードを入れ替えれば、別のVARDIAやREGZAで再生できるようになってもいいと思うのだが、このあたりはユーザーから不便であるという声を上げていかないことには、メーカーだけの努力ではいかんともしがたい部分であろう。


■ テレビ連携と高画質化技術

 東芝はテレビのネットワーク化をいち早く推進したメーカーということで、HDMIのCEC以外にも、LANを使った映像操作などに積極的に取り組んでいる。REGZAとVARDIAとの連携に関しては、ここにまとまっている。

TS録画した番組は、レグザリンク経由でLAN HDDや外付けHDD同様に視聴できる

 筆者宅にはREGZA Z3500シリーズがあるので、HDMI CECでの連動はそこそこできるが、ネットワークを使った機能としては、X9で録画した映像をREGZAの「レグザリンク」から視聴することができる。ただしTS録画した番組に限られる。これは著作権法上の縛りというわけではなく、REGZA側にMPEG-4 AVC/H.264デコーダがないからである。

 TS録画したものに関しては、これまでREGZAにLAN HDDなどを接続して映像を視聴していた操作法と全く同じ方法で、映像を視聴することができる。こういったネットワークを生かした強みは、メインのテレビよりもむしろ小型のセカンドテレビにこそ搭載されるとうれしい機能である。

 現時点では、逆にREGZAでLAN HDDに録った映像を、X9側で見ることはできない。テレビが録画機能を持った以上、レコーダが必ずハブになるのではなく、双方向で映像が見られるようになると、家庭内ではもっと自由度が高まるだろう。

 さらに今回は、LAN経由でTS録画番組やスカパー! HDで録画したTSEタイトルをダビングする、「ネットdeダビングHD」を搭載したそうである。あいにく対応機器がほかにないのでテストできないが、将来登場する機器にも引き続き搭載されるのであれば、USB HDDへのコピー/ムーブ同様に使える機能に成長するだろう。

 さて、それでは今回アルゴリズムを見直したというXDEについて見ていこう。基本的には前回同様、ONとOFFしかできないのだが、前回はあまりにも露骨に輪郭補正が行なわれたために、これならば普通のイメージエンハンサと効果がかわらないのではないかと思ったものだった。

 今回見直されたXDEでは、見る人によっては効果がおとなしくなったように見えるだろうが、あまり映像を破綻させることなく、ナチュラルに効くようになっている。実写映像、アニメ映像ともに比較してみたが、どちらかというとアニメ映像のほうがコントラストもはっきりすることもあって、効果がより高いように思われる。

【画像サンプル】

 

XDE ON

XDE OFF

実写

アニメ

 ただXDEは、昨年「Cell TV」として技術展示されたように、複数回のプロセスを重ねることによってより良い結果が得られる技術であると思っている。現時点での1回フィードバック処理では、まだ技術本来の持てるポテンシャルの半分も出ていない。予定ではこの秋にもCell TVが発売されるということになっているので、この技術はそこからが本番であろう。


■ 総論

 今回のX9のリリースは、正直消費者にとって1年待った甲斐があったかと言われると、ちょっとキビシイのではないかと思われる。従来通り高画質、高音質ですよと言われても、以前のRD-Xシリーズのように、満を持して登場という雰囲気は感じられない。あまり代わり映えのしないラインナップをフラッグシップとして次々に投入されても、なにかこうありがたみというか手応えのようなものが感じにくくなってしまう。

 技術的にはUSB HDDが使えることは前進だが、再生環境が本機に固定されることもあって、待避目的にしか利用方法が思いつかない。内蔵HDDが2TBもあってさらに足りないという状況になるとしたら、もはや人生における可処分時間を超えているのではないかと思わなくもない。この機能は、容量の少ないモデルでこそ、威力を発揮するだろう。

 XDEは、他社があまり超解像に関して積極的な製品展開を行なっていないので、東芝にとっては伸びるチャンスである。ただ、1プロセスでは真価が発揮しれない技術でもある。テレビではリアルタイム処理が求められるわけだが、せっかくレコーダに搭載するのであれば、本体内で数回プロセスをかけたものを保存しておいて再生するなどの仕掛けがあってもよかっただろう。

 今となっては、HD DVD時代にデビューしたVARDIAと言う名前も、今ひとつ負の遺産の象徴という感じに聞こえ始めている。東芝にとっては、今はまだ辛抱の時期なのだろう。Xシリーズも9まで行ったことだし、次回Blu-ray搭載モデルを出すのであれば、ぜひ名前も一新して新ラインナップで仕切り直した方がいいのではないかという気がするのだが、どうだろうか。

(2009年 9月 16日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]