鳥居一豊の「良作×良品」

新たなる高画質再生の可能性を開く「DMR-BZT9300」

「紅の豚」でマスターグレードビデオコーディング検証

DMR-BZT9300

 今回の良作は待望のBD化となった「紅の豚」、そして良品はパナソニックのBDレコーダ「DMR-BZT9300」(実売価格29万8,000円)だ。昨年12月にも紹介済みの製品だが、詳しい人ならご存じの通り、この組み合わせに意味がある。

 それは、このところジブリ作品を中心にタイトルが発売されている「MGVC(マスターグレードビデオコーディング)」というもの。もともとBDソフトは仕様上、色信号は24bit(Y/Cb/Cr 8bit×3)で記録されるが、MGVCは3Dソフト(MPEG-4 MVC/H.264)がフルHD解像度の映像を左右両方収録する仕組みを応用し、通常のBDソフトを互換性のあるフルHD信号(24bit)と色信号を拡張する信号を収録している。

紅の豚 Blu-ray
(品番:VWBS-1444)
(C)1992 二馬力・GNN

 一般的なBDレコーダでは、24bit記録の映像を再生できるが、対応レコーダならば拡張信号をデコードすることで36bit(12bit×3)の色階調表現が可能になる。その対応レコーダが現状ではDMR-BZT9300ただ一台というわけだ。

 聞くところによれば、MGVC自体は数年前から開発されており、DMR-BZT9300は試作モデルの段階から検証用の機器として使われてきたそうだ。MGVCとしての規格がきちんと決まり、ソフトが発売されたため、検証用だったMGVC対応機能をアップデートして正式に対応させたわけだ。決して多くの人が買える価格のモデルではないが、こうした新機能が後から追加されるというのもハイエンドモデルを購入した人にとっては満足感を得られるものとなるだろう。

 ちょっと面白いのは、MGVCのマスターグレードという名称。これは、ガンプラでおなじみのバンダイの商標で、MGVC機能の説明や対応ソフトには、それを示す表記もある。ジブリ作品のアニメにバンダイの名前が入っているというのもちょっと変な感じだ。わざわざこうした名称を採用した理由を考えるに、BDソフトを購入するユーザーの多くがアニメファンであり、アニメ作品のBDソフトの売り上げも好調なため、あえてアニメファンならばピンとくる名称とし、発売タイトルもアニメ作品が多いのだろう。さらに妄想を膨らませれば、当然ながらMGVCで「ガンダム」作品が発売されるのではないかという期待してしまう。多くのガンダム作品はすでにBD化済みではあるが……

 とはいえ、36bitの高階調映像は、アニメ作品だけでなく実写作品でも効果の高いものなので、対応機器の増加に合わせてより実写作品を含めたタイトルの充実にも期待したいところだ。

比較的コンパクトなサイズながら、ずっしりと重い筐体

 さておき、さっそく視聴の準備をしよう。タイミングよく、我が家のホームシアター専用ルームにもスクリーンとプロジェクターの設置が完了したので、今回の視聴は120インチスクリーン(オーエス ピュアマットIII)とVPL-VW200の組み合わせで行なった。VPL-VW200は3Dも非対応だし、4K表示でもないちょっと古いモデルだが、映画館で使われる映写機と同じキセノンランプ搭載モデルで忠実度の高い色を再現できることで高く評価されたモデルだ。

 実は僕自身も、リファレンス機としてDMR-BZT9300の導入を検討しており、今回の視聴をそれを見据えたチェックも兼ねている。職業上の役得ではあるが、言ってしまえば購入するかどうかの検討なのだから、当然テストは厳しく行なう。

 箱から出したDMR-BZT9300は、他のDIGAシリーズに比べれば一回り大きいが、それでも十分にコンパクト。しかも重い。鉄の塊かと思うくらい剛性感が高く、相変わらず凄まじいモデルだと感じる。

天板、側板ともにアルミ押し出し材のパネルを採用。目に見えないアンダーシャーシは3層構造としている。ハイエンドモデルにふさわしい作りだ。
ボディサイズ自体は薄型だが、3層のアンダーシャーシ部分が盛り上がっていることがわかる。全体的な高さも増し、迫力のある顔付きだ
同じく側面図。ヘアライン仕上げのアルミパネルを備え、剛性を高めるとともに品位の高い外観にしている

 そして、圧巻なのが背面端子。HDMI 2系統の出力はもちろんのこと、アナログ音声出力にバランス出力端子も装備している。本機が画質だけでなく音質にも徹底してこだわっていることの現れだ。専用に開発されたオーディオ回路は、32bit/192kHzDACを採用し、ネットワーク再生機能ではハイレゾ再生にも対応しているという力の入れ具合だ。

背面図。Ethernetはノイズ対策のためコモンモードフィルタを装備。アナログ音声やデジタル音声出力端子は金メッキ端子を採用。このほか、2系統のUSBはひとつがUSB 3.0となるなど、機能面でも最新鋭
デジタル/アナログ音声用端子群のアップ。バランス出力端子が迫力たっぷりだ

 今回は、純粋にBD再生の実力を試すということで、放送用のアンテナやB-CASカードを外し、HDMIケーブルとアナログ音声ケーブルだけをプロジェクタとAVアンプに接続した。BDレコーダとして高い機能を誇るだけに、こういう使い方は贅沢の極みで、僕も実際に手に入れれば、テレビ録画が行なえるように運用するが、取材のテストのため、最小限の配線だけとして、可能な限りノイズの影響をなくすようにした。

各種設定も、可能な限り画質と音質を優先

音声設定にある「シアターモード」の設定。シアターモード中はHDDや冷却ファン、チューナーなどを停止させるプレーヤーモードだ(予約録画も行なわれない)。BDやDVD再生のほか、ネットワーク再生などでもこのモードが使える

 続いて設定だ。基本的な設定はDIGAシリーズと共通なのだが、BZT9300ならではの部分も多い。まずはプレミアムモデルだけの「シアターモード」を「入」。これは音声設定にある。続いてハイクラリティサウンド出力を「入」とし、出力設定も行なう。これは、HDMIで映像を出力する時にはアナログビデオ回路をオフにするなど、使用しない回路の停止させることでノイズの影響や干渉をなくすもの。動画再生用と音楽再生用の設定をすることができるので、使用する出力端子に合わせて切り替えておく。今回は動画再生時の出力選択で、映像出力を「HDMIのみ出力」、音声出力を「アナログのみ出力」とした。

 HDMI接続の設定では、HDMI(SUB)出力モードを「音声専用」に切り替えた。アナログ音声出力を使用するので不要な設定と思われるが、これをすることで、HDMI(MAIN)は信号出力が映像のみになる。受け側がプロジェクタなので大きな影響はないと思うが、今回は神経質なまでに不要な信号のやりとりをさせないように配慮した。パナソニックがDMR-BZT9300内部で徹底した低ノイズ思想を、AVアンプやプロジェクタとの組み合わせでも実践したわけだ。

ハイクラリティサウンド出力設定。写真では映像/音声が「HDMIのみ出力」になっているが、視聴では音声を「アナログのみ出力」に切り替えた。音楽再生では、映像出力の停止などよりこだわった設定も選べる
HDMI接続の設定では、HDMI(SUB)出力モードのほか、HDMIカラースペースを(YCbCr 4:4:4)にするなどの設定を行なった
HDMI(SUB)出力モードの設定。音声専用を選ぶとHDMI(MAIN)が映像のみ出力となり、映像と音の独立出力となる

ちょっとわかりずらい場所にあるMGVC設定

 最後は肝心のMGVC設定だ。初めてMGVCを試したときには、画質に関わる再生設定なので映像設定などにあるかと思い、目当ての設定が見あたらずに苦労した。実際、階層の深いところにあるので、最初は戸惑うかもしれない。

 初期設定の「HDD/ディスク/USB HDD設定」に「再生設定(再生専用ディスク)」の設定があり、ここに「MASTER GRADE VIDEO CODING」設定がある。といっても、操作は「入」にするだけだ。早見再生(1.3倍速)ができなくなり、早送りの時に音声が出力されなくなるので、必要に応じて使い分けよう。

 また、テストということもあって、ひんぱんに「入」と「切」を切り替えながら比較視聴したので、少々操作が面倒だった。もっと切り替えやすい場所に位置を変えるか、BD再生時のサブメニューで操作できると良い。

MGVCの設定では、まず初期設定メニューで「HDD/ディスク/USB HDD設定」を選択、続いて「再生設定(再生専用ディスク)」を選ぶと、ようやくたどり着く
MGVCの設定画面。ここで「入」と「切」を選択する

 続いては、再生設定メニューにある映像詳細設定を確認。といっても、「ディスプレイ」を「プロジェクター」とし、「映像素材」を「アニメ」にしただけで、ほぼ初期設定状態のままとした。今回はより良い実力を引き出すための調整はせず、MGVC本来の実力をストレートに確認したかったためだ。

 映像の調整メニューは本機だけがかなり充実している。そして、テレビ放送などの視聴時と、BD再生時ではそれぞれに調整値が個別にメモリーされる。たとえば、ノイズリダクションを集めた「HDオプティマイザー」は、テレビ放送時ではすべて「+2」となるが、BD再生時だと「0」になっている。このほか、「リアルクロマプロセッサplus」で色再現関係、超解像/ディテールクラリティで精細さの調整ができる。このほか、輝度調整では明部階調と暗部階調を微調整できるので、かなりの追い込みが可能だ。

「再生設定」にある「映像詳細設定」の画面。「ディスプレイ」は「テレビ」か「プロジェクター」が選べる。映像素材は「アニメ」のほか「シネマ」や「ライブ」なども選べる
「HDオプティマイザー」の設定画面。BD再生時ではデフォルト設定のまますべて「0」。ノイズの多い作品のときだけ使うといいだろう
「リアルクロマプロセッサplus」もBD再生の初期設定値のまま。色の帯域は垂直・水平ともに「広」のままで常用していいだろう
「超解像/ディテールクラリティ」で、精細感の調整が可能。精細感(輝度高域)と先鋭感(輝度中域)を独立して調整できる

ビデオテープの時代から再生が難しいタイトルだった「紅の豚」

 では、準備が整ったところで、さっそく上映といこう。室内を全暗とし、120インチのスクリーンに投影すると、まさに映画館にいるようだ。「紅の豚」は、ジブリ作品(というよりも宮崎駿作品)のなかでは、数少ない大人向けの作品となっていて、もともとはもっと小規模な短編作品として企画されていたようだ。押井守が「スカイ・クロラ」で宮崎駿の空中戦を超えたと言い、マクロスシリーズでリアルな空中戦を描いた河森正治がマクロス以前の空中戦は宮崎駿の作品以外はまるでリアルじゃなかったと言うなど、宮崎駿の描く飛行シーンは同業者の間でも評価が高い。その飛空挺が主役の物語なのだから、ある意味宮崎駿の真骨頂と言ってもいいくらいだ。

 僕自身は年齢的にも最近のジブリ作品は少々肌に合わなくなってきたが、公開中の「風立ちぬ」はきちんと劇場で見に行こうと思うくらい、宮崎駿が飛行機を題材にした作品は別格という気がしている。

 実際、メディアが切り替わるごとに見返している作品のひとつなのだが、これまでずっと劇場での映像に及んでいなかった。なんと言っても、主役である「紅」の再現が難しい。ブラウン管も赤は再現が難しい色だったし、アナログ記録では濃厚な赤はすぐに飽和してしまい、あの美しいシルエットの飛行艇がぼってりとした赤い塊になってしまうのが興醒めだった。これはLDでも同様の印象。

 DVDになって、赤の膨張はかなり改善され赤い飛行艇がすっきりと見えるようにはなったが、赤色自体が鮮やかではあるものの、劇場での色とはやや違うように感じた。そして、この頃から登場し、現在の主流となった液晶テレビは赤が苦手で、最近になって各社で本格的に赤の再現性を高めた製品が登場しているくらいなのだから、とにかく、この映画の色再現はディスプレイ泣かせだったと記憶している。

BDソフトで初めて蘇った「映画館の紅色」

 まずは、MGVCを「切」のままで視聴。この状態だと、BDレコーダ自体の画質性能による差はあるが、他のBDレコーダと同じ条件での視聴となる。冒頭の暗幕に浮かぶ作品タイトルを見ただけで「あっ、劇場の赤が出ている」と感じた。BDソフトになって、初めてアニメのセルの色が本物っぽく出るようになったと感じることは少なくないが、「紅の豚」もようやく劇場の映像と肩を並べる表現が出来たと感じた。当たり前の話だが、MGVCだから凄いというわけでなく、普通のBDレコーダやBDプレーヤーで見ても十分に感激できるクオリティだ。

 子供たちをさらった空賊一味を追うポルコ・ロッソの飛空挺の動きは爽快かつ俊敏で、鮮やかな紅色がきちんと再現されることで、動きのキレの良さも一層増したように感じる。実際、解像感は極めて高く、現代の作品から考えると恐ろしいくらい小気味よく動く作画の細かいところまでよく見える(セル影なども目立つようになってしまったが)。モブシーンでもよくぞここまで細かく動かしているな、と思うし、贅沢に背景画を使わずに画面全体をすべてセル画で動かしてしまうシーンでは、アナログ時代のアニメ職人の仕事に唸らされる。特に飛行艇は高速になればなるほど船体や翼が不規則にブレていくが、ブレながらもディテールは鮮明だ。これは、BDソフトの実力だけでなく、BZT9300の解像力の高さもポイントだろう。

 ミラノで修復された飛空挺を大胆にも運河で飛ばしてしまうあたりの高揚感と飛翔したときの美しい空も素晴らしいし、空中を自在に飛び交う飛行機や飛空挺の動きに魅了されてしまう。もちろん、そこに描かれる大人のドラマも今まで以上に感情移入できる。大人のやせ我慢ぶりというか、見栄や建前で本心を隠してしまう不器用さ、セリフこそ粋だが年を重ねた姿や顔をとてもカッコいいとは思えない中年の豚やおっさんたちが、どうしようもなくカッコよく見えてしまうのが不思議なくらいだ。

 MGVCなしの視聴でも満足度は十分で、ハイエンドモデルの底力を堪能させてもらった。そして、「果たして、これ以上良くなるなんてあるのだろうか」とさえ思った。

大きな印象は変わらないものの、映像の密度感や色の深みに差が出てくる

 続いては、どのくらいに画質が向上するかが楽しみなMGVCでの再生だ。冒頭からもう一度見直したが、正直言うと一目でわかるような明らかな違いはない。見始めてすぐは「これならば、MGVCで見るためだけなら、高価な本機を買う必要はないかな?」と思ったほどだ。

 あっ、と思ったのは、ポルコ・ロッソの乗る紅の飛行艇だ。1992年製作の劇場用アニメーションでもちろんオリジナル素材はフィルムだから、グレイン(フィルムの粒子)はある。特に赤い船体にグレインが目立つ。僕自身はグレインがあるほうがフィルムらしいとは思うが、鮮やかな紅色にグレインがちらつくため少々雑味のある印象になる。

 このグレインのちらつきが収まってしまったのだ。色階調が24bitから32bitへ拡張されたことで、グレインのような微妙な色の変化がきちんと記録でき、いわゆる誤差エラーによるチラつきがなくなったものと想像する。グレインの粒子自体も粒が小さくなった印象で、映像がぎゅっと詰まったような印象になる。映像が見やすくなるという意味でも、この効果はMGVCの大きなメリットと言っていいだろう。

 このほか、何度かMGVCのオンオフを繰り返して確認しないとわからないレベルだが、均一と思われるヌケの良い空の色や、海面付近で微妙に色を塗り分けたとわかる空色の変化する部分でMGVCオフではわずかなカラーバンディングが生じていることに気付いた。単独で見ていたらまず気付かないが、撮影で加えたわずかな光の調子の変化や、色が塗り分けられた部分の境界付近で、スムーズな色の変化がぎこちなくなっている。

 もちろん、MGVCは不自然に色が変化するようなことはなく、実になめらか。だから、雲ひとつ無いベタ塗りの空はヌケの良さが増しているし、背景画はタッチや紙の質感までわかるほど微妙な濃淡がしっかりと出ている。

 これは海面の描写も同様で、海の青は色が濃いこともあって深みを増す。空と海が舞台の作品で、このように雑味の少ないピュアな再現ができることは重要なポイントだ。

MGVCオンの表示。オンにすると、赤い船体の汚しが明らかに多く感じられる

 もっとも驚かされたのは、エンジントラブルが原因で撃墜されたポルコ・ロッソがミラノのピッコロ工場へ傷ついた船体を運び込むシーンだ。工場内に運び込まれた胴体部分だけの無残な船体は、セルイラストのように単なる塗り分けに加えて汚しが追加されたものになっているが、その傷や汚れが格段に増えている。

 これについては正直、「俺は今まで何を見ていたんだ!!」という気持ちになる。墜落して海中に没し、(それを引き上げ)列車で長い距離を運ばれたシーンがその前にあるのに、そこまでして船体を残そうとし、「作り直した方が安い」と言われたほどのダメージにも関わらず修復を選んだポルコ・ロッソのこだわりを薄っぺらく感じていた。それほどダメージを受けた船体が「きれい」なはずがない。フィオにあえてそう言わせたのもポルコ・ロッソの愛着に同感であること、飛空挺を愛するふたりのつながりを見せる演出だったのだろう。

 つまり、ここで船体がボロボロに見えなければ、作り手の意図が伝わっていないということだ。MGVCは、他のタイトルでも監督など作り手が高く評価している。監督にしてみれば、自らがこだわったポイントをそのまま見てもらえるということへの喜びがそのまま評価になっているだけなのだろう。これぞまさに、「作り手の意図に忠実な映像を再現する」ということだ。

 また、当然ながら階調感が向上することで、空に浮かぶ雲などの明るい部分の階調もしっかりと出る。カーチスとのリターンマッチの前夜、ポルコが語る雲の平原の場面も、映像が実に雑味のない清潔さが出ていて、おそらくは死後の世界であろう場所の静謐さがよくわかる。うっかりしていると、「昔のアニメとはいえここまでベタ塗りの空が続くと単調だよな」とか言ってしまいかねない場面だ。ベタ塗りの均一な背景はグレインやノイズのチラツキが目立ちやすいので、多用されると視聴者としては見づらいので、ついつい小言のひとつも言いたくなってしまうのだ。

 僕を含む視聴者には気付きにくい部分も多いのかもしれないが、ここまで再現されると作り手としてはうれしいだろうと思う。宮崎駿によるBDやMGVCの画質についてのコメントが表に出ることはないように思うが、おそらくは本人もかなり満足していると思う。

MGVC対応により、次のステップへと進んだBZT9300の映像美

 DMR-BZT9300の画質と音質は、BDレコーダの枠を超えて専用の高級BDプレーヤーにも迫る高い実力を備えている。そこにMGVC対応という新要素が加わったことで、このモデルが目指したオリジナルそのままの再現がさらに新たな次元に到達したと思う。

 今後MGVCはパナソニックの新モデルで普及モデルを含めて対応すると思われる。それは当然のことであり、フォーマットとしてのMGVCは他社のBDレコーダ/BDプレーヤーを含めて普及していくべきだと思う。誰でも見られるようにならなければ、作り手の喜びもぬか喜びで終わってしまう。

 その一方で、MGVCの豊富な情報量を生かしきり、これまでの印象が大きく変わるような体験ができるのは、DMR-BZT9300クラスの実力があってこそ、とも思う。悩ましいところではあるが、それだけの凄みを感じる映像を見せてくれた。

 最後に付け加えるならば、音の良さも改めて感心した。「紅の豚」の音声はオリジナルそのままのDTS-HD Master Audio 2ch収録なのだが、恥ずかしながら視聴時はまったく気にならずに、むしろ「これってサラウンドだったっけ?」と思うほど奥行き感の豊かなステレオ音場だった。低音が、高音が、ということではなく、S/Nが驚くほど高く、微小な音まで鮮やかに再現する能力と、高解像でありながらしなやかな音色は非常に自然で、ちょっと昔の映画の柔らかな音声の感触さえ感じさせてくれる。

 大事な作品を、作り手の意志はもちろん、ありとあらゆる部分まで味わい尽くしたいと思うとき、DMR-BZT9300はそれに応えてくれる機器の一つだと改めて思う。MGVCでその価値はさらに高まった。後継機の登場も気になるところだが、ぜひとも手に入れたいと思う名機であることは間違いない。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。