鳥居一豊の「良作×良品」

最高の画と音を楽しめるBDレコーダ「DMR-BZT9300」

「ダークナイト」3部作。ヒーローとしての人間と闇

 この連載も気がつけばこれで1年を超えることができました。良いソフトと良いハードという二重の縛りでネタ切れになることもなく続けられたのは皆様の応援のおかげだと素直に思います。今後ともよろしくお願いします。

ダークナイト ライジング
ブルーレイ&DVDセット(3枚組)

 今回は、個人的に待ってましたのネタであるクリストファー・ノーラン監督による「ダークナイト」3部作だ。国産の数多のヒーローと幼少から少年期、現在に至るまで一緒に成長している筆者にとって、悩めるヒーローを描いた作品は和物が一番だと断言したいところ。しかし、最新作もなかなかの出来だった「スパイダーマン」、「X-MEN」などのアメコミヒーローの本気度100%のドラマと映像を見ると、少々日本のヒーローの分が悪いと言わざるを得ない。「ダークナイト」3部作に至っては、脱帽だ。

 しかも、2作目の「ダークナイト」以来、IMAXカメラを要所で使用し、最近流行の4Kデジタル撮影以上に解像感あふれる映像で重厚なドラマを見せてくれるという点でも、画質・音質にこだわる人にとっても見逃せない作品となっている。

DMR-BZT9300

 ここに組み合わせる良品は、パナソニックのBDレコーダ「DMR-BZT9300」。実売価格でおよそ38万円(これでも少し値下がりした)という高級モデル。DIGAシリーズでも別格の存在である「プレミアムモデル」で、天面や側板をアルミパネルで補強、下面のシャーシに至っては3重構造という徹底したもの。こうした物量投入型の作り込みは昨年モデルの「DMR-BZT9000」も同様だが、本機では処理速度を2倍に向上した「新ユニフィエ」を搭載。機能はもちろんのこと、画質・音質の処理もさらに精度を高めたモデルだ。

 前々回のソニーのBDZ-EX3000でも、4K映像時代を見据えた画質・音質に対応した機器は大きな進歩を果たしていると言ったが、本機も同様だ。新搭載の4Kアップコンバート出力は、同社独自の「4Kダイレクトクロマアップコンバート」を採用。映像ソースを一度ハイビジョン解像度(1,920×1,080)に変換してから、再度4K変換するのではなく、一度の変換で4K化を行なうもの。変換を一度で済ますため、変換誤差などによる劣化がなく、鮮度の高い4K映像を再現できるという。残念ながら、我が家には4K再生環境がないため今回はテストできなかった。このあたりは来年にはなんとかしたい。

コンパクトに見えて、ずっしりと重いボディ。鉄の塊かと思わせる剛体感

 さっそく、編集部から届いた製品を開梱する。見た目はコンパクトなのに、ずっしりと重い。その重さのため、両手で丁寧に箱から取り出し、ラックにしっかりと設置する。

 それにしても、重いし硬いボディだ。重量は7.7kg。両手に持って力を加えてみても歪んだりするような感じはなく、鉄の塊のようだ。特に底面は、凸凹としたリブ補強などのない、フラットで厚みのある鋼板でカバーされている。これだけの作りをしているのも異例だが、こういった剛体設計や重量は音質にも大きく効果があるので期待がつのる。

DMR-BZT9300の正面。天面のアルミパネルが上部にも続いているため、多少印象は異なっているが、基本的なデザインは下位モデルと共通。パネルは前面がハーフミラー処理となる
正面パネルを開いたところ。USB端子やSDカードスロット、B-CASカードスロットがある
背面。BDレコーダでは唯一のバランス音声出力端子が迫力。HDMI端子は2系統で、USB端子は2.0端子と3.0端子の両方を備える。電源は3極端子を採用。ちなみに、側板や天板の厚さもここで確認できる
DMR-BZT9300の側面。ヘアライン仕上げに加え、3本のラインも入っているなど、見た目の仕上がりも良好だ
フラットな底面。拳で軽く叩いてみても、コツコツと硬い。実に頑丈なシャーシだ。インシュレータは、セラミック採用
付属の電源ケーブルは、3極タイプの極太ケーブル。作りも良く、折り曲げずに収納されているのにも好感が持てる

 例によって、ウォームアップを兼ねて初日は視聴を行なわず、テレビ放送の録画など、BDレコーダとしての機能を一通り確認した。最長15倍の長時間録画は、内蔵エンコーダが3基となったため、3番組同時録画でも残り一つが変換待ちとなることがない。そして、DLNA配信のストリーム数が2つとなり、同時に2つのクライアントへ番組配信などを行なえる。さらに、従来はできなかった変換ダビング中やBD再生時(シアターモードを除く)でも、DLNA配信が可能。同様に、スカパー! HDとの連動録画中でもBD再生ができてしまう。これは使い勝手が大幅に高まる。

 このほか、外付けHDDの増設がUSB 3.0対応となったこともあり、USB HDDだけで3番組同時録画や長時間録画が行なえるなど、内蔵HDDとほぼ同様の使い勝手を実現し、レコーダとしての実力はかなり高まっている。番組表の高速な表示やサクサクとしたレスポンスの良さなども使っていて快適だ。とはいえ、これらは「新ユニフィエ」搭載モデルならば対応しているもので、本機だけの機能というわけではないが。

付属のリモコンは十字キー部分を改良。タッチパッド部分はやや小さくなったが、スライド操作などは従来通り行なえる

 もうひとつのポイントは、リモコンの改良だ。本機のほか、DMR-BZT830に付属する無線タイプのリモコンは、今回からタッチパッドと十字キーが独立し、操作性が格段に向上した。先代のリモコンはタッチパッドの上下左右に十字キーがあり、中央に決定キーあったため、決定を押したつもりで十字キーの上が反応するなど、使いにくいところがあったが、これらの操作ミスが解消され、非常に使いやすくなっている。

 もうひとつ追加しておきたいのが、今秋のソニー機で注目されているもくじ機能。録画済み番組の詳しい内容をリスト表示し、見たいシーンに移動できる機能だ。同様の機能はパナソニックではすでに搭載済みだ。この番組視聴サービス「ミモーラ」は月額315円の有料サービス。有料であるため注目度は低いかもしれないが、実は番組の内容表示までは無料で利用できる。番組移動をしたいとなると、有料サービスに登録する必要がある。無料でもある程度便利に使える。

録画一覧リストで番組を選び、一時停止ボタンを押すと「シーン一覧」が表示される。この表示までは無料で登録不要で行なえる。ここでの時間表示を頼りに移動すれば、見たいシーンを探しやすい
番組移動をしようとすると、ミモーラへの登録を促す画面が現れる

 本題は、当然画質・音質の良さだ。放送を見るだけでその威力がはっきりとわかってしまう。実用上で言えば、画質や音質は、DMR-BZT830などの下位モデルも十分に優れた実力を持っているのだが、その差は別格で、型番通りケタ違いに良い。

 おそらくはノイズ低減の徹底のために、映像のノイズが極めて少ないことが大きな差の要因。放送由来のMPEGノイズもよく抑えられているし、暗部に乗るランダムノイズが少ないため映像に清潔感がある。まさにベールを一枚剥いだような画質だ。

 音質も低音の伸びやキレ味の良さを感じ、AAC音声とは思えない情報量の豊かな音が聴ける。こちらもS/Nの向上で埋もれていた細かな情報がよく出ているのだろう。

低ノイズのための徹底した設定に脱帽。映像調整もかなり強化。

 日を改めて、本格的な視聴に入る。まずは画質チェックソフトを使ってディスプレイ側の画質調整で明るさとカラーバランスを整える。色の情報量が多いため、一見すると鮮やかで濃いめの色再現に感じるのだが、カラーチャートを見ると明るさと色の濃さのバランスはほぼニュートラル。基本的な素性はかなり素直なものとなっているのはさすがだ。もちろん、輪郭周りの白いフチドリ(オーバーシュート)もよく抑えられている。

「ハイクラリティサウンド出力設定」。ここまで細かく出力設定を行なえるのはBDプレーヤーを含めても少ないだろう。音楽再生時に映像出力をオフとしていてもリモコンで手軽に映像出力を復帰できるなど、使い勝手も配慮されている

 続いては画質・音質周りの設定の確認だ。映像出力設定や音声出力設定などは基本通りに行なえばよいが、本機独自と言えるのが「ハイクラリティサウンド出力設定」。これは、動画再生時と音楽再生時のそれぞれで、使用する出力端子を設定しておくと、使わない出力端子への電源をカットして不要なノイズを抑えるというもの。

 2系統のHDMI端子をテレビとAVアンプの両方に接続する場合は、それぞれの出力も個別に設定可能。動画再生時でも、映像はHDMI出力、音声はアナログ出力といった設定もできる。音楽再生時は、映像出力の停止も設定できる徹底したものだ。特に本機は、24bit/192kHzのネットワークオーディオ再生にも対応しているので、CD再生や音楽再生用として考えている人も多いだろう。そんな使い方でも、不要な回路からの悪影響を遮断し、専用プレーヤー的に使えるようになっているのはうれしいだろう。この設定は一度行なえば、後は動作状態に合わせて自動で切り替わり、音楽再生中に選曲のために画面の表示が必要になる場合も、リモコンですぐに復帰できるなど、使い勝手も良好だ。

 さらに、プレミアムモデルでは定番となった「シアターモード」は、HDDやチューナの電源オフに加えて、冷却ファンも停止するようになり、さらに徹底したものになった。これらの機能は一度使えば、その効果に驚き、多少の不便さ(再生中は予約録画さえできなくなる)があっても、使い続けることになるだろう。

映像詳細設定の画面。従来に比べてかなり項目が増え、それぞれ細かく設定できる。

 そして、映像メニューもかなり強化された。従来までは必要最小限の選択のみで、基本的には出荷時設定のまま最高の実力を発揮できるというものだったが、4Kプロジェクターとの組み合わせ、好みに合わせて画質をチューニングする高度な使い方にも対応できるようになってきた。もちろん、デフォルト状態できちんと作り込んであり、一般的な使い方ならば使う必要はない。そのため、映像調整を呼び出すボタン「再生設定」は、リモコン下部のカバー内に隠すように配置されている。

 映像設定を一通り確認していく。HDオプティマイザーは、ノイズリダクション効果を4つに分類し、それぞれ細かく調整可能になっている。今回はBD再生なので、すべて「0」(オフ)とした。初期設定ではすべて+2となる。確認してみると、+2としてもディテール感に大きな差は出ないので、ソースにもよるが基本は初期設定のままでもいいだろう。

 「リアルクロマプロセッサPlus」は、クロマアップサンプリングの調整や、色の濃さ、色合いを調整する。ここは初期設定のまま。色の帯域は垂直/水平とも「広」で問題ないし、色の濃さや色あいはテレビ側で調整済みだ。

 いろいろと調整を行なったのが、超解像/ディテールクラリティ。映像の輝度的な精細感を調整するもの。高域と中域が独立して調整できるようになっている。おおざっぱに効果の出る部分を言うと、精細感(輝度高域)は、映像の質感に差が出るが、上げすぎるとフィルムグレインも強調されやすい。フルHDのテレビでは、映像のザラつき具合に違いが出る程度で、4K表示で効果が出そうな帯域だと思われる。先鋭感(輝度中域)はディテール感に効果が大きく出る。服の生地の質感や肌の皺、遠景の山の木が茂っている感じなど、違いが分かりやすい。

 今回は、精細感をフィルムグレインが目立ちやすくなる手前まで、先鋭感を輪郭に不自然さが出なくなる手前まで上げてみた。つまり「ダークナイト」3部作の解像度の高い映像に徹した調整だ。

「HDオプティマイザー」の調整画面。地デジ放送などノイズが目立ちやすいソースでは、積極的に使いたい。アナログ入力やアナログ放送時代の映像などでは、「ドット妨害・クロスカラー低減」が役立つ
クロマアップサンプリングの調整と、カラーバランスの調整が行なえる。基本的には初期設定(写真の状態)のままで問題なさそう
超解像/ディテールクラリティの調整画面。精細感はマイナス方向の調整でフィルムグレインの抑制にも効果がありそう。先鋭感はディテール感が大きく変化する。このほか色の精細感や輪郭強調の調整も行なえる

 音質調整については、基本的には従来通りだ。入力信号をアップサンプリングし、なおかつ圧縮音声の劣化を復元するリ.マスター(弱/標準/強)と、真空管の音質をシミュレートする真空管サウンド(1~6)がある。ナイトサラウンドは深夜の小音量でもサラウンド効果が得やすくなるもの。アップサンプリング周波数は、96kHzと192kHzが選べる。これはAVアンプなどが対応している入力周波数に合わせればいいだろう。

音質効果設定は、基本的には従来通り。音質効果周波数はアップサンプリングを行なう周波数のことで、96/88.2kHzと192/176.4kHzが選択できる
音質効果の選択メニューは従来通り。今回は「切」を選択しているが、リ.マスター標準は地デジ放送がより豊かな音質になるのでオススメ。真空管サウンドは音楽再生時に好みで選ぶといいだろう

正義と悪の相克というシビアな問題に真っ向から向き合った「バットマン・ビギンズ」

 いよいよ上映開始だ。この3部作をすべて見ている人ならわかってもらえると思うが、完結編の「ダークナイト・ライジング」だけでも成立するところを、3部作すべて通して見るという暴挙(しかも2周した)をどうして師走の多忙な時期に行なったかに触れたい。

 個人的に、この3部作を貫くテーマは、石ノ森章太郎の数々の特撮ヒーローの原作での題材でもあり、ヒーローによる犯罪の抑止効果、法に縛られない正義と悪との境界などなどはそれこそ30年以上考え続けている問題だ。その回答(解釈)は無限のバリエーションがある。だからこそ数多のヒーロー作品が生まれているわけだが、説得力のある回答を提示できる作品は決して多くはない。本作は3部作を通してこの問題を描き続けることで、ひとつの回答を示してみせた。そこに価値があると考えるからだ。日本の特撮ヒーローに関わる人は本作を見てショックを受けてほしいし、このレベルで徹底的に考えてみてほしい。日曜日の朝の番組に反映してほしいわけではない。こういう世界に通用するレベルの作品づくりができるはずだし、トライしてほしいという要望だ。

 まずは「バットマン・ビギンズ」。ここではバットマン誕生の秘話が描かれる。3部作の舞台となるゴッサム・シティは、どんどん外見上は普通の都市になっていくが、第1作は、都市を結ぶ鉄道などに原作のダークなムードを残しており、雰囲気豊かな表現を求められる。DMR-BZT9300で見ると、黒の粘るような階調感が見事で、井戸に落ちたウェイン少年の恐怖、闇に溶け込むバットマンの姿を、真っ暗の中の黒い姿を鮮やかに浮かび上がらせる。暮れなずむ街の中、ビルの頂にたたずむバットマンの姿も鮮烈な印象で、階調表現の豊かな夕陽の赤と下界を見下ろす黒いシルエットのコントラストが、鳥肌が立つほどカッコいい。

 映像のインパクト以上に感心したのが、音だ。日本の忍者を思わせる装束や鎧を着て修行を積むウェインの刀による格闘場面は、ヨロイのきしみ音やつばぜり合いで発する金属のこすれる音が実に生々しい。大きな爆発の後、熱で膨張した金属が収縮するときに発するかすかなカンカンという音は、空冷エンジンのバイクに乗っている筆者にはリアルすぎる再現と感じたほどだ。ここまでの再現はDMR-BZT9300でないと気付かないかもしれない。それくらい微小な音の再現であったり、雰囲気の描写力なのだ。しかし、それがあるからこそ、人間らしい迷いや感情に揺れ動くヒーローの姿がより生々しく感じられる。ハンス・ジマーの音楽も深みがあって豊かに広がる。重厚なドラマに相応しい重量感で、低音域の伸びの良さ、解像度の高さにはほれぼれとさせられる。

 正義の執行者であるヒーローと悪の立ち位置の違いなどへの考察や、流れるように展開するアクションやドラマの絶妙なバランスが見事で、おそらくは第3作の登場でもっとも再評価されたのは第1作だろう。

第2作なのに最高傑作!? ジョーカーの怪演が主人公も喰った「ダークナイト」

 続いては、第2作の「ダークナイト」。3部作の真ん中は、どうしても中途半端になりがちなのだが、ヒース・レジャー演じるジョーカーの怪演でそれを克服し、悪と同様に法から逸脱した存在であるがゆえに影に潜むしかないヒーローを濃厚に描いた。第1作と第3作が連続した物語と言えるだけに、単独でも十分に見応えのある第2作に人気が高いのもうなずける。

 本作では、IMAXカメラの撮影が大胆に使われており、映像的な見どころもかなり増している。冒頭の高層ビル街の見通しにまず圧倒されるが、高層ビルから隣のビルへロープで渡る強盗犯の場面などは、今までで一番の高さ感を味わった。まずかなり高さであることがよく伝わるし、ロープを伝う強盗ふたりの姿がぼやけずにカチっと輪郭の立った描写であるために、相対的な高さ感がさらに増す。この動きの滑らかさや細かなディテールの再現性という点では、BD再生機器としては随一の実力と言っていい。

 続いて、ジョーカーのご尊顔にゾッとさせられる。特殊メイクとはいえ、雑な縫い跡のでこぼこが生々しく、旧来の綺麗なお化粧のジョーカーとはまったく違う雑な白塗りも生々しい再現で、俺はコウモリよりも、こういう常軌を逸した人の方が怖いよ!! と泣きたくなる。発売以来何度も見てきた場面だが、今までにないインパクトだった。解像感の高さが映像のリアリティをここまで高めるということがよくわかる。

 もちろん、暗部の再現性の見事さにも圧倒される。有名な捕らわれたジョーカーの尋問シーンは、闇に溶け込むように化粧のはげた不気味な顔を浮かべる姿が実に立体的だ。生首が浮いているようにも感じるし、恐怖を伴う不気味さでは後で明るくなった室内に現れるバットマンが完全に負けていると感じる。

 音の点では、ジョーカーのテーマと言うべき、不協和音をミックスした不安を煽る音をまさしく不安感たっぷりに再現した。底なしの低音の伸び、神経に障る弦の鳴りといい、実に生々しい。音の点でも高解像度指向であるのは間違いないが、それだけでなく、反対に滑らかな音、柔らかい感触もしっかりと再現するため、生音感とでも言いたくなるような再現が優れていると感じる。これは、作り物の音で積み重ねられる映画を臨場感たっぷりに楽しむには重要なポイントで、連続視聴の疲れも忘れさせて作品にのめり込ませるものとなっている。

 本作は、バットマンとの2つの対比が象徴的だ。明るい場所で正義を貫くハービー・デントと日陰者のヒーロー、同じ場所に立ちながら自由に振る舞いすべてを翻弄するジョーカーと、不自由な正義に縛られるヒーロー。ヒーロー物の定番だが、そういう曖昧な立ち位置にあるおかげで一番酷い目に合う。生々しい映像だからこそ、こうした苦悩や悲劇がダイレクトに心に刺さる。

 3作品を通じて最強の攻撃力を持つ敵である「犬」に追われる最後とか、もう哀れすぎる。そういう姿に同情と崇拝にも似た憧れを感じるのもどうかと思うが、ヒーローが抱える現代的な悲劇を描ききってしまったことは、国産ヒーロー物に心酔してきた僕には大きなショックだった。

重厚にして長大。ヒーローの苦悩と復活、そして未来を描いた「ダークナイト・ライジング」

 ついに完結編だ。これもまた、落ちぶれたヒーローの姿を見るのが大好きな、SだかMだかよくわからない人(筆者)にはたまらないところから始まる。平和になったゴッサム・シティで、かつてのヒーローは不要になって本人は引きこもり。普通にヒーロー物を作るならば絶対描かれることのない実に哀れな末路だ。

 バットマンの頼れるパートナーの一人であり、少年期に両親を失ったウェインには親代わりでもある執事のアルフレッドが、今回さらに存在感を増している。「お払い箱となったヒーローであるあなたは、悪の復活を求めている」と厳しく接するが、内に秘めたウェインへの心遣いがよくわかる。

 表現するのも難しいのだが、こうした厳しいようで優しい心情やその人の放つ雰囲気、シーンの空気感の描写が本機はものすごく上手い。きっとこれが解像感の高さやS/N感の良さがもたらしてくれるものだと思う。ノイズを徹底的になくすことで、埋もれて見えなかったものが見えてくるとよく言うが、見えてくるものとは具体的なディテールではなく、こうした微妙だがなくてはならないものなのだ。

 そんな中、本作の悪役であるベインが活動をはじめる。インパクトという点ではジョーカーに及ばないものの、傭兵集団を率いてゴッサム・シティを再び恐怖に陥れる様子は、完結編の悪役に相応しい、知的さと圧倒的なパワーを備えた存在だ。

 悪役を得て、バットマンが颯爽と登場! とはならないのが本作。役になりきったクリスチャン・ベイルも見事だが、不遇なヒーローを実に人間味溢れる描写で表現している。

 本作も、終盤大活躍する飛行兵器ザ・バットやバイクのようなバットポッドにキャットウーマンが乗り込むなど、アクションも迫力があり、多用したIMAXカメラの映像と相まって見どころはいっぱいだ。

 だが、生々しい映像もあって、これまでにもずっと交わされてきた、正義やヒーローの在り方への哲学的とも言える問答と、心と心で繰り広げられる内面の格闘に目が行く。そして、バットマン不在のなか、それでも迫り来る脅威に立ち向かおうとするゴードン本部長やブレイク刑事などの等身大の勇気ある行動も、より濃厚に伝わってくる。この3部作は超一級のアクション作品であることも否定しないが、その成功はこうしたドラマの完成度の高さがあってこそのものだと思う。

 意外な発見であったが、マスクを被るにあたって目の周りも真っ黒に塗っているバットマンは、黒の中にギラリと浮かぶ目玉の迫力で表情を表していると感じていたが、黒の階調がしっかりと再現できると、当然ながら目尻の皺や頬の盛り上がりなどでも表情がよく伝わる。仮面のヒーローの心はそんなところからも見えてくる。

 音質としては、これまでの低音の伸びについて触れているが、ベインらが地下に築いた拠点などの暗騒音がこれまでにない不気味さで再現された。すなわち低音なのだが、耳に聴こえるかどうかというレベルの低周波のうなりが再現されていて驚いた。耳で聴こえない低周波は環境問題になるレベルで身体に悪いため、耳ではなく身体が不快に感じる。これは当然観客の心理に影響を与えるためにわざと入れているのだろう。文字通りの地下で進められていく最大の恐怖の予兆を感じさせるには最高の演出だし、このせいでベインの存在感もより大きく感じるようになる。ここまでの低音を出せる機器というだけでも、これだけ高価なモデルの価値が実感できる。

 そのラストは、見ている人にとって安心できるものだ。復讐に端を発したヒーロー的活躍ではあったが、数々の強敵との闘いを経たバットマンが、最後まで哀れで終わってはいけないのは間違いない。そして、未来への期待も抱かせるなど、ラストのカタルシスは満点の出来だ。

バランス出力も備えたアナログ音声出力の出来の良さも紹介

 HDMI音声出力でもここまでの音を再現してくれた製品だけに、アナログ出力を使ったステレオ再生もちょっと試してみた。アナログ出力はステレオ出力のみなので、残念ながらサラウンド音声を楽しめない。だが、本機の音の醍醐味はアナログ出力だろう。機材がないため、バランス出力を試せなかったのは申し訳ないが、RCA端子のアナログ音声もなかなかのものだ。

 本機が新規に対応したハイレゾ対応のネットワーク再生で、手持ちのNASに保存したハイレゾ音源を使って試した。ハイクラリティサウンドは最初の設定の通り、映像出力オフ、音声出力もアナログ出力のみとしている。HDMI出力とアナログ音声出力の違いを簡単に言うと、HDMIはエネルギー感たっぷりの勢いのある音で、アナログ音声出力は上質さを感じる感触と、中音域の厚みが印象的になる。

 解像感の高さやローレベルの再現性がしっかりしている点は共通だが、音の感触はずいぶんと違いがある。ちょっと聴くと音量が下がったような、大人しい感じも受けるのだが、音量を合わせてやると、ボーカルをはじめとした声の充実ぶりに感心する。音に芯があり、密度感がある。ちょっと小ぶりな出来だがその分味が凝縮された果物のような感じだ。絶対的な迫力やスケール感はHDMI出力の方が感じられるので、その意味ではサラウンドの映画ならHDMIで不満はないだろう。ステレオ出力はよりHi-Fiに振ったというか、ピュア・オーディオ機器らしい質感や丁寧な再現に注力したと感じる。それなりのCD再生機器で音楽を聴いている人でも、BDプレーヤーでこんな音を出すの!? と驚くくらい、真面目に練り上げられた音だ。

ネットワーク再生は、DLNA機能「お部屋ジャンプリンク」で行なう。DLNA再生でも「シアターモード」が適用されるのがうれしい
ハイレゾ音源を保存したフォルダを表示したところ。WAV音源ファイルなのだが、きちんとファイル名が表示された。これができる機器は意外と少ない
再生中の画面。画面はずっとこのままだが、リモコンの赤ボタンを押すと、「ハイクラリティサウンド」が稼動し映像出力がオフになる。リモコンの「戻る」ボタンで画面表示を再開できるので曲の変更も面倒はない

今年最強のBDレコーダは……、両雄並び立ってしまった!!

 この秋のBDレコーダとして、価格的には手を出せる人が少ないであろう製品を2台(1台はソニーBDZ-EX3000)も取り上げてしまったのは少々申し訳ない気もするが、最新BDレコーダの本気がどのくらいのレベルにあるかを知ってほしかったという思いもある。この連載は、回ごとに視聴ソースが違うので、両者を比べることはできない。だが、がんばれば1台買える人はいても、2台とも買える人はかなり限られるだろうし、両者の決着が気になる人は多いだろう。

 結果はともに互角だ。ソニーのBDZ-EX3000は自然なタッチの描写ながら、解像感の高さでもパナソニックに迫り、かなり質の高い映像となっていた。対するパナソニックのDMR-BZT9300は、解像感の高さに甘えずわずかな情報まで表現しようとすることで、リアリティを手に入れた。ソニーは映像のニュアンスと立体感のある再現、パナソニックは徹底したリアル指向で作り手の感情に迫れる再現と言えるだろうか。これはどちらかを選ぶのならば、両方を見比べて決めた方がいい。

 音の点でも、ソニーはトータルとしてのバランスの良さ、パナソニックは音も情報量指向だが、分析的な音にならず音楽の雰囲気や情感まで表現できるレベルに熟成されたことで、やはり甲乙つけがたい。

 本気作りのBDプレーヤーを発売しにくい現状で、プレーヤーユースで使える本気作りのBDレコーダ高級機を作り続けている両メーカーの存在は重要だ。この流れは今後も続けて欲しいと思う。メーカーを応援するというとおこがましいが、こうした製品に感じるものがある人ならば、どちらかを吟味して(できるならば両方を)、実際に自分の愛機にしてほしいと思う。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。