小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第778回 これもうビデオカメラじゃん。光学20倍“究極のオールインワン”、パナソニック「DMC-FZH1」
これもうビデオカメラじゃん。光学20倍“究極のオールインワン”、パナソニック「DMC-FZH1」
2016年10月26日 10:00
あのFZ1000の衝撃再び
“ネオ一眼”はそれほど人気ジャンルとは言えないが、レンズも含めたオールインワン設計の強みを生かして、マニアックな人気を集めるのが常となりつつある。2014年夏に発売されたパナソニック「DMC-FZ1000」は、4Kが撮れる高倍率16倍ズーム機として、人気を博したモデルだった。当時4Kが撮れるのは一眼カメラかアクションカムだけで、ネオ一眼で4K撮影は業界初だった。
そんなFZ1000の後継機と目される「DMC-FZH1」が発表されたとあっては、取り上げないわけにもいかないだろう。海外では「FZ2000」という名称で紹介されたことからも、FZ1000の後継機と言っていいモデルだ。店頭予想価格は16万円で、11月17日発売となっている。
昨今のカメラ業界は、Mark IIやMark IIIと称して、スペックは上がってるがデザインはほぼ一緒というカメラが多い。その中にあって、ヒット作FZ1000の型番を使わず新しい型番で仕切り直しするというのは、なにやら新シリーズの展開を予感させる。
今回のポイントは、光学20倍ズームとなり、ズーム途中のフォーカスや画像のブレを抑えた新設計のレンズだ。もちろんそれ以外にも、動画的な見所が満載のモデルとなっている。なお今回お借りしたのは発売前のβ機で、ズーム中のフォーカス性能は最終調整中のため、性能は製品版とは異なる可能性があることをお断わりしておく。
FZ1000の後継機は、どんな絵を見せてくれるのだろうか。早速試してみよう。
若干大型化したボディ
ではまずスペックを押さえていこう。ボディはFZ1000に比べて縦横高さともに少し大きくなっており、筐体金型の使い回しではなく、まったくの新設計である事がわかる。FZ1000は831gで、見た目のわりには軽かったのを覚えているが、本機の重量は約966gで、見た目相応に重くなった。マイクなどちょっとしたアクセサリを付けたら、1kgを超える。
まず気になるレンズだが、35mm換算で24~480mm/F2.8~4.5の光学20倍ズーム。なお4K動画では多少画角が狭くなり、36~720mmとなる。多くのズームレンズがF3.5スタートでテレ端ではF5.6ぐらいになってしまう事を考えたら、20倍でありながら1段ぐらい明るいのはなかなか凄い。
なお今回のズーム機構は、鏡筒部の長さが変わらない「インナーズーム」となっている。電源を入れるとまず鏡筒部がせり出し、その中でレンズが動くので、ズームしても全長が変わらないのだ。これはビデオレンズではよくある構造だ。長さが変わらないという点では、マットボックスが付けやすいというメリットがある。
もう一つ、重量バランスが変わらないという点では、スタビライザーにも載せやすいだろう。中でレンズが動くので、多少は重量の移動はあるだろうが、一番重い前玉の位置が変わらないので、鏡筒部の全長が伸び縮みするよりは変化は小さいはずだ。
ズーム機構には、鏡筒内部に配置されたシャフトがズーム時のレンズ動作を支える「ガイドポール方式」を採用。ズーム時の像揺れ・像飛びを従来機「DMC-FZ1000」と比べ約1/5まで低減するという。ズーム途中の記録は動画でしか使わないので、まさに動画のためにこれらの機構を入れたということだろう。
ほかにも動画専用らしい工夫がある。絞りは9枚羽根で、シームレスな絞りを可能にするガルバノメーター式絞り制御を搭載する。ズーム・パンニング撮影時に発生しやすい輝度のぱかつきを抑えるという。
今となってはガルバノメーター式絞りをご存じない方も多いと思うが、フィルム時代のコンパクトカメラでよく使われてきた方式だ。コンパクトカメラは絞り優先とかのモードを持っておらず、オートでしか撮影できないので、露出制御はほぼ絞りだけでやっていた。
ガルバノメーターとは「検流計」という意味で、光量を測るセレンやCdSのような光抵抗素子からの電流に応じて、絞りをシームレスに動かす。一般的な写真用レンズでは、絞りをF2.8/4/5.6/8…と、1段ずつ刻むものだが、ガルバノメーター式ではこの段数がないわけだ。
この方式は、のちにコンシューマのビデオカメラに採用された。ただこの動的な絞り制御では、絞りの羽根が2枚しかなかった。したがって菱形絞りになってしまい、ボケの形が汚かった。なぜ2枚なのか、それはコストの問題もあるだろうし、羽根の数が多ければ摩擦抵抗も大きくなるので、制御モーターもトルクが大きくなければならないなど、色々な事情があったのだろう。
一方本機のガルバノメーター式絞りは9枚羽根となっており、動的に動かす絞りとしてはかなり贅沢な仕様になっている。
鏡筒部のリングは二重となり、フォーカスとズームが調整できる。FZ1000ではスイッチで1つのリングを切り換えていたので、その点でも贅沢な作りだ。また側面には3つのファンクションキーがあり、三段階のNDフィルタの切り替えスイッチもある。代わりに以前あった光学手ぶれ補正のON・OFFスイッチがなくなり、設定メニューでの切り換えとなった。
センサーは1.0型、総画素数2,090万画素、有効画素数2,010万画素のMOSセンサーで、今回はDCI 4Kサイズ(4,096×2,160/24p)での撮影もサポートしている。またHD撮影では、ビットレート最大200MbpsのAll-Itraモードも備えた。
動画フォーマットとしては、MP4以外にMOVにも対応した。またMP4では、音声をリニアPCMで収録するモードもある。なおシステム周波数が59.94Hzと24Hzでは、多少録画モードが違う。DCI 4Kサイズで撮影できるのは、24Hz設定時のみだ。
モード | フレームレート | 解像度 | ビットレート |
4K | 29.97p | 3,840×2,160 | 100Mbps |
23.98p | |||
FHD | 59.94p | 1,920×1,080 | 200/100/50Mbps |
29.97p | |||
23.98p | |||
59.94p | 28Mbps※ | ||
29.97p | 20Mbps※ | ||
HD | 29.97p | 1,280x720 | 10Mbps※ |
※印のモードはMOVでは使用不可
モード | フレームレート | 解像度 | ビットレート |
C4K | 24p | 4,096×2,160 | 100Mbps |
4K | 24p | 3,840×2,160 | |
FHD | 24p | 1,920×1,080 | 200/100/50Mbps |
HDMI出力では、本体で記録しながら4:2:2/8bit映像を同時出力可能。本体記録しない場合は、4:2:2/10bit出力となる。外部レコーダを接続しての収録に威力を発揮するだろう。
上面のコントロールは、2つのダイヤルを装備した。FZ1000では1つだったので、マニュアル撮影時にはより威力を発揮するだろう。また動画録画ボタンも右側に移動した。FZ1000では奧のほうにあったので、録画するつもりでFnキーを押してしまうという誤動作が減るだろう。
背面ボタンは機能や数には変化はないが、鏡筒部にFnキーが3つある関係で、Fnキーの数字が違っている。背面のモニターはアスペクト比3:2の3.0型104万ドットで、バリアングルなのに加え、タッチパネルとなっている。ファインダーのほうはアスペクト比4:3の有機ELで、236万画素となっている。
端子類も、構成と位置が変わっている。端子は多くが本体左側に集められ、マイク入力のほか、ヘッドフォン出力、microHDMI出力、マイクロUSB端子がある。右側はリモート端子と、SDカードスロットがある。従来は底部のバッテリースロットの中にあったが、高級機と同じ構造になった。なおSDカードは、UHS-I スピードクラス3(U3)規格までのSDHC/SDXCで、昨年6月のDMC-G7以降で搭載が進むUHS-IIの対応が見送られたのは残念だ。
高倍率が楽しい
では早速撮影してみよう。今回はせっかくDCI 4K対応と言うことなので、HDとの比較映像以外は4,096×2,160/24pで撮影している。
まず気になるのは光学20倍ズームの動きだ。写真用のズームレンズで、全域でフォーカスが合い、滑らかに動かせるものは少ないが、実際に試してみた結果、なかなかよくまとまっている。β機の仕上がりでこれなら、製品版も期待できるだろう。
シャッターボタンの回りのズームレバーでズームができるが、Fn1とFn2には低速電動ズームがアサインされている。H/M/Lの3段階で設定可能だ。
4Kでは電子手ぶれ補正が効かないため、20倍ともなると三脚を使ってもカメラ操作の振動がカメラに伝わってしまう。ズーム操作は外部のリモートを使った方がいいかもしれない。
手ぶれ補正は、4Kとバリアブルフレームレート撮影時には光学手ぶれ補正のみだが、HDの通常撮影では光学式のほかに5軸の電子手ブレ補正、動画傾き補正も使える。4KとHDでの手ぶれ補正を手持ち歩行撮影で比較してみた。
HDでは4Kよりも画角が広くなるため、ブレも感じにくくなるが、それを差し引いても電子手ぶれ補正の威力はかなり大きい。HDではALL-Intraの200Mbpsモードもあるし、HD撮影のほうがアドバンテージが大きいカメラだ。
AFはフォーカスの追従性に力を入れたようだ。今回は液晶モニターがタッチパネルになったことで、画面のタッチでAFのポイントが選べるようになった。ただテレ側で近距離にフォーカスを合わせたい場合、AFではフォローできないことが度々あった。MFでは十分フォーカスが合う距離なのだが、AFではフォーカス動作の思い切りが悪いように思える。
発色および解像感はかなり高く、写真でも動画でも満足のいく画像が得られるだろう。ただ夕暮れ、曇天の光量が少ないシーンでは、暗部の粒子感がやや気になる。あまりISO感度に頼らず、絞りやシャッタースピードで露出を稼いだ方がいいだろう。
しかし光学20倍という世界は、久しぶりだ。ビデオカメラでは珍しくないズーム倍率だが、これまでデジタルカメラではズーム倍率が抑え気味だったので、撮影するのも久しぶりである。普段は撮影できない対岸の鳥の姿も十分捉えることができた。テレ端でもレンズの収差は感じられず、端正な描画が楽しめる。
強化された特殊撮影
FZ1000では、ハイスピード撮影もサポートしていた。もちろん本機にも搭載されているが、本機ではさらに進化し、動画撮影の途中でFn1やFn2を押すと、途中からスローにしたりクイックモーションにしたりすることができるようになった。スローとクイックの間は音声収録ができないが、簡単にポイントとなるところをスローにしたりできるのは、全編スローよりもインパクトがある。遊びだけでなく、教材の撮影などにも威力を発揮するだろう。
設定としては、まず画質設定を「VFR撮影可能」と書いてあるモードに設定したのち、動画設定で「スロー/クイック」をONにする。クイックモーションにしたい瞬間にはFn1キーを押し、スローにしたい瞬間にはFn2キーを押すだけだ。
同じ特殊撮影としては、「ドリーズーム」機能も搭載した。これは今年始めに発売されたカムコーダ「HC-WXF990M」で初めて搭載された機能で、映画の演出でよくある効果を撮影する事ができる。顔認識が必要なので今回は撮影していないが、どういう効果なのかは過去記事が参考になるだろう。
静止画撮影でも面白い機能がある。パナソニック機ではお馴染みとなった、あとからフォーカスを選べる「フォーカスセレクト」は、フォーカスポイントを変えながら4K動画を撮影し、あとから静止画を切り出す機能だ。本機ではさらに、フォーカスポイントの違う画像を複数合成して、フォーカスが合っている範囲を広げる「フォーカス合成」機能を搭載した。
途中まではフォーカスセレクトと同じだが、フォーカスセレクト再生時にFn4キーを押すと、「フォーカス合成モード」に入る。「自動合成」はカメラお任せで、被写界深度の深い写真を合成してくれる。「指定範囲合成」では、フォーカスを合わせたいエリアを複数ポイント指定できる。
スマートフォンでは、あとから背景をぼかす(被写界深度を浅く見せる)機能が注目されているが、本機では逆に被写界深度を深くするために合成できるわけだ。
実際に出来上がった写真を見ると、フォーカス範囲として近いところ同士の合成はかなり上手くいく。一方フォーカス範囲を広げすぎると、不自然な合成になってしまう。自信がないなら自動合成がお勧めだが、自分でいろんな被写界深度の写真を作ってみるというのも、なかなか楽しい。
総論
本機FZH1は、デジタルカメラでありながら動画撮影のほうに大きくシフトしたカメラだ。高倍率ズームレンズを備え、ズーム途中でのフォーカスのズレや絵のシフトを極力抑えるなど、これまでのデジカメで動画を撮る際に不便だったところを一機に解消しにかかってきている。このまま行けば確実にビデオカメラの息の根を止めかねない勢いだ。
DCI 4K撮影やHDMI 4:2:2/10bit出力、スロー/クイック撮影機能など、映像のプロにとっても見所の多いカメラである。また3段階のNDフィルタも内蔵したことで、明るい場所での深度表現も楽になった。全長が変わらないインナーズームも通好みで、ここまで動画のためにコストをかけて作ったデジカメは珍しい。
ズーム倍率も20倍に到達し、言うことなしのスペックとなったが、価格的には約1.6倍に跳ね上がったところを、市場がどう見るかだ。FZ1000は、当時高嶺の花であったGH4並みの機能を、誰でも買える価格で提供するカメラだった。その点では、FZ1000の後継機といいつつ、意味づけとしてはかなり違う。
やはり後継ではなく、違うシリーズという位置づけで考えた方が腑に落ちる。日本でのネーミングは、そういう受け止め方を考慮してのことなのかも知れない。
Panasonic DMC-FZH1 |
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