小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第807回
スマホレベルを超えたカメラ、960fpsスロー/4K HDR「Xperia XZ Premium」
2017年6月7日 08:10
HDR当たり前の時代へ
今年4月末にNABレポートをお送りした。そこではあまり書き切れなかったのだが、映像業界は大挙してHDRへと突っ込んでいる。日本では4KとセットでしかHDRが語られないが、欧米の場合はそもそも映画産業以外は4Kに興味がない一方で、HDRに関する関心が高まっている。つまり、“HD + HDR”だ。
一方でスマートフォンに目を向けると、今年3月の「Mobile World Congress(MWC)」にて、HDR対応ディスプレイ搭載モデルが発表された。1つは今回ご紹介するソニーの「Xperia XZ Premium」、もうひとつはLGエレクトロニクスの「LG G6」、最後はスマホではなくタブレットだが、サムスンの「Galaxy Tab S3」である。中でもXperia XZ Premiumは5.5インチでありながら3,840×2,160ドットの4K解像度を持つ、まさにプレミアムモデル。4KでHDR対応ディスプレイ搭載のスマートフォンは世界初となる。
またカメラも4K撮影に対応するほか、最高960fpsの「スーパースローモーション」撮影を可能にするなど、見どころも多い製品となっている。
実際にどんな画質なのか、早速試してみよう。
上質な仕上げはまさにプレミアム
まずデザインから確認してみよう。Xperia XZ Premiumは背面の鏡面仕上げがポイントだが、2色展開である。やや青緑がかった黒のディープシーブラックと、ルミナスクロームだ。今回はディープシーブラックをお借りしている。
鏡面仕上げではあるものの、まさに鏡のように綺麗に全反射する感じではなく、落ち着いた反射の仕上げが美しい。背面パネルははめ込みで、側面とは別パーツである。側面も同じような色と反射だが、素材としては指に貼り付く感じで滑りにくくなっており、素手で持っている限りは落としにくくなっている。
左側面にはボリューム上下と電源、シャッターボタンがある。電源ボタン部分は少し凹んでおり、ここが指がかりとなる。反対側はSIMとmicroSDカードスロットがある。
上下のパーツは艶消しで、周囲の反射素材に対して良いアクセントとなっている。上部にはイヤフォン端子とセカンドマイク穴、底部はUSB Type-C端子と通話マイク穴がある。正面の上下にあるステレオスピーカーは、S-Forceフロントサラウンドを搭載しており、イヤフォンなしでの動画視聴時に威力を発揮する。
ついでに音の話をここでまとめておこう。本機はハイレゾ再生対応だ。ハイレゾ対応ヘッドフォン・イヤフォンを接続すれば、ハイレゾ再生が楽しめる。別売の「MDR-NC750」を購入すれば、ハイレゾ+ノイズキャンセリングが使用できる。ノイズキャンセリングはスマートフォン側でプロセッシングするので、イヤフォン側には特段回路などを搭載していないのが特徴だ。したがってNC750を非対応スマホに接続してもノイズキャンセリングは働かないので、注意していただきたい。
またBluetoothはLDAC対応で、同じくLDAC対応ハイレゾヘッドホン・スピーカーを接続すれば、ワイヤレスでハイレゾ相当の音質が楽しめる。
注目の液晶ディスプレイは、約5.5インチで解像度3,840×2,160ドットのトリルミナス ディスプレイ for mobile。簡単にHDR対応と言ってしまっているが、フォーマットとしてはHDR10に対応する。
4K・HDRコンテンツは、dTVとAmazonプライム・ビデオ、Netflixで配信されている。ただしモバイルアプリでの4K・HDR動画配信は、また対応機種が本機しかない状況だ。dTVとAmazonプライム・ビデオは対応予定のようだが、執筆時点ではまだ視聴する事ができない。
カメラ部も大きく進化している。今回から「Motion Eyeカメラシステム」という名称で訴求しているが、内訳としてはGレンズ、Exmor RS、BIONZ for mobileの組み合わせだ。
レンズは35mm換算で25mm、F2.0の単焦点。手ぶれ補正は、前モデルXperia XZの時には光学、電子補正を組み合わせた5軸補正が世界初という位置づけであった。本機も同じである。
センサーのExmor RSは、2012年に独自の積層型構造CMOSイメージセンサーとして発表された。その後1インチサイズではデジタルカメラの「RX100 IV」および「RX10 II」で搭載され、ハイスピード撮影ができるセンサーとしてよく知られているところだ。
ただ、この積層型構造というのは、いろんな回路およびチップを積層できる。昨今は高速メモリーをバッファとして積層することで、センサーからの読み出しを高速化するのに使われているわけだが、加えてAFや手ぶれ補正といった回路もイメージセンサー内に積層して一体化できる。
つまり従来はプロセッサや画像処理エンジンで行なわなければならなかった処理を、センサー側で引き受けることができる。非力なプロセッサでもカメラ機能は上位モデルと同じ、ということが起こりうるセンサーなのだ。ソニーのセンサーがスマホの世界で重宝されている理由が、これである。
今回はこの搭載メモリーを使って、960fpsスロー動画を実現している。実はインカメラもセンサーはExmor RSだが、こちらはスロー撮影には対応していない。
メインカメラのセンサーは、1/2.3インチ、1,920万画素。そのほか補助センサーとして、暗い場所でAFを補助する「レーザーAFセンサー」、難しい光源環境で適切なホワイトバランスを得るためのカラーセンシングセンサー「RGBC-IRセンサー」も搭載している。
スマホのレベルを超えてよく写るカメラ
まずは気になるカメラで撮影してみよう。すでに一部の機能はXperia XZで実現されているものもあるが、久しぶりのXperiaなので色々検証してみたい。
まず静止画撮影だが、画面タッチによるAFはかなり正確で、近景にも強い。「ナメ」の構図では奧のボケ具合も自然かつなかなか深く、1インチぐらいのコンデジで撮影したのとあまり変わらないように思える。
発色もなかなか良く、百合の花の、ゲインは低いがクロマは高いという、赤黒い感じもよく出ている。レンズフードがないため逆光には弱いが、木漏れ日などはコントラストを抑えつつ、色をよく出す傾向がある。解像感も高く、繊細な被写体も綺麗に捉えている。
静止画特有の機能としては、「先読み撮影」がある。これは被写体が動いたことを認識してカメラ側が自動的に撮影し、バッファしておく。シャッターボタンを押すと、押された直前に保存しておいた静止画も一緒に保存するという機能だ。例えばシャッターのタイミングが遅れたり、シャッターを押した瞬間がブレたような時に威力を発揮する。
撮影後それらの写真は、シャッターを押した瞬間の写真を代表画像にして1つのグループになっており、それを展開すると先読み撮影した画像にアクセスできる。先読み写真を全部保存するか、ベストな写真1枚を残して他は削除するかを選ぶ事ができる。
パノラマ撮影は、左右どちらの方向に動いてもよく、360度を超える撮影が可能だ。ステッチング幅も十分取れるので、VRの素材としても有用だろう。またパノラマ撮影を途中で停止しても、そこまでの範囲でパノラマ画像を作ってくれる。どこからどこまでの範囲でパノラマ撮影するかを自分で決められる点で、有用だ。
動画撮影では、手ぶれ補正の効果がよくわかる。スマホ用ジンバルを使わない限り、スマートフォンでは手持ち撮影がデフォルトになると思うが、手持ちでもかなりブレを抑えている。さすがにジンバルを使えば、撮影者のテクニック関係なしに安定するが、本機の場合は注意して構えれば、かなり安定する。
ディスプレイが優秀なせいもあるが、動画の発色もかなり綺麗で、撮影時の満足度は高い。ただ、撮影機能としてHDRが撮影できるわけではないので、その点はもったいないとも言える。
メモリー積層により、センサーが高速読みだしが可能なメリットは、動画撮影時のローリングシャッター歪み軽減によく現われる。通常のCMOSでは、高速に通り過ぎる被写体は斜め方向に歪んでしまうが、本機で撮影した動画からは歪みが感じられない。車窓から撮影する場合などには威力を発揮するだろう。
注目の960fpsスロー
次に本機の目玉でもある、960fpsスローを試してみよう。この機能は標準のカメラの動画撮影機能に組み込まれている。「スーパースローモーション」という名前で、動画の一部を32倍のスローモーション映像(約6秒)にする「スーパースロー」と、約6秒のスローモーション映像のみを記録する「スーパースロー(ワンショット)」、常時120fpsで撮影し、任意の場所を4倍スローにする「スローモーション」の3種類がある。
今回は「スーパースロー」を試してみよう。動画撮影モードにすると、録画ボタンの上にボールが移動している風のアイコンがある。これをタップすると、スロー撮影のスタンバイとなる。
おそらくここから、センサーは常時960fps駆動になるのだろう。光量がある場所ではほとんどわからないが、室内だとかなりS/Nが落ちる。
撮影を開始すると、そこからは通常速での記録となる。センサー的には960fpsの絵を出力しているが、そこから30fpsに間引いて記録するという事だろう。録画中は録画ボタンがスロー開始ボタンに変化しているので、スローにしたい瞬間にここをタップすると、0.2秒間だけ960fps(32倍速)で記録される。0,2秒過ぎると、また元の30fps記録に戻る。
1度の撮影で何度もスローを挟むことができるが、いかんせんスローポイントは0.2秒しかない。相手が人間であれば、事前に打ち合わせが可能で失敗しても何度でもやり直しができるが、いつ何が起こるかわからない自然現象や動物相手の撮影はまず無理だ。
何度かテストしてみたが、押した瞬間からスローになるのではなく、押した瞬間から逆算して0.2秒前からスローになっているように思える。今ベストだったな、と思っても、実はそのちょっと前がスローになっている感じだ。したがって、何か起こった直後にスローボタンをタップする感じで撮影すれば、まあまあ狙ったタイミングでは撮れるだろう。
ただ、そうはいっても0.2秒だ。60fps換算で12フレームというとまあまあ長いような気はしないでもないが、普通の人はその間にスローにしたいタイミングを収めろというのは至難の業であろう。
スロー撮影の解像度はHD(720p)となる。スマートフォンで32倍速ものスローを実現したものはないので、見たことのない世界を堪能できるだろう。
4K HDRディスプレイの威力
最後にディスプレイも含めたコンテンツ表示についてチェックしておこう。前段でも触れたところだが、執筆時点ではまだ正式に端末の発売が始まっていないため、4K HDR対応のSVODサービスも、モバイルアプリに対して4K HDR配信がスタートしていない状況だ。加えて本機搭載カメラもHDR非対応である。
静止画はHDR撮影できるだろうと突っ込むかたもいるかもしれないが、現在多くの静止画機能に搭載されているHDRは、複数露出で撮影した画像の中から、明るいところ、暗いところを切り貼り合成によって1枚の絵に収める機能なので、ダイナミックレンジが拡がっているわけではない。一般的なダイナミックレンジの中で、うまいこと超明るいところから暗いところまでのつじつまを合わせるというタイプの機能なのである。
そういう意味では、現時点では4K HDRのコンテンツを視聴することができない。ただ本機の動画サンプルとして、4K HDRコンテンツが収録されているので、それは再生できる。
解像度という点では、同じ5.5インチディスプレイを搭載したiPhone 7 Plusが比較対象となる。7 Plus搭載のRetina HDディスプレイは、解像度がフルHDだが、画素密度としては401ppiあるので、肉眼で1画素を見分けることは不可能である。
一方、本機は同サイズでその4倍の画素密度を持つわけで、相当目を近づけても1画素は判別できない。本機のカメラでは、HDでも4Kでも撮影できるが、同カットをそれぞれの解像度で撮影して交互に見比べても、明確にどっちが4Kなのか判別がつかない。まあ4Kへのアップコンの上手さもあるのだろうが、このサイズで4Kであるメリットは、よほど目のいい人で文字を細かくして読みたいというニーズでもない限り、あまりないのではないか。
それよりもポイントは、HDRと広色域のほうだろう。本機のディスプレイがITU-R BT.2020準拠なのか表記がないが、3色のLEDを使ったバックライトシステムであるトリルミナスディスプレイは、広色域がウリだ。HDRとともに、広色域、特にビビッドな赤や抜けるような青といった表現が楽しめるのが、本機のポイントであろう。HDRとともに広色域の映像が楽しめるということで、映画コンテンツの配信開始が楽しみだ。
S-Forceフロントサラウンド搭載のスピーカーも、良くできている。さすがに低域は出ないが、サラウンド感は高域のほうが感じやすい。画面を正面に配置し、距離を20~30cmぐらいの位置に保つと、サラウンド感が最も大きく感じられる。ただし手でスピーカーを覆ってしまうとバランスが壊れるので、何かスタンド的なもので固定した方が綺麗に聴こえるだろう。
総論
画面サイズとしても、本体サイズとしても、ほぼiPhone 7 Plusと同等(高さは少し低い)の本機だが、Plus特有の大きすぎる感がないのは、デザインの上手さだろう。スピーカー配置にしても、横にした時に左右がシンメトリックで、音響工学的にも納得できる。
スマホ史上初の4K・HDRディスプレイが1つのポイントだが、本機だけで映像視聴する場合、5.5インチというサイズから、4K解像度の威力はそれほど感じられない。それよりもむしろ、HDRかつ高色域である方のインパクトが大きい。
もちろん4K解像度が無駄というわけではなく、4Kコンテンツの配信が受けられるスマホという点では価値がある。ここから4Kテレビにキャストするという、コンテンツターミナル的な使い方もできるだろう。
それよりも現時点での課題は、ディスプレイ性能とカメラ性能がちぐはぐなところである。ディスプレイはHDR対応だが、カメラがHDRで撮影できない。
コンシューマにおけるHDR撮影は、業界全体の大きな課題で、ガンマカーブをどうするのか、ユーザーにグレーディングまでさせるのか、表示がHDRディスプレイじゃない場合はどうするかといった問題がある。個人的には、両対応可能なHLG(ハイブリッドログガンマ)で撮影という線が無難ではないかと思うのだが、ソニー的にはS-Logを使って自社で完結したほうが早いと考えるかもしれない。
そう考えると次のプレミアムモデルは楽に予想できる。カメラとディスプレイ両方ともHDR対応になるだろう。そうすればすべてがXperia内で完結することになるし、ネット上にHDRコンテンツがあふれ、HDR普及のエンジンとなるだろう。HDR対応BRAVIAにキャストすれば、S-Log2あたりで標準LUTが自動で当たりますよ、的なシナリオも描ける。
久々に見たソニーの「世界初」は、かなり戦略的な位置にコマを置いたなという印象だ。