“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第415回:'09年春ビデオカメラ総決算。新技術とトレンドをチェック

~ ハイビジョン特需、そしてその先は? ~



■ ビデオカメラは、どうなる?

 もはやビデオカメラはハイビジョンが当然という風潮だが、幼稚園の運動会などで観察すると、まだまだスタンダードディフィニションのDVカメラ、DVDカメラも少なくない。HDVの普及モデルSONY「HDR-HC1」が出たのが'05年、AVCHD1号機の「HDR-UX1」の登場が'06年だから、ちょうど今の幼稚園児が生まれた頃が、SDとHDの境目の時期であったわけである。つまり買い換え需要としては、まだまだこれからハイビジョン、という人たちもかなり多いということになる。

 さて、この春に向けた新製品もどうやら出そろったようだ。注目のモデルは一通りレビューしてあるので、各論はバックナンバーで見ていただくとして、今回はこの春に見られたトレンドを基に、ビデオカメラの将来像を考えてみたい。


■ 別次元への進化が注目された撮像素子

 撮像素子もハイビジョン世代に入って、CCDからCMOSへ転換したが、画素はハイビジョンサイズを超えても拡張を続けている。デジカメの場合は、画素数が増えればそれだけファイルとして記録できる画素数も増えるが、HD規格の場合は最終出力が最大で1,920×1,080ドット以上にはならない。

 ではなぜ未だ画素数が上がり続けるのか。それは、多画素で処理したのち縮小することで、解像感を上げているからである。すでに多くのビデオカメラが、フルHD以上の解像度を持つ撮像素子を採用している。だが今後、限りなく画素数が上がっていくこともないだろう。巨大画素数を秒間60枚出力させるための駆動パワーと、それを処理するためのプロセッサのコスト、それに縮小して得られる解像感向上のバランスを考えたら、自ずと臨界点があるはずだ。

 撮像素子の小型化という意味では、集積度にそろそろ限界が近づきつつある。おそらくこの春にパナソニックが出した「HDC-HS300」で採用の1/4.1 型で総画素305万というのが、今のところハイビジョンに足る画素数と撮像面積では最小だろう。もっともHS300の場合は3板式なので、輝度や発色面では有利である。

 同スペックの撮像素子を単板で使用したのが、ビクターの「GZ-HM200」を始めとする、この春の小型ラインナップだ。ただ305万画素のうち116万画素しか使っていないため、撮像素子本来の実力は出し切っていない。ちょっともったいない作りだ。

1/4.1 型で総画素305万の3板式、パナソニック「HDC-HS300」同サイズのCMOSを単板で使用したビクター「GZ-HM200」

 テクノロジー的進化という点では、ソニーが「HDR-XR520V」で採用した裏面照射型CMOS「Xmor R」の威力は、凄まじいものであった。特に暗部でも色がブレず、綺麗に黒が落ちるS/Nの良さは、文句なく次世代の領域に突入したと思わせる。

編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

裏面照射型CMOS採用のソニー「HDR-XR520V」

動画サンプル。XR520Vで撮影した夜景ezni_so.mpg (66MB)

 おそらく他社も後処理で同じように見える技術で対抗してくると思われるが、「そういう風に見える」のと「本質的にそうである」のとでは、情報量が全然違う。消費者としては騙しの技術で競争されるより、各社得意分野を生かした多様性に期待したいところだ。


■ ワイド端に振り始めたレンズ、その先には…

 続いて光学系のトレンドをチェックしてみよう。この春モデルでは、だいたいワイド端で41mmちょいというのが平均値のようだ。この点ではパナソニックHDC-HS300が44.9mmと、若干狭い。3板式ではプリズムで分光するぶんフランジバックが長くなるので、なかなかワイド端に振るのは難しいのかもしれない。

 ズーム倍率では、ビクターの光学20倍というスペックが突出しているが、これは画質よりも倍率を取ったという戦略だろう。今のところ10倍、12倍、15倍というあたりが、平均的なスペックだろう。たぶん画質とコストのバランスを考えれば、光学では12倍あたりがいいところなのかもしれない。

メモリ型初のハイエンドモデル、キヤノン「HF S10」

 キヤノンのHF S10は光学は10倍だが、多画素センサーを利用して1.7倍のデジタルテレコンを採用した。読み出し画素を調整してズーム倍率に回すという手法は、以前からソニーが実装していたが、10倍を12倍弱にするという程度であった。ソニーの場合はシームレスにズームするが、機能をOFFにはできない。一方HF S10は、ユーザーが明示的にモード切替を行なう。どちらがいいというわけではなく、考え方次第だろう。

 画質を考えれば、レンズの小型化は難しい課題だ。上記のように多画素撮影して縮小して解像感を出しているのは、レンズの実力不足を補うためである。しかし今後も市場が小型化、低価格化を望む以上、ビデオカメラはこの多画素縮小方式が主流となるだろう。

 一方レンズスペックで高付加価値を得ることに成功したのが、デジタルカメラである。従来デジカメは、ワイド端は広いがズーム倍率が低いというのが常識であった。しかし昨今は広角のままで10倍~20倍のズーム倍率を実現し、ビデオカメラと遜色なくなってきている。

 この春はパナソニック「DMC-TZ7」、同「DMC-GH1」、ソニー「DSC-HX1」を取り上げた。丁度コンパクトデジカメ、ネオ一眼、デジタル一眼と、デジカメの全方式を取り上げたわけである。

AVCHD Lite対応初号機、パナソニック「DMC-TZ7」ソフトタッチの動画とパノラマが面白いソニー「DSC-HX1」デジタル一眼動画撮影のお手本、パナソニック「DMC-GH1」

 AVCHD Liteをひっさげて登場したコンパクトデジカメDMC-TZ7の動画は、正直言ってビデオカメラと肩を並べるにはもう一歩及ばずといった感があった。あくまでも写真のサブ機能として考えるべきだろう。しかしあと1万円プラスした程度のネオ一眼DSC-HX1は、この価格から考えれば十分な絵が撮れる。そもそも実売5万円台のビデオカメラ(型落ちの処分価格は除く)では、もはや太刀打ちできないレベルだ。

 マイクロフォーサーズのDMC-GH1は、撮像素子のサイズとレンズバリエーションの少なさで損をしている感じがあるが、これからオリンパス、サードパーティの参入で、期待できる分野である。また撮影機能も、昨年のニコンD90、キヤノン EOS 5D Mark IIに比べれば、ずいぶん動画での自由度が高まっている。今のところ、一番動画撮影に向いた一眼だろう。

 デジタル一眼の動画撮影機能は、あきらかに運動会撮りとは違う用途を想定したものである。良い映像を撮りたいという素朴な欲求に応えてくれたのがビデオカメラではなく写真機だったところに、忸怩たるものがある。

 唯一、光学系による絵作りにフォーカスしたビデオカメラが、光彩絞りを搭載したソニーのHDR-XR520Vである。ただせっかくここまでやったのであれば、絞り優先モードぐらいは欲しかったところだ。

独特の色の深みがある(DSC-HX1で撮影)一線を越えた深度表現(DMC-GH1で撮影)ナチュラルなボケ味が楽しめる初めてのハイビジョンカメラ(XR520Vで撮影)

■ 記録メディアはメモリーで決着か

 これまで記述してきたように、この春モデルでもっとも革新的なビデオカメラは、ソニーのXR520Vに尽きる。だが一つケチを付けるならば、「今更HDDか? 」というところである。

 DVDにハイビジョンが記録できるとして、ソニーとパナソニックの推進により、AVCHD規格はスタートした。このフォーマットはDVD以外にも、HDDやメモリといった記録メディアをサポートしたので、一時は多種多様な記録メディアのカメラが誕生した。

 このトレンドをいち早く作ったのが、ソニーである。光学系、撮像素子、画像処理エンジン、ソフトウェアなどカメラの基本部品を共通化し、記録メディアだけが違うという多品種戦略に出た。これは当時ソニー復活の要と言われていた、「セル生産方式」に合致する。

 しかし、この春モデルを一覧しておわかりのように、もはやDVD記録モデルは一台もない。またHDD記録モデルも、傾向としてはすでに下火になりつつある。その代わりに伸びてきているのがメモリ記録型だ。パナソニックは'02年という早い段階からD-Spapシリーズで、動画のメモリ記録に力を入れてきたが、キヤノンが内蔵ストレージもメモリに変えて、「ダブルメモリー」として大々的にキャンペーンを打ってから、トレンドが変わってきた。

 またこれまでHDD一辺倒であったビクターが、この春にSDカードデュアルスロットモデルを出したことで、メモリ化の流れは決定的になった。昨今のメモリーカードの価格下落からすると、SDカード採用のメーカーはメリットがある。この点はパナソニックの粘り勝ちであろう。

 一方ソニーのメモリースティックはSDカードに比べ、ストリートプライスでは同容量で2倍近く高い。ソニーがメモリーモデルで市場に割り込むためには何らかの付加価値が必要だが、XR520Vで搭載した新技術は、十分競争力になる。この春は縦型スリムタイプの「HDR-TG5V」を投入したが、XR520V相当のメモリモデルに期待したい。


■ 拡張を続ける付加価値

 過去ビデオカメラがテープ式であった時代は、時間軸どおりに再生するしかなかったため、PCに書き出しての編集がベストとされてきた。それがDVDに記録するようになると、本体内でチャプタによるジャンプで事足りるようになっていった。

 しかし、そのDVD記録も下火になった今、撮影した映像を本体からどう見せるかが一つの課題となっている。各社とも示し合わせたように、この春モデルでは音楽を付加してのダイジェスト再生機能を搭載するようになった。この中では唯一のキヤノンが、撮影時に専用モードで撮影させるという手法を取った。これは少しでも撮影を上達させるにはどうしたらいいか、というトレーニング的な意味合いを持たせた点で、若干趣旨が異なる。

カメラ内でも撮影場所が地図でわかるGPS機能

 付加価値として最近ソニーが頑張っているのが、GPSである。以前からGPSとか地図モノに異様な執着を燃やすソニーの真骨頂で、春モデルではXR520にもTG5Vにも搭載されているが、正直これはおもしろがる人とそうでもない人にはっきり分かれるだろう。これでコストや消費電力がほとんどゼロならいいのだが、それもコストに入っているなら、いらないという人もいるはずだ。

 個人的にはGoogleストリートビューの問題と同様で、もう少しこの手のGPS機能の是非は、世論で揉むべきだと思っている。というのも、我々モノカキは普段から平穏無事なことばかり書いているわけではないので、うっかりジオタグが付いたままの写真を気づかずにブログにアップしたりすると、行動パターンを把握されて待ち伏せされたり、自宅や家族が危険にさらされるというリスクが生じるからである。

 「スイッチが切れる」というのでは不十分で、物理的に外せるとか、アクセサリーシューに別途取り付けるといったほうが、安心できる。そういう考え方もあるということを、みんなで認識しておくこともまた必要であろう。


■ 総論

 正直ビデオカメラというのは、一つの完成を見たのだと思う。今後は子供撮りというコンサバティブな市場を残しつつ、WEB目的に特化したり、別の何かに組み込まれていく方向に分かれていくのではないか。

米国のみで販売されるソニー「MHS-CM1」

 一つの可能性としては、バンバン撮って、見たらバンバン消す、気に入ったモノだけWEBにアップ、というルーチンだ。刹那的ではあるが、パパママ用途ではない使い方としては、一番妥当性が高い。その点で米ソニーの「MHS-CM1」のような、WEBサービスにフォーカスした廉価なムービーカメラも、可能性を感じる。

 ただこれら廉価カメラの欠点は、音がちゃんと録れないという事だ。映像は画質が悪くてもWEB上ならなんとか許されるが、しゃべりの音が良く聞こえないというのは致命的である。日本のお家芸でもあるICレコーダぐらいの性能をこれに組み込めたら、ビジネスユースでもかなりヒキがあるのではないかという気がする。

 一方高級機は、デジタル一眼の技術と交わって、もう1ステップ先に進む可能性は高い。というのも、これまでのビデオカメラの高級機というのは、プロ用機、特に報道用途のカメラをモデルにしてきた。しかしコンシューマでは、生々しい血だらけの現場を撮ったりしないし、いやというほど現実を見せつけられるような表現は受け入れにくい。

 むしろ映画用カメラのような、現実を現実以上にドラマチックに見せる、そういう表現を求めている。その方向性は、一眼レフに求められる路線と近いのではないかと思うのだ。それが結果的に一眼レフのままなのか、一眼レフのレンズが付くビデオカメラなのかはわからないが、少なくともビデオレンズを数本買いそろえるというのは、コンシューマではあり得そうにない。

 デジタル一眼とビデオカメラのハイブリッド機は、各メーカーとも年内にはなんとかしたいと思っているのではないだろうか。

(2009年 5月 20日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]