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第414回:オールインワンへの道を歩み始めた「EDIUS Neo 2」

~ Blu-rayオーサリングやエンコードハードウェア対応 ~




■ 未だBlu-rayまでは遠く?

 コンシューマのハイビジョンカメラは、ようやく記録フォーマットがAVCHDに集約されるに至った。一方、デジタル一眼やデジカメの世界ではまだもうちょっと乱戦が続きそうな気配だが、サブセット規格としてAVCHD Liteが立ち上がり、そして先週レビューしたPanasonic「DMC-GH1」がAVCHD記録対応であったことから、なんとなく一つの方向性は見えてきているように思う。

EDIUS Neo 2

 しかし編集ソリューションというのは、あまり注目されていないのが現状である。カメラ付属のソフトでなんとなく切った貼ったぐらいはできることから、ちゃんと編集するというニーズはないのかもしれない。しかしちゃんと編集しようと思ったら、実はそれほど選択肢は多くないというのが現状である。

 トムソン・カノープスの「EDIUS Neo」は、そんな中でもリーズナブルな価格で柔軟に様々なファイルフォーマットに対応、出力も何でもアリということで、小回りの利くソフトとして人気が高かった。そして5月には新バージョン「EDIUS Neo 2」が登場した。

 実は編集機能自体にはそれほど大きな追加機能はないが、これまで難題とされてきたBlu-ray作成機能が強化された。加えてすでに発売されている、MPEG-2、MPEG-4 AVC/H.264のハードウェアエンコーダ「FIRECODER Blu」にも対応、高速出力を実現している。

 ハイビジョンで撮ったヤツをどうするのかという問題はずっと先送りされているままだが、Blu-rayへ保存というのも一つの解である。そのルートを最短で結ぶことができるのだろうか。早速試してみよう。



■ 編集用コーデック作成も高速化

FIRECODER Blu

 ソフトウェア単体としてのEDIUS Neo 2は、税別で通常29,800円、アップグレード12,800円、優待・乗り換え版が23,800円となっている。そのほか、ハードウェアエンコーダ「FIRECODER Blu」の同梱セットもあり、こちらは64,800円、アップグレードが54,800円となっている。今回はこの同梱セットをお借りしている。FIRECODER Blu単体は49,800円なので、同梱セットはかなりお得感がある。

 FIRECODER Bluに関して、ソフトウェアの対応状況を少し整理しておこう。EDIUS Neo 2が対応しているのは当然として、同梱セットにはFIRECODER Blu専用のエンコード/ライティングソフト「FIRECODER WRITER」も付属している。これはすでに出来上がったMPEG-2やAVCHDなどの映像ファイルがある場合、EDIUS Neo 2を立ち上げることなく、ファイル変換からBlu-rayライティングまでの作業ができる。

 そのほか同梱はされていないが、AVCHDファイルをCanopus HQ Codecなどにバッチ変換するソフト「AVCHD converter 3」も、EDIUS Neo 2ユーザーなら無償でダウンロードして利用可能だ。これもFIRECODER Bluを利用しての高速変換ができる。

 通常の編集作業では、以下のような段取りになるだろう。

  1. 撮影したAVCHDファイルを、AVCHD converter 3でCanopus HQ Codecに変換
  2. EDIUS Neo 2で編集
  3. 完成作品をEDIUS Neo 2でBlu-rayにエンコード/書き込み

 このうち、エンコード作業が必要な1と3でFIRECODER Bluが利用できるというわけである。まずはAVCHD converter 3から見ていこう。最新バージョンのVer.3.10では、2枚のFIRECODER Bluが利用できるようになった。ただ2枚挿しするためには、PCI Express x1の空きスロットが2つなければならないため、事前にマザーボードのスペックをよく確認する必要がある。

バッチエンコードを可能にする「AVCHD converter 3」FIRECODER Bluを利用するかどうかを選択できる


CPUのコア数だけ並行処理が可能

 手始めとして、AVCHD converter 3で10カット、約2分弱のAVCHDファイルを、Canopus HQ Codecにエンコードしてみた。FIRECODER Bluを使用した場合、変換に要した時間は2分7秒であった。

 次にCPUのみで変換した場合をテストしてみた。使用マシンはCPUにCore2 Duo 6700(2.66GHz)で、メモリは2GBを搭載した、Windows Vistaマシンである。CPUが2コアなので、2つの変換を同時に行なうことができる。この場合は2分45秒であった。

 時間的には38秒の差、1時間程度のファイルを変換した場合、約20分弱の差が出る計算である。まあしかし、大差ないと言えば大差ない。Canopus HQ Codecは高圧縮ではなく、ビットレートが高い低圧縮ファイルなので、エンコードの負荷は元々小さいということだろう。

 この場合の違いは、CPUでエンコードさせるとCPU稼働率が100%になるので、他の作業はほぼ無理である。しかしFIRECODER Bluがあれば、CPU使用率は最高でも50~60%程度なので、別作業は十分可能だ。


沢山のファイルを同時にエンコードしようとすると、エラーが出る

 これまであまり報告されていないようだが、AVCHD converter 3では一度に沢山のファイルをエンコードさせると、エラーが出る。ファイル数の制限なのか、ファイルサイズの制限なのかは不明だが、テスト環境で試した限りでは、44ファイルまで一気に登録、バッチエンコードが可能だが、45ファイル以上を同時に処理させようとすると、エラーとなるようだ。



■ 強化されたエフェクト

トランジションエフェクトにGPUfxが追加

 EDIUS Neo 2の編集機能自体は、前作から大きく変わったところはない。ただ今回はエフェクト類が強化されている。新グループとして、GPUを使って演算を行なう「GPUfx」が追加になった。複雑なエフェクトも、GPUのパワーでリアルタイムプレビューできるわけである。

 当然グラフィックスカードの性能により、リアルタイムプレビュー可能なものとそうでないものが出てくる。今回のテスト機のグラフィックスカードはNVIDIA GeForce 8600 GTSで、今となってはそれほど速いものではない。比較的単純な変形であればリアルタイムで動作するが、パーティクル系はさすがに厳しく、リアルタイムでの動作は無理であった。


この程度のエフェクトならリアルタイムで動作可能細かいパーティクルは、リアルタイムでは難しいケースも

 GPUfxには1,000以上のプリセットがあるそうだが、1つのパターンで方向違いや進行方向違いなどで別プリセットとなっている。実際の効果パターン数という意味では、100以下になるのではないかと思われる。

 ハイエンド製品向けのプラグインも同梱されている。新たに加わったのは、proDAD社のMercaiil、VideoShaker、VitaScene Filter、VitaScene transitionだ。これらはすでにEDIUS Pro 5にはバンドルされていたのだが、コンシューマ向けのNeo 2にもバンドルされたわけである。

 この中で注目度が高いのは、手ぶれ補正を行なうMercaiilだ。ソフトウェアによる手ぶれ補正は、プロ用プラグインでは10年前ぐらいから存在するが、コンシューマで一躍知られるようになったのは、AppleのiMovie '09に搭載されてからだろう。

 iMovie '09に搭載のものは、設定らしい設定がほとんどなにもないのだが、Mercaiilは条件に合わせたプリセットが沢山用意されている。また細かいパラメータを調整することも可能だ。

手ぶれ補正をソフトウェアで実現する「Mercaiil」細かい条件別のプリセットが充実

 まず最初に映像を解析する必要があるが、プリセットを変更すると、最初から解析し直しになる。解析速度はプリセット次第、というかどれぐらい細かく補正するかのパラメータ次第で、簡易的にやればほぼリアルタイムで解析されるが、細かくやろうとすると実時間の10倍ぐらいの時間がかかる。

わざと揺れを作るVideoShaker

 補正結果は、かなり強めの補正をかけても完全に静止するまでは行かず、補正力という意味ではiMovie '09のほうが上である。しかしMercaiilは、一部のパラメータは変更しても再解析が必要なく、リアルタイムで補正の違いを確認できる点で優れている。

 VideoShakerはMercaiilとは逆で、わざと揺れている映像を作るためのプラグインだ。地震やパニックなどのプリセットがあるが、効果に規則性があり、多少わざとらしい感じがするのが難点だ。後付だとバレないように使うのが難しい。


 

 
panic.mpg (65MB)
 
shake.mpg (65MB)
「パニック」を適用してみた結果

Mercaiilの補正例。左がオリジナル、右が補正後

編集部注:EDIUS NEO2で編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

■ 高速化が見込めるBlu-ray作成

 では、次にBlu-ray作成機能を見ていこう。過去EDIUS Pro 5では「Ulead DVD Movie Writer」をバンドルし、一応Blu-rayが作れる環境まで整えた。Blu-rayのオーサリングが可能なUlead DVD Movie Writer 7は、過去この連載でも取り上げたことがあるが、オーサリング時のレンダリングに相当時間がかかることが問題であった。

 EDIUS Neo 2にBlu-rayオーサリング機能を盛り込んだというメリットは、このオーサリング時の動画エンコード時に、FIRECODER Bluのパワーを使うことができるという点である。

 Blu-rayの作成は、出力メニュー内から「DVD/BDに出力」を選ぶと、別ウインドウが起動してオーサリング画面となる。タブで機能を切り替えながら勧めていく、オーサリングソフトにはよくあるスタイルである。ムービーの選択は、すでにEDIUS Neo 2上に編集したシーケンスがある場合は、それが自動的に登録されている。追加でクリップ単体や、別シーケンスも登録することができる。

Neo 2に組み込まれた、DVD/BDオーサリング機能エンコードパラメータは手動でも設定できる

 エンコードパラメータは、自動に設定すれば丁度メディアに入るようビットレートが調整される。手動で設定できる最大ビットレートは、映像側は23.8Mbpsのようである。

 メニュー画面はプリセットから選択できる。画面下のタブでグループを切り替えて、好みのものを選んでいく。全部はとても数えられないが、100以上のプリセットがあるようだ。ただこれも、サムネイルのあり/なしを選ぶようになっているため、実質的なデザインのパターン数としては半分である。「メニューの編集」に進むと、文字などの修正や追加が可能だ。最後に「出力」へ進んで、オーサリングと書き込みを行なう。

数多くのメニューテンプレートを内包最後にエンコードと出力を行なう

 試しに20分の映像ソースをBlu-rayに対して出力してみた。メディアへの書き込みは、Blu-rayドライブの性能やメディアの記録速度に依存するので、書き込み直前までの時間を計測した。

 まずFIRECODER Bluを使用しての出力では、映像のエンコードに18分57秒、メニュー作成までで25分46秒であった。次にFIRECODER Bluを外してCPUだけで同じ出力を行なった結果、映像のエンコードに1時間54分50秒、メニュー作成まで1時間59分30秒であった。

FIRECODER WRITERもBlu-ray制作機能を持っている

 メニュー作成に関してはCPUパワーだけなので大差ないが、映像のエンコードはFIRECODER Bluなら、実時間を切る速度で作業が完了する。編集からメディアへの書き込みまでを考えたら、その日のうちに終わるか終わらないかの違いが出るだろう。

 一方、FIRECODER Bluに付属のFIRECODER WRITERでも作成してみた。設定は最高画質である。バラのAVCHDファイルで約20分の映像を登録してみたところ、ディスクイメージの作成までで17分5秒であった。こちらのほうが多少速いが、EDIUS Neo 2からわざわざファイルで書き出してFIRECODER WRITERを使うほどのメリットはないようだ。



■ 総論

 MPEG-2へのエンコードは、すでにCPUパワーだけでなんとかなる時代になった。だがH.264は、やはり別途アクセラレータがあるならば利用したい、負荷の重い作業である。

 Blu-rayの作成は、今やBDレコーダでやるほうが一般的になりつつあるが、編集作業が絡むとなるとやはりPC上でのエンコード作業が必要になる。そんなときにアクセラレーション可能なハードウェアとソフトウェアの組み合わせは、大きな差を生むことになる。ぶっちゃけた話、時間を金で買うということである。

 一方、編集作業に目を移すと、AVCHDネイティブ編集の可能性も、次第に現実的になりつつある。昨今ではようやく、ハードウェアでデコードをサポートしたVAIO type Pのようなもの、あるいは先週のニュースにあったような、MPEG-2とH.264のトランスコーダLSIも登場し、徐々にアクセラレーションの環境が整いつつある。今後はCPU、GPUだけでなく、エンコード専用チップがPCに組み込まれる日も近いかもしれない。

 しかし現状を考えると、PC上で編集、Blu-ray作成というルートで高速化が期待できるEDIUS Neo 2とFIRECODER Bluの組み合わせは、今使える現実的な解であることは間違いない。個人ユーザーがそこまで投資するかは考えどころだが、業務以上の人は終電で帰れるかどうかがかかっているだけに、検討に値する選択肢だろう。

(2009年 5月 13日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]