“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
■ 永遠のカセットテープ?
カセットテープ(正式にはコンパクトカセット)というのは、いつ頃から使われなくなったのだろうか。正確な資料はないが、おそらく2000年頃から本格的な衰退が始まったものと考えられる。
この2000年前後というのは、オーディオにとってはまさに節目であった。'96年頃からすでに圧縮記録としてMP3が注目されていたが、韓国製のMP3プレーヤー「mpman」が秋葉原で発売されたのが'98年5月のことであったという。
PCユーザーはMP3に走ったが、一般ユーザーはMDに移行していった。MDの発売自体は'92年と結構早かったが、同時にカセットや音楽CDのポータブルプレーヤーもそれなりに売れていたことを考えると、やはり長時間録音が可能なMDLP規格が登場したの2000年あたりがターニングポイントだったのだろう。この頃中学生・高校生らはみんなMDウォークマンを欲しがったものである。
しかし'09年の現在でも、カセットテープ文化が完全になくなったわけではない。現在もカセット型ウォークマンは、数は少ないが現役モデルとして販売されているし、類似品も大型アウトレットショップなどで売られている。
ラジカセも未だ現役で、東芝、パナソニック、ソニー、シャープ、三洋電機などの製品を買うことが出来る。もちろんすでに中身は中国製になっているのだろうが、案外国内メーカーのブランドで売られているようである。またカセットデッキも、オンキヨー、パイオニア、ソニー、ティアックなどで現行商品があるようだ。
そうはいっても、アナログ記録のカセットテープは、経年変化で年々音質が劣化してゆく。大事な録音があるならば、早々にデジタル化しておいた方がいいだろう。今回はそんなニーズに応えるノバックの「CASSETTE to DIGITAL」(以下CtoD)を取り上げてみた。
■ 結構大胆な作りと操作性
手元にカセットテープの再生機がある人はまだ安心しているかもしれないが、いざデジタル化しようと思うと案外焦るものである。というのも、ミニコンポやラジカセにはライン入力はあっても、出力がないものが多いからだ。ヘッドホン出力から録ろうと思っても、インピーダンスが合わないなどの問題があり、実際やってみてあんまり上手く行かなかったという人もいるだろう。
レトロな小箱風の外見 |
CtoDは、いわゆる普通のカセットプレーヤーとはあらゆる面で逆を行った商品である。本体は165×135×143mm(幅×奥行き×高さ)の木箱で、それほど大きなものではない。価格はオープンだが、メーカーサイトでは税込7,980円前後となっている。ネットでは7,000円強で買えるようだ。
カセットデッキ部は、昔のカーオーディオなどで主流だった、縦に突っ込む方式。サプライリール側を上にして、テープを突っ込む。逆向きには入らないようになっている。
電源はボリュームと兼用で、電源を入れた状態でテープを入れると、問答無用で再生する。停止はできない。本体に停止ボタンがないので、いきなり電源を切るのみである。
上部のスロットにサプライ側を上にして押し込む | 電源兼用のボリューム |
カセット入り口の右側の突起が、イジェクトボタンだ。なおテープを取り出すときも、電源を切ってテープを止めてから行なった方がいい。再生中にいきなりイジェクトすると、テープが絡まったり切れたりする恐れがある。おそらくカセットテープ自体も、経年変化でだいぶ弱くなっているので、無茶をしないことである。
早送りはイジェクトボタンを半押しする |
停止はできないが、早送りはできる。イジェクトボタンを半押し状態にすると、早送りとなる。なおこの位置で指を離せば固定されるので、指でずっと押さえておく必要はない。安いカーオーディオでよくあった方式である。では巻き戻しするときはどうするかと言うと、いったんテープを取り出して裏向きに入れ、早送りするわけである。もうこのあたりの説明は、若い人には何を言ってるのか意味がわからないかもしれない。
正面にスピーカーがあるが、モノラル再生のみである。リスニングに使うというより、内容確認用のモニターだと考えた方がいいかもしれない。なおステレオ再生したい場合は、RCAのステレオ出力があるので、そこからアンプ、スピーカーなどに接続する。
直径約7cmのモノラルスピーカー内蔵 | 上部にある端子 |
なお、この端子はOUTと書いてあるが、自動認識(?)で入力にもなる。カセットデッキには録音機能はないが、スピーカーから音が出るほか、USB経由でPCに取り込むことができる。
上部には肝心のUSBコネクタがある。対応OSはWindows XP/Vistaで、ドライバはOS標準のUSB PnPオーディオデバイスとして認識する。本体にはCassete Mateというオーディオキャプチャ用のソフトウェアが付属する。
なお本機にはDolbyCとかdbxといったノイズリダクションは内蔵されていない。またメタルテープモードのようなものもない。したがってこれらのテープを再生した場合、本来の性能を発揮できない場合もある。ただアナログなので、音が出ないということはない。
■ 最低限の操作でデジタル化できる
付属の音声キャプチャソフト「Cassete Mate」 |
キャプチャ用のCassette Mateは、これまた本体同様シンプルで必要最小限の機能を持つソフトウェアだ。画面を見れば大抵のことは想像できると思うが、カセットを入れたら本体が勝手に再生するので、それを画面上のRECボタンをクリックして録音するだけである。
画面内に停止ボタンがあるが、これは録音の停止で、カセットの停止ではない。ソフトウェア側からは、カセットテープはまったくコントロールできない。ポーズも同様である。
録音画面内にあるタイトル、アルバムなどの項目を事前に埋めておくと、出来上がるファイルにID3タグが埋め込まれる。記録可能なフォーマットは、MP3、WMA、WAVだ。ただWAVの場合はID3タグは記録されない。
曲の分割に関しては、設定した無音時間、指定時間、手動分割の3つが選択できる。なお無音時間による分割では、オプション設定画面で無音秒数と無音レベルの設定が可能だ。もちろん録音レベルの調整もできる。
またCassette Mateには、再生機能も付いている。通常の再生だけでなく、0.5倍速から1.5倍速まで、段階的にスピードコントロールが可能だ。元々は会議録音などの用途にも使えるソフトなのかもしれない。
オプション設定でファイルフォーマットや無音レベル調整などを行なう | 別ウィンドウで起動する再生機能 |
音質に関しては、そもそも完全な再生状態が確認できる比較対象がないため評価はできないが、周波数特性が100Hz~8KHzということで、音楽的にはそれほど期待はできない。しかし音質よりも残っている事が重要という「記録」もあるわけで、大量にそういうものがある人は、なるべく最小限の手間でデジタル化したいはずだ。
もし音楽的に音質補正をしたいというのであれば、音楽データのクリーニングソフトというものがある。1万円以内で買えるものでも結構効果があるようだ。藤本 健氏のDAL連載でも過去いくつかレビューされているので、参考になるだろう。
■ 総論
コンパクトカセットが規格化されたのは、1962年なのだそうである。筆者が物心ついた頃にはすでに存在したはずだが、本格的に一般家庭、というか子供でもお年玉で買える程度にまで低価格化したのは、70年代に入ってからのことであったろう。日本でカセットの存在が一躍メジャーになったのは、東京電気化学工業が「TDK」というカッコいいブランド名をひっさげて、若者向けにテレビCMを大量に投下したからであった。
オープンリールの6mmテープは、すでにコンシューマでは絶滅して久しいが、放送では90年代初頭ぐらいまでは使われていた。DENONやStuderの業務用レコーダが、どこのスタジオに行っても必ず1台は置いてあったものである。オープンリールとコンパクトカセットの中間のようなものに、エルカセットというものがあったことは、ほとんど知られていないだろう。筆者も音響工学を学んでいたから名前ぐらいは知っているが、実物は見たことがない。
絶滅度が激しいのはカセットよりもDATで、もはやスタジオ用などの業務機を除いて、新品ではまず手に入らない。'05年まで販売していたソニーの「TCD-D100」が最後だったようである。
筆者はカセットから早々にDATに切り替えたこともあって、ハードウェアの絶滅はかなり痛い。'95年頃にかなり無理してソニーの「WMD-DT1」という再生専用機を買ったが、すでに10年以上経過しており、いつまで聴けるのか不安である。頼むから今のうちにデジタルデータで吸い出させてくれぇと絶叫したい気分だ。
実はMDも油断できない。ソニーは'06年の「MZ-RH1」を最後に、MDウォークマンをリリースしていない。他メーカーは早々に製造を終了しており、ハイエンド向けのデッキを何社かが作っているのみだ。CDはまだ当分大丈夫と思われるかもしれないが、LPレコードだって当時は永遠になくならないものと思われていたのである。PC用メディアも、MOなどはあれほど普及したのに、あっという間に無くなってしまった。
例えデジタル機器でさえ、無くなるときはあっという間なのである。メディアは手元に残るが、再生できる機械が壊れたらそれっきりという事態が、まさに人類史上我々の世代で初めて、起こりつつある。今後はデジタル化云々という次のステップとして、長期間のファイル化/アーカイブ化をどうするかというのも、一つのテーマとして考えるべきだろう。