“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第411回:NAB 2009レポート その3

~小物から大物まで、サウスホールのポスプロ製品群~




■ サウスホールは独特の賑わい

 NAB3日目の本日は、LVCCサウスホールに出展中のメーカーの情報をお伝えする。撮影、放送局設備の展示が集中するセントラルホールに対して、サウスホールはポストプロダクションからディスプレイ関係のメーカーが集められている。

 昨今ポストプロダクションとは言っても、ノンリニア主体の小規模事業者や個人事業者も多くなり、以前のように設備産業という側面は薄れて、廉価な機器とソフトウェアを使って小回りの利く作業を得意とするところもある。しかしその一方で、昔ながらのスイッチャーと編集機という組み合わせの制作スタイルを残す形態もあり、次第に二極化が進んできている。 



■ 小型コンバータを発表したRoland

 楽器やPA機器などを数多く輩出するRolandだが、ビデオ関係ではニッチなニーズに対応した他に競合の少ない製品を出してきている。今年は映像機器の新製品として、コンパクトなビデオフィールドコンバータ「VC-50HD」を出展した。

 

ニッチなニーズをつかむRolandのブース小型コンバータ「VC-50HD」

 以前1Uサイズのマルチフォーマットコンバータ「VC-300HD」という製品があったが、VC-50HDはその中から機能を絞って小型化したような製品である。HD-SDIとHDV(IEEE1394)間を相互に変換、SDIとDVを相互に変換できる。ただしVC-300HDと違ってアップコンバート/ダウンコンバート機能やフレームレート変換機能はない。

 

同社製レコーダF-1との組み合わせ例
 また非圧縮HD-SDI信号を、MPEG-2 TS/50Mbps/1,920×1,080にエンコードし、IEEE 1394端子から出力する機能も備えている。HDVはフルHDではないため、画質的にも営業的にも限界を感じている業務ユーザーに喜ばれそうだ。同社フィールドレコーダF-1で収録可能なほか、主要なノンリニア編集ソフトでダイレクトにキャプチャ、編集できる。

 またBlu-rayレコーダにIEEE 1394で接続することで、簡易的に試写用ディスクを作成できるといった使い方も可能。HDMIへのモニタ出力もあるので、プロ機と民生機の間を繋ぐ製品という側面もある。

 変換の方向などベーシックな設定は、横のディップスイッチで設定する。エンコードのビットレートなど細かいパラメータは、USBで接続したPCから専用ユーティリティを使って変更が可能になるという。

 同社のF-1と同じく、単三乾電池8本を内蔵しての駆動が可能なほか、ACアダプタ、業務用カメラバッテリなどで動作する。

 今年6月発売で、価格は35万円程度を予定している。

□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/



■ 収録-編集間を最短で結ぶAJA

 

各種コンバータなど編集周りをサポートするAJAのブース
 カメラメーカーのブースでもたくさん見かけたのが、AJAの新製品「Ki Pro」(キープロ)だ。エンコーダを内蔵したHDDレコーダで、カメラからの出力をダイレクトに10bit 4:2:2 フル解像度のApple ProRes422に記録する。

 アナログコンポーネント、SD/HD-SDI、HDMI、LTC、2chアナログオーディオの入出力を備えているため、あらゆるカメラに対応可能。FireWire400/800の端子も装備している。

 記録は内蔵の250GB FireWire 800リムーバブルHDDか、Express Card/34対応のフラッシュメモリ。記録メディアをKi Proから取り出してMacに直結することで、キャプチャなしにFinalCutProで編集が可能としている。

 使い方としては専用マウントアクセサリを使って、カメラと三脚の間に挟むように設置するというのが推奨のようだ。もちろんポータブルデッキ的な使い方もできる。電源コネクタは4ピンXLRで、バッテリやACアダプタで駆動する。

 またEthernetポートも装備、WiFiにも対応し、PCからWEBブラウザ経由でコントロールすることも可能。日本では6月発売で、価格は58万5,900円。

ProRes422にダイレクト記録する「Ki Pro」

豊富な入出力端子を装備

□AJAのホームページ
http://www.aja-jp.com/



■ Thomsonから独立するGrass Valley


緑色の照明で埋められたGrass Valleyブース
 サウスホールでは最大の出展規模となっているのが、Grass Valleyブースだ。Grass Valleyは以前仏Thomsonに買収され、その傘下にあったわけだが、この1月にThomsonがGrass Valleyを売却する意向を表明し、再び独立メーカーとなる予定だ。ちなみにGrass Valleyは、今年で丁度創業50周年だそうである。

 また日本のカノープスもGrass Valleyと共にThomsonから離れることになった。ただ日本では未だ社名がトムソン・カノープス株式会社のままなので、ちょっとややこしいことになっている。

 サウスホール入り口にも大きな看板が掛かっているが、この看板の製品「KAYENNE」(カイエン)がGrass Valleyの目玉商品である。


サウスホールの大看板が「KAYENNE」
 KAYENNEは久々に発表された、大型プロダクションスイッチャーの新モデル。これまでライブ中継などで使用するライブスイッチャーは数多く存在したが、プロダクション用途を唱ったスイッチャーは珍しい。

 様々な機能がユニット構成になっており、仕事の規模に合わせた構成に設計することが可能となっている。このあたりはSONYのMVS-8000と同じ考え方である。

 最小構成では1.5M/E、最大で4.5M/Eとなる。最小1.5M/E構成で24入力/12出力、最大4.5M/E構成で96入力/48出力。本体は規模に合わせて、4U~8Uの筐体になる。

4.5M/E構成のKAYENNE

 M/E列には、過去Grass Valley製スイッチャーの特徴であった、ダブルテイク機能を搭載。これは1つのM/Eを表面、裏面といった形で2つに分けて実質2M/Eとして使えるものだ。この機能をフルに使うと、最大構成の場合で10M/E相当のスイッチャーとなるという。

 フェーダーもModel300タイプの小型でありながら、左右2つに分かれるスプリットフェーダーを採用。クロスポイント部のモジュールは、15、25、35の3タイプから選択できる。

 各M/E列は7.5度の角度を付けて固定することが可能。これは重要な機能で、普通4.5M/Eともなると、フラットなパネルでは一番奥のスイッチは、立ち上がらないと押すことができない。だいたいパネル面が畳1畳分ぐらいの大きさになるからである。大抵一番奥はAUXバスになるわけだが、細かい作業になるほどいちいち立ち上がらなければならないため、操作が面倒であった。

 しかしKAYENNEは奥に行くほど起き上がっている構造なので、座ったままで全操作が可能なほか、全体のセッティングが把握しやすい。

 

ボタンの色は任意に変えられる

 またスイッチ類の色が派手だが、各スイッチ内にはRGBのLEDが仕込んであり、ボタン色をフルカラーで設定可能。お勧めのプリセットから選べるほか、ユーザーが用途に合わせて任意に色分けすることができる。

 キーヤーは1M/Eに付き6。うち4つがフルファンクションのキーヤーで、残り2がリニアキー専用となる。フルファンクションのキーヤーにはビデオストレージ機能が内蔵されており、決まりのタイトルなどをストアして、専用キーヤーとして使うことができる。

 エフェクト(DPM)は各M/Eごとに4ch装備。従って4M/E構成では4×4で16chとなる。また別途、自由にアサイン可能なフローティングエフェクトが4ch追加可能で、合計で20chとなる。このフローティングエフェクト4chはコンバイナーでまとめることができるため、プライオリティの入れ替えなどは、Z軸方向の情報を使って制御することが可能。

 スイッチャー内に約1分間のビデオストレージを備えており、動画をストアできる。ビデオで6ch、ビデオキー用で3chに出力可能。またエフェクトオーディオ機能もあり、エフェクト展開時にジングル付きで送出できる。ライブスイッチャーとしても便利な機能だ。

メニューシステムも新設計となっている
 メニューシステムも新設計で、操作はWXGAのタッチパネルとなっている。以前はかなり階層の深いメニューだったが、今回は階層を最大2レベルまでに押さえたという。またお気に入りや履歴表示も採用しており、頻繁に繰り返す設定変更や調整が楽になっている。

 すでに欧米では受注を開始しており、日本では6月頃から受注開始予定。米国での価格は非公開で、日本での価格は未定となっている。

 同ブースでは、トムソン・カノープス製品のEDIUS(日本名EDIUS Pro)の新バージョン5.1が発表された。タイムラインからダイレクトにBlu-rayに書き出す機能や、同社のハードウェアエンコーダ「FIRECODER Blu」と組み合わせての高速書き出し、Final Cut ProからエクスポートしたXMLの読み込みに対応するなど、機能が拡張されている。

 この新バージョンのレビューは、また別途本連載で取り上げる予定だ。

□グラスバレーのホームページ
http://www.thomsongrassvalley.co.jp/

 

(2009年 4月 23日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]