“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
第412回:NAB 2009レポート その4~ これから来る技術、斜め上を行く技術 ~ |
■ いよいよ最終日
最終日はさすがに人が少ない |
NAB 2009も本日が最終日。例年になく今年は14時で閉会なので、最終日まで残る人は少なく、朝はホテルのタクシープールが空港に戻る人で大変な混雑であった。
会場もすいていて取材はしやすいが、若干寂しい感じもする。NABの発表によれば、今年の来場者数は8万4千人弱となっている。昨年が11万人越えだったので、1月のCESと同じく、3万人ほど減少したことになる。
ショーの内容自体は悪くなかったのだが、やはり不景気の影響だろう。サウスホール上側の奥は、かなりキャンセルがあった模様で、広大な休憩所と化している。
市内のメインストリートの賑わいはあまり変わらないように見受けられるが、治安は若干悪くなっているように思う。夜にはあからさまに手錠をかけられ逮捕された人や、7~8人まとめて補導され、体育座りでパトカーの前に座らされる子供たちを見かけた。過去ラスベガスでは経験がなかったことだ。
本日は昨日書ききれなかった新製品と、これから来そうな未来の技術、製品に関するレポートをお送りする。
■ こっそり3Dを仕込んできたPanasonic
今年のNABで、ほぼ米国だけで盛り上がっていたのが、HDの3D映像である。日本ではほとんど訴求されていないが、日本メーカーもほとんどのところが3D技術を参考出品している。
現在3Dを実現する方法は、大きく3つぐらいに分かれるようだ。一つは映像の横ピクセルラインごとに右目用と左目用の映像を織り込む技術。モニター側は、横ピクセルラインごとに特性が変わる偏光フィルタを貼る必要があるが、3Dメガネはただのフィルムで済む。
SONYは3D対応モニタを参考出品した |
この方式の欠点としては、左右それぞれの映像は、縦の解像度が半分になってしまうことと、映像が縦方向に動くと若干フリッカブルな感じがすることである。SONYはこの方式を検討しているようだ。
2つ目は劇場などで使用する、プロジェクタを利用するタイプで、右目用と左目用の映像を2つのレンズで投射し、同じ場所に重ねるというもの。それぞれの映像に偏光特性があり、同じくフィルム状の3Dメガネで視聴できる。言うまでもなく、縦方向の解像度が落ちないので、高画質で実現できる。
3つ目は、1080/60pのうち、1フィールド、2フィールドそれぞれを右目用、左目用とする技術。フィールド単位で時間差があることになるが、解像度は高い。この方式は、投影する映像に対してメガネ側が時間的に同期しなければならないので、3Dメガネは電子シャッターを搭載する必要がある。したがってやや大型で重くなるのが難点だ。
以前であればメガネにケーブルが付いていたものだが、最近は赤外線でタイミング信号を送り、ワイヤレスでメガネ側で受信するというスタイルになっている。Panasonicが検討しているのは、この方式である。
一方3Dの映像制作環境に関しては、まだまだトライアルが続いている状況だ。多くは同タイプのカメラを2台マウントして、機械的にフォーカスなどを同時に動かすという方法でなんとかやっているというのが実情である。
Panasonicブースでは3Dのミニシアターで映像を公開 | Element Technica社のRED ONEを2台連動させるシステム |
記録や編集は、右目左目をそれぞれ別に収録するわけだが、どの投影方式を取ったとしても、最終的には1本のストリーム内に織り込まなければならない。そうなるとハイビジョンの3D映像は、1080/60pにならざるを得ないので、非圧縮では3Gbpsクラスの記録、伝送が必須となる。3Gbps対応に関しては、昨年からすでに製品が出てきているため、各社とも3Dに特化して何か、という感じはまだ見受けられない。
そんな中、Panasoicが参考展示したのは、1台のカメラにデュアルレンズを付けて、最初から1ストリームで収録しようという方法。これも実際には1080/60p相当での収録になるわけだが、現行のP2で採用しているAVC Intraの100Mbpsでは少し足りないということで、さらにビットレートを拡張したAVC Ultraというフォーマットの策定を研究している。
1台の本体に2つのレンズが付いた3D用カメラのコンセプトモデル | AVC Intraの上位規格、AVC Ultraを策定中 |
現在試験している方式は、2倍の200Mbpsを検討しているが、どうせ開発するならエンコードにもっと新しいパラメータを入れて、さらに圧縮効率を上げようという研究も進めているという。また3Dだけでなく、ストレートに1080/60pや、1080/24pなら4:4:4/12bit収録も視野に入れている。
AVC Ultraの小型レコーダのコンセプトモデル | 同フィールドエディターのコンセプトモデル |
■ PS3で高速H.264エンコードを実現する「CodecSys CE-10 Professional」
Broadcast Internationalのブースでは、株式会社フィックスターズがPLAYSTATION 3(PS3)のCellプロセッサを使った高速MPEG-4 AVC/H.264エンコード製品「CodecSys CE-10 Professional」を出展した。
サウスホールのBroadcast Internationalブース | CodecSys CE-10 Professionalのテストバージョンを展示 |
フィックスターズは元々、ゲーム以外の産業分野でCellプロセッサのプログラムを専門とする会社。一方Broadcast Internationalはエンコーダの会社で、MP4のエンコーダを作っていたが、高速化したいという要望があり、協業することになったという。
今回出展したCodecSys CE-10 Professionalは、Broadcast InternationalのエンコードソフトをフィックスターズがCell用に最適化し、さらに業務用として独自に機能を追加していった製品で、すでにPC用はIBMの「PowerXCell 8i」を使ったターンキーシステムとして販売している。
制御側のPCソフト画面 |
CodecSys CE-10 Professionalは、エンコードデータの供給とバッチ処理、エンコード結果の受け取りといった作業を受け持つコントロール用PCソフトと、PS3上で動くソフトウェアエンコーダのセットとなる。
PS3用エンコーダを動かすためには、本来ならば別OSのインストールが必要だが、製品ではCDブートかUSBブートで簡単に使えるようにするという。PC側の対応OSは、Windows XP/Vista。PCとPS3間は、Gigabit Ethernetで接続する。
入力可能フォーマットはYUV4:2:0 8bit planar、非圧縮AVI、MPEG。パフォーマンスとしては、フルHDの映像を10Mbps程度に1Passでエンコードすると、実時間の約1.2倍程度でエンコードできる。最大3Passまで可能。
今年6月発売で価格は未定だが、売りきりではなく月額サブスクリプション課金として、実際に使用する月だけ支払う方法を考えているという。
上記は業務用だが、同じ6月にコンシューマ用のパッケージも企画しているという。ファイルフォーマットなど一部機能に制限があるが、リーズナブルな価格で提供したいとしている。エンコード品質としてはプロ仕様なので、今から発売が楽しみだ。
■ 廉価な業務用ヘッドホンをリリースするSHURE
SHUREの業務用ヘッドホン3モデル |
インナーイヤーが好調で、いつのまにかコンシューマでの顔が立ってしまったSUHREだが、業務用途を想定したオーバーヘッド型のヘッドホン3モデルをリリースした。
Professional Monitering Headphoneを名乗る「SRH840」は、40mm径のダイナミックドライバを搭載した最上位モデル。
再生周波数特性は5Hz~25kHzで、10フィートのカールコードになっている。コードは片出しで、90度ひねると外すことができる。コネクタはミニステレオ。イヤーパッドのフォームは柔らかく、形状を記憶するタイプだが、装着するとちょっと重い感じがする。価格は199ドルと、最上位モデルにしてはかなり安い。
SRH840の根もと部分 | 90度回すとロックする構造 | イヤーパッドには形状記憶型フォーム採用 |
「SRH440」は、Professional Studio Headphoneという位置付けのミドルレンジ製品。ドライバの口径は公開されていないが、エンクロージャ部は840より少し小さい。これも同じく10フィートのカールコードで、根もとから外すことができる。先端はステレオミニプラグ。パッドは形状記憶型ではないが、フィット感はよく、交換できるようになっている。再生周波数特性は10Hz~22kHzで、価格は99ドル。
「SRH240」は今回の中ではもっとも低価格なモデルで、59ドル。コードは両出しの細いタイプで、カールコードではない。イヤーパッドは交換できるタイプだ。再生周波数特性は20Hz~20KHzとなっている。
ラバー内のフォームは違うようだが、軽量な「SRH440」 | かなり小ぶりの「SRH240」 |
一応全部試聴してみたが、SRH440と840は、サウンドの傾向がかなり似ている。ただどちらもエージングが足りないのか最終のチューニングが終わっていないのか、中音域の解像感は高いが全体的にハイ上がりで、低音はそれほど出ている感じはしなかった。SRH240はさらに他上位モデルに比べて、中域もやや不足気味だった。音質の評価は、製品版が出るまで待った方がいいだろう。
フィット感は440がサイズ的にも重量的にも、多くの人に好まれるだろう。また業務用レベルにしては、かなり安い。製品版の音質がちゃんとしていれば、お買い得なシリーズである。発売は今年夏を予定している。
■ 相変わらず熱い撮影用品
NABはカメラも熱いが、撮影周辺機器も大変充実したショーで、個性的な製品が多い。昨年NikonとCanonがデジタル一眼でハイビジョン撮影に対応したが、Canonは撮像素子が35mmフィルムと同サイズでフルHDが撮れるということで、日本では“これで映画とか撮れちゃうかもね”的な盛り上がり方である。
しかし米国ではまったく本気で、シネマを撮る前提のイクイップメントが登場している。Redrock Microのブースでは、EOS 5D MarkIIにシネレンズアダプタを付けて、マットボックスやフォーカスフォロー用のギアも装着して、一角のシネマカメラさながらに仕立て上げるという展示を行なっていた。
5D Mark IIをシネマ撮りに改造 | 液晶モニタにも別途ファインダを装備 |
キットというのではなく、単体のシリーズを色々組み上げてこの形にしているようだ。また独Chroszielも同様のシステムを構築して展示していた。
キットをバラすとこんな感じ | 独Chroszielのシステム |
D5 Mark IIのオーディオを拡張する「DXA-5D」 |
またBeachTekの「DXA-5D」は、5D MarkIIにXLRのオーディオを拡張するボックス。ライン、マイク入力に対応し、48V電源供給も可能。ここに入力したオーディオは、5D本体にステレオミニジャックで供給される。
次に使いやすいのが出るまで待とうという考え方は、日本にいて日本メーカーの作る製品を見ているから思うことなのであろう。ハードウェアメーカーが少ない米国では、存在するもので使えそうなら全部使うという本気度が、全然違う。
カムコーダの撮影では、ソニーはXDCAMなどのカメラの後部に装着するSxS2スロットのレコードユニットを参考出品した。
参考出品されたSxS2スロットのレコードユニット | 逆サイドにはHD-SDIの出力も装備 |
1日目のレポートでご紹介したビクター(JVC)製のユニットは1スロットだが、2スロット独自の機能が付くということだろう。
JVCのカムコーダ「GY-HM700」とSxS録画ユニット「KA-MR100G」 |
またJVCのSxS録画ユニットに関しても、追加取材を行なった。XDCAM EXフォーマットのMP4は、エンコードはMPEG-2だがラッパーがMP4という、ちょっと変わった形式になっている。JVCの録画ユニットは、カメラ本体のエンコーダでMPEG-2にエンコードしたのち、カメラ本体にはラッパーをQTに変えてSDHCカードに収録、SxSレコーダには同じくラッパーを変えてMP4で記録するという仕様だそうである。
またSxSレコーダ側にもエンコーダが搭載されているが、カムコーダに装備して使っているときには使用していない。これは今後登場する別ソリューションで利用するということのようである。