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第482回:ようやく登場したBlu-ray RD、東芝「RD-BZ800」

~ メディア・番組をいじる人のための一台 ~



■ VARDIAからREGZAへ

 2008年2月のHD DVD撤退以降、東芝RDファンはずっとBlu-ray版のRDを待ち続けていた。いや正確には撤退決定以前からBlu-rayモデルも出してくれという声はあり、撤退が決まってようやくそれに現実味が出てきた、という流れであった。しかしすぐにはBlu-rayに行くつもりはないとの発言が聞こえてきたり、またテレビのREGZAが録画機能を強化するに至り、東芝は今後そっち方向で行くつもりなのか、と思わせたりもした。

 しかし今年2月に「ブルーレイVARDIA」が発売され、やる気あるんだ、ということが明らかになった。ただし2月発売のDシリーズはシンプルな使い勝手のエントリーモデルであったため、過去のRDが持つ高度な編集・ダビング機能は利用できなかった。

RD-BZ800

 そしていよいよRD型番のBlu-rayモデルが4タイプ登場する。発売順でいくと、9月下旬にRD-BZ800/700、10月中旬にはシングルチューナのRD-BR600、そして11月下旬にRD-X10という具合に順次発売される予定だ。今回はフラッグシップRD-X10の一つ下、RD-BZ800(以下BZ800)をお借りすることができた。

 ブランドもVARDIAではなく、テレビと同じREGZAを名乗っての再スタートとなった。必ずしもVARDIA = HD DVDではないが、ブランドとしては負け組のイメージが付きまとう。ここはひとつREGZAに乗っかった方が得策であろう。ただテレビのほうのREGZAも録画できるので、今後は表現がややこしいことになりそうである。RDの型番を継承した東芝のBlu-rayレコーダの実力を、さっそく検証してみよう。



■ デザインは変わらず?

 まずBR800のポジションだが、高品位パーツにこだわったハイエンド機X10を除いたミドルレンジ機の中での、最上位モデルとなる。できることはX10とほぼ同じでありながら、店頭予想価格は7万円ほど安い。すでにネットでは10万円台で売るところもあり、実売価格では8万円ほど差が開いてきている。

 前面デザインはVARDIA Dモデルを継承した、三角錐型に手前に飛び出しているスタイルだ。昨今のレコーダは前面ペッタンコのモノリシックデザインが主流だが、それに対するアンチテーゼのようにも見える。まあかっこいいかと言われると正直そこは意見の分かれるところだろうが、挑戦的であることには違いない。

フロントパネルが三角形に飛び出した独特のデザイン

天板に大きなBlu-rayロゴ

 天板には大きくエンボスでBlu-rayロゴが描かれているあたり、「ああ負けた負けた、どーせ俺たちは負け組ですよハイハイ」的なヤケクソ感が漂っており、往年の東芝RDファンは涙なしでは見られないはずだ。しかしさすがにこれはちょっとデカ過ぎだろう。

 フロントパネル内は、昨今のレコーダにしては端子類、ボタン類が豊富だ。アナログAV端子、i.LINK端子、USB端子など、テンポラリ的に繋ぎ変えるというニーズをかなり意識している。本機はUSB HDDが使用できるが、HDDは背面端子に繋ぐよう注意書きが貼られている。

パネル内部は端子類が豊富BDドライブはBD-R 4倍速、BD-RE 2倍速

 BDドライブはBD-R最高4倍速、BD-RE最高2倍速記録だが、最新規格のBDXLには対応しない。DVD-R/RWの読み書きも可能で、AVCRECにも対応。さらにHD DVD時代のHD Rec方式の再生も、のちのアップデートで対応予定となっている。またBlu-rayの3D再生対応は、当初有償アップデートを予定していたが、無償アップデートに変更された。実施は11月下旬だそうなので、X10の発売時期に合わせて、ということなのだろう。

 HDD容量は1TBで、HDD容量以外は同機能の姉妹機BZ700が500GBとなっている。実売では、BZ700のほうが2万5千円ほど安い。USB HDDで容量が拡張できることを考えると、BZ700もかなりお買い得なマシンだと言える。

背面は比較的シンプル。アナログチューナは非搭載

 背面に回ってみよう。チューナは地デジ、BS/110度CSの3波ダブルチューナで、アナログチューナは搭載しない。以前から東芝のDVDレコーダのエントリーモデルはデジタルチューナーオンリだったが、アナログ停波を来年7月に控え、そろそろこのクラスのレコーダでもアナログチューナを見送るようになってきた。現時点では上のモデルまで搭載を見送るようになったのは、東芝とソニーということになる。

 AVCのトランスコーダは1系統で、AVC形式の2番組同時録画はできない。そのかわり、DR録画した番組を約2倍速でHDD内部にレート変換ダビングできる機能を搭載した。今回のBlu-ray RDは、機能的には1年前のX9に似ている。東芝はこれまで光メディアに無劣化高速ダビングできるフォーマットでHDDに録画するというスタイルを取ってきたが、今回はその光メディアのフォーマットが変わるわけだから、内部の記録仕様もそれに合わせて変更されている。機能的には似ているが、右手で書いたものを全部左手で書き直すような、大変なわりには前に進んだ感じがしない苦労があったことだろう。

 アナログの映像・音声入出力は背面に1系統ずつ。前面と合わせると、入力は2系統となる。HDD接続用のUSB端子も背面だ。D4端子、光デジタル音声出力も備えている。同軸のデジタル音声端子はない。HDMI端子は1系統だ。

 

リモコンは2つ付属

 リモコンも見てみよう。以前から一部製品には付いてきたが、本機にはリモコンが2つ付いてくる。メインのリモコンは、昨年のX9の時にリニューアルしたリモコンと一部ボタンが違うものの、ほぼ同じ作りのものだ。

 もう一つのシンプルリモコンは、RD-G503の時にリニューアルした「シンプルリモコン2」と同型のもので、一部ドライブ切り換えの表示が異なる。もちろん両方ともにVARDIAの文字はなく、単にTOSHIBAレコーダとなっている。REGZAの名前がないのは、テレビのリモコンと混同してしまうことを避けたのかもしれない。


■ 落ち着いたカラーのメニュー

 機能的には昨年のX9とよく似ているので、前回のレビューも参考になるだろう。特にUSB HDDの扱いが気になる人は、ぜひご一読いただきたい。

 機能的には前年のX9と殆ど同じとは言っても、カラーリングやUIは若干変わっている。番組表に関しては、以前の青っぽい画面から、CELL REGZAで採用している黒を基調としたデザインとなった。縦表示、横表示に切り替え可能で、縦表示での最大表示チャンネルは8、文字サイズは5段階に調整できる。

縦表示でもっとも細かく表示したところ。8chで文字サイズ最小横表示でもっとも細かくしたところ。1列に2行表示できる

 横表示では表示チャンネル数は変わらないが、文字を1行と2行に切り換えできる。デジタルテレビに接続していれば、文字は一番小さくしても十分読める程度に収まっている。

録画予約は往年のW録スタイルを選択する方式

 予約システムは以前と変わらず、AVCトランスコードして録画したい時はW録設定で「RE」を選択し、DRでいいときはDR1またはDR2を選択する。録画時間が被ったときは近接予約情報が出て、自分でDR2に予約指定しなおす、という方式だ。最近はデュアルエンコーダ/トランスコーダを搭載して録画1、録画2といった概念をなくす傾向にある。パナソニックが今年の春モデルで、ソニーがこの秋モデルでデュアル圧縮記録に対応した。この点で見ると、東芝は周回遅れの格好となる。

 さらに昨今のトレンドとしては、同時動作制限の撤廃がある。特にW録画中のBlu-ray再生やダビングといった機能が、これまではできなかった。しかし今回のRDでは、この制限撤廃にも乗り遅れている。録画中は市販のBlu-rayタイトル(BDMV形式)の再生ができず(BDAV形式で録画したBlu-rayは、基本的にHDDに録画したタイトルと同じ扱いで再生可能だが、その場合も追っかけ再生は不可)、W録中は高速レート変換ダビングも使えなくなる。またDR2での録画では自動チャプター付加機能「マジックチャプター」が働かないといった制限もある。

 自動録画機能はレコーダで人気が高まっている機能だが、RDにも自動録画機能がある。シリーズ予約とお気に入り予約は、ともにキーワードを検索することで自動予約するものだが、シリーズ予約なら番組の予約画面からも設定することができるため、キーワードがすでに入力されているというメリットがある。そのぶん設定が楽なわけだ。さらに録画・再生の傾向を分析して自動的に類似番組を録画する「お楽しみ番組自動録画」も搭載している。

録画予約から「シリーズ予約」の設定が可能「お気に入り予約」は自分でキーワードを設定するが、機能的にはほとんど同じ「お気に入り番組リスト」内に「お楽しみ番組自動録画」機能を内包

■ 高機能なダビング・編集機能、そしてプラスαは……

 ではDRからAVCへの高速レート変換ダビングを試してみよう。操作は「編集ナビ」から行なう。録画番組を選択すると、機能選択画面が出るので、その中から「ダビング」を選択する。ダビング切り換え先は「HDD」を選択する必要がある。

 ダビングの種類として現われる「画質指定ダビング」が、高速レート変換ダビングである。この中には「移動」と「コピー」があり、移動だとダビング10ルールによるダビング回数全部を持ったまま、AVCトランスコードされる。すなわちオリジナルのDR録画ファイルは削除され、HDD内ムーブになるわけだ。一方コピーでは、ダビング10ルールのダビング回数を一つ消費して、HDD内にコピーを作る。もちろん作られたコピーはそれ以上コピーできないので、別メディアに書き込む場合はムーブになる。

編集ナビの機能一覧からダビングを選択5つのダビングモードを持つ変換には移動とコピーがある

 この2つの方法は、いろいろな利用方法が考えられる。例えば最適なビットレートを研究するために「コピー」して画質を比較することもできるだろう。最適なビットレートが見つかったら、「移動」でAVCのコピーマスターを作り、いくつかのメディアに焼く、ということができる。特にDVDメディアを使ったAVCRECでは、1枚に入れてしまうか分割して2枚にするかは悩みどころだろう。そういう画質検証では、メディアを消費せずにテストトランスコードができるわけだ。

 またこの高速ダビングは、チャプターの一部だけ、あるいはプレイリストをダビング対象にできる。CMカットしたものを一括でダビングして一本化することができる。

チャプター編集のレスポンスはなかなかいい

 チャプター編集は、実質的な編集作業だ。REやDR1ではおまかせチャプターが使えるので、自分で編集する必要は少ないと思うが、DR2で録画したものは手動編集が必要になる。

 新アーキテクチャになって初めての編集機能ということになるわけだが、レスポンスは上々だ。番組の巻き戻しだけ、実際に巻き戻しが始まるまで一拍待たされるが、コマ送り、コマ戻しなどの反応は早いので、必要なポイントを見つけやすい。現状のソフトウェア02では、いじくっているうちに再生ポイントがタイトル先頭に戻ってしまうというバグがあるが、10月1日に発表されたソフトウェア03で改善されているようだ。

 10月4日に発表された新しいソリューションが、「REGZA Appコネクト」だ。スマートフォンなどを使ってRDを操作するためのAppを10月下旬から提供し、またユーザー間のソーシャルネットワークをも構築するというものである。詳しくは西田宗千佳氏の記事にあるが、ユーザーからの投稿により番組に紐付いたタグのリストを生成する仕組みのようだ。ユーザーはこのタグを使って番組の特定部分にジャンプすることができるし、自分で投稿することができる。

 実は現在Ustreamにも、同様の機能がある。自分の録画番組に付けられる、「ハイライト」がそれだ。現在はあまり活用されていないが、ユーザーが自由に動画の特定のポイントに説明やコメントを付けることができる。これをRDで録画した番組に対してやっていくことは、録画番組に対してメタデータをユーザーが付加していき、それをお互いに利用しあっていくということになるわけだ。これはすなわち、「この番組は要するになんだったのか」というまとめとして機能することになる。

 これはまだ第一弾だそうで、今後はこの機能を使ってどのようにテレビ放送とユーザーとを結びつけていくか、楽しみだ。日本独自の機能と文化が、花開くことになるのかもしれない。


■ 総論

 今回のRDシリーズは、機能的には目新しいものはない。内部アーキテクチャをHD DVDベースからBlu-rayベースに載せ替えて、短期間のうちに過去の機能にたどり着いたところまで、といった印象だ。もちろんこれは、過去のしがらみを全部背負ってのことである。外部チューナとの連携や、D-VHS、Rec-POT といったi.LINK機器のサポートを捨てなかったからエラいことになったわけで、それらを過去のものと割り切ってしまったら、もっとアグレッシブな方向に舵が切れたのかもしれない。

 逆に言えば、過去Rec-POTなどに大事な番組が入っている人は、そろそろこのタイミングで移動しておかないと、移動できるチャンスを失う可能性もあるということだ。Rec POTからムーブ、2倍速でAVC圧縮してBlu-ray4倍速書き込み、という作業は、本機ならスムーズにこなせるだろう。

 結果的にこの2010年秋モデルを以て、東芝RDはようやくスタートラインに着いたと言えるだろう。熱心なファンがいくら過去のRDが好きだからとはいっても、やはり2番組AVC録画は欲しいだろうし、同時動作制限はないほうがいいに決まっている。そこを今後どのように料理していくのか。当然その頃には他社はもう一歩先に進んでいるはずで、そのレベルに肩を並べることができるのか。

 現時点では各録画機器が完全に分断され、テレビ録画・ダビング文化というものがかなり崩壊してしまった。もはや多くの人は、テレビ番組を録画する情熱を失ってしまったかのように思える。RDの復活は、テレビ録画・ダビング文化の再生に繋がるのではないだろうか。

(2010年 10月 6日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]