■ 寡占状態が続くポータブルオーディオ業界
昨年末にウォークマンがiPodを抜いたとして話題になったが、両社のシェアのグラフを見ると笑ってしまうほどに線対称になっていた。つまり日本国内において音楽プレーヤーとはウォークマンとiPodしか売れておらず、片方が勝てば片方が負けるという図式になっていることが改めて認識された。
数年前であれば、韓国メーカーのMP3プレーヤーも人気で、アキバはもちろんのこと、ヨドバシカメラなどの大手量販店でも普通に売られていたものだが、今となってはもはや直販以外に買う手段もないような状態になってきている。
韓国製MP3プレーヤーが注目を集めたのは、マルチメディアプレーヤーとしての能力が高かったからであり、それが故にコアなPCユーザー層を獲得していた。もちろん当時はスマートフォンもほとんどなく、ケータイでの音楽再生がそれほど市民権を得ていない時代だったこともある。ケータイが多機能化する中で、別途マルチメディアプレーヤーを持つといった必然性が失われていったように思える。
しかし昨今はAndroid端末としてSamsungの「GALAXY Tab」や「GALAXY S」が注目を集め、再び韓国製品が注目を集めつつある。GALAXYシリーズはスマートフォンであるため、携帯電話としてキャリアとの契約が必要になるが、その一方でメディアプレーヤーというライトな世界でも徐々にAndroidの採用が始まっている。
今回、取り上げる「COWON D3 plenue」も、そんな製品の一つだ。日本での発売が遅れ、一時期は並行輸入で買った人もいたが、このたびめでたく日本でも発売されることとなった。内蔵メモリ違いでいくつか種類があり、直販価格で8GBが29,800円、16GBが32,800円、32GBが37,800円となっている。色もブラックとパープルがあるが、今回は8GBの黒モデルをお借りしている。
Androidの採用でメディアプレーヤーはどう変わるのだろうか。さっそく見てみよう。
■ ほとんどスマートフォン?
見た目はかなりスマートフォン |
まずはサイズだが、いわゆるAndroid採用ケータイとほぼ変わらないサイズで、スマートフォンとの違いはほとんどない。もちろん3G回線などは搭載されていないが、Wi-Fiには対応している。
ディスプレイパネルは高精細で視野角が広いと評判のAMOLED(アクティブマトリクス式有機EL)Displayで、解像度は480×800ドット。1080pの動画ファイルにも対応できるというのがウリになっている。
ディスプレイ表面は静電方式のタッチパネルとなっている。画面下部にはOS操作用の3つのボタンも付けられているが、この部分も液晶部分から続く一枚ガラスで覆われており、作りとしてもなかなか綺麗だ。
端子類は底部に集中 |
底部にはヘッドフォン端子、独自集合端子、ACアダプタ、マイクがある。またディスプレイ上部には通話用スピーカーもあり、電話としての機能もあるようだ。
底部の集合端子はオリジナルのコネクタで、USBに変換するケーブルが付属する。本体の映像をHDMIに変換して出力する機能もあるが、このケーブルは別売となっている。
底部のフタを開けるとコネクタが現われる | 専用のUSB接続ケーブルが付属 |
左側面には電源ボタンとmicroSDカードスロット、右側面には再生、早送り、巻き戻しの3ボタンと、ボリュームボタンがある。背面には小型スピーカーもあるが、モノラルだ。
OSはAndroid 2.1だそうだが、Androidマーケットには対応していない。勝手アプリならインストールできるが、あまり多くの選択肢は期待できないのが実情だ。
付属のイヤフォンはiAUDIOブランドのロゴが書かれたインイヤー型で、ケーブルはU字タイプとなっている。
左側に電源ボタンとmicroSDカードスロット | 右側にはボリュームなどコントロールボタン | イヤフォンにはiAUDIOのロゴが |
■ さすがの多機能さ
ホーム画面には音楽、ビデオ、写真、インターネットへのショートカットがあるほか、メーラーを始めラジオ、時計、Twitterアプリなどもプリインストールされている。過去多機能メディアプレーヤーで実現できていたことのほとんどを、Androidアプリでこなすということのようだ。
ホーム画面にはデフォルトで4つのアイコン | 標準でかなりの数のAppがプリインストールされている |
まずは基本でもある音楽再生から見ていこう。音楽の転送は昔からの韓国製MP3プレーヤーの流儀で、単にPCに繋いでフォルダごとコピーすれば聴けるという作りになっている。もちろんCOWON製の音楽管理ソフトもサイトからダウンロードできるようになっており、どちらでも好きな方法で管理できる。
再生したい音楽は、「ライブラリ」のリストから選択するが、「マトリックスブラウザ」を使えば横向きの画面でジャケット写真をタップして選択することもできる。ただ、マトリックスブラウザはあくまでも別の再生方式という扱いのようで、リスト表示や通常の音楽再生画面への移動は「戻る」ボタンで移動するという、変な設計になっている。
またリスト表示を切り替えたりといった操作時に、一瞬音楽が止まることがある。ほんの一瞬ではあるが、相手が連続メディアの音楽なだけに、ちょっとイラッとする。このあたりは最低限確保して欲しい部分である。
「ライブラリ」はシンプルなリスト表示 | アルバムジャケットから選べる「マトリックスブラウザ」 | 音楽再生の標準画面 |
エフェクトプリセットは全部で39種類 |
音楽再生時の音質補正エフェクトとしては、BBE+とCOWONオリジナルのJetEffect3.0を全面的にフィーチャーしており、かなりの数のプリセットが用意されている。もちろん自分で調整するユーザープリセットも4つ用意されており、お仕着せのプリセットではいやな人は徹底的にいじれるというのがうれしい。
ただしパラメータをいじると再生音が1秒ほど途切れるので、瞬間的に切り替えて効果のほどを聴き比べていくことが難しいのが残念だ。
FMラジオの録音もできる |
付属のイヤフォンは、エフェクトなしで聴くとボーカル重視型で、バランスとしても悪くない。ただ個人的な好みとしては、低域の不足感を感じる。しかしエフェクトの可変範囲が広いので、好みの音にチューニングできるというのが魅力の一つだ。
ワールドワイド対応のFMラジオ機能を搭載している点は、いかにもMP3プレーヤー出身らしい作りだ。イヤフォンケーブルがアンテナ代わりになるので、スピーカーで聴くことはできない。ラジオの録音機能もあり、録音ファイルはMP3でビットレートは256kbps固定だ。
■ CPUのパワー不足? の動画再生
動画再生画面。HD解像度のファイルではかなり高精細 |
動画の対応コーデックもかなり幅広く、DivX、WMV、H.264などに対応している。1080pの再生が可能ということだが、おそらくこれは1080/30pのことだろう。先日レビューしたJVCのGC-PX1では1080/60pの撮影が可能だが、このMPEG-4/35Mbpsのファイルを転送してみた。
結果は予想された通りというか、一応ファイルとしては認識するのだが、最初の1秒ぐらい再生しただけで止まってしまう。おそらくビットレートが高すぎて再生できないのだろう。最初の1秒だけ再生できるのは、バッファにそれぐらいはストアできるということのようだ。
そこで前回のレビューでも使用したLoiLo Scope FXを使って、サンプルファイルをWMVで再エンコードしてテストしてみた。なぜMPEG-4にしないかというと、LoiLo ScopeではMPEG-4だと必ずスマートレンダリングになってしまって、ビットレートが変えられないからである。
まず15Mbpsのファイルでは、一応最後まで再生はできるものの、ビットレートの高そうな部分ではかなりコマが飛ぶ。次に10Mbpsまで落としたものを再生してみたが、さっきの15Mbpsのファイルよりはだいぶなめらかで、カットによっては30p再生できている。ただやはりビットレートが高そうな部分では、ところどころひっかかる。
さらにビットレートを落とせばスムーズに再生できるのだろうが、ここまでビットレートを落としてもまだHD解像度である必要があるのかは、微妙なところだ。
YouTube再生専用アプリ「JetVD」 |
ディスプレイの表示能力はかなり高く、GC-PX1独特のバキッとした細かい表現なども伝わってくる。しかし日本においては、テレビ番組や映画などの既成コンテンツがHD解像度のファイルで手に入るという可能性がほぼゼロなので、せっかく1080pの再生能力があっても、宝の持ち腐れになる可能性が高いのは、なんとももったいない限りである。
動画として面白いアプリとしては、JetVDがある。これはいわゆるYouTubeプレイヤーだが、アーティスト名を入力するとYouTubeからPVを引っ張ってくる。手軽に、しかも本体だけで音楽が楽しめる手段としてはなかなか快適だ。
■ Android端末としての魅力
では次に、Android端末としての性能も見ておこう。実は筆者にとっては初めてのAndroid端末なので、結構わからないことが多かった。
まずAndroidマーケットが利用できないというのは、Android初心者には厳しいものがある。この規制も徐々に緩和傾向にあるという話ではあるが、本当のメリットが発揮できるまでには、この制限が撤廃されるのを待つしかないだろう。なおメーカーとしては、OSのアップデートは予定していないという。ただファームウェアは頻繁に更新されており、約1カ月の間にVer4.27、4.29、4.31とアップデートされている。
通話機能もあるということで、何らかのIP通話アプリをインストールしたかったのだが、あいにくSkypeもマーケット経由でしか提供されていないので、インストールできなかった。Bluetoothも搭載しているので、ヘッドセットとの組み合わせでも使えることを期待したのだが、これも制限撤廃を待つしかなさそうだ。
Twitterクライアントは、COWON独自のものがプリインストールされている。タイムライン、メンション、DMの表示はできるが、リストやハッシュタグを検索しての表示機能はないため、多くのクライアントに比べれば機能は劣る。
タイムラインのスクロールでタッチスクリーンの性能がわかるわけだが、コントロールはかなり微妙な力加減が必要だ。強くこすりすぎると上手くスクロールできず、優しくこするとびゅーっと進んでしまう。Apple製品に慣れていると、ちょっと戸惑いがある。
WEBブラウザは当然ChromeのAndroid版で、ホームもGoogleになっている。サイトの表示は全体的にあまり高速とは言えないのは、やはりCPUの力不足なのだろうか。
日本語入力はOpenWnnが搭載されており、入力方式は携帯と同じ10キー方式で、QWERTYタイプのキーボード画面は搭載されていない。
■ 総論
手軽なAndroid端末としての期待も大きいD3 plenueだが、やはりマーケットに対応していない点が大きく響いており、それにより面白さが半減してしまっている。端末の作りとしては非常に上質で、価格的にも十分納得できるだけに、残念である。
搭載アプリは一通りのことはなんでもできるラインナップではあるものの、細かいことを言い出したらまだまだ不十分で、自分でアプリをインストールしてカスタマイズすることに慣れたユーザーには、物足りなく見えるだろう。
一方ディスプレイの出来はかなりよく、いいソースを食わせてやればかなり綺麗に表示できる。写真などはかなり楽しめるだろう。ただ本機にカメラがないので、転送してまで写真を見るか、という問題は残る。
実際にしばらく使ってみて困ったのはモバイルでの充電で、専用ACアダプタか特殊コネクタの専用USBケーブルしか使えないのは痛い。このいずれかを忘れてしまうと、本体に普通のminiUSB端子がないので、バッテリ切れの場合はもう何もできなくなる。個人的には専用ACアダプタよりは、miniUSB端子が欲しいところだ。
またUSB充電はACアダプタからの充電の約2倍ほど時間がかかる。このあたりもモバイラーにとっては、厳しいところだ。
今後もこの手のプレーヤーは、パッド製品も含めてたくさん登場すると思われるが、案外WEBやTwitter、メールのようなコミュニケーション機能が搭載されてくると、もうできることはほとんどメディアプレーヤーの領域を超えている。自分で機能をチョイスできるデバイス、というポジションにうまく着地できるかが今後の非3G Android製品のポイントになるわけだが、それもこれもGoogleの胸先三寸だ。これはある意味、Appleよりも強大な権力であると言えるだろう。