小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第619回:ソフトウェアCASで実現した“小型な地デジ”
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第619回:ソフトウェアCASで実現した“小型な地デジ”
アイ・オー「GV-MVP/FZ2」、フルセグスマホ「F-06E」
(2013/6/19 11:00)
新たに始まる地上RMP方式
日本のテレビ放送受信には必須のB-CASカード。だが近年B-CASカードの不正利用や改造といった情報がインターネットを中心に出回り、逮捕者も出たことから大きな社会問題となったのは記憶に新しいところだ。
この問題も睨みつつ、以前から総務省 情報通信審議会「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(通称デジコン委員会)では、B-CASの小型化やソフトウェア化の議論が進められていた。すでに答申もまとまったためにデジコン委員会は廃止されたが、小型化されたB-CASカードなどが登場し、テレビ受信機も大幅に小型化されてきた。
これと平行してソフトウェアによる暗号化解除方式も検討されてきたが、これは「コンテンツ権利保護専用方式」として、B-CASとは別の一般社団法人地上放送RMP管理センターが運営することとなった。放送波も新たにこれに対応する信号を乗せる必要があるが、すでに今年3月27日より新方式対応の放送が始まっている。
地上RMP方式は、地上波デジタル放送にしか対応しないため、BSやCSといった衛星放送の視聴には、これまで通りB-CASカードが必要になる。また地上波放送も、新方式が出たからといってすぐさま従来のB-CASカード対応製品が使えなくなるわけでもなく、当面は両方式を併用することが決まっている。
この小型化の恩恵を受ける対応製品の登場が待たれていたが、6月下旬にアイ・オー・データ機器からUSBスティック型のPC向け地デジチューナ「GV-MVP/FZ2」(11,130円)が、富士通製の地デジ・フルセグ対応スマートフォン「ARROWS NX F-06E」(オープンプライス)が6月7日から発売されている。今回はこの2つをお借りして、実際に試してみることにした。
USB直刺しでフルセグ視聴・録画
まず最初に、アイ・オー・データ機器の「GV-MVP/FZ2」(以下FZ2)から試してみたい。以前から同社では、“テレキング”というシリーズでスティックタイプのUSBチューナを展開してきたが、そのシリーズとして今回新たにフルセグ専用のモデルが登場したという格好だ。
USBタイプのフルセグチューナーは、2009年にバッファローの「ちょいテレ・フル」を取り上げたことがあるが、当時はまだminiB-CASカード時代だったので、直刺しできるとはいえ、ワンセグ専用モデルよりは多少大きかった。
しかしFZ2は、まさに以前ヒット商品となったワンセグチューナと同程度のサイズとなっている。外形寸法は75×23×10mm(縦×横×厚さ)で、重量は約16g。ただし、アンテナはロッドアンテナではなく、変換ケーブルを使ってアンテナ線を直結するタイプなので、せっかく小型なのにモバイルで楽しむタイプの製品ではないのが残念だ。またワンセグ放送にも対応しないので、基本的には家庭据え置きということになるだろう。
Windows 8タブレットで動作したら面白いだろうと思い、「ThinkPad Tablet 2」にインストールしようと試みたが、ノート型で利用できるのはIntel製、NVIDIA製、AMD製チップセット搭載マシンに限るとのことで、試すことができなかった。したがって今回のテストマシンは、Windows 7の「ThinkPad X201i 3249CTO」(Core i5 540M/2.53GHz/2コア)を使用している。
視聴ソフトは「mAgicTV GT」という同社お馴染みのもので、「mAgicメニュー」からいろんな機能を立ち上げて使うというスタイルになっている。
予約録画では、キーワードや条件設定による自動録画機能も備えており、簡易的な製品かと思いきやなかなか高機能だ。また今回はテストしていないが、FZ2を8個使用すると、8チャンネルマルチ録画も可能になるそうである。ただそうはいってもUSBハブは使用不可で、アンテナ線を8分配もするとブースターも必要になるだろうしで、実際にやるとなかなか大がかりなものになりそうだ。
またFZ2にはトランスコーダー機能も内蔵されており、HD解像度では最大12倍での圧縮録画が可能になっている。さらにSD解像度に落とす機能もあり、DRモードも合わせて16段階もの記録モードがある。また持ち出し用にPSPフォーマットなどにも同時録画する機能もあり、かなり柔軟な運用が可能だ。
モード | 解像度 | フォーマット | ビットレート |
DR | 1,440×1,080 | MPEG-2 TS | 約17Mbps |
HR2 | MPEG-4 AVC/H.264 | 12Mbps | |
HR3 | 8Mbps | ||
HR5 | 4.8Mbps | ||
HR7 | 3.4Mbps | ||
HR10 | 2.4Mbps | ||
HR12 | 2Mbps | ||
HR15 | 1.6Mbps | ||
HR18 | 1.3Mbps | ||
SR4 | 720×480 | MPEG-4 AVC/H.264 | 6Mbps |
SR8 | 3Mbps | ||
SR16 | 1.5Mbps | ||
SR24 | 1Mbps | ||
XP | MPEG-2 TS | 9.8Mbps | |
SP | 5.2Mbps | ||
LP | 2.8Mbps |
トランスコードでの最高画質となるHR2では、解像度やS/Nも十分で、映画などもDR記録と遜色なく、高画質で楽しめる。
HD解像度では最高圧縮の12倍となるHR18では、ビットレートが約1.3Mbpsにまで落とされるが、実際に録画してみると、そこまで低ビットレートとは思えない。木や森といった細かい部分ではノイズを感じるものの、テロップ周りのジラツキもなく、ニュース番組程度なら十分に視聴できる。
またビットレートとしては最少の1MbpsとなるSR24は、解像度を720×480まで落とすが、画質的にはワンセグよりちょっといいかなといった程度となる。ビットレートで0.3Mbpsの差なら、HD解像度で録った方が満足度は高い。
どこでもフルセグ、富士通「ARROWS NX F-06E」
ではもう一つの地上RMP方式採用製品である、ARROWS NX F-06E(以下F-06E)を見てみよう。
こちらは5.2型フルHD液晶を搭載したドコモ向けのAndroidスマートフォンで、ドコモからこの5月に発表されたモデルとしては、フルセグ視聴が可能なのはこれとシャープ「AQUOS PAD」だけである。
テレビ的な機能にフォーカスすると、本体上部にはテレビ受信用のロッドアンテナがあり、根元がL字型に曲がるようになっている。6段で伸びて全長およそ14cmになる。ただ根元のほうが細いため、折れてしまわないか心配になる。
フルセグの視聴は、そのものずばりの「テレビ」というアプリがインストールされており、起動するとテレビがフル画面で表示される。画面をタッチすると、メニュー画面と共にコントロールパネルが表示され、チャンネル変更や音量といった調整ができる。
ユニークなのは、ワンセグとフルセグの両方が受信できることを活かして、「自動切替」モードを付けたところだ。極力フルセグで受信し、状態が悪くなったら自動的にワンセグに切り替わる。
もっとも気になるのは、ロッドアンテナによる受信状況だろう。筆者宅の1階の仕事部屋では、部屋の奥ではワンセグのみしか受信できないが、窓際に移動すればフルセグで受信できた。もちろんこれは、部屋の方角にも関係するだろう。なお、以前同じ部屋でもロッドアンテナによるフルセグ受信を試したことがあるが、窓際でもなかなか綺麗に受信できなかった。
技術が上がって受信感度がよくなったということも一つの要因だろうが、関東地方では5月31日より、テレビ放送の発信が東京スカイツリーに変更になったことが大きい。電波出力は東京タワーと変わらないが、高さが2倍になったことでかなり届きやすくなっているようだ。
試しに電車内でも受信してみた。テストした埼京線は、板橋以北では殆どが高架で、池袋に近づくに従って地上と同じ高さになるが、フルセグのままでほぼひっかかりなく受信できた。駅ホームでは色々な遮蔽物があってフルセグ受信は難しいが、自動切換にしておけば勝手にワンセグに切り替わるので、途切れることなく番組の視聴は可能だ。歩きながらのテレビ視聴はお勧めしないが、音声だけでも途切れずに内容に付いていけるのは有り難い。
画質はもちろん、ワンセグとは比べものにならないクオリティで、液晶の解像度をフルに活かした動画は精細感が高い。チャンネルの切り換えはおよそ3秒で、モバイル機器としてはかなり早い方だろう。ただ、電波出力が弱い放送大学や東京MXテレビに切り替わるときは、6秒程度かかる。
番組の予約や番組表は、Gガイドを使用した別アプリに切り替わる。このアプリはプリインストールではなく、ガイダンスに沿って別途Google Playからインストールする必要がある。もちろん番組表から録画予約にも対応しており、「テレビアプリ連携」から機能を選ぶことで、視聴予約や予約録画ができる。
ただ残念ながら予約録画は、ワンセグでしか録画できない。例え受信状態がよくフルセグで受信していても、録画はワンセグオンリーとなる。録画データはmicroSDカードに記録されるので、録画したい人は必ずmicroSDカードを本体に入れておく必要がある。
また本機には、充電とテレビ視聴台を兼用するクレードルが付属する。クレードルの背面にマイクロUSBのACアダプタを挿すと、充電しながら丁度いい角度でテレビ視聴ができる。またクレードルにセットされたことを検知して、オリジナルのWindows 8風なGUIに切り替わり、テレビやNOTTV、DiXiM Playerによるネットワーク視聴に最適化されるなど、芸が細かい。デスクサイドでチラ見しながら作業、というのに最適である。
F-06Eのスピーカーは背面にあるが、おそらくモバイル時にはほとんどの人がイヤホンで聴くだろうから、それほど問題ではない。クレードルには、この背面スピーカーポートから前面に向けて音を回すためのダクトが設けられており、イヤホンなしでもテレビ視聴ができるように考えられている。
低域を補強する、というほどの改善は見られないが、音が前に出てくるので、明瞭さがアップすることは間違いない。
総論
今回2つの地上RMP方式対応チューナー機器を試してみた。アイ・オーの「GV-MVP/FZ2」は、小型フルセグチューナのリニューアルモデルといった風情だが、アンテナ線接続が必須というところが若干勿体ない気がする。
一つ前のモデル「GV-MVP/FZ」はロッドアンテナもアンテナ線も両方使えるのだが、過去あまりロッドアンテナの需要が高くなかったため、見送られたのかもしれない。だが6月からは東京スカイツリーからの放送に変わったので、事情も変わっているのではないだろうか。
なおFZ2は、同社製の無線LANルーターのUSBポートに直刺しすると、すべてのスマホやタブレットがテレビ代わりになるという機能もある。今回はルータがないのでテストできなかったが、それはそれで面白そうだ。
一方富士通の「ARROWS NX F-06E」は、新しいモバイルテレビの一つの方向を示した製品といえるだろう。これまで“モバイルはワンセグ”というお約束があったわけだが、これだけ液晶が高精細化した今、テレビだけがワンセグ画質ではもはやバランスが悪くなってきてしまった。そこにフルセグでモバイル、というソリューションを持ってきた意義は大きい。
録画がワンセグ画質だという点はマイナス点ではあるもの、フルセグ予約録画を本当にスマホでやれる環境があるのか、すなわちその時間にちゃんと電波が入る場所に居て、アンテナを伸ばしているのかといったことを考えると、録画は緊急手段と考えておくべきだろう。
DTCP+クライアントもプリインストールされていることを考えると、フルセグの録画視聴はレコーダからストリーミングで、という方法が現実的だ。
またF-06Eは、進化のスピードが速いスマホの世界で、2年程度で機能的に古くなるかもしれないが、テレビ機器としてはそれほど陳腐化もしないので、機種変したあともポータブルテレビとしてちょこちょこと出番があるだろう。そう考えると、従来のスマホにはないお買い得感が出てくる。
ソフトウェアCAS最大の恩恵は、スマートフォンやタブレット、あるいはカーナビなどでも手軽にフルセグが楽しめるようになるという事だ。ただ今回取り上げた製品はB-CASカードがなくなった恩恵とはあんまり関係ないところが魅力になっている部分もあるわけだが、今後モバイル機器では、わざわざカードをユーザーが自分で入れるなんてことはナンセンスになってくるだろう。ユーザーは買ってすぐ楽しめるという点でメリットはあるし、放送事業者にとっては改造カードに入れ替えられないというメリットもある。
テレビ放送の受信も、ゆっくりとだが変化が起こり、そう言えばいつのまにか便利になってる、という世の中に向かっているのかもしれない。
GV-MVP/FZ2 |
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