小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第679回:アイデア次第で色々できる“完全分離型”アクションカム、カシオ「EX-FR10」

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第679回:アイデア次第で色々できる“完全分離型”アクションカム、カシオ「EX-FR10」

完全分離型?

 最近コンパクトデジカメがまた面白くなってきている。GoProをはじめとするアクションカメラはどちらかと言えばビデオカメラ文脈だが、ソニーのレンズスタイルカメラ「QX」シリーズのように、ほぼレンズとセンサーだけのデジカメも第2世代に突入し、市民権を得ようとしている。

カシオ「EX-FR10」

 これらのカメラは、ものすごく大量に売れるものではない。カメラのメインストリームがスマートフォンにシフトした現在、「どうしてもスマホではできないこと」にカメラ商品企画のフォーカスが移ってきているわけだ。

 そんな中、カシオがデジカメ文脈ながらアクションカメラにもなるという、分離型フリースタイルカメラ「EX-FR10」を発売する。9月19日より発売開始で、価格はオープンプライスだが、店頭予想価格は5万円前後(税込)。

 カシオと言えば薄型で一世を風靡した“EXILIM”ブランドでよく知られるところだが、最近は低価格ながらタイムラプスに最適、またカラーリングもユニークということで、一部の好事家にウケているところでもある。この新スタイルカメラは、いったいどういった未来を見せてくれるのだろうか。さっそく使ってみよう。

○と□の組み合わせ

 EX-FR10は3色展開で、グリーン、オレンジ、ホワイトがある。今回はグリーンをお借りしている。グリーンとは言っても、カメラの正面がミリタリーっぽい緑色になっているだけで、背面やコントローラ部は黒である。

今回お借りしたグリーンモデル
カメラフレーム以外は黒

 カメラ部とコントローラ部が分離する、というか、最初から分離しているのが特徴だ。発売前のイメージ写真では、磁石か何かでボディにくっつくのかと思ってたのだが、実際にはカメラ部からプレートが出ていて、それを差し込むことで本体と合体する。

カメラとコントロール部は完全に別体
カメラ部のプレートをコントロール部に差し込むことでドッキング

 合体すればそれなりに接点で接続して、電源供給や映像伝送などをやるのかと予想していたのだが、そんな機構は全くなく、本当にただ差し込んで固定できるというだけだ。カメラ部とコントローラ部は、完全にバラバラである。したがって充電も2つ別々に行なわなければならない。映像の伝送は、Bluetoothで行なう。

ヒンジが180度曲がるので、様々なスタイルで使用可能
プレート部はスタンド代わりにも

 まずカメラ側から見ていこう。カメラの本当の本体部分は、完全に円形だ。これにフレーム部がくっついて、いろんなところに固定できるようになる。フレームとカメラは90度の間で任意に回転できるので、固定時に水平を気にしなくても、カメラだけ回せばいいようになっている。この辺はなかなか面白い発想だ。

フレームは自由に取り外し可能
カメラ自体は完全に円形

 カメラ性能としては、レンズは35mm換算で21mm/F2.8の単焦点、撮像素子は1/2.3型CMOSで、有効画素数は1,400万画素。フォーカスはAFしかなく、コントラスト検出方式だ。

レンズフードは取り替え可能
遮光タイプのフードに付け替えたところ

 静止画は最大4,320×2,140ドット、動画は1,920×1,080/30p固定だ。画質モードもなく、機能的にはシンプルである。記録フォーマットはMPEG-4 AVC H.264のMOV形式となる。

 カメラ上部にはシャッターボタン、動画RECボタン、電源ボタンが並ぶ。端のリリーススイッチは、カメラの回転とフレームからの取り外しを行なう際のロック機構だ。正面右側にmicroSDカードスロット、左側にmicroUSB端子がある。

カメラ側にもシャッターボタンなどがある

 バッテリは内蔵式で、ユーザーが交換することはできない。バッテリ交換の際は、メーカーサービス対応となるようだ。

 コントローラ部も見ておこう。サイズ的には2型モニタなのでだいぶ小さめだが、厚みは18.9mmとそこそこある。カメラ側のプレートを差し込むための機構が付いているので、その分で厚みが出ているのだろう。

 上部には電源ボタン、シャッター、動画RECボタンがあり、離れた場所からでも撮影開始できるようになっている。反対側には充電用のmicroUSB端子と、固定プレートを外すためのリリーススイッチが付いている。

小型のコントローラ部
コントローラにもシャッターボタンがある

 カメラとドッキングさせると、カチッと音がしてロックされ、引っぱっても抜けないようになっている。ヒンジを180度折り曲げれば、通常のデジカメのようなスタイルにもできる。

普通のデジカメのように使う事も可能

 設定などはすべて、コントローラ部のタッチ操作で行なう。カメラからの映像は、10フレームほどディレイして送られてくる。

カメラ設定はタッチ画面操作で行なう

 こういったカメラであれば、どこにどう取り付けるかがポイントになるわけだが、EX-FR10の場合も最初からかなりいろんな取り付けができるようになっている。

 まず同梱のアタッチメントでは、カメラやコントローラを首からぶら下げるためのストラップ、コントローラを腰からぶら下げるためのカラビナストラップ、市販の三脚ネジにカメラを固定するための三脚ナットが同梱されている。自転車に取り付ける場合は、別途カメラマウントを購入する必要があるが、三脚ネジさえ付いていれば、どこにでも取り付けられる。

首から提げるためのストラップ
コントローラをぶら下げるためのカラビナストラップ
三脚固定用の三脚ナット

 別売のアタッチメントでは、リュックなどに取り付けられる「マルチアングルクリップ」、頭部や腕に固定できる「マルチアングルベルトセット」、カメラやコントローラを別のアタッチメントに取り付ける「トライポッドマウンター」がある。製品初期からかなりの数のアタッチメントが用意されているあたり、かなり時間をかけて製品化されたものであることが伺える。

どこにでも挟んで取り付けられるマルチアングルクリップ
マルチアングルベルトセットで頭部に固定
同じセットで腕に固定
三脚穴取り付け用のトライポッドマウンター

ユニークだが動画撮影には課題も

 では実際に色々撮影してみよう。まずは市販のカメラマウントを使って、自転車に取り付けてみた。

自転車用カメラマウントを使って固定

 動画のビットレートは17MbpsのVBRで、画質的にはまあまあだが、手ぶれ補正機構もなにもないので、路面のコンディションをモロに拾う。またヒンジはかなり堅めにチューニングされてはいるものの、90度でロックしておく機構がない。夢中で走っていると、いつの間にかカメラが下を向いているということもあった。

ハンドル固定での動画
Handle.mp4(26MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ある程度スピードが出てくると、ローリングシャッター歪みの影響も出て来るため、他社競合製品と比較しても、あまりアドバンテージは見られない。元々オプション品にも自転車用のホルダーはないため、このようにハンドルに取り付けての使い方は想定していないのかもしれない。

 続いて自転車のヘルメットに装着し、撮影してみた。こちらは人体が衝撃を受け止めるため、ハンドルに固定するより、揺れはマシとなるが、やはりローリングシャッター歪みは気になる。鳥に注目してみたが、走行中は鳥が2羽3羽に見えてしまう。このぐらいブレると、もはやトレッキングでの使用でも難しいのではないか。

マルチアングルベルトで自転車用ヘルメットに固定
トライポッドマウンターを使えば、コントローラをハンドルに固定することも可能
ヘルメット装着時の動画
Head.mp4(32MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 試しに、リュックにマルチアングルクリップを取り付け、歩いてみた。カメラそのものもローテーションできるのだが、クリップにもローテーションする機構があるため、水平は取りやすい。

マルチアングルクリップでリュックのベルトに固定

 リュックの肩紐部分ならそれほど揺れないだろうと思ったのだが、歩行の衝撃は予想外に激しかった。何が写ってるかわからなくなるほどではないにしても、ずっとこれを見続けるのはしんどい。

リュックに固定した時の動画
belt.mp4(14MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
首から提げてみた

 もう一つ、首から提げるタイプのストラップを使ってみた。実はこのようなスタイルで動画撮影ができれば、取材の際のメモ記録に丁度いいと考えていたのだ。例えば工場見学などでは、歩きながら話を聞くことも多い。両手でメモしながらビデオは回せないので、こういったスタイルで記録できれば便利だからである。

 というわけで首から提げて歩いてみたが、これはもう全然お話にならない。歩行に合わせて上下左右に揺れて、何が写ってるのか全然わからない。これは歩きながら撮るのは無理で、立ち止まっている時に動画を撮るという使い方になりそうだ。つまりこのカメラの場合、動くものにカメラを取り付ける撮影には向いておらず、逆にカメラ側はどこかに固定して、撮影者が動くという使い方が向いている。

 動画撮影をする場合は、カメラ部がコンパクトで色々なモノに取り付けられる事を活かして、揺れの少ない場所に取り付けるなどの工夫が必要だろう。アイデアが浮かんだら、そこに取り付けやすいというのが魅力だ。

首から提げた時の動画
neck.mp4(14MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
マルチアングルベルトとトライポッドマウンターの金具を組み合わせて、コントローラを腕に固定

 マルチアングルベルトセットには、カメラを腕に取り付けるための短いベルトも同梱されている。登山などの際に、ちょこちょこ記録を取りながら登るといった際には便利。今回は「トライポッドマウンター」に同梱のU字プレートを組み合わせて、腕にコントローラを取り付けてみた。これなら離れた場所で作業しながら映像監視、といった使い方もできそうだ。

ポイントは静止画機能か

 せっかくなので、静止画機能も少し試してみた。カメラとモニターが完全分離するので、ローアングル撮影も簡単である。この点では、ソニーのQXシリーズと同等のメリットが得られる。

マルチアングルベルトとトライポッドマウンターの金具を組み合わせて、コントローラを腕に固定
ローから見上げのアングルに強い

 Bluetoothでのモニタリングは、ディレイはあるもの、アングル決めにはそれほど不便には感じない。ただBluetoothでの画像伝送はそれほど画質が良くないので、静止画撮影後の映像確認は、低画質のままで見るしかないというデメリットはある。

 ピクチャーエフェクトは、標準的なプレミアムオート以外に、4種類搭載している。あいにく動画には効かず静止画のみだ。

【ピクチャーエフェクト】

モード画像
プレミアムオート
トイカメラ
ソフトフォーカス
ライトトーン
セピア
モノクロ

 インターバル撮影機能も搭載している。設定項目としては、時間間隔と、撮影パターンの2つのみだ。時間間隔は15秒、2分、5分の3パターンしかなく、タイムラプス的に使うにはおおざっぱすぎる。「たまーに写真が撮れてる」ぐらいの使い勝手のようだ。

 撮影パターンは、“静止画+動画”、“動画のみ”、“静止画のみ”の3つ。今回は静止画+動画で2分ごとに撮影してみたのだが、これがややこしい。静止画を2分ごとに5枚撮影した後、動画が5秒間撮影される。

 つまり静止画は、2分ごとに撮影されるんだけど、6枚目のタイミングが1枚抜ける事になる。動画は、12分ごとに5秒間だけ撮影されることになる。うーん、正直すごい難しい撮り方になってるわけだが、ここまでしてもらっても、ユーザー側には使い道がない。

インターバル撮影機能は、練り込みがもう一歩

 例えば静止画だけを取り出してタイムラプス動画を作ろうと思っても、動画が間に挟まることで連番ファイルとしては数字が飛んでしまうので、動画編集ソフトでうまくシーケンシャルファイルとして読み取ってくれない。また12分ごとに1枚飛んでいるので、タイムラプス化したときもアクションが飛び飛びだ。さらに動画ファイルを12分おきに撮られても、つなぎ合わせるとあまりにも時間が飛びすぎているので、連続性が感じられない。

 この機能は、おそらく町歩きやトレッキングをずっと撮影しておき、あとで再生側で自動編集機能を使ってハイライトを短くまとめるといった使い方を想定しているのだろう。全ファイルを取りだして、マニュアルでどうにかしようとすると、かえってめんどくさいことになるようだ。

総論

 コンパクトデジカメ不振が取り沙汰される中、大胆かつ意欲的な設計でカシオが攻めてきた点では、今後の市場活性化に期待できる。モノとしての作りも良く、コンパクトだ。デザインもよく考えられている。

 毎度の事で動画を中心にレビューしてみたのだが、どうもこのカメラは、アクションカム文脈で語ってはいけないタイプのようだ。防水・防塵・耐衝撃ではあるものの、動画撮影性能がそれほど高くないために、結果は芳しくなかった。

 静止画中心の使い方、特にインターバル撮影をうまく使って、ハイライトフォト、ハイライトムービーを作るというのが、メインの使い方になりそうだ。筆者が想定していたヘヴィデューティな使い方ではなく、もっとカジュアル路線で、案外女性向きのカメラということなのだろう。

 カメラとモニターが分離できるという点では、アクションカムやコンパクトデジカメとスマートフォンの組み合わせでも同様の事ができるが、いちいちリンク設定の手間がいらず確実にモニタリングできる点は、専用モニター付きの強みである。

 惜しいのは、タイムラプス撮影がしにくい事だ。どこにでもカメラが固定でき、角度も自在、しかも軽量ということでは、こんなに向いたカメラはないわけだが、現状の機能では使いづらい。最少インターバル単位が15秒というのも、タイムラプスには長すぎる。

 元々タイムラプスに強いモデルを出しているカシオの製品としては、そこが残念なところだ。ぜひファームウェアのアップデートで、インターバル撮影を強化して頂きたいものである。

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EX-FR10

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。